どーんというダイナミックな音が粉々になって全身にぶつかってくる。爆音が、頭の真上、鍾乳洞すれすれをかすめていった。予想外の大音響が空気をかき混ぜる。けたたましい破裂音がして、アサヒは目眩がした。頭が割れるような音だ。大風の海のような凄まじい物音が、鍾乳洞に垂れ下がる氷柱にヒビを走らせる。たまらず耳を塞いだアサヒだったが後ろからいきなり浮遊感を感じた。
「きゃあ!」
視点が一気に上昇した。ナナシの緑のつなぎが見える。落っこちそうになりたまらずナナシにしがみついたアサヒは、そのまま近くの岩場に逃げ込めた。どうやら巨大な氷柱がたくさん降ってきたようで足場がものすごく狭い。
「な、ナナシ、ありがとう」
気にするなとぽんぽん帽子に手を当てながらナナシはその向こう側を見つめる。恐る恐るアサヒも覗き込むとニッカリとマナブ、そして彼女が交戦状態だった。
ふたたび音が爆発したように一瞬だけ広がる。枕元で雷が落ちたくらいの爆音だ。猛烈な爆発音が耳の穴になだれこんで来る。どうやら巨大なタラスクはその巨体を回転させて全ての攻撃をなぎ払い、轢き殺そうとしているようだ。そして、ニッカリたちが物理反射でカウンターダメージを狙うと学習能力があるようでその報復とばかりにタラスクは電光のようなすさまじい色彩を放った。
地軸もろとも引き裂くような爆発音がして鍾乳洞が揺れる。すぐそばで唸りつづける爆音に脳をやられて、地球を頭にささえたような重たい感じに苛まれているのかマナブたちの顔色が悪くなっていく。
「どうしよう、どうしよう、ナナシ!このままじゃ生き埋めかみんなミンチにされちゃうよ!」
予想以上の大音響で音楽が鳴る。大きな音に鍾乳洞全体がが共鳴してがらがらと鳴り始める。そして土埃がふってきてアサヒは咳き込んだ。大きな音によろけるくらいに圧され暗闇を破くみたいに、なにかが切断される音が大きく響く。耳に余る大きな音を立てて、タラスクの、あるいは男、女の苦悶の声がこだました。
耳をもつんざく程、大きな雷鳴が轟き、どおんと地を震わせて爆音がとどろいた。あたりの賑わしさを頭から叩き伏せるように力ずくの音楽が破裂している。
「ナナシ、どうしよう」
アサヒの目には思案顔のナナシがいた。そしてナナシはおもむろにアサヒの手を取り近くに深深と突き刺さる氷柱によじのぼると登ってこいとばかりに手招きする。スカートがめくれないように注意しながらアサヒはなんとか何メートルもある氷柱を登り切った。
銃声が響き、弾丸は金属音を伴って乱れ飛ぶ。鋭い発砲を浴びせる。重い金属的な衝撃音が二度、深夜の鍾乳洞に響いた。機銃掃射が空間に穴をあけながら過ぎる。弾丸が雨のごとく飛来するがタラスクは倒れる気配すらない。銃が花火のような音を立てて撃ち出されるが硬い装甲に阻まれて豆を炒るような音がするのみだ。思ったより軽くはじけるような銃声が響く。銃声が闇を切り裂く。はずみをくらった小さな動物のように、弾倉が軽い音で回転する。掃くように水面を渡る弾着の水しぶきが起こった。
ナナシはアサヒを連れて氷柱に飛び移る。そして大火を吐くタラスクの真下にいくと安全装置を外す。引き金に触れて、搾る。銃が火を噴く。撃った機関銃の反動で肩に衝撃が走ると同時に、乾いた音が響く。どん、と破裂するような音がしたのはその時だ。勢い良く、鉄の杭を壁に打ち込むような、瞬間的ながら激しい響きが聞こえた。
タラスクの絶叫が聞こえる。
すさまじい機関銃声が起った。それはこっちからの掩護射撃と、敵からのと錯綜し、雹の降るように入り乱れた。引き裂くような機銃の音がして空気をはね返すように響き渡る。拳銃の引き金を引いた。反動が来る。銃声が響く。夜中の銃声は、重く鳴った。
タラスクの絶叫がより強くなる。
爆発で起こった熱気で焦げる。地響きがして、西北七八百メートル辺りのところに黒煙の柱が立ちのぼった。
「やった!」
「よっしゃあ!」
「待て、まだトドメをさしてない!」
ナナシがまだ落ちていない、グラグラしている氷柱に発砲する。タラスクの甲羅に引っ込められるはずだった長い首に巨大な氷柱が突き刺さる。そしてニッカリたちの銃声が響き渡り、やがて歓声があがったのだった。
「やったねナナシ!......ってきゃうっ!」
嬉しそうに飛び跳ねるアサヒだったがあやうく足を滑らせて落ちそうになる。
「あ、ありがとう......ごめん、大丈夫」
恥ずかしそうに顔を赤らめたアサヒはナナシに捕まりながら氷柱を降りていく。ようやく地面に足がつくと硝煙の匂いが立ち込める鍾乳洞の周りを見渡した。
タラスクの亡骸が転がっている。ニッカリたちが解体を始めている。随分時間がかかりそうなので、ナナシたちは周囲の遺体から遺物を回収することにした。
「スマホやアイテムはないね、持って行かれちゃったのかな」
そうだろうとナナシは返す。そして遺物拾いが得意なナナシはアサヒが見つけられなかったものを拾っていく。
「それなに、ナナシ?」
そこにはボロボロの手記があった。
今にも風化しそうな手記があった。