その剣、二の太刀要らずが故に   作:鉄の字

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第四話『相違』

 

 

 

ミッドチルダにある深い森の中。

小川が流れ水の音が谺響する空間でイシキは立木と向き合う。

 

刀を掲げる。

心を無にし、自分と外界を切り分ける。

辺りが真っ暗になり存在するのは自分と立木だけ。

 

眼に頼らず、心の目で立木を凝視する。

やがて樹皮がボヤけ、板目の肌が見えてくる。

更に凝視を続けると板目が消え、木の繊維が見えた。

そして、遂に立木の向こう側の世界が見えた感じがした。

 

「ハアアアアアアアアアアア!!!!」

 

猿叫と共に袈裟斬り。

 

炸裂音が響き立木が斜めに斬られていた。

 

深く息を吸い込み、そして、大きく吐く。

肺の中の息が無くなると同時に大量の汗が吹き出してきた。

上半身裸の体からは蒸気が立ち上がり、空に消えていく。

 

手元にある鍔が小さめの刀を見ながら軽く笑う。

 

「壊れない刀か………良いじゃねぇか」

 

スルトが作り上げたデバイス──『十文字』を待機状態に戻す。

荷物の中からタオルを取り出し体を拭っていく。

 

「これで、壊れない相手がいればいいんだけどな」

 

空を見上げ太陽の位置を確認する。

 

「…………もうそろそろ時間か」

 

あの覇王の少女は今日、ベルカの王の末裔と会う。

その邂逅は吉と出るか凶と出るか。

願わくば前者でいて欲しいとイシキは願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせ場所に歩いて向かうイシキ。

もうすぐ着くだろうと言う所で自販機の前に立ち缶ジュースを飲む少女が目に入った。

 

「ん?おお、アインハルトさんじゃねぇか」

 

最近知り合った碧銀の髪を持つ少女に腕を上げ挨拶をするイシキ。

 

イシキの姿を見た瞬間、アインハルトは慌てだす。

その様子に訝しむイシキはアインハルトが隠そうとした缶ジュースの文字を見る。

 

それにはでかでかと『ドクターペッパー』と書かれていた。

 

「ん?んん?んんん?それは、まさかとは思うがドクターペッパーか?ドクターペッパーだよな?ドクターペッパーだな?」

 

「ち、違いますっ!これは………その………喉が乾いたから………適当に買っただけです!」

 

一番見られたくなかった人物の登場に真面目なアインハルトは咄嗟の嘘をつこうとするが上手く思いつかない。

完全に真面目な性格が仇となってしまった。

 

イシキはニマニマしていた。

それはもう腹立つくらいにねっとりとニマニマしていた。

 

「いやぁ、そんなにハマってくれてお兄さんは嬉しいぞ。よし、今日の帰りはドクターペッパーで乾杯だな」

 

「だから、違うのです………!」

 

尚も言い訳をするアインハルトの背中を『カカカ』と笑いながらバシバシ叩きながら集合場所へ向かうイシキ。

その後を付いていく様にアインハルトも歩き始めた。

 

因みにドクターペッパーの空き缶はしっかりと空き缶のゴミ箱にアインハルトが赤い顔で『旋衝波!!』と鬱憤を晴らす様に捨てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集合場所であるカフェのテラスにはノーヴェとスバル、ティアナが集まっており、別のテーブルにはノーヴェ達の知り合いであろう何名か女性達が座っていた。

 

その一人の少女を見てイシキは口を開けて唖然としていた。

紅と翠の澄んだオッドアイの瞳とあのオドオドしていた頃とは違う活発な笑顔の少女。

 

「………マジかよ」

 

ノーヴェが知っている王の末裔だから『雷帝』とか『冥王』とかを勝手に想像していたが、まさか『あの少女』だとは。

 

「お、来たか」

 

「どうも、ノーヴェさん」

 

「アインハルト・ストラトス、参りました」

 

此方に手を振るノーヴェに片手を上げて返す。

ノーヴェの近くにいた少女がイシキとアインハルトに駆け寄る。

 

背中まで伸ばした金髪と紅と翠のオッドアイが特徴的な幼い少女は礼儀正しく頭を下げる。

 

「初めまして!ミッド式のストライクアーツをやってます、高町ヴィヴィオです!」

 

明るく挨拶するヴィヴィオにイシキは正確には初対面ではないのだが、と心の中で苦笑する。

 

「ベルカ古流武術。アインハルト・ストラトスです」

 

「イシキ・シーマンズ。剣術を嗜んでる。今日はよろしく………と言うか事前に聞いてた人数より多いですね、ノーヴェさん」

 

「あー、悪いな。余計なものが付いてきてしまってよ」

 

『余計なものとは失礼っスよー!』と後ろで髪を纏めた女性が文句を言っているがノーヴェは無視。

イシキはノーヴェから教えている奴らに加え自分の姉を呼ぶとしか聞いてなかったので、予想以上の多人数、それも女性だらけに若干の戸惑いを感じていた。

 

「じゃあ、お互い格闘技者同士なんだからぶつかりあった方が良いだろ。向こうで場所取ってるから行こうぜ」

 

ノーヴェの提案で大所帯となった一同は体を動かせる場所へ移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

区民センター内のスポーツコート。

格闘技者のヴィヴィオとアインハルトは動きやすい服に着替えウォームアップを済ませる。

 

「よろしくお願いします!」

 

「はい」

 

「んじゃ、スパーリング四分。一ラウンド。射砲撃とバインドはナシの格闘オンリーな」

 

審判役のノーヴェから簡単なルール説明が伝えられる。

二人は軽く頷くとノーヴェは腕を振り下ろす。

 

