絢瀬天と九人の物語   作:ムッティ

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2020年かぁ・・・

良い一年にしたいなぁ・・・


穴を埋めるのは大変である。

 「しっかりね!」

 

 「お互いに!」

 

 固い握手を交わす千歌さんと梨子さん。

 

 ピアノコンクールに出場することになった梨子さんを見送るべく、俺達は沼津駅へとやって来ていた。

 

 「梨子ちゃん、頑張ルビィ!」

 

 「東京に負けてはダメですわよ!」

 

 黒澤姉妹が熱のこもったエールを送る。

 

 梨子さんがピアノコンクールへの出場を決めたあの日、梨子さんは他の皆にも事情を説明していた。

 

 皆は凄く驚いていたが、梨子さんの決意を聞いて快く送り出してくれたのだった。

 

 「梨子ちゃん、そろそろ電車の時間みたい」

 

 時計をチェックしていた曜さんが、梨子さんに知らせる。

 

 「あ、ホントだ・・・そろそろ行かなくちゃ」

 

 「チャオ、梨子」

 

 「気を付けてね」

 

 「ファイトずら」

 

 「主として、リトルデーモンの武運を祈ってるわ」

 

 「フフッ、ありがとう」

 

 笑みを浮かべる梨子さん。

 

 俺は一歩前に進み出ると、梨子さんに手を差し出した。

 

 「ピアノコンクール、楽しんできて下さい」

 

 「『頑張ってきて下さい』じゃなくて?」

 

 「梨子さんが作った曲を、多くの人に聴いてもらえるんですよ?頑張るより前に、楽しまなきゃ損でしょう」

 

 「・・・フフッ、天くんらしいわね」

 

 梨子さんは面白そうにクスクス笑うと、俺の手をギュっと握った。

 

 「ありがとう、天くん。楽しんでくるわね」

 

 「えぇ、いってらっしゃい」

 

 俺の手を離し、改札を通ってホームへと向かう梨子さん。

 

 「梨子ちゃん!」

 

 千歌さんが大きな声で呼びかける。

 

 「次のステージは、絶対に皆で歌おうね!」

 

 「えぇ、勿論!」

 

 梨子さんはニッコリ笑うと、勢いよくホームへと駆け出していった。

 

 「さぁ、練習しに行きますわよ!」

 

 手をパンッと叩くダイヤさん。

 

 合宿も終わり、今は学校がAqoursの練習場所になっている。

 

 今日もしっかり練習しないとな・・・

 

 「梨子ちゃんの為にも、予備予選で負けるわけにはいかないからね!」

 

 「んー、気合いが入りマース!」

 

 燃えている果南さんと鞠莉。

 

 学校へ向かおうとする皆の後に続こうとしていると、曜さんがその場から動かないことに気付いた。

 

 「曜さん?どうかしました?」

 

 「いや、千歌ちゃんが・・・」

 

 指を差す曜さん。

 

 そこには、梨子さんが去った方向を見つめる千歌さんの姿があった。

 

 「いつまで感傷に浸ってんですか」

 

 「あたっ!?」

 

 千歌さんの頭にチョップをお見舞いする。

 

 「次のステージは皆で歌うんでしょう?立ち止まってる暇は無いですよ」

 

 「天くん・・・」

 

 「梨子さんに負けないように、俺達も頑張りましょう」

 

 「うんっ!」

 

 千歌さんは元気よく頷くと、走って皆の後を追っていった。

 

 やれやれ・・・

 

 「さて、俺達も行きましょうか」

 

 「・・・・・」

 

 「曜さん?」

 

 「あ、うん!行こっか!」

 

 慌てて笑顔を見せる曜さん。

 

 何か様子がおかしいな・・・

 

 「出発進行!ヨーソロー!」

 

 「あ、ちょっと!」

 

 俺の手を掴み、元気よく引っ張っていく曜さん。

 

 何だかそれが空元気な気がして、少し心配になる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「さぁ、しっかり磨くのですわ!」

 

 「“竜の●爪”」

 

 「ぴぎゃあああああっ!?頭が割れますわあああああっ!?」

 

 俺に頭を掴まれ、悲鳴を上げるダイヤさん。

 

 学校にやって来た俺達は、何故かプール掃除をするハメになっていた。

 

 「何で俺達がプール掃除をしないといけないのか、きちんと説明していただけませんかねぇ・・・?」

 

 「ちょ、天さんっ!?頭がっ!頭がミシミシいってますわっ!」

 

 「それは良かった。少しは柔らかくなりそうですね」

 

 「嫌ああああああああああっ!?」

 

 「も、もうその辺で止めてあげてえええええっ!?」

 

 ルビィが慌てて止めに入ってきたので、俺は仕方なく手を離した。

 

 「うぅ、痛かったですわぁ・・・」

 

 「自業自得よ」

 

 涙目で頭を擦るダイヤさんを見て、鞠莉が呆れていた。

 

