女神転生ⅣFINAL短編集   作:アズマケイ

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名も無き墓標にお墓まいり(ナナシとフリン)

「お互い、悪い冗談みたいな人生だったと思うぜ、正直。でも、アンタも俺もそれを必死で生き延びてきたはずなんだ。悪いけど、俺は俺の道を行かせてもらうぜ?俺はアンタじゃないんだから」

 

 

ミカド国と湖畔が一望できる、小高い丘の上にナナシは立っていた。青空が広がり、風が穏やかに凪いでいる。

 

ナナシは墓石の前にたっている。その墓標は簡素な造りだった。決して大きくはなく、生前の人間を偲ばせる程度の言葉が刻まれている。その墓の下にいる誰かをしる手がかりはどこにもない。ただ年月だけは過ぎているようで、彫り込まれた文字も風化しており、もう解読することはできない。これを建てた人間が資金難だったこともあるし、彼がミカド国の実力者にのし上がると決めたとき、彼が建てることで人々の注目を集め、信仰の対象になることをおそれた。その結果、徹底的に隠匿され、墓の主が誰かを知るのは生前の記憶があるナナシだけ。いつかもっと立派なものにするとツギハギに儚げに笑った彼は先に逝ってしまった。破壊された彼の墓を再建するときに建て直す話もあったが、ツギハギは否定した。彼も彼女もきっとそれを望まない。建ててくれた墓のままで静かに眠りたいはずだ。生前の記憶があるとツギハギやフジワラに勘ぐられているナナシだが、沈黙を最後まで貫いたため、ツギハギの意見が通された。王としての墓からわけられ、1500年ぶりに彼と彼女は埋葬された先で再会した。

 

 

ここを訪れた者はきっと想像すらできないだろう。ここに眠っているのがミカド国の礎を築いた初代国王であり、傍らにいるのが様々な謀略に巻き込まれ二度と会うことが叶わなかった肉親だったなど。たくさんの悪魔や人間に殺されそうになったり、殺したりする血なまぐさい人生に対して、質素すぎる墓はその苛烈な人生などみじんも感じられない。

 

 

ナナシがここにくるのは初めてだ。おそらく、二度とくることはない。何か持って行こうか、考えもしなかった。思った以上にきれいだった。誰か管理しているようで、墓はきれいに掃除され、花が生けられている。あの嵐のように過ぎ去った日々は、焦燥と恐怖と勇気に彩られている。感傷に浸る趣味もないので、気が向いたらまたくる、と思ってもいないことをつぶやきながら立ち去ろうとすると、声をかけられた。顔を上げる。

 

 

「驚いた。まさか、君がここにくるとは思わなかったよ、ナナシ」

 

 

身なりのいい青年がたっていた。端整な顔立ちをしており、体格も恵まれているが、連日の多忙さ故かその表情にはどこか翳りがある。ナナシはうげと顔をゆがめた。一目でわかる。この顔は現実逃避がしたい男の顔だ。親父はしらねえかと阿修羅会の面々に問われて、おざなりに追い返すたび、マジでありがとうリーダーと拝み倒してくるハレルヤとそっくりだ。

 

このごろ、この青年から向けられる感情に違和感を覚えているナナシである。未だに明確な答えは出せないので保留にしているが。フリンの手には見たこともない花がある。ナナシは退いた。フリンはまっすぐ2つの墓前に花を手向ける。律儀な男だ。

 

 

「おいおい、こんなとこにいていいのかよ?明日の全体会議はどうすんだ。まーた中継で恥さらすのかよ、フリン?」

 

「困ったな。イザボー達に見つからない隠れ場所だったのに。今日は見逃してくれないかい?」

 

「ま、いいけどよ。ホープのおっさんに怒られても俺には関係ねえし」

 

「それは言わないでくれないか。今は考えたくないんだ」

 

「ふーん、ま、がんばれ」

 

 

軽口をたたきながら、ナナシはフリンが墓前に向かうのをみていた。ひざを折るあたりで沈黙する。それくらいはできる。なにを思うのか黙祷するフリンである。墓前で行う所作はナナシの知らないやり方だ。ミカド国の慣習なのだろう。物珍しげに眺めていたナナシは、フリンが思いの外長いこと前にいるので静寂が長引いてくると手持ちぶさたになった両手を遊ばせる。それでもフリンは顔を上げないから、だんだん飽きてきて立ち去ろうとした。しかし、その背後でフリンが立ち上がる気配がしたので静止する。まるで狙い澄ましたタイミングだ。

 

 

「もういいのかよ?結構長そうだったけど」

 

「ああ、またくるからね」

 

「へーえ。ここ管理してんのフリン?」

 

「いや、知らない。多分、ツギハギさんたちも来てるんじゃないか?時々すれ違うから」

 

「へー、真面目だな」

 

「気になるのかい?」

 

「いや、なんとなく?ここ来たのも昼寝するためだし」

 

「それはちょうどよかった。僕もいいかい、同行しても?」

 

「別にいいけど。困るのはフリンだけだろうしな」

 

「はは・・・正論を言わないでくれ」

 

 

ナナシはにやにやしながら、先を進む。フリンは苦笑いしながら、ゆっくりと歩みを進める。ナナシも知っていたのか、とフリンは思う。かつては幼なじみと。あるいは同僚であるワルターやヨナタン、そしてイザボーと。絶好のお昼寝場所は今でも健在だ。そういえばイザボーがみんなで一度昼寝をしたと言っていたような。お気に入りの場所だ、ナナシにとってもそうならフリンにとてもうれしいことである、と。

 

 

ちなみにナナシがここに足を運んだのは、なんとなくだ。ツギハギに起こされたアキラの記憶から、時折フラッシュバックする光景が今はどうなっているのか気になっただけだ。なんとなく、に任せて歩いていけば違わぬ風景に出会う。かつてを空目してナナシはまぶしそうに目を細める。あー、ここか、と他人事のようにつぶやいて、ひだまりが心地よい草の絨毯に腰を下ろす。ナナシにとってはただのデータバンクでしかない前世である。たまには有効活用しないと。

 

 

大の字に転がるナナシの横でフリンが腰を下ろす。目を閉じるナナシにフリンは苦笑をにじませながら、寂しげに視線を落とす。

 

「ひどい人がいたんだ。絶望から救い出してくれたくせに、生きる希望を持ってもいいといってくれたのに、結局放り出す。夢を見せてくれるくせに、あっさり捨てていく。ほんとにひどい人だったよ」

 

ナナシはちらとフリンをみたあと、空を眺める。風が強くなってきた。かなりの早さで流れていく。

 

「俺もひでえ話を知ってるぜ。そいつには夢があるんだ。ぜんぶ受け止めて、なんだって力にするんだ。俺はそんなにまっすぐ生きられねえんだよ」

 

それきりナナシは黙ってしまう。

 

神を葬った少年達は、これから一歩を踏み出さなければならない。将来に何の展望を抱くのか、思い出になにを見いだすのか、すべて自ら定義しなければいけない。過去にも未来にもいけず、現在に宙ぶらりんにされながら、あがいていくしかない。そのあがく理由すら、前に進む為なのか、後ろに行くためなのか、誰にもわからない。本人はもちろん、周囲すらわからない。はっきりしているのは、今行る場所はゆっくりと崩落の一途をたどっており、同じ場所に留まることを許してはくれないということだ。自由には責任を伴うことを痛感しながら、彼らは歩んでいく。

 

たぶん、大丈夫だろう。一人じゃなくて、二人もいるのだから。

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