FE 新・紋章の謎異聞 漂流傭兵 ルオ・ルスペード 作:おかのん
ルオ・ルスペード
「ここは・・・どこだ?」
祖父の蔵書に紛れている、夢物語の一節でもあるまいし。
気が付いたら異世界、などというのはあまりにリアリティに欠けた。
それでも。
見も知らぬ山の形、覚えのない大河。
珍しい羽の蝶、家の近くにはあるはずのない、放置されたのがわかる広すぎる草原。
知らない場所。
物語では、案内役がいた。
主人公をカンフル剤よろしく、他の世界から連れてくる神。一縷の望みをかけて勇者を召喚する地下組織や小国。
この際遊びで呼び出したり、何かの失敗で異界と空間をつなげた落ちこぼれの魔法学生でもいい。
誰か、説明してくれ。
ぼくは、どうしてここにいるんだ・・・!!
答えてくれる何かは、現れなかった。
現れなかったのだ。
・
空は澄み渡っていた。
この時期のアリティアは、湿地帯なりに爽やかな風が吹く。
城を目の前に、一人の少年が佇んでいた。
ここは首都アンリ。そして王城アリティア城。
今からここで、試験が行われる。
騎士の選抜試験である。
100余年前、そしてつい半年前、暗黒竜メディウスを倒した英雄の治める国と言えど、大陸で見れば一地方の領主である。アカネイア帝国の様に一般兵の隊長までも貴族の子息とはいかない。有能なものは取り入れていかねば立ちゆかないのだ。
この選抜試験で合格すれば・・・ つまり、多少の読み書きと、アリティア騎士にふさわしい能力、そして品性を示せるのなら、見習い騎士として訓練を受ける事が出来る。
そして、訓練で一定の成績をおさめ、再度従騎士の試験を受けて、合格すれば従騎士として認められる。
いくらかの任務に同行するなどし、手柄を立てた場合は、正式に騎士として認められることさえある。
ただの村の若者や冒険者にすぎなかった者が、貴族を名乗ることを許されるのである。
ゆえに試験も厳しいともっぱらの噂だった。
(でも、そんなの関係ない)
まさにその、ただの冒険者である少年、ルオには目的があった。
アリティア王家に伝わる『オーブ』なるものが、自分の願いを叶えてくれるかもしれないという事。
すなわち、元の世界に帰る役に立つかもしれないということだ。
ルオ・ルスペード。年の頃は17になる。
彼はアリティアどころか、この世界の住人ですらない。地球と呼ばれる、全くの異世界から、本人の意志と無関係に、このアカネイア大陸にやって来たのだ。
12歳の頃、それは突然であった。
そして、今までの5年間、なぜ自分がこんな目にあったのかも、帰る方法もわからなかった。
さいわい、親切な夫婦・・・・・・ 剣豪と魔女という冒険者夫婦に拾われ、元の世界に帰る方法を探しつつ剣の腕を鍛えながら4年間。
父方の祖父が元アリティア騎士だったために、その4年のうち2年間ほど、修行をつけてもらう。
16歳、成長したのを期に、夫婦や祖父と別れて帰る方法を探す旅を開始。
しかし1年の旅でなんの手がかりを得ることも出来ず、しかも時代は激動の暗黒戦争時代。
行く先々で危険な目にあったが、父や母、祖父のような、立派な人物との出会いもいくらかあった。
かけがえのない、友人も。
そして。
最近掴んだ、いにしえの伝説によると、世界には『オーブ』と呼ばれるもの・・・世界を支える柱の役割をする宝石が存在する事を知る。
魔女である義母の師に聞いたことなので、信憑性は低くない。
そして、それが一所に集められていないために、世界のバランスが崩れているのだという話を聞いた。
その『崩れたバランス』に、自分が異世界から理由もなしに呼ばれた原因があるのではとルオは踏んだのだ。
スケールが大きすぎて、にわかに信じられない話であったが、そのうちの一つがアリティア城にあるとも聞いたのである。
どんな些細な手がかりでもいい。元の世界に戻りたかった。
勿論、騎士になったところで、オーブが手に入る訳でもない。
それでも、手がかりのそばにいるのだと思いたかった。
どんな試練にも、立ち向かう気でいた。
その為に、はるばるやってきたのだ。
「いくよ」
にゃおん。
肩の子猫がないた。
ワーレンで拾った子猫は、もう半年経つのに子猫のままだ。
灰色の、しかし毛並みの美しい猫である。
耳と足の先だけが黒く、靴下やカチューシャでもつけているような、おかしな猫だ。
運命の歯車が回りだす。
5年も経って、やっとのことで。
くるくる。狂々(くるくる)と。