FE 新・紋章の謎異聞 漂流傭兵 ルオ・ルスペード   作:おかのん

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グルニア・マケドニア編
第1章 グルニア遠征


『暗黒戦争』と呼ばれた戦いの後。

 

生き残った英雄達は、縁のある場所に帰り、それぞれ復興に力を尽くした。

グラとグルニアは滅亡しているし、一度滅ぼされたアカネイアや、しかけたマケドニアも前途多難であった。

オレルアンとて安楽ではない。

 

そんな中、よい話もあった。

オレルアンの王弟にして、マルスと肩を並べる今回の英雄、ハーディンと、アカネイア王妃ニーナとの結婚、ハーディンのアカネイア皇帝即位が決定したこと。

 

ハーディンのやり方は多少強引過ぎる所も見受けられたが、瞬く間に国力を回復していくアカネイアと周辺諸国の賛同もあり、平和と復興が積み重ねられた。

 

そして、マルスとシーダの婚約も発表され、式を指折り数える日々。

 

が、そんな時。

アカネイアより命令書が届いた。

 

 

グルニアで大規模な反乱が勃発。それをアリティアに鎮圧せよ、というものだ。

 

 

グルニアはロレンス将軍がアカネイアの許可の下、治めているはず。一体グルニアで何が起きている?当のロレンス将軍は・・・・・・?

 

 

 

腑に落ちない事が多いが、アリティアはアカネイアに忠誠を誓っている。命令ならば従わねばならなかった。

 

 

勿論、アリティアを空にするわけにもいかない。

カインら優秀な騎士たちに留守を任せ、マルスはドーガの重騎士団、ゴードンの弓騎士団、アランの聖騎士団、そして、近衛騎士隊と共に、グルニアの反乱を鎮圧にかかる。

 

 

 ・

 

 

「ルオ隊長。お会いしたいという娘が来ているのですが」

「誰だい?」

「アイシャと名乗る、眼帯をつけた冒険者風の女です」

 

アイシャか、なんだろう。

 

「会うよ。ああそれから、その子はこれから顔パスでいい」

「はっ」

 

入ってきたアイシャは、早速用件を切り出す。

 

「今回の遠征、盗賊ギルドも一枚噛ませてもらうわ。

『マルス様を狙う暗殺団を調べる』のなら、護衛も兼ねて周辺にいたほうがいいもの。

で、ほら、商人ギルドのツテもあるから、簡単な御用聞きなら出来るわ。下取りもしてるし、鍛冶屋にも口利きが出来るし。

 

ああ、ルオには報告だけ。

先にマルス王子には許可とってあるから」

「・・・・・・はは、しっかりしてるなあ。

まあ、軍隊は何かと入り用な上に、その度に地元の商人ギルドと交渉するのも手間だしね。マルス様の負担も減るし、ありがたいよ」

 

戦闘や冒険だと先走り気味なアイシャだが、仕事となると、流石は長の養女である。

互いの利を考え、やることにソツがない。

 

輸送隊がある上に、物資の売り買いができるのは便利である。ここは甘えることにした。

 

 ・

 

今回の編成は、先に述べた通り、ドーガの重騎士団、ゴードンの弓騎士団、アランの聖騎士団、そして、近衛騎士隊である。

 

「敵軍の殆どは既に壊滅状態であるという。その戦に紛れて、盗賊どもが出没しているということだ。

そのような状態なら、マルス様のそばまで敵が迫ることもなかろう。聖騎士アランに任せておいて、実際の進軍や実戦の雰囲気を掴む程度で・・・・・・」

 

街道の最中、そう言い出すジェイガンに、アランが口を挟む。

 

「お言葉ですが、彼らは既に戦力です。

次世代の騎士なだけに、万一にも潰れてもらっては困りますが、かといって、実戦に勝る経験なしと思えば、かかしのように立たせておくなど勿体無い。

このような機会にどんどんと前線に出すべきです。どうせ、お守りするマルス様も、猪武者ではないにしろ、後方で指令だけというお方でもない」

「ふむ。一理ある。

だがどう使うかはマルス様次第だ。ああ、ルオ。勿論お前達の希望も言うだけは言うがいい」

「はい」

 

そんなことを話しているあいだに、反乱軍の立てこもる城の麓につく。

 

そこでマルスやルオ達を迎えたのは、禿頭で初老のジェネラルであった。

 

名を、ラングというらしい。

 

「今頃ご到着とは呑気なものですな。

まあいい。せっかくお越しいただいたのだ。ロレンス将軍を始末するのは貴殿に任せよう」

 

「「「な・・・・・・!?」」」

 

つくなりの不遜な態度も気に障ったが、それよりも聞き捨てならない言葉があった。

 

皆、ロレンスが・・・・・・ かつての仲間が困っていると思っていたから、ここまで意気揚々と駆けつけたのだ。

 

まさか、反乱の首謀者がそのロレンス将軍だなどとは、思ってもいなかった。

 

「ど、どういうことなのです!?」

 

何も聞かされていないマルスや英雄達は、動揺を隠せなかった。

 

「どういうことも何も。反乱をおこしたのはロレンス将軍なのだ。始末をせねば・・・・・・」

「それ以前の話です!!