 「『夏休みに入ったら、プール掃除を何とかしろ』って言っといたのに」

 

 「“竜の鉤●”」

 

 「ギャアアアアアッ!?頭が割れるうううううっ!?」

 

 今度は鞠莉の頭を鷲掴みにする。

 

 「生徒会長に仕事を押し付けるなんて、理事長としてどうなんですかねぇ・・・?」

 

 「ゴメンなさあああああいっ!」

 

 「これで分かったでしょう?正義は必ず勝つのですわ!」

 

 「誰が正義ですって・・・?」

 

 「ぴぎゃあああああっ!?」

 

 「お姉ちゃあああああんっ!?」

 

 「・・・理事長と生徒会長が、普通にしばかれてるんだけど」

 

 「・・・この学校を支配してるのって、案外天だったりして」

 

 善子と果南さんが、表情を引き攣らせながらヒソヒソ会話していた。

 

 ここからだと聞こえないが、何か失礼なことを言われている気がする。

 

 「そこの堕天使(笑)とゴリラに告ぐ。口より先に手を動かしなさい」

 

 「(笑)って何よ!?」

 

 「ゴリラじゃないもんっ!」

 

 二人の抗議はサラッとスルーして、俺は目の前の生徒会長と理事長を冷たい眼差しで見つめた。

 

 「・・・この後の練習、二人だけ特別メニューをやってもらうんで。覚悟しといて下さいね・・・?」

 

 「「ひぃっ!?」」

 

 抱き合って身体を震わせる二人。

 

 この罪は身をもって償ってもらうことにしよう。

 

 「ハァ・・・何でプール掃除なんてやらないといけないのか・・・」

 

 「ダメだよ天くん!気合いを入れないと!」

 

 背後から曜さんの声がする。

 

 何だ、元気そうじゃん・・・

 

 「いや、気合いなんて入るわけ・・・何ですかその格好」

 

 「ヨーソロー!」

 

 ビシッと敬礼する曜さん。

 

 白い制服に身を包んだ曜さんは、まさしく船乗りの格好をしていた。

 

 「プール掃除といえばデッキブラシ、デッキブラシといえば甲板磨き、甲板磨きといえば船乗り!ということで、船乗りのコスプレをしてみました!」

 

 「・・・相変わらず衣装大好きですね」

 

 「どうかな!?似合うかな!?」

 

 「曜さんはメチャクチャ可愛いんだから、何を着ても似合うって前にも言ったでしょ」

 

 「・・・相変わらず真顔で恥ずかしいこと言うよね」

 

 頬を赤らめる曜さん。

 

 と、後ろから鞠莉が抱きついてきた。

 

 「ちょっと天!?私というものがありながら、何で曜を口説いてるの!?」

 

 「口説いてないわ。ってか、いつから鞠莉は俺の彼女になったの?」

 

 「そんな!?あの夜のことを忘れたの!?」

 

 「どの夜やねん」

 

 「あんなに情熱的に私を求めてくれたじゃない!」

 

 「うわ、とうとう頭がイカれて・・・あ、元々か」

 

 「ちょっと!?」

 

 「・・・貴方達、本当に仲良くなりましたわね」

 

 呆れているダイヤさん。

 

 「一体何がありましたの・・・?」

 

 「色々あったのよ。ね、天?」

 

 「・・・あったねぇ、色々」

 

 嬉しそうに頬ずりしてくる鞠莉に、苦笑しながら返す俺。

 

 まぁ、鞠莉が楽しそうならそれで良いか・・・

 

 「さて、さっさとプール掃除を終わらせますかね」

 

 俺は鞠莉から離れると、プールへと降りた。

 

 すると・・・

 

 「うわああああああああああっ!?」

 

 「ぐはぁっ!?」

 

 「ずらぁっ!?」

 

 後ろから滑ってきた千歌さんに追突され、目の前にいた花丸にぶつかって倒れこんでしまった。

 

 「ゴ、ゴメン天くん!ヌルヌル滑るから止まれなくて・・・」

 

 「ふぁふぉふぃふぁん、ふっふぉふぁふ(アホみかん、ぶっ飛ばす)」

 

 「あんっ・・・そ、そこで喋らないでほしいずらぁ・・・」

 

 顔を真っ赤にしている花丸。

 

 花丸の上に倒れこんだ俺は、花丸の胸に顔を埋めている状態になっていた。

 

 「ちょっと天さん!?何を破廉恥なことをしているのですか!?」

 

 「ふぃふふぇふぃふぁ。ふぃふぉふぇふふぉ(失礼な。事故ですよ)」

 

 「んあっ・・・そ、天くん・・・そろそろ退いてほしいずらぁ・・・」

 

 「ふぉっふぇー(オッケー)」

 

 顔を上げる俺。

 

 あー、助かった・・・

 

 「ありがとう、花丸・・・善子だったらアウトだったよ」

 

