頑張ってイベントポイント稼いでるけど、届くかなぁ・・・
「ふぅ・・・」
お風呂から上がった俺は、少し夜風に当たりたくて外に出ていた。
昨日と同じように石段に座り、海を眺める。
「今日もハードな一日だったなぁ・・・」
相変わらず海の家は大繁盛だったし、練習もみっちり行なった。
当然皆疲れており、千歌さんの部屋で屍と化している。
「・・・皆、大丈夫かな」
今は頑張らないといけない時ではあるが、オーバーワークで身体を壊してしまっては元も子もない。
マネージャーとして、皆の体調には十分に気を配らないと・・・
「大丈夫よ」
頭上からそんな声がしたかと思うと、俺の身体にパーカーがかけられた。
見上げると、昨日より巨大な山が二つ・・・
「・・・あぁ、小原理事長ですか」
「今どこを見て判断したの!?」
山の間から小原理事長の顔が現れた。やっぱり・・・
「流石はB87・・・存在感がハンパないですね」
「ちょっと!?何で私のサイズ知ってるの!?」
「翔子先生が教えてくれました」
「まさかの担任がバラしてた!?っていうかあの人も何で知ってるのよ!?」
「『自分のクラスの子のスリーサイズくらい把握してるわ』だそうです」
「ただの変態じゃない!?」
「それについては同感です」
あぁ、分かってくれる人がいて良かった・・・
「っていうか、このパーカーは?」
「私のよ。薄着のままじゃ湯冷めしちゃうと思って」
「・・・わざわざ持って来てくれたんですか?」
「果南から『天が外に出て行った』って聞いたから・・・迷惑だったかしら?」
「・・・いえ、ありがとうございます」
「・・・どういたしまして」
何となく気まずい雰囲気が流れる。
小原理事長がAqoursに加入してから、こうして二人っきりになることもなかったしな・・・
「・・・せっかく来たんですし、座ったらどうですか?夜風が気持ち良いですよ」
「・・・じゃあ、そうさせてもらおうかしら」
おずおずと俺の隣に腰掛ける小原理事長。
二人並んで、夜の海を眺める。
「・・・そういえば、ご両親はお元気ですか?」
「えぇ、元気よ。パパは相変わらず仕事で忙しくしているし、ママは・・・相変わらず口うるさいわ」
「厳しい人ですもんねぇ・・・貴女が留学先から浦の星に帰って来たって聞いた時、『よくあの人が許したな』と思いましたよ」
「許してくれてないわよ。半ば強引に帰って来たの」
「・・・よく連れ戻されませんでしたね」
「パパが説得してくれたみたい。おかげで助かったわ」
溜め息をつく小原理事長。
なるほど、そういうことだったのか・・・
「・・・俺も似たようなもんです。絵里姉と喧嘩してこっちに来ましたから」
「それを聞いて驚いたわよ。天と絵里でも喧嘩することってあるのね」
「滅多に無いですけどね。俺が覚えているかぎり、これが二度目です」
「二度目?一度目はいつだったの?」
「五年前です。μ'sのマネージャーをしていた頃、まだμ'sに加入する前の絵里姉と喧嘩しまして」
「へぇ・・・喧嘩の原因は何だったの?」
「端的に言えば、絵里姉がμ'sを認めなかったことですね」
「へっ?」
驚いている小原理事長。
その顔を見て、俺は思わず笑ってしまった。
「そんなに驚きます?」
「だ、だって・・・絵里がμ'sを認めなかったって・・・」
「まぁ当時の絵里姉は、ガッチガチの石頭でしたからね・・・今もですけど」
苦笑する俺。
「絵里姉にとって、スクールアイドルはただの遊びにしか見えなかったみたいです。それでμ'sを侮辱して・・・だから一時期、俺と絵里姉の関係は最悪でしたね」
今でこそ笑いながら振り返ることの出来る話だが、当時はホントに笑えないほど酷かったっけな・・・
「まぁ結局、絵里姉はμ'sを認めて自分も加入したんですけどね。それで俺達も仲直り出来たんですよ」
「そうだったのね・・・」
呆然としている小原理事長。
俺と絵里姉の喧嘩を見たことがないこの人からすれば、ちょっと信じられないような話なんだろうな・・・
「ちなみにこれは、後から絵里姉から聞いたんですけど・・・当時の絵里姉は、μ'sに嫉妬してたらしいです」
「嫉妬?」
「えぇ。当時の絵里姉は生徒会長として、音ノ木坂を廃校にしない為に必死で頑張っていました。それなのに自分の味方だと思っていた俺が、μ'sに肩入れしているのを見てやきもちを妬いてたんですって」
「・・・何その子供みたいな理由」
呆れている小原理事長。
まぁ確かに、ちょっと子供っぽいよな・・・
