絢瀬天と九人の物語   作:ムッティ

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Aqoursの『WATER BLUE NEW WORLD』ってメッチャ良い曲ですよね。


友達とはかけがえのないものである。

 「え、曲作りの依頼を引き受けたんですか?」

 

 「うん、そうなの」

 

 頷く梨子さん。

 

 ダイビングの翌日・・・昼休みにばったり会った梨子さんの話に、俺は思わず驚いてしまった。

 

 「どういう心境の変化ですか?『そんな暇は無い』って断り続けてたんですよね?」

 

 「そうなんだけど・・・まぁ色々とね」

 

 梨子さんが小さく笑う。

 

 「今回は高海さんに色々お世話になったから、今度は私が力になれたらって思ったの。スクールアイドルの曲作りなんて初めてだけど、これも良い勉強になるだろうから」

 

 「なるほど・・・ってことは、梨子さんもスクールアイドルやるんですか?」

 

 「それは断ったわ。私がやるのは、あくまでも曲作りだけよ」

 

 肩をすくめる梨子さん。あ、そうなんだ・・・

 

 「そうですか・・・ちょっと残念ですね」

 

 「え、何が?」

 

 「梨子さん可愛いし、スクールアイドルの衣装とか似合うだろうなって思ってたんで」

 

 「なっ!?」

 

 梨子さんの顔が一気に赤くなる。ホント純情だなぁ・・・

 

 「せ、先輩をからかわないのっ!」

 

 「いや、本心ですって。華もありますし、きっとステージ映えするでしょうね」

 

 「も、もういいからっ!」

 

 耳まで真っ赤になった梨子さんが、強引に話題を打ち切る。

 

 まぁ梨子さんが決めたことだし、俺がとやかく言うことでもないよな。

 

 「そ、それで早速なんだけど!今日の放課後、高海さんの家で作詞をすることになったの。もし良かったら、天くんも一緒に来ない?」

 

 誘ってくれる梨子さん。俺としても、行けるなら行きたいところではあるが・・・

 

 「・・・すいません。今日の放課後はちょっと、お見舞いの予定がありまして」

 

 「お見舞い?誰の?」

 

 首を傾げる梨子さんに、苦笑いで答える俺なのだった。

 

 「クラスメイトですよ。自称・堕天使の、ね」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ここずら」

 

 緊張した面持ちのずら丸。

 

 俺・ずら丸・ルビィちゃんの三人は放課後、自称・堕天使が住んでいると思われるマンションの一室へとやって来ていた。

 

 ずら丸曰く、ここが自称・堕天使の家らしい。

 

 「表札もちゃんと『津島』になってるし、間違いないずらね」

 

 「え、あの子の苗字って『津島』なの?」

 

 「今さら!?」

 

 ルビィちゃんのツッコミ。『善子』っていう名前なのは知ってたけど、苗字の方は気にしてなかったなぁ・・・

 

 「とりあえず、インターホン押そうか」

 

 「ずら」

 

 ずら丸がインターホンを押す。すると・・・

 

 「はーい」

 

 ドアが開き、中から女性が出てきた。ダークブルーの髪にシニヨンを結った女性・・・あれ?

 

 「津島さん、メッチャ大人になってない?」

 

 「その人は善子ちゃんのお母さんずら」

 

 「マジで!?」

 

 メッチャ似てるなぁ・・・驚いていると、津島母が首を傾げた。

 

 「えーっと、どちら様ですか?」

 

 「あ、あのっ!私、国木田花丸です!覚えてますか?」

 

 「え・・・?」

 

 ずら丸の顔をじーっと見つめる津島母。次の瞬間、表情がパァッと明るくなった。

 

 「あぁっ、花丸ちゃん!?善子と幼稚園で一緒だった、あの花丸ちゃん!?」

 

 「そうです!お久しぶりです!」

 

 「久しぶりね~!ずいぶん大きくなっちゃって~!」

 

 嬉しそうに笑う津島母。

 

 「幼稚園の時から可愛かったけど、ますます可愛くなったわね~!」

 

 「そ、そんな・・・マルなんて・・・」

 

 照れているずら丸。と、津島母が俺の方に視線を向けてきた。

 

 「あら?ひょっとして、花丸ちゃんの彼氏くんかしら?」

 

 「か、彼氏っ!?」

 

 ずら丸の顔が真っ赤になる。何だかんだで、ずら丸も純情だなぁ・・・

 

