その剣、二の太刀要らずが故に   作:鉄の字

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第三話『後悔』

 

「ってな事があってよ」

 

「何と言うか………冤罪って言葉がピッタリ似合うよ、今のお前」

 

「ありがとう」

 

「褒めてねぇ」

 

謎の少女との邂逅から翌日。

イシキはとあるマンションの一室に転がり込んでいた。

 

あの時、ひたすらに弁明をしまくった結果、何とか信じてもらうことができた。

 

赤髪の女性の知り合いであろう管理局の執務官と救護隊の二人が駆けつけ、事情聴取の為に連絡するかもしれないと言う事で連絡先の交換を行い、その場は解散となった。

 

気分がガタ落ちしたイシキはそのまま友人が借りているマンションにお邪魔し、勝手に寝て翌日を迎えたのだった。

 

「起きてリビングに行ったら、ソファに横になって腹出しながら寝ていた時は流石にビビったぞ」

 

「すまんでござる」

 

「反省する気ねぇな、コノヤロー」

 

くすんだ金髪を掻きながら溜息を吐く友人──スルト・ヴェルシスにイシキは先程淹れたコーヒーの入ったマグカップを差し出した。

 

イシキには今は亡き両親が遺した家がクラナガンの端にあるのだが、イシキは必要以上に帰らない。

大抵は野宿かミカヤやスルトなどの友人の家に上がり込むかで暮らしている。

 

因みにミッドチルダの全ての山には彼が作ったシェルターが幾つも存在し、とあるチャンピオンの助けに密かに役立っているのだが当の本人は知らない。

 

「…………何でこんなタールみたいにドロドロなコーヒーなのに驚くほどの元気が体の芯から湧いてくるんだ………?」

 

「知らん。鉄球携えたお兄さんに教えて貰った」

 

「何故に鉄球?」

 

スルトはもう一口、イシキ特製のコーヒーを啜る。

すると、何か思い出したかのように手の平に拳で打つ。

 

「ああ、そうだ。お前のデバイス、完成したぞ」

 

「お、マジか」

 

小さな箱を渡され、蓋を開くとそこには白い糸で編まれ、紅い結晶が埋め込まれたブレスレットだった。

 

「………これはコヨリを編んだ紐か?」

 

「素材は紙じゃないけどな。その紅い結晶がコアにあたるぜ。お前が壊したアームドデバイスを解体し管理世界の中で最硬の鉱物を何と取り寄せて『地球』にあるド変態技術の結晶である『刀』を基に鋳造した刃はおそらくお前の剣技にも余裕で耐えきれる業物に仕上がっているぞ。後、お前の携帯端末のデータも移しているからな」

 

「おー、半分以上何言ってるか分からんがサンキューな。流石は数多の企業からお声掛けされるデバイスマスターだな」

 

「まだ専門学校を卒業してないから、就職するのは卒業してからだけどな」

 

十八歳のイシキに対してスルトは十六歳。

デバイス開発の専門学校に通うスルトは成績優秀の将来を期待された学生なのだが、どうしてイシキと友人関係であるのかは長くなるので別の機会になる。

 

去年、壊したデバイスをどうしようかと悩んでいた所をスルトから『それ捨てちゃうんですか?』とレストア精神ムンムンで聞かれ、取り敢えず渡したら意気揚々と修理し始めた。

そして、そのデバイスは全く別の物になって戻って来たのだ。

 

「金払うわ。どれくらいかかった?」

 

「いらねぇよ。コレを作るデータだけで充分だ」

 

「親しき仲にも礼儀あり。それに、働いてくれた者を尊ぶ気持ちも大切だろ?」

 

この男とは三年間の付き合いだが、未だによく分からない。

剣に対しては礼儀正しく誠実に取り組む。

それ以外は勝手に家に上がり込んだり、勝手に飯食ったり、勝手に寝ていたり、と不躾で不遜な態度を取るが、至る所でキッチリと筋を通す。

 

変な所で差が激しい男。

それがスルトが感じるイシキに対しての評価である。

 

「…………そうか。なら、指定する所に振り込んどいてくれ」

 

「ん」

 

このままだと話が終わらない。

そう判断したスルトは折れ、イシキに口座の番号を教える。

 

送金を終えた所で以前使っていた携帯端末から着信が入る。

確認すると昨日の執務官だった。

 

『おはようございます。ティアナ・ランスターです。今、大丈夫でしょうか?』

 

橙色の髪を腰まで伸ばした女性──ティアナ・ランスターだった。

執務官である彼女が連絡して来たということは昨夜の件だとスルトは判断した。

 

「ドーモ、ランスター=サン。イシキ・シーマンズです。えっと、昨日の事ですよね?」

 

『はい。先程、あの子が目を覚まし、もう通り魔をしないという事でこれから署に向かうのですが、同意したからって街中で決闘したのは事実。申しわけないですけど、シーマンズさんにも署に来て欲しいのですが………』