「・・・でも、ちょっと『絵里姉っぽいな』って思いました。周りから『お堅い人』っていう印象を持たれてたみたいですけど、本当の絵里姉は甘えん坊で寂しがりやな普通の女の子でしたから」
だからこそ絵里姉は、俺が内浦へ行くことに反対した。
『出て行ってほしくない』『一緒に暮らしたい』という思いがあったからこそ、絶対に応援なんてしてくれないだろう。
そう思っていたけど・・・
「・・・小原理事長」
俺は小原理事長へと視線を向けた。
「貴女・・・絵里姉と会っていたみたいですね」
「っ!?」
息を呑む小原理事長。
「ど、どうして・・・」
「・・・昨日の夜、果南さんから聞きましたよ。俺がAqoursのマネージャーを辞めると宣言した日の夜、貴女から聞いたっていう話を」
溜め息をつく俺。
「絵里姉に何を頼まれたのか、教えてもらって良いですか?」
「・・・果南から聞いたんでしょ?」
「貴女から聞きたいんです。他でもない、貴女の口から」
ジッと小原理事長を見つめる俺。
観念したのか、小原理事長が深い溜め息をついた。
「・・・天が浦の星に来ることが決まってすぐの頃、南理事長と会う機会があってね。その時、南理事長が絵里を連れてきてたのよ」
ポツポツと語り出す小原理事長。
「久しぶりの再会を喜んだ後、絵里から聞いたの。浦の星のテスト生の話を巡って、天と喧嘩しちゃったって。凄く申し訳なくなって、何度も絵里に謝ったわ。絵里は『鞠莉のせいじゃない』って言ってくれたけど・・・それでも、本当に申し訳なく思った」
俯く小原理事長。
「その時、絵里に説明したの。浦の星の存続の為に、私がもう一度スクールアイドルをやる為に・・・どうしても天の力を借りたいんだって。それを聞いた絵里は、私にあるお願いをしてきたわ」
小原理事長は意を決したように顔を上げ、俺の顔を見つめた。
「天を・・・マネージャーにしてほしい、って」
「っ・・・」
果南さんから聞いた通りだった。
あの絵里姉が・・・
「『天は本当に優秀なマネージャーだから、絶対に鞠莉の力になってくれる』って。『天にもう一度、スクールアイドルに携わる機会を与えてほしい』って。あの時の私には、どうして絵里がそんなお願いをするのか分からなかったけど・・・私にとっては願ってもない話だったから、勿論OKしたわ」
そう言って笑みを浮かべた小原理事長だったが、すぐに暗い表情に変わった。
「でも・・・浦の星で再会した天は、頑なにマネージャーになることを拒否した。私にはその理由が分からなくて、内心ちょっと焦ってたの。このままだと、絵里の願いを叶えてあげられないと思った私は・・・最低の行動をとった」
「・・・俺を脅して無理矢理言うことを聞かせる、ですか」
俺の言葉に、小原理事長が力なく頷く。
自分自身の目的を果たす為だけなら、俺に話して協力を求めることも出来たはずだ。
だが絵里姉のお願いを俺に話すわけにもいかず、焦ってとった行動が脅しだったんだろう。
「海未先生から天の話を聞いた時、全て合点がいったわ。どうして絵里があんなお願いをしたのか、どうして天がマネージャーになることを拒否したのか・・・あの時自分がとった行動を、死ぬほど後悔した」
小原理事長の目に涙が滲む。
「どうして私は、あんな行動しかとれなかったんだろうって。絵里のお願いについては伏せたまま、自分の目的だけを話して協力を仰ぐことだって出来たのに・・・あの時の私は、天にマネージャーを引き受けてもらうことしか考えてなかった。愚かよね・・・」
「小原理事長・・・」
「こんな私が、『もう一度天と距離を縮めたい』だなんて・・・そんなことを望む資格も無いのに・・・!」
肩を震わせる小原理事長。涙が次々と石段に滴り落ちる。
「・・・ハァ」
俺は大きな溜め息をつくと、ゆっくり立ち上がった。
「・・・よいしょ」
「・・・えっ?」
小原理事長をお姫様抱っこする。
お、案外軽いなこの人・・・
「そ、天・・・?」
突然のことに困惑している小原理事長をよそに、俺は波打ち際まで近付いた。
そしてそのまま海へと入っていく。
「え、ちょっと!?」
慌てる小原理事長を無視し、腰が浸かる辺りまで進む。
そして・・・
「おらぁっ!」
「キャアアアアアアアアアアッ!?」
小原理事長をぶん投げた。
盛大に水飛沫を上げて落ちる小原理事長。
「ゲホッ・・・ゴホッ・・・ちょ、何するのよ!?」
「いや、涙を洗い流してあげようかと」
「方法が酷すぎない!?」
「貴女だって最低な方法をとったでしょうが」