「始めっ!」

 

根を張る大木のように構えたアインハルトに対し、兎の如く軽やかにステップを踏むヴィヴィオ。

 

次の瞬間、姿勢を低くしながらアインハルトの懐に入り込みアッパーを放つ。

アインハルトは一瞬だけ驚いた顔をするがすぐに冷静になり、それを軽くいなした。

 

そこからヴィヴィオの猛攻が始まる。

軽やかなステップを利用したキレのある拳をアインハルトへと打ち付けていく。

 

(あんな細腕でよく鋭いパンチとキックが打てるな)

 

あの時はまだ小さく目に映る物全てが怖く思っていたあの子がこんなに活発、それも格闘技を習っているとは。

 

『時が流れるのは早いなー』と感慨深く思う十八歳。

 

(………だが、アインハルトさんとはズレがあるな)

 

練習として手合わせしているヴィヴィオと覇王の悲願を受け止めて欲しいアインハルト。

ヴィヴィオの顔は明るくなっていくが、対するアインハルトの顔は段々と曇っていく。

 

アインハルトの顔を狙った回転蹴りを体を逸らす事で避ける。

そこから続く右のジャブの連打を軽くいなす。

 

そして、右の大振りなアッパーを屈んで避け、ノーガードになったヴィヴィオの腹部に左掌底を打ち込んだ。

 

トレーニングルームに響き揺れる乾いた音。

弾かれるように壁へと吹き飛ばされノーヴェの妹の二人にその体を受け止められる。

 

初めて見る強者にヴィヴィオのテンションは上がっていく。

しかし、アインハルトの顔は落胆の表情だった。

 

「お手合わせ、ありがとうございました」

 

面と向かって礼をせず、否、それ程ショックだったのか背を向ける。

 

その様子にヴィヴィオも異変を感じたのか呼び止めようとする。

 

「あの………あのっ!すみません、私、何か失礼を………?」

 

「いいえ」

 

「じゃあ、あの………私、弱過ぎました?」

 

「いえ、趣味と遊びの範囲内でしたら充分すぎるほどに………申し訳ありません。私の身勝手です」

 

『趣味と遊びの範囲内』

その言葉はヴィヴィオに深く突き刺さった。

そんなヴィヴィオに目を向ける様子もなく、アインハルトはイシキの下へ向かう。

 

「イシキさん………手合わせ、お願いします」

 

表情は変わらずとも、どこか晴れない表情をしたアインハルトにイシキは首を横に振る。

 

「お前はいいのか?」

 

「え?」

 

「覇王の悲願を受け止めて欲しいんだろ?」

 

「でも、あの子の拳は………」

 

「あの子の拳は、まだ終わってねぇよ」

 

そう言うとアインハルトの両肩を掴み後ろにいるヴィヴィオに振り向かせる。

 

「な?まだ全力でやってないもんな」

 

「は、はい!先程までのスパーが不真面目に感じたのなら謝ります!今度はもっと真剣にやります。だから、もう一度やらせてもらえませんか?」

 

必死に食い下がるヴィヴィオにアインハルトは戸惑いの視線をノーヴェに向ける。

 

「あー、じゃあ来週またやるか?今度はちゃんとした練習試合でさ。イシキとの手合わせもその時でいいか?」

 

「………分かりました。時間と場所はお任せします」

 

アインハルトの承諾を得て、そこで今日は解散となった。

 

着替えたり、話したりと過ごして、外に出るといつの間にか日は沈み夕方となっていた。

結局来たけど棒を振る機会無かったイシキは少々不完全燃焼を感じていたが、事情が事情である為に割り切っていた。

 

「あの、イシキさん………」

 

外の空気を精一杯吸い込み伸びをしているイシキの背中にヴィヴィオが控えめに話しかける。

 

おそらく今日のアインハルトとイシキの試合が流れた事とアインハルトとの再試合を取り付けてくれた事に対しての申し訳なさを感じているのだろう。

それを読んだのかイシキは制するように手をプラプラと振る。

 

「そんな申し訳ない顔をするなよ。今日はごめんな。あの子、ちょっと事情があってよ」

 

「い、いえ!寧ろ私が『ごめんなさい』ですから!」

 

慌てるように小さな両手を前に出すヴィヴィオに思わず笑いが漏れる。

 

「ストライクアーツが好きなんだろ?アインハルトさんと戦っている時、楽しそうだったからよ」

 

「はい!大好きです!だから、次の試合は私の気持ちを伝えます!」

 

この調子なら大丈夫だろう。

イシキは『カカカ』と軽く笑う。

 

「じゃあ、俺は行くわ。君の全力全開、楽しみにしとくぜ……………あ、そうだ。アインハルトさん!」

 

イシキは振り返ったアインハルトに風呂敷から取り出した何かを投げ渡す。

 

「今日はお疲れさん!」

 

結構遠く離れていたがアインハルトは片手で難なく受け取り、手の中にある物を見る。

つられて近くにいたノーヴェも覗き込む。

 

手の中には案の定、ドクターペッパーと書かれたジュースが。

 

「………これって前に飲んでたやつだよな?………ハマったのか?」

 

「〜〜〜〜!」

 

顔を真っ赤にし思わずドクターペッパーを投擲する構えを取るアインハルトだが、とうの犯人は『あばよ、とっつぁ〜ん!』と言いながら暗い夜道へと消えて行った。

 

「………真剣な所以外は全くトヨと似てないですね」

 

まだ赤みが引かぬ顔で誰にも聞かれないくらいに小さな声で呟くアインハルト。

 

とりあえずドクターペッパーは鞄にしまっておいた。

 

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