Fate .irrationality defeat (フェイト イラショナリティ ディフィート) 作:谷崎 紫乃
タァン!パシン!
葉が赤や黄色に色づき始める季節の、まだ涼しい朝方、ある道場では剣道による竹刀を撃ち合う音が響いていた
「籠手ー!」
ヒュ!
高い声で紺色の道着の剣士は竹刀を相手の腕に向けて振り下ろす。しかし、白い道着の剣士はそれを弾き
「面ー!」
パシーンッ!
そのまま、低い声と共に紺色の剣士の頭を捉えた
「面有り!」
3人の審判が同時に白い旗を上げた
「勝負有り!この道場の次期師範代は本家が長男、天野 仁(あまの じん)とする!」
恐ろしい気迫を纏う師範代が叫ぶ
「流石本家、美しい剣だ」
「やはり、長男は違いますな」
師範代の取り巻きの話し声に、敗れた紺色の道着の女性は血が滲むほど唇を噛んだ
『また…私は…!』
・・・
『私、天野 霧香(あまの きりか)は、道場の娘として育てられた。しかし、そんなものは名ばかりで、分家の女だと蔑まれてきた。私の母は現師範代の妹にあたる。親の反対を押し切って結婚し、一度家を出たにもかかわらず、父が行方知れずとなり、また家へと戻ったのだという。そんな事もあり、本家の人間からは忌み子とされた私だったが、剣の家の娘だと無理矢理剣を教え込まれ、「師範代となれば認めてやる」と言われた。私は友人を作らず、娯楽も捨て、今までを全て剣と勉学に費やした。今思えば、私を苦しめたかっただけなのだろう。そんなに本家が偉いのか?男で無ければ生きていてはいけないのか?』
長い黒髪の少女は、若干17歳にて、家族内での不条理に襲われていた。
その夜、彼女への皮肉のように、新たな次期師範代を祝う宴が行われた。宴が後半に差し掛かかり、酔いが回って騒がしくなってきた頃、うんざりといった様子で霧香は屋敷の泊まっている部屋へと戻ろうと席を立った。その途中、ある部屋のふすまの間から光が漏れているのを見かけた。不思議に思った彼女は聞き耳を立てる。
「此度の聖杯戦争、我々が勝利を収めるのだ」
「はい…お父様…」
『師範代…?それに、仁…?』
「前回の聖杯戦争では、あの男に恥をかかされたが、今回は最強クラスの英霊を用意した。万能の願望機、聖杯をもって、必ずや天野流剣術に繁栄をもたらすのだぞ」
「はい。」
「我が蔵に魔術触媒と魔導書がある。今夜にでも契約を結ぶのだ」
「分かりました。俺の持てる力を全て使い、必ずや、この家に栄光を…」
・・・
『聖杯戦争…?、万能の願望機…?何を言ってるの?』
ある程度の話を聞き、その場を後にした霧香はさっきの話で頭がいっぱいだった。しかし、混乱していながらも彼女はチャンスだと思っていた
『何はともあれ、2人だけで話すような事なら、とても大事な事なのだろう。ならば、邪魔をしてやろう。今まで散々蔑まれた恨みを晴らすだけ…つまるところ奴らの自業自得なのだから』
そうして彼女は屋敷の蔵へと足を向けた
・・・
屋敷の蔵へとたどり着いた彼女は書物の棚を漁っていた
『魔導書というくらいだからここにあるはず…』
霧香が探すためにライトで辺りを照らすと、隅に置かれた小さな机の上にアルファベットの背表紙の本を見つけた、近くには小さな袋が置かれたいる。よく見ると本の間には何かが挟まっていた、霧香はその本を開く
『これは…刀の鐔…?』
ガラガラ!