 「ち、違いますっ!天くんはそんなんじゃ・・・!」

 

 「そっか、俺とは遊びだったのか・・・」

 

 「天くん!?何を言い出すずら!?」

 

 「朝のバスでは、俺に寄りかかって気持ち良さそうに寝てたのに・・・」

 

 「そ、それは天くんが『寄りかかって良いよ』って言ってくれたから・・・!」

 

 「俺を抱き寄せて、俺の顔を自分の胸に埋めさせてくれたのに・・・」

 

 「あ、あれはルビィちゃんの悲鳴から守る為で・・・!」

 

 「『恋人としてよろしくずら~!』って言ってくれたのに・・・」

 

 「それは言ってないずら!『恋人として』なんて言ってないずら!」

 

 「全てはずら丸の掌の上・・・俺は弄ばれてたのか・・・」

 

 「人聞きの悪いことを言わないでほしいずら!」

 

 「花丸ちゃん・・・悪い子に育っちゃって・・・」

 

 「善子ちゃんのお母さん!?何で信じてるずら!?」

 

 悪ノリに便乗してくる津島母。ノリが良いなぁ・・・

 

 「まぁ冗談はさておき・・・初めまして、絢瀬天といいます」

 

 「く、黒澤ルビィです・・・」

 

 「私達三人、浦の星で善子ちゃんと同じクラスなんです」

 

 「あら、そうだったの?」

 

 驚いていた津島母だったが、すぐに笑みを浮かべる。

 

 「初めまして、善子の母・津島善恵です。娘がいつもお世話に・・・って、あの子ずっと引きこもってたわね」

 

 溜め息をつく津島母。やはり重症らしいな・・・

 

 「あの、善子ちゃんの様子は・・・」

 

 「あぁ・・・うん」

 

 ずら丸の問いに、津島母は困ったように苦笑するのだった。

 

 「元気は元気なんだけど・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 『やってしまったああああああああああっ!?』

 

 家に上がらせてもらった俺達が最初に聞いたのは、津島さんの叫び声だった。

 

 『何よ堕天使って!?ヨハネって何!?うわあああああん!?』

 

 「・・・まぁこんな感じなのよ」

 

 津島さんの部屋であろうドアを指差し、溜め息をつく善子母。

 

 なるほど、これは重症だな・・・

 

 「浦の星の入学式の日からあんな感じなんだけど・・・何か心当たり無い?」

 

 「その日はクラスの皆の前で、自己紹介をやったんですけど・・・」

 

 「あぁ、『堕天使ヨハネ』で自爆したのね・・・」

 

 一を聞いて十を知る・・・全てを悟った津島母が頭を抱えた。

 

 「あの子、中学の時もそれでやらかしちゃってね・・・高校では同じ失敗をしないようにって意気込んでたんだけど・・・」

 

 「その割には、キャラが凄く仕上がってましたけど・・・」

 

 「『堕天使ヨハネ』は、最早あの子にとってキャラじゃないのよ。幼い頃からの設定を引きずった結果、『堕天使ヨハネ』は津島善子の一部に昇華されてしまったの」

 

 「・・・マジですか」

 

 意図的に演じてるキャラじゃなかったのか・・・恐るべし津島善子・・・

 

 「とりあえず、声をかけてみても良いですか?」

 

 「勿論。どうぞ」

 

 津島母の了承をもらい、ずら丸が部屋のドアをノックする。

 

 「善子ちゃーん?」

 

 『っ!?その声は花丸!?』

 

 津島さんの驚いた声が聞こえる。

 

 『どうしてここにいるのよ!?』

 

 「様子を見に来たずら。ルビィちゃんと天くんもいるずら」

 

 「こ、こんにちは・・・」

 

 「どうも」

 

 『うげっ!?』

 

 呻き声を上げる津島さん。

 

 『わ、私を笑いに来たんでしょ!?冷やかしなら帰って!』

 

 「いや、そんなつもりじゃ・・・」

 

 『うるさい!良いから帰って!』

 

 明確な拒絶。これは何を言っても聞いてもらえなさそうだな・・・

 

 「・・・ずら丸、ルビィちゃん、とりあえず今日は帰ろう。元気なのは分かったし」

 

 「ずら・・・」

 

 「そうだね・・・」

 

 意気消沈している二人。顔さえ見せてもらえず、ショックを受けているようだ。

 

