2月14日(水) PM5:00
夕陽が鮮やかに輝き、執務室をオレンジ色に照らしていました。その中で、提督―佐東竜也は一人で執務をこなしていました。午前中は艦娘たちがチョコレートを渡しに来ていたので、ある意味で忙しかったのです。なにしろこの鎮守府に男は竜也しかいませんから。
なのでこの男、絶賛執務に終われている最中でありました。
「くそ...加賀め...なんでこういうときにいないんだよ...」
と今はいない秘書艦様のことを愚痴ります。ちなみに加賀は赤城さんと夕食にいきました。おそらく調理場は戦場でしょう。
「やぁ、相変わらず忙しそうだね」
「ん?おおっ、皐月か...」
声をかけられた方を見ると皐月がいました。
「いや、それにしてもいっぱい貰ったね。司令官の写真と一緒にTwitterにアップしようかな...」
「やめろ。俺が社会的に死ぬ」
へへっ、冗談だよ。と言って皐月はポケットからポッキーを出しました。極細のやつです。
「はい。ボクからのバレンタインチョコだよ」
「なんだよ。ポッキーかよ...。・・・よっと」
竜也は執務を切り上げて、立ち上がり急須を手に取り中を確認します。そこには、昼に使ったティーバッグが入っていました。竜也はそこにお湯をそそぎコップに移します。もちろんそこから出てきたのは出枯らしのお茶で...
「何だよ。出枯らしかよ」
案の定、皐月から文句が飛びます。
「おいおい。バカにするなよ?こいつは我が家に代々伝わる「ほんのり茶」だぞ」
竜也は適当な反論しながら、お茶二つと皿を一枚を持ってテーブルに行きました。
執務机とは別に四角いテーブルが部屋の隅にあり、左右は二人がけのソファーに囲まれています。
竜也がソファーに座ると、当然のように皐月はそのとなりに座り、ポッキーを皿に出しました。竜也も気にせず、皐月の前にコップを置きました。
しばらく、二人は無言でポッキーを貪りました。執務室に沈黙が流れます。沈黙と言っても居心地の悪い沈黙ではなく、お互いが少しだけ干渉し合い、かといって触れ合い過ぎることなく、お互いの時間を大切にする。そんな居心地のよい沈黙。フランスではこういうのを「天使が通った」と言う場合があるそうだ。
「最近、春雨とはどうだ?」
竜也が何気なく聞きました。
「えへへ~、実は今日、春雨から告白を受けたんだよね!」
「お~!そうか!ついに皐月も結婚するのか!お父さん嬉しいぞ!大丈夫、春雨は信用できるやつだ!」
皐月が目を輝かせて言い、竜也は冗談まじりに返しました。
「もちろん、冗談。でも、人として好きとは言われたよ」
「おっ、そいつは良かったじゃないか。最初はあんなに嫌がってたのにずいぶんと打ち解けたな」
「う...そ、それはほら」
「あぁ、分かってる。分かってる。お前って意外にシャイだもんな」
「・・・そういうことじゃないし」
パフっと竜也の膝に頭をのせて寝転がって拗ねる皐月。それに対して特に気にした様子もなく皐月の頭を撫で始める竜也。皐月は気持ちよさそうに目を細めた。
「全く、お前は甘えん坊だな」
「・・・もうそれでいいよ」
再び、あの居心地のよい沈黙が流れる。天使が通過中だ。
「・・・よっと」
次に沈黙を破ったのは皐月だった。
「そろそろ行くよ。夕食は春雨が作ってくれるんだ!」
そう言ってパタパタと部屋を出ていく皐月。その背中を見送り、今日はもうやる気ないな・・・。と執務机の紙の山を見つめながら加賀さんへの言い訳を考えるのだった。
箇条がき
・はい、ど~も。ハープさんでございます。
・前日から3編続けてきたバレンタイン特別編完結でございます。
・今回は珍しく提督である佐東竜也を出しました。
・皐月と竜也の関係は父娘のような関係です。理由は後で分かります。
・なので、イチャつきやがってと思った非リアの皆さん、今すぐ母親か父親にダイブしてください。
・僕からは以上です。御愛読ありがとうございます。
2019.2.14
とある舞鶴鎮守府提督・ハープ