「うぐっ・・・」
言葉に詰まる小原理事長。やれやれ・・・
「貴女は昔から変わりませんね。思い切りは良いくせに、失敗すると今みたいにうじうじして引きずって・・・ハッキリ言ってめんどくさいです」
「ホントにハッキリ言ったわね!?オブラートに包むとか無いの!?」
「貴女にはオブラートが無くても、ビブラートがあるでしょ」
「全然上手くないわよ!?」
ツッコミ連発の小原理事長。少しは元気が出たらしい。
「脅しの件については、『許す』と言ったはずです。何を今さら後悔してくれちゃってるんですか」
「で、でも・・・!」
「それに・・・ちょっと安心しました」
「え・・・?」
呆然とする小原理事長に、俺は笑みを浮かべた。
「・・・脅された時、思ったんです。貴女は最初から、力ずくで言うことを聞かせるつもりだったんだって。俺のことも、利用価値のある駒くらいにしか思ってないんだって」
「天・・・」
「俺を大事に思ってくれてることは、花火大会の時に伝えてもらいましたけど・・・それでも、脅された時のことを引きずっていたところがあったんです。だからこそ、貴女とどう接したら良いのか分からなくて・・・」
でも、悩む必要なんて無かった。この人は本当に昔と変わっていない。
あの頃のままの、どこまでも純粋で不器用な人だった。
「貴女はただ、『助けて』の一言が言えなかっただけ・・・絵里姉の願いを叶えようとするあまり、その一言が言えなかっただけ・・・それだけだったんですよね」
「っ・・・」
「利用するつもりは無くて、ただ力を貸してほしかっただけ・・・それがずいぶん大ごとになっちゃいましたね」
「・・・そんなつもりが無かったにせよ、結果的にそうなってしまったんだもの。何の言い訳にもならないわ」
「そうやって潔く自分の非を認める割には、うじうじ引きずるんだよなぁ・・・ホントめんどくさい」
「だから直球すぎるんだってば!?」
「ストレートに言わないと、自分の気持ちが相手に伝わらないでしょ。特に・・・鞠莉ちゃんみたいな人には」
「どういう意味・・・えっ?」
ツッコミを入れかけたところで、驚いて固まる鞠莉ちゃん。
「い、今・・・名前を・・・」
「・・・ゴメン、鞠莉ちゃん」
俺は鞠莉ちゃんに謝った。
「ずっと勘違いしてて・・・冷たく当たって・・・本当にゴメン」
俺の態度で、どれほど彼女を傷つけただろうか・・・
本当は誰よりも傷つきやすい彼女が、よく泣かなかったなと思う。
「また、もう一度・・・俺と仲良くしてくれる?」
手を差し出す俺。
鞠莉ちゃんの目に、みるみる涙が浮かんでいく。
「ほ、本気なの・・・?」
「・・・うん」
頷く俺。
「ここからもう一度、新しい関係を築いていきたいなって。昔のこととか、これまでのことを無かったことにするんじゃなくて・・・全てを受け入れた上で、もう一度鞠莉ちゃんとぉっ!?」
最後まで言えなかった。
鞠莉ちゃんが勢いよく、俺の胸に飛び込んできたからだ。
「・・・最後まで言わせてよ」
「・・・限界だったんだもん」
俺を強く抱き締め、肩を震わせる鞠莉ちゃん。
「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい、天・・・!」
「・・・もう良いんだよ、鞠莉ちゃん」
鞠莉ちゃんを抱き締め、優しく頭を撫でる。
「ここからまた始めよう。ずいぶんすれ違っちゃったけど・・・またこうして繋がれたんだもん。これからよろしくね、鞠莉ちゃん」
「っ・・・うんっ・・・!」
鞠莉ちゃんは頷くと、堪えきれなくなり声を上げて泣き続けた。
俺は鞠莉ちゃんが泣き止むまで、ずっと鞠莉ちゃんを抱き締め続けるのだった。
どうも〜、ムッティです。
ようやく・・・ようやく天と鞠莉ちゃんが和解したぞおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!
鞠莉ちゃん初登場の回に、いきなり溝が出来るというまさかの展開・・・
あの回を投稿したのが、3月13日のことでした。
そして今回の投稿日が、12月13日・・・
ちょうど九ヶ月間、天と鞠莉ちゃんの間には深い溝があったのです。
・・・和解まで長かったなぁ( ;∀;)
ここからは二人をメッチャ仲良くさせていく方針ですので、お楽しみに(・∀・)ノ
さてさて・・・鞠莉ちゃん問題が解決したところで、次は梨子ちゃん問題ですね。
果たして天はどう動くのか・・・
それではまた次回!以上、ムッティでした!