蔵の扉が開く音がする。霧香は持っているバックにその本と近くにあった袋をしまい、裏口から泊まっている部屋へと戻った
・・・
次の日、霧香は明らかに不機嫌な師範代を尻目に、住んでいるアパートへと帰った。家に着くと、早速彼女は持ち帰った戦利品を調べ始める。
『聖杯戦争、過去の英雄の霊達がセイバー(剣士)、アーチャー(弓兵)、ランサー(槍兵)、キャスター(魔道士)、ライダー(騎兵)、アサシン(暗殺者)、バーサーカー(狂戦士)の7騎のクラスのサーヴァントととして闘いを繰り広げ、最後の1人がどんな願いも叶える願望機、聖杯を手にする…何だか面白そうではあるが、こんなオカルトを真剣に話していたのか?』
霧香はそんな事を考えながら、持って帰ってきた袋を開ける。中には、不思議な文字の書かれた石や、銀色の液体の入った小瓶が入っている。
『特にすることもない、試してみるか…』
幸い今日は日曜日、彼女は持ち前の行動力で近くのホームセンターで必要なものを集めた。
その夜、買ってきた安いカーペットに赤いペンキで本の通りにで魔法陣を描き、石を置き、銀の小瓶と刀の鍔を手に取る
「こんなもんかな…さて…」
霧香は魔法陣の中心に刀の鐔を置いて、魔法陣の端で銀色の液体を垂らしながら詠唱する
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
詠唱が始まると描かれた魔法陣に沿って、銀色の液体が広がり始める
「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。」
銀の液体は金に輝き、風が巻き起こる
「ーーーー告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よー―ー!」
その瞬間、魔法陣が眩く輝く
「キャッ!」
左の手の甲に焼けるような痛みがはしる、みると、刀を3本重ねたような赤い紋章、令呪が刻まれていた。光が収まると、その中心には黒い人影があった。よくみると、道着と袴に上着を羽織り、マフラーを巻き、ボサボサした長い黒髪を後ろで縛った若い男が立っていた、腰には刀を携えている
「わしが幕末の四大人斬りの一人、岡田以蔵じゃ。人斬り以蔵のほうがとおりがえいかの。クラスは…アサシン……?勘違いすな、わしのクラスは『人斬り』じゃ」
以蔵と名乗ったその男は気味の悪い笑みを浮かべる。霧香は驚愕の表情のまま呟く
「本当に出た…」
そんな霧香を以蔵は怪訝そうに見つめた
「おまんが、わしのマスターか…なんじゃ貧弱そうな女じゃなぁ?」
以蔵のその一言に霧香のドス黒い何かが沸き立つ
「私は…女でも剣士だ…!」
霧香は鋭い視線で以蔵を睨みつける、以蔵は少し驚いたような表情を浮かべると思わず笑い出した。
「ふ…ははは!いやあ、すまんかったのう。確かにおまんは剣士じゃ。」
以蔵が言葉を切ると、その目付きが獲物を前にした狩人のように変わる。
「わしが剣を交えたいと思うほどのな…」
「な⁉︎」
「…と、冗談はここまでや、どうやら見られていたようじゃ…」
パリーン
次の瞬間、窓ガラスが割れ、一筋の紅い閃光が入って来る、それを以蔵は斬りはらう
「矢…?」
そこには一本の矢が転がっていた
「アーチャーか…殺気で方向は分かるっちゃが、距離までは分からんからのう。ひとまず逃げるぜよ!マスター!」
以蔵は霧香の手を取り玄関の扉を開けて飛び出した
・・・
そのアサシン達の様子を獄炎(インフェルノ)を思わせるような紅い瞳が見つめていた。
〈6人目のマスターが逃亡しました、サーヴァントのクラスは刀を持っているため、セイバーかアサシンかはまだ断定出来ません〉.
瞳の持ち主、白く長い髪と赤いツノを生やし、道着と袴に弓を持った女が念話を飛ばす
〈わかったアーチャー、今は戻ってこい〉
彼女の頭に男の声が響く
〈よろしいのですか?〉
〈あぁ、最初は様子見だからな〉
続く
お楽しみいただけたでしょうか?投稿は不定期になりますが、待っていて頂けると嬉しいです。