 

『来てくれますよね?』と言わんばかりの視線をモニター越しで出すティアナにイシキは苦笑しながら了承の返事をした。

 

『では、湾岸第六警防署でお待ちしています』

 

通信はそれで終わり、イシキは背伸びして椅子から立ち上がる。

 

「じゃあ、今から走って行くてしますか」

 

「ここから湾岸第六警防署って車で一時間くらいかからないか?」

 

「じゃあ、俺だと一時間くらいか」

 

「やだ、コイツ、車と並走して走る気だわ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず自己紹介からかな?私はスバル・ナカジマ。救急隊員に就いています」

 

「ノーヴェ・ナカジマ。あの時は疑って悪かったな」

 

「一応私も自己紹介しておきましょうか。執務官をしています、ティアナ・ランスター。よろしくね」

 

「………St.ヒルデ魔法学院中等科一年、アインハルト・ストラトスです」

 

「イシキ・シーマンズです。あー、元気な十八歳です」

 

あれからキッチリ一時間で走って来たイシキ。

昨晩の事件の関係者である四人は先に着いており、ロビーで待っていてくれた。

 

青髪の女性──スバル、昨夜の赤髪の女性──ノーヴェ、ティアナ、そして、『覇王』を名乗っていた通り魔である少女──アインハルトの順番で自己紹介する。

 

あまり畏まった自己紹介をしたことが無いイシキは立派な肩書きが無いので取り敢えず年齢だけ言っておいた。

 

その後、イシキは署の人からの補導と事情聴取、必要書類を書き、全て終わった時にはもうすぐ昼になる時間だった。

 

若干猫背になったイシキは凝った肩を回しながらスバルとティアナの所に向かう。

げっそりしながらベンチに座るイシキの様子にティアナは苦笑する。

 

「意外と遅かったわね」

 

「こちとら修士の課題が常にギリギリ合格点な人間ですから、あんな書類一苦労ですよ」

 

地球産の中毒性炭酸飲料『ドクターペッパー』を飲みながら一息つく。

そんな様子のイシキにスバルは明るく微笑む。

 

「ありがとうね。被害届を出さないで」

 

「いいんですか?局員がそんな事言って」

 

「アハハ、そうだよねー。でも、何かあの子、凄く抱え込んでいるみたいだから気になっちゃって」

 

「まぁ、色々と理由があるみたいですし」

 

スバルの言葉に昨日の事を思い出す。

あのアインハルトの様子は何かを背負っている様に感じていた。

 

「どうやらスバルの可愛い妹が人肌脱いでくれるみたいだけどね」

 

「そう言えばアインハルトさんとノーヴェさんは?」

 

時間的にイシキよりも早く補導は既に終わっているだろう。

しかし、周りを見渡しても二人の姿はない。

 

「アインハルトはもう終わったから向こうでノーヴェと話してるわ」

 

「じゃあ、俺も無関係って事では無いので、少しお話してきます」

 

「うん。アインハルトをよろしくね」

 

「ウッス」

 

ベンチから立ち上がり、スバルとティアナに一礼し、アインハルトとノーヴェを探すべく歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

補導を終えてるであろうアインハルトを探していると、ノーヴェと共にベンチに座って缶ジュースを飲んでいるアインハルトがいた。

 

「よっ、ジュース奢ろうかと思ったけど先越されたか」

 

「いえ、折角ですからいただきます」

 

「真面目だねぇ」

 

「だよな。この後、学校に行くんだとさ」

 

「真面目ですねぇ」

 

ノーヴェとイシキから『真面目』『真面目』と茶化され顔を赤くしながら、アインハルトはイシキから缶ジュースを受け取る。

 

プルタブを立てると炭酸が抜ける音がし、缶を傾けて一口啜るが、眉を顰めて口を離す。

缶には『ドクターペッパー』と書かれていた。

 

「うんうん、分かるぞ。最初は薬品臭い味がするけど段々と病み付きになっていくからな。これはオススメだぞ、ジョージ」

 

「病み付きにならないです。後、ジョージと言う名前ではありません」

 

ピシャリと一蹴されイシキは『カカカ』と笑い、アインハルトの隣にあるベンチに座った。

 

すると、アインハルトは顔を曇らせ、突然、イシキに頭を下げる。

 

「………申し訳ございません。私の身勝手で貴方にまでご迷惑をおかけして、ここまで来て貰うことになってしまうとは──」

 

「あーあー、要らん要らん。そんな謝罪は必要ない。お前が喧嘩を売った。俺が買った。それだけだろ?喧嘩両成敗。それでいいじゃねぇか」

 

アインハルトの言葉を遮り手をプラプラと振る。

 

「それに、棒で叩いた跡とかできてないか?」

 

「あ、はい。まだ少し痛みますが傷とかはありません」

 

