1月16日(水) PM3:00 ―晴れ―
「今日は出撃する。君もついてきてくれ」
春雨を引き取ってから一週間が過ぎたある日のことである。
「・・・え?」
「あ、あの。まだ早いと思いませんか?」
春雨が尋ねる。久々の緊張モードだ。
「大丈夫だよ。演習もやってるんだからあとは実戦を積むだけだよ!」
それに今回の標的はイ級のはぐれ艦隊だ。めったに沈むことなんてない。
「何事も経験だよ春雨!やらなきゃ上手くならない」
それを言われると何も言えなくなる春雨。どうもこの子は正論で返されると黙りこんでしまう。つまりは正直なのだ。―騙されやすそうで、守ってやりたくなってしまう。
「見えたよ」
そこにはイ級が4隻漂っている。こっちには気付いてないようだ。
春雨が身構える。他の子達はじっとイ級を食い入るように見ている。
今回は羽黒さんから、曙、巻雲、山風を預かって来ている。みんな、羽黒さんがいなくて不安そうだ。そんなにボクって頼りない?っと苦笑しながら声を張った。
「みんな!砲を構えて!」
皐月の言葉に我に返った3人が砲を構える。
「え、えっと...」
春雨は戸惑っている。そりゃそうか。出撃初日で旗艦だもんな。仕方ない...
「春雨・・・まずは目標の確定と装備の指示だよ」
「あ...えっと、も、目標・はぐれ駆逐隊。イ級4隻。装備は各自に任せます。えっと、その・・・せ、戦闘開始!」
4隻で突っ込んでいく春雨たち。死角から現れて慌てているイ級たち。しばらく当たらない弾のやり取りがが続く。弾が近くに落ちて水柱が上がるたびに、きゃ~、きゃ~、言う新人たち。懐かしい光景である。とてもほのぼのしている。なるほどあの人が苦笑する気持ちがわかった気がする。だが当の彼女たちは生きるか死ぬかの瀬戸際にいるわけで...
「うひゃ、被弾!?沈んじゃう!」
「この、この・・・何で当たらないのよ!?」
などなど。
「・・・疲れました」
「お疲れさま。みんなもお疲れ!」
正直指揮もあったもんじゃないが何とか倒すことが出来た。ちなみに、さっきのは被弾ではなく至近弾だ。
「さて、みんな。早く帰ろう。こんなところにいたら他の深海棲艦が来ちゃ...」
ドンッ!
来ちゃうと言おうとした瞬間に発砲音と共に近くに水柱が上がった。
四人がきゃっと叫び、皐月は後ろを見る。
「・・・はぁ?」
そこにいたのは戦艦ル級率いる。重雷戦隊だった。6隻フル編制。
戦艦ル級、重巡リ級3隻、駆逐2隻。
「いくらなんでも早すぎる・・・これは新人潰しだ」
新人潰し―ハグレ艦隊などを囮にして出撃してきた新人艦を撃墜していく深海棲艦の外道な罠だ。
「春雨!みんなを連れて、撤退!急いで!」
「は、はい」
慌てながら他の子に指示を出し始める春雨。誰よりも早く立ち直ったのは評価できる。
「さて...」
皐月は敵艦隊へ向き直る。そして、急速に前進する。彼らも慌てて砲を皐月に向けるが...
「へっ...遅すぎだよぉ~だ!」
すでに懐に飛び込んだ皐月は駆逐艦に向けて12.7㎝砲を発射。―まずは二体。
後ろにまわってすぐに反転する。やつらも反転をするが反転速度が違いすぎる。横っ腹に魚雷をぶつける。リ級二体がそれぞれ中破と大破。抵抗で放った砲が皐月に当たった。
「チッ、片方やられた」
と言って右手の12.7㎝砲を捨てる。もう片方の砲で二体を破壊。―残り二体。
「...ッ!」
しかし、戦艦たちは皐月の撃破を諦めたのか反対を、つまりは撤退している春雨たちの方を向いた。
「しまった...」
戦艦が放った砲は弧を描き、巻雲へ吸い込まれていく。さっきまでのカスダメとは訳が違う。直撃ルートだ。しかも戦艦の16inch砲が。
「マズイ!巻雲!逃げて!」
叫ぶが全ては手遅れだろう。砲弾に襲われて火を浴びながら沈んでいく巻雲を幻視した...
・・・しかし、砲弾が巻雲に届くことは無かった。途中で爆発したのだ。
「!」
見ると春雨が肩で息をしている。春雨が構える12.7cm砲の先からは白い煙が出ている。
「ハァ...ハァ...先輩!」
・・・分かってるよ。皐月は敵に突っ込む。二人して皐月に後ろを向けるとはなんと無防備な...。まずはリ級を後ろから引っ掴み投げ飛ばす。リ級は戦艦ル級を巻き込んで転んだ。容赦なく魚雷を発射する皐月。余らすことのない全弾一斉射。それはそれは「雷鬼」の名に相応しいもので...
皐月は息も絶え絶えなル級に近づいていく。リ級はとっくに沈んだ。
「さて...たいぶ調子に乗ってくれたね?」
凍り付いたような皐月の声に怯えるル級。
「きみ、途中でボクに背中を向けて、あの子達を狙ったよね?あれ、許せないね」
深海棲艦に言葉が通じるのかは分からない。
「まぁ、いろいろ言いたいことはあるけどさ・・・」
だが少なくとも皐月の怒りだけは十二分に伝わったはずだ。
「ボクの後輩に手を出してんじゃねぇぇぇ!!」
瀕死のル級に止めを刺すために12.7cmを連射。わざと急所を外して苦しませながら殺す。まるで悪の所業だ。やがて、体が沈み始めたル級に、
「ボクと出会ったことが運の尽きだね」
と言った。
さて、と言って春雨たちを振り返る。
「帰ろうか」
笑顔が怖いとはこの事なんだな、と春雨は感じた。