その剣、二の太刀要らずが故に   作:鉄の字

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第一話『苛烈』

 

 

 

 

鳴く。

 

「────!!!」

 

吼える。

 

「────!!!」

 

叫ぶ。

 

「────!!!」

 

雷鳴の如き咆哮が森を揺らす。

木々が振動で揺れるその中心には一人の少年がいた。

 

逆立った短く切られている黒い髪に剣のように鋭い眼光。

長身の部類に入るその体の筋肉は鋼鉄の如く。

筋肉の層が積み上がった体付きだった。

 

その両手にはただの木の棒。

 

まるで狂ったかのようにその木の棒を立木へ叩き続ける。

そして、左右に抉れていく立木が細くなり、折れると同時に木の棒も真っ二つに割れた。

 

「…………」

 

少年はその棒を暫く見つめてから後ろへ投げ捨てる。

投げ捨てた先には無数の木の残骸が山となって積み重なっていた。

 

二つになった立木も適当に転がし、流れる汗を拭わず新たな立木の目の前に立つ。

真新しい木の棒をその無骨な手で握り、棒の先を天に向けて両手を頭頂の横に持ち上げる。

 

その姿はまるで蜻蛉が羽を広げ威嚇している様だった。

 

 

 

 

一瞬の静寂。

 

 

 

 

「ツェァアアアアアアアアアア──!!!」

 

 

 

 

咆哮の後、連打。

一秒の間に三十は打っている。

見る見るうちに立木は細くなっていった。

 

超高速かつ凶力な連打は立木を熱し、煙を上げていく。

 

少年が修める剣は一撃必殺。

だから、この刹那に全身全霊を掛けて振り続けるのだ。

 

バキッ、と立木と木の棒がまたも折れる。

 

木の棒を捨て、次の木の棒を取ろうとするが置いてあった場所にはもう木の棒が無かった。

 

やり始めてからどれだけ時間が経ったのだろうか?

木々の合間から覗く夕陽は既に地平へと沈み始めていた。

 

体から登る蒸気が消えていく様子を見ながら少年は呟く。

 

 

 

 

「腹………減ったなぁ………」

 

 

 

 

 

その剣は一撃必殺。

もし外したら?

その時はサクッと死ね。

生きてるだけでラッキー。

 

これは、そんな人生葉っぱ隊、されど『二の太刀要らず』の苛烈な剣技を修めた少年が歩む鮮烈な物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、腹が減る事に私の家に飯をたかりに来るのは止めて欲しいんだけどね」

 

「むが?」

 

場所は変わり日本家屋にある庭園を模した庭に少女と少年がテーブルを挟んで座っていた。

 

少女──ミカヤ・シェベルは目の前で口いっぱいにおにぎりを詰め込んでいる少年──イシキ・シーマンズの気の抜けた返事に口の端を引き攣らせる。

 

「返事するなら口の中のものを飲み込みなさい」

 

湯呑みに入ったお茶を差し出した瞬間、残像と共に消え、気付けばイシキが喉を鳴らして飲んでいた。

 

目の前の男はどうして剣に対しては誠実なのに、日常生活ではこうもダメダメなのだろうか。

 

「君の猿叫、こっちまで響いていたよ。この調子だと家の山の木を全部叩き折ってしまいそうだね」

 

「まぁ、こちとら一撃必殺だからな」

 

『そうでもしないと強くなれん』と高く積まれた唐揚げの皿を手に取るとガツガツと喰い始める。

 

叫び声で怯むと死ぬ。

防御しようとすると死ぬ。

受け止めようとすると死ぬ。

しかし、避けられると自分が死ぬ。

 

そんな復活無しのクソゲーを人生単位でプレイしているのか彼である。

居合抜刀術の師範代を務めているミカヤにはイシキの剣は到底真似出来ないと感じていた。

 

このミッドチルダにおいてマイナーな剣技の出処を聞いても、目の前で熱々の味噌汁に苦戦している彼は『知らん』の一言だった。

彼の親曰く『古代ベルカ辺りからじゃね?』ということらしいが定かではない。

 

ミカヤは『古代ベルカ』の事を考え始めた時、ある事を思い出した。

 

「そう言えば………最近、『覇王』を名乗る通り魔が有名な格闘家を襲っているらしいよ」

 

『覇王』

その単語を聞いて思い浮かぶのは古代ベルカに数多に存在していた国の王──イングヴァルトである。

物語にある彼は優れた王として有名であり、何百年も前の人物だ。

 

よっぽどイングヴァルトのファンなのか、それとも喧嘩する為の口実なのか。

 

「じゃあ俺は襲われないな。剣士だし有名じゃないし」

 

「DSAAであんな苛烈な剣を振っておいて有名にならないとでも思っているのかい?それに覇王が襲っている中には剣士もいるぞ」

 

「そんなに印象に残るか?」

 

「バリアジャケットを貫通して相手の心をへし折り、更にデバイスが壊れたから棄権。そんな選手はDSAA始まって以来だぞ」

 

彼が刀型のデバイスを振り、相手が叩き付けられ、地面が割れ、そして、相手は白目を剥いて失禁した。

 

その時、イシキが放った『あー、床まで斬るつもりはなかったんだが………誤チェストにごわす』はミッドチルダネット流行語大賞になった事を当の本人は知らない。

 

「俺としては高い金叩いて買ったデバイスが容易く砕けて大損した思い出しか無いんだが」

 

「有名税だと思って有難く受け取っておいたら?」

 

「理不尽だな………」

 

薄く笑うミカヤに対し、その時を思い出して眉間の皺を寄せるイシキ。

対称的な二人の談笑はイシキが盛られたご飯を食い終わるまで続いた。

 

「美味かった。いい嫁になれるぞ」

 

「はいはい。いつもそれを言ってるね。だったらナスくらい食べたらいいのに」

 

「ナスは嫌"い"な"の"です」

 

壁に立てかけていた風呂敷に包んだ荷物を鍛錬用の棒にぶら下げながら、出口へと向かう。

 

この後、ただ鍛錬だけのイシキの人生を変える出来事が起こるのだが、本人はゲップと同時に屁をこくだけだった。

 

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