『叩いた』なんて表現は生温い一撃だが自分よりも歳下の少女に暴力振るった事に負い目を感じていた。

だが、無事であるところを見ると咄嗟に魔法で障壁を張ったのだろうか。

 

「良かったじゃねぇか。朝から迷惑かけて許してもらえるかずっと気になってたんだろ?」

 

「の、ノーヴェさん………!」

 

「カカカ、可愛らしい所もあるんだな」

 

顔を赤くしてアワアワとする碧銀の少女の一面を見て思わず笑ってしまうイシキ。

涙目でキッと睨まれるがどうも迫力が無く、可愛らしく思えてしまう。

 

どうやら表情は完璧に鉄仮面ってわけでも無いことみたいだ。

 

ノーヴェは頭を掻きながら真っ直ぐにアインハルトに向き合う。

 

「朝、言ってたよな。『覇王が強くある事を証明できればいい』って。教えてくれないか?お前の事を。お前が抱え込んでいる全ての事を」

 

「………私は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

群雄割拠の古代ベルカ。

その中で最強を誇った王女がいた。

 

──オリヴィエ・ゼーゲブレヒト

 

聖王と称される彼女にかつての覇王イングヴァルトは勝てなかった。

そう、死に(ゆりかご)行く彼女を止める事が出来なかったのだ。

 

「──でも、それだけではありません」

 

そう言うととアインハルトはイシキへ視線を向ける。

その瞳の中には悲しみ、後悔、謝罪の負の感情が篭っていた。

 

「貴方の先祖であり、クラウスの断金の友でもあったトヨ・シーマンズを戦で死なせてしまった事もあります」

 

「俺の………先祖………?」

 

そこで何となく繋がったような気がした。

 

この子が何故、自分を襲ったのか。

何故、自分の剣が『二の太刀要らず』と知っていたのか。

全ては己の御先祖と関係していたのだ。

 

「だから、時間を超えて再戦をしたかったのか?」

 

アインハルトは小さく頷く。

 

「覇王の血は時代と共に薄れていきます。しかし、時にその血が濃く蘇ることができます。私のこの容姿や覇王の身体資質と覇王流。そして、クラウスの記憶も受け継いでいます」

 

淡々と話していくアインハルトの体は次第に震え、左右の色が違う瞳から涙が溜まっていく。

 

「弱かったから!強くなかったから!ゆりかごに向かうオリヴィエを救う事が出来ず!死にに行くトヨも止める事が出来なかった!!何も守れなかった!!」

 

ワンピースの裾を固く握り、涙と共に溢れ出る感情を二人にぶつける。

ノーヴェとイシキは何も言わず彼女の言葉を聞く。

 

「そんな数百年分の後悔が、私の中にあるんです。だけど、この世界にはぶつける相手どころか、もう、何も無い……全て………!」

 

耐え切れず両手で顔を覆う。

それは彼女の小さい体が支えるには重く、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。

 

「いるよ。お前の拳を受け止めてくれる奴がちゃんといる」

 

「本当に………ですか………?」

 

おそらくベルカの王の誰かと会わすのだろう。

 

イシキは最初、アインハルトがベルカの時代の王に対し、恨みを持っているのかと思っていた。

だから『あの子』の事を聞かれた時は絶対に会わすべきではないと判断した。

だが、想いを吐き出してくれた今なら大丈夫だろう。

 

そして、彼女の祖先とイシキの祖先が無関係じゃないと、目の前の少女が苦しんでいると、分かった今なら────

 

「アインハルトさん」

 

そこでイシキが口を開く。

 

「知っていると思うが俺の剣は一撃必殺だ。だが、目指したのは『抜かざる剣』。剣を抜き勝つ事が最強ではなく、抜かず済ませる事が最強と言われてたらしい。実際、この剣を修めた人は滅多な事で剣を抜かなかった。俺も必要以上の事で剣は抜かない。あの時、君の戦いを断ったのもそれが理由だ」

 

──だから君の拳は受け止められない。

そう告げるイシキにアインハルトは顔を俯かしていく。

 

じゃっどん目ん前で泣き、(でも目の前で泣き、)振っおごたっ拳を振っえん(振るいたい拳を振るえない)殆ど他人ん記憶なんに(殆ど他人の記憶なのに)覇王ん悲願を成そうとすっ(覇王の悲願を成そうとする)心優しかおなごん子ん為なら(心優しい女の子の為なら)おい()は迷わず剣を抜こう」

 

「………いいの、ですか?」

 

「それぐらいなら御先祖様も許してくれるだろう」

 

涙を拭いながら確認するアインハルトにイシキは小さく口角を上げた。

その顔をみたアインハルトは驚いたように少し目を開く。

 

『それぐれなら流祖様も許してくるっじゃろう』

 

その時のイシキの姿。

覇王の記憶にある一人の男と重なっていた。

 

 

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