 「ごめんね、せっかく来てくれたのに・・・」

 

 「こちらこそ、突然お邪魔してすいませんでした。あ、それと・・・」

 

 申し訳なさそうな津島母に、俺はカバンの中から紙束を取り出して渡した。

 

 「これ、ノートのコピーです。先週分の授業に関しては、一通りまとめておきました。授業で使ったプリントも余分に貰っておいたので、後で渡してあげて下さい」

 

 「そんなことまで・・・本当にありがとう」

 

 恐縮しながら受け取る津島母。俺は部屋のドアに向かって声をかけた。

 

 「じゃあ津島さん、また来るから」

 

 『来なくていい!』

 

 にべもない返事だった。やれやれ・・・

 

 「それじゃ、お邪魔しました」

 

 「本当にごめんなさい・・・来てくれてありがとう」

 

 津島母に見送られ、津島家を後にする俺達。これは時間がかかりそうだな・・・

 

 「・・・全然話せなかったね」

 

 暗い表情のルビィちゃん。

 

 「良かれと思って来たけど・・・津島さんにとっては迷惑だったのかな・・・」

 

 「・・・顔も見せてくれないなんて、思ってもみなかったずら」

 

 涙目のずら丸。

 

 「マル、余計なことしちゃったのかな・・・」

 

 俯いて歩く二人。俺は溜め息をつくと、歩いている二人の間にあえて割り込んだ。

 

 そのまま右手でずら丸の手を、左手でルビィちゃんの手を握る。

 

 「ずらっ!?」

 

 「ぴぎっ!?」

 

 驚いている二人。そんなことはお構い無しに、俺は二人の手を引いて歩いた。

 

 「俯いたまま歩くと危ないよ。ちゃんと前を向いて歩かなきゃ」

 

 「天くん・・・」

 

 「まぁ確かに、ちゃんとした話は出来なかったけど・・・とりあえず元気なのは分かったし、ノートのコピーも渡せたんだから。今回はそれで良しとしようよ」

 

 「今回はって・・・本当にまた行くつもりなの・・・?」

 

 「勿論」

 

 ルビィちゃんの問いに頷く俺。

 

 「今週の授業のノートをまとめて、また来週お邪魔するよ。津島さんが登校できるようになった時、授業についていけないのは困るだろうから」

 

 「どうして善子ちゃんの為にそこまで・・・」

 

 「・・・大切な友達なんでしょ」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑むずら丸。俺は苦笑いを浮かべた。

 

 「流石に俺だって、ただのクラスメイトの為にここまでしないよ。でもずら丸は俺の友達だし、困ってるのを放っておけないから」

 

 「じゃあ善子ちゃんの為じゃなくて、マルの為に・・・?」

 

 「そういうこと。まぁただでさえ一クラスしかないんだし、どうせなら誰も欠けてほしくないっていうのもあるけど」

 

 呆然としているずら丸。ルビィちゃんがニヤニヤしていた。

 

 「良いなぁ花丸ちゃん、大切に想ってくれる男の子がいて」

 

 「なっ!?ルビィちゃん!?」

 

 「あな~たと~、いる日~々が~、なににも代え~られ~ない~、た~い~せつ~♪」

 

 「天くん!?急にファ●モンの曲を歌わないでほしいずら!」

 

 顔を真っ赤にするずら丸。俺はひとしきり笑うと、握る手に優しく力を込めた。

 

 「せっかくだし、ケーキでも食べて行こっか。さっき良さそうなカフェあったよね」

 

 「賛成!ルビィもそのカフェ気になってたんだよね!」

 

 「マルも行くずら~!」

 

 今度は二人が俺の手を引く。苦笑しつつも、二人に手を引かれるがまま歩く俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

今回は善子ちゃん回…と思いきや、そうでもなかったっていう回でしたね(笑)

ちなみに善子ちゃんのお母さんの名前は、完全に独断で決めました。

多分こういう名前じゃね?みたいな。

あと言い忘れてましたが、2話で出てきたクラス担任の赤城麻衣先生…

オリキャラです、はい。

アニメでは、善子ちゃんの自己紹介の時にチラッと担任の先生が映ってましたよね?

あの先生とは全く別人の先生を、勝手に配置してしまいました。

イメージ的には、『艦これ』の赤城さんですね(そのまま)

今後出番がきっと多分恐らくメイビーあるはずなので、覚えておいていただけると幸いです。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

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