女神転生ⅣFINAL短編集   作:アズマケイ

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箸の使い方がなってないぞ君達(ガストンとナナシとハレルヤ)

十字軍の隊長を一目見た瞬間、ナナシの好感度はどん底まで急降下した。

 

 

でかい。

 

 

理由はそれだけで十分である。

 

 

悪魔を主な食材として日々生活する東京の人々は、野菜は贅沢品、缶詰となれば最高級品となる扱いだ。すべての料理に悪魔が混入する以上、無駄に耐性はできるが、健やかな成長などとうてい見込めない。生まれたときから太陽を知らない子供は例外なく、閉鎖空間となる前の人々より体格は恵まれず、ラインは細く、色白だ。庇護してくれる両親や親族がいれば、もっとましかもしれない。だが、ナナシは生まれも育ちもろくにわからない孤児だった。さいわいマスターに拾われたが、それまでの衣食住なんて最低辺である。7歳までその生活しか知らなかったナナシは、今でこそアサヒを見下ろすほどまで成長したが、脆弱な印象を受ける体格までは変えることができなかった。ニッカリの下についてからマナブにくっついて、様々な鍛錬を積んだが体格は思うより改善しかなった。マナブやニッカリには孤児時代に培った生存本能が敏捷さや判断に直結していると褒められはしたが、異界魔法の拾得を勧められた時点でハンターとしての戦闘スタイルは決定したようなものだった。今でも暇を見てはかつての2人から課せられた鍛錬に精を出すが、18だというデカブツに3年で追いつける気がしない。

 

 

ガストンという男は、そこにいるだけでナナシのコンプレックスを刺激する要素の塊みたいなものだ。愛されて育った、恵まれた環境なのがよくわかる。霞ヶ関まで送り届けるという任務を請け負った時点で、さっさと終わらせようとナナシは心に決めたのだ。

 

 

腹が減ってはなんとやら、とナナシたちは先に食事にありつくことにする。十字軍は商会が用意したものを並べられている。ずいぶんと豪勢だが視界に入れると自分の小ささを自覚するので、ナナシはなるべく前の皿に集中する。ある程度会話も弾み、半分くらい食べすすめたところで、席を立つ音がした。喧嘩でも売りに来たんだろうか。それとも下々の食事に興味でもわいたのか、ガストンはナナシたちのテーブルにやってきた。

 

 

「なんだ、これは?」

 

「は?なにがだよ?」

 

 

ハレルヤは疑問をとばす。ついさっきまで、レプリカに阿鼻叫喚だった彼だが、さすがに30分も経過すれば慣れはしないが耐性はできたらしい。青ざめてはいるがなんとかこらえている。

 

 

「東京の民はここまで資源がないのか?!」

 

 

すさまじい衝撃を受けているガストンである。ハレルヤはナナシをみる。なんのこと?しるか。ですよね。ナナシはコップから逃げ出そうとしている紫色のスライムを箸で捕まえると、器用にかみちぎった。レプリカはだいたいこんな感じである。素材について深く言及しないのがお約束だ。知ったことで喉を通らなくなり、餓死するのはあくまでも事故責任である。チロンヌプは不思議そうにハレルヤの頭の上でガストンを眺めている。ハレルヤもふるえているガストンを見ているのがメンドクサくなったのか、食べかけのレプリカを箸で突き刺した。皿から逃げ出そうとしたのだ。悲鳴を上げるレプリカを口に放り込む。よく噛まないのがコツだ。

 

 

「なにが、ですか?」

 

 

アサヒは首を傾げる。

 

 

「資源って、なにがかしら?」

 

 

ノゾミは苦笑いを浮かべた。

 

 

「お前たちは棒きれで食べてるだろう!?」

 

「棒きれ?あー、箸のこと?」

 

 

ナナシたちは手元の箸に目をやる。

 

 

「そうだ、それだ!信じられん、そんな棒きれでナイフとフォーク、スプーンの役割まで果たすとは器用なのか、なんなのか・・・・ここまでくると尊敬の域だぞ、君たち」

 

