女神転生ⅣFINAL短編集   作:アズマケイ

25 / 33
過去は未来に復讐する(アサヒと同室の女の子ハンター)

アサヒより先に人外ハンターになっていた彼女は、クエスト先で悪魔の軍勢と戦闘になり、重症を負ってターミナルを通じて戻ってきた。意識はなく祖母や友達と懸命に看病した結果、なんとか一命はとりとめたのである。

 

「わわわっ、どうしたのその髪!」

 

アサヒは驚いて同居人の少女のところに近づいてくる。どこにもいないと思ったらハサミ片手にザクザク切っているではないか。

 

「あはは、イメチェンていうか、我慢できなくて切っちゃった。だって血がなかなか落ちないんだもん」

 

「あー......」

 

悪魔の軍勢から死にものぐるいで逃げてきた彼女は傷の浅さのわりに大量に出血するところばかり怪我をしていたため髪は血で汚れてしまっていたのだ。水が貴重な東京では拭うのが手一杯で乾燥し切った髪はボロボロになってしまったようだ。たしかにそれなら潔く切った方がいいに違いない。

 

「あーあ、これからリハビリだね」

 

有り合わせのもので作られた止血の跡やギブスもどきの足を見ながら彼女は笑う。武器も折れてしまっているし、人外ハンターとして復帰するのはまだまだ先のようだ。

 

「そんなこといってないで、早く寝よ?治らないよ!」

 

「あははっ、大袈裟なんだからアサヒは」

 

もう、とアサヒは頬を膨らませるのだ。自分が先輩だからっていつも先輩風ふかして。まだ見習いになってから日が浅い自分の立場はわかってはいたものの、こうして態度や口に出されると拗ねたくもなる。アサヒは戦闘が得意なわけでも遺物収集が得意なわけでも事務屋の仕事が得意な訳でもない。持ち前の負けん気と行動力ならあるのだがイマイチ発揮できているような自覚が持てないのだ。どちらもマナブやナナシに劣る自分がいる。

 

父であるマスターを説得してやっと錦糸町で1番ベテランハンターの師事をすることが出来るようになったのだ。もし才能がないと烙印を押されたが最後、二度と外に出る手段がなくなる。それは嫌だった。彼女のようにハンターになりたいのだ。母の死後までやっていた父の背中を追いかけるために。

 

アサヒはふと我に返る。どれくらい治療にかかるのか聞いてきたからだ。

 

「全治3ヶ月かあ......」

 

ガックリと彼女は肩を落とす。

 

「スマホがあるだけまだましね......武器も新調しなきゃいけないし、お金たりるかなあ」

 

すごいなあと思うと同時にこんなふうになりたいとも思うのだ。

 

「ねえ、リハビリも兼ねて私達のところに来ない?ニッカリさんにきいてみてあげよっか?」

 

「ほんとに!?ありがとう、アサヒ!」

 

「もう、ちゃんと怪我治してからだからね!」

 

その日から彼女はスカートをやめて動きやすい服になり、リハビリをより一層取り組むようになる。

 

「アサヒとナナシにだけいいこと教えてあげる。私の切り札」

 

そういって彼女は悪魔を召喚した。

 

『レメゲトン』とは悪魔や精霊などの性質や、それらを使役する方法を記したグリモワールの一つ。

 

グリモワールとは、フランス語で魔術の書物を意味し、特にヨーロッパで流布した魔術書を指す。悪魔や精霊、天使などを呼び出して、願い事を叶えさせる手順、そのために必要な魔法円やペンタクルやシジルのデザインが記された書物を指すが、魔術を行う側の立場から書かれた悪魔学書、魔術や呪術などに関する知識、奥義を記した古文書、書物全般のことを指す場合もある。

 

『レメゲトン』は5部からなるが、もともとそれぞれ別個に成立し後に合本されたもので、相互の関連は薄い。

 

その中でも第1部にあたるのが『ゴエティア』だ。悪魔についての書であり、ソロモン王がいかにして悪魔を使役し名声を得たかを記し、その悪魔の性質や使役方法を述べる。レメゲトンのなかでも特に有名で、しばしばこれ単独で『レメゲトン』『ソロモン王の小さき鍵』と呼ばれる。Goetia とは、古代ギリシア=ローマにおける「呪術」「妖術」を指すギリシア語 γοητεία(ゴエーテイア)のラテン語形で、ルネサンス期には悪霊の力を借りる儀式魔術とほぼ同義であった。これは今日の魔術でいう喚起魔術、すなわち悪魔などの人間より下位の霊的存在を使役する魔術作業に相当する。

 

そこに記されているのがボディスという悪魔だ。『ゴエティア』によると、60の軍団を率いる序列17番の地獄の大総裁にして伯爵とされる。 アガリアレプトの配下にあるという。

 

アガリアレプトはルシファーの配下の悪魔である。6柱の上級精霊の1柱であり、将軍・司令官を勤める。精霊の第2軍団を指揮しており、ブエル、グソイン、ボティスを配下に持つ。

 

その3大幹部の1人であるボディスは、召喚者の前に醜い大蛇、マムシの姿で現れ、現在・過去・未来の知識を与える。他には争いごとを調停する力を持つといわれる。召喚者が望めば、鋭い剣を持ち、大きな牙と二本の角を生やした人間に似た姿になるという。

 

「そっかあ、じゃあこれは人の姿なんだね」

 

アサヒは彼女が召喚した悪魔をキラキラした目で見上げる。ボディスと呼ばれた男は無言のまま静かに肯定した。

 

「すごいね、いつの間にこんな凄い悪魔使えるようになったの!?」

 

彼女は笑うのだ。どうやらアサヒが知らない間にずいぶんと交渉が上手い人外ハンターになっていたらしい。ルシファーに忠誠を誓っていたはずの堕天使を仲魔にできるなんてさすがである。アサヒの記憶が正しければニッカリに師事していた彼女は回復補助係にして自分は主体的に動いていたはずだったが独立してからはどうやら立場が逆転したらしい。ほかの悪魔はあいかわらず回復補助に特価した悪魔ばかりだというのに不思議である。ナナシは何も言わなかったがボディスをじっと見つめていた。明らかに彼女の使役する悪魔のレベル帯と合わない違和感だけがそこにはあった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。