 「どういう意味よ!?」

 

 「そのままの意味ですが何か?」

 

 「ぶっ飛ばすッ!」

 

 そのまま始まった鬼ごっこは全員を巻き込んでしまい、結局プール掃除には結構な時間がかかってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あー、疲れた・・・」

 

 「だらしないなぁ、善子。もっとシャキッとしなよ」

 

 「疲労の原因の半分はアンタだわっ!」

 

 善子のツッコミ。

 

 プール掃除を終えた俺達は、練習をする為に屋上へやって来ていた。

 

 「っていうか、何でアンタはピンピンしてるわけ!?」

 

 「鬼ごっこ程度でへばってるようじゃ、まだまだだよ善子」

 

 「そうだよ善子ちゃん。もっと身体を鍛えなきゃダメだよ?」

 

 「ヨハネよっ!っていうかゴリラは黙ってなさい!」

 

 「だからゴリラじゃないってば!?」

 

 「うるさいですよ果南さん。バナナあげるんで静かにして下さい」

 

 「ぐすっ・・・かなん、おうちかえりたい」

 

 「げ、元気出して果南ちゃん!」

 

 涙目で体育座りしながらバナナを頬張る果南さんを、千歌さんが必死に励ます。

 

 と、ダイヤさんが大きくパンパンッと手を鳴らした。

 

 「さぁ、練習を始めますわよ!それぞれ所定の位置について下さい!」

 

 「「「「「「「はーい!」」」」」」」

 

 全員がそれぞれ自分の位置へと移動する。

 

 既に予備予選用の曲は完成しており、フォーメーションや振り付けも決まっていた。

 

 後は練習を繰り返して、本番で良いパフォーマンスが出来るよう備えるのみである。

 

 「じゃあ、曲を流しますね」

 

 全員が位置についたのを確認し、曲を流そうとした俺だったのだが・・・

 

 そこであることに気付いてしまった。

 

 「・・・あれ?」

 

 「天くん?」

 

 「どうしたずら?」

 

 ルビィと花丸が、不思議そうに尋ねてくる。

 

 「いや、今頃になって気付いたんだけどさ・・・」

 

 苦笑する俺。

 

 「梨子さんのポジション、どうしよう?」

 

 「「「「「「「「あっ・・・」」」」」」」」

 

 考えたら当たり前のことなのだが、梨子さんが参加しないということはポジションが一つ空くことになる。

 

 今回は千歌さんと梨子さんのダブルセンターということもあり、今のままでは見栄えが悪くなってしまうのだ。

 

 「どうしましょう・・・全体的にフォーメーションを変えますか?」

 

 「いや、丸々変えるのはキツいと思う。本番まで時間も無いし」

 

 ダイヤさんの提案に、首を横に振る果南さん。

 

 となると、残された手段は・・・

 

 「誰かが梨子さんのポジションに入る・・・しかないかな」

 

 「そうね。それが最善策だと思うわ」

 

 賛成してくれる鞠莉。

 

 「問題は、誰が梨子のポジションに入るかだけど・・・」

 

 「・・・適任者は一人だろうね」

 

 俺は苦笑すると、その適任者へと視線を向けた。

 

 「曜さん、お願い出来ますか?」

 

 「えぇっ!?私!?」

 

 驚いている曜さん。いやいやいや・・・

 

 「千歌さんとダブルセンターをやれる人なんて、曜さんか梨子さんしかいませんよ。急な変更で負担は大きいかと思いますけど、俺もサポートしますから」

 

 「う、うん・・・まぁ、私で良いなら・・・」

 

 遠慮がちに頷く曜さん。

 

 そんな曜さんの手を、千歌さんが力強く握る。

 

 「曜ちゃん!一緒に頑張ろうね!」

 

 「う、うん・・・」

 

 「決まりですね。とはいえ、フォーメーションの微調整は必要でしょう。九人を想定したフォーメーションを八人でやると、所々見栄えの悪い部分が出てくるでしょうし」

 

 「それもそうだね。その辺りもしっかり決めていかないと」

 

 「では早急に決めてしまいましょう。本番まで時間がありませんわ」

 

 「OK!燃えてきたわ!」

 

 皆で再度フォーメーションを確認し、修正すべき部分を洗い出していく。

 

 そんな中・・・

 

 「・・・ダブルセンター、か」

 

 どこか浮かない表情でそう呟く曜さんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回からアニメ一期の十一話の内容に入っていきます。

投稿を始めてから一年経つのに、未だアニメ一期の内容さえ終わらないっていう(´・ω・`)

まぁこれからもマイペースに投稿していきますので、変わらず応援していただけると幸いです。

おかげさまで72人もの方が☆評価を付けて下さり、毎回感想もいただくことが出来て本当に嬉しい限りです(^^)

皆さん、本当にありがとうございます!

これからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します!

それではまた次回!以上、ムッティでした!

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