 

熱弁を振るうガストンにナナシは目が点である。ナイフやフォーク、スプーンなんて遺物、食事に使うより換金したほうがよっぽど有意義だ。高い値が付く。

 

 

「あのね、ガストン君。私たちはナイフとかがないから、代用してるわけじゃないのよ?もともと、これを使う食文化なのよ」

 

「信じられん・・・・・」

 

 

絶句しているガストンに、ノゾミは説明を始める。もちろんナナシは興味がないので食事に集中する。ぼーっとしていたらチロンヌプにかすめ取られてしまう。ハレルヤはガストンとノゾミのやりとりににやにやしていたが、ナナシが黙々と皿を平らげていくことで、チロンヌプに狙われていることに気づいてあわてて食事を再開させる。アサヒはノゾミの話が興味をひくのか、箸をおきっぱなしだ。今日、チロンヌプの餌食になるのはアサヒのご飯である。向かいのテーブルで悲鳴が上がる頃、ナナシはガストンに声をかけられた。おそらく一番近かったからだ。

 

 

「おい、君」

 

「なんだよ」

 

「なんですか、だ。敬語を使え、敬語を」

 

「俺は敬語を使わない主義なんだよ」

 

「使えないの間違いじゃないのか?」

 

「使えねえとしてもお前だけには使わねえから安心しろ」

 

「何だと」

 

「ものを頼む態度かよ、あ?」

 

「ちっ、まあいい。これから年上に対する態度を教えてやるとして、この私が直々に頼むんだ。心して受けろ」

 

「箸の使い方だろ?んなの簡単だろ、ほら」

 

 

マスターに箸の使い方は習っている。ねぶり箸とか、刺し箸とか、細かいところは今でもよく怒られるが、箸の持ち方だけは教え込まされたから無駄にきれいなのだ。アサヒがまねするからきれいにやれと怒られたから仕方ない。ガストンは悪戦苦闘している。ちがう、ちがう、と何度もやり直しているうちにガストンが怒ってしまい、こんなものすぐできる、といきまいて箸を持って行ってしまった。バーの備品なのだが。まあいいか、とナナシは席を立つ。さっさと霞ヶ関に連れて行くのが先だ。

 

 

そして数時間もたたずに再開し、なぜか同行することになったガストンは、食事のたびにナナシに箸の上達具合を見せつけてくるようになった。だからどうした、という話だが、ダメだしされたのがよほど悔しかったらしい。そのうち、マスターやノゾミからマナーについて聞くようになったガストンが、いつのまにかナナシやハレルヤたちより箸について詳しくなってしまい、口やかましくなったのは言うまでもなかった。

 

 

「おい、ナナシ」

 

「なんだよ」

 

「ねぶり箸をするな、みっともない」

 

「うっせーな、いいじゃん、それくらい」

 

「よくない。君のような食べ方をするやつがいると、私まで同類だと思われるだろう!」

 

「アンタは俺の母親かなんかか」

 

「やめろ、気持ち悪いことをいうんじゃない」

 

「だからそれがうっせーんだっつーの。わかんねえかなあ」

 

 

うへ、とナナシは舌を出す。今日という今日はハレルヤとナナシのマナーの悪さを改善してやると意気込むガストンに、アサヒとノゾミは顔を見合わせた。ちょっとまて、なんで俺まで。まさかの巻き添え!?毎日毎日うるさいガストンに気圧されて、少しずつ改善してきたハレルヤはナナシを恨みがましい目で見つめる。ナナシはガストンをおちょくるように唐揚げを突き刺した。喧嘩を売っているのかとガストンはナナシにひきつった笑みを浮かべる。べつにー、とナナシはチュパカブラの唐揚げをほうばった。

 

 

『ここまでくるともう意地になってるだけではないか・・・・ガストン・・・・』

 

 

三人のやりとりをちょっとうらやましそうに見つめながら、ナバールはあたりを浮遊する。

 

 

「そこまでいうなら、ちょっとしたゲームでもしてみる?」

 

 

ノゾミは3人に言葉を投げる。バーのマスターに頼んで、お皿を2つ、箸を1つ、そして大豆のレプリカをたくさん持ってきた。

 

 

「子供の時にやった覚えがあるんだけどね。こうやってお箸で小さいものを運ぶのよ。結構難しいでしょ?ちゃんと使えないと運べないってわけ。やってみたら?」

 

 

「やだよ、めんどくせー。俺達に利点ねーじゃん、ノゾミ。こーいうのは景品がねーと燃えねーだろ」

 

「ちょっと待ってくれよ、リーダー。なんで俺まで巻き込む前提なんだよ。まさか俺までゲームする流れ!?」

 

「はいはい、手間のかかるリーダーねえ。なら勝った人の言うことを負けた人は1つ聞くってのはどう?ガストン君が勝ったら君たちはお箸の使い方をちゃんと練習する。君たちが勝ったらガストン君はなにもいわない、みたいな?」

 

「どーする、ハレルヤ」

 

「頼むから俺に参加するかしないか聞いてくれよ、せめて」

 

「やだね、なんで俺だけ参加するんだよ。友達だろ、俺たち」

 

「こんなときだけ強調されてもうれしくない!」

 

 

渋々参加表明したハレルヤを巻き添えに、ナナシはガストンとゲームに興じることにしたのだった。

 

 

「私の勝ちだな、ナナシ!ハレルヤ!」

 

「くっそっ、あと1個だったのに!」

 

「嫌な予感はしてたんだよなー」

 

「恨むなら腕のリーチを恨みたまえ」

 

「こんのやろう、人の気にしてることをべらべらと!」

 

「はっはっは、聞こえないな!私は勝者であり、君達は敗者だ。さあ約束通り、今日から特訓だ」

 

 

ずるずる、と2人が店の奥に引きずられていく。いってらっしゃい、とノゾミは2人を見届けた。にやにや笑いの浮遊霊を見届けて、ノゾミは振り返る。

 

 

「どうします?」

 

「たぶん一日かかるわよね。今日は解散にしましょうか」

 

「はーい」

 

「せっかくだし商店でものぞいてみる?」

 

「さんせーです!いきましょう、ノゾミさん!」

 

 

アサヒが裏切るとは思わなかったとは、ナナシの談である。

 

半日後。

 

 

「おいおい、兄ちゃん。そろそろ店じまいだぜ?いい加減帰る準備をしてくれや」

 

 

バーのマスターは、あきれ顔でガストンに声をかける。

 

 

「ああ、もうそんな時間か」

 

 

そうしたいのは山々なんだがといった様子で、ガストンはソファをみる。少々困り顔の先には、うつらうつら船をこいでいるハレルヤとナナシがいる。闘争心に火がついてしまったガストンの熱血指導は十数時間に及び、はじめこそ悪態をついていた2人だったが、ガストンが本気だと悟ると少しずつ口数が少なくなっていったのだ。やがて淡々と作業をこなす機械と化していた。はじめこそ2人は、逃げだそうとするたびに槍を突きつけられて静止を余儀なくされた。さすがに店内で大捕り物をやらかしたら出入り禁止になってしまう。冷や汗をながし、必死で箸の特訓をさせられていた子供2人にマスターはあきれ顔だ。

 

 

「しゃーねーや。こっちに従業員の部屋があっから運んでくれ。ただし散らかってるのは勘弁してくれよ?」

 

「すまない、感謝する」

 

「おーよ。しっかし、あんたら、どんなつながりだい?まるでバラバラの集団じゃないか。たしか、アンタはあれだろ?ミカド国の」

 

「ああ、そうだったな」

 

「ん?」

 

「いや、なんでもない。毛布はあるか?」

 

「ろくに洗ってねえのしかねーがこらえてくれよ。兄ちゃんみたいに太陽の臭いなんざしないさ」

 

 

嫌みめいた言葉だったが、ガストンは無視した。口元に浮かんだ笑みを隠すのに忙しかったからである。それを一部始終見つめていたナバールは似たような笑みを浮かべていたのだった。

 

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