ロレンス将軍はユベロ王子、ユミナ王女の後見人として、アカネイアの加護の下グルニアを治めていたはずでしょう!?

どう間違って反乱など・・・」

「少々食い違っておるな。最初のうちはそうであったが、治安の問題が長らく解決しなかったため、私がこの地に派遣され、治安維持を務めると同時に、暫定的に統治を行っていた。

期限は特にない。統治軍の手がいらぬとこちらが判断するまで、だ」

 

つまり、ロレンスはその処置に不満があったということだ。

というか当然だ。

いくら復興に手を貸してもらっているとはいえ、治安維持における暫定的統治。期限を設けずこれをしてしまっては、ただの乗っ取りだ。治安はどんな統治をしても、完全には出来ない。犯罪や事故は件数0いうのは不可能なのだから。

 

「アリティア軍が後始末をしている間に、我が軍は反乱に加担した者達の一族郎党、女子供も含めて皆殺しにするという大変な任務をせねばならん」

 

マルスは愕然とした。

 

「馬鹿な!そんな非道を行う必要がどこに・・・・・・」

「馬鹿とは何だ!! 反乱の芽を根こそぎにし、反乱を起こした者の末路をしっかりと示さねばまた同じことが起こるではないか!!」

 

これはラングにも一理ある。

しかし、マルスの理想とは真逆のものだ。

 

ジェイガンが止めに入る。

 

(マルス様! ラング殿はこの戦災復興の、かつて敵地であったグルニア、ドルーア、マケドニアを統べる西方統治軍最高指揮官ですぞ!!)

(だからどうだと言うんだ。こんな非道や理不尽に黙っていてはいけない。せっかく戦争が終わったのに、これではこの地に生きる人たちが幸せになどなれない!)

(しかし、この男に逆らえば我々は、アリティアごと反乱軍にされてしまいます!

ハーディンに連絡を取りましょう。この現状を知れば、彼とて黙ってはいません。が、今逆らえば・・・・・・)

(くっ・・・・・・!)

 

黙るマルスを見て、納得したとでも思ったのか。

ラングは話を続ける。

 

「理解できたなら、さっさとロレンス将軍の討伐を済ませてもらおう。グルニアの遺児どもは、こちらで利用するので捕らえたら引き渡すようにな」

「・・・・・・!」

 

仮にも一国の希望である遺児達を、犬っころでも譲れと言わんばかり。

マルスは歯を食いしばって耐えた。

そのままラングは何処かへ行ってしまった。反乱軍の家族を殺しに行ったのだ。

 

「ジェイガン!! どういうことだ。なぜあんな男がこの地を治めている!?」

「情報が足りません。とにかく、今騒いでも不利です。我らの怒りだけ取り沙汰され、情報を操作された挙句、陥れられる可能性がありまする」

 

・・・・・・!?

 

「マルス様は幼い頃より、正義に燃えるコーネリアス陛下、優しき王妃どのとおられたためわかりにくいでしょうが、アカネイアの中枢の貴族達には、権謀術数に長けた、自分の利益のために他人を陥れるのが平気・・・ 得意でさえある人間もいるのです。

ラングはどうみてもそんな輩の一人。

その上であの暗黒戦争を生き延び、新生アカネイア帝国で、3つの国の復興を一手に引き受ける重役を任されているところから、その筋のかなりの手練です。何の準備もなく心の赴くままに反発すれば、いいように罠にかけられるだけです。

 

何、こちらにもハーディンとの繋がりはあります。先の戦争で生死を共にした戦友の訴えが届かぬはずもない。

即刻調べ上げ、ラングの真の姿を知れば、厳罰を下してくれるでしょう。

しかし、その真の姿を知る前に、ラングの情報操作で陥れられてはまずいことになります。

ここは従っておきましょう。ロレンス殿も多分そうやって反乱軍に仕立て上げられたのです。なんとか脱走してもらうなりかくまうなりすればよろしいのです」

「そ、そうだね・・・・・・」

 

マルスは恥じた。

ロレンスが、グルニアがこんな目に遭っていることを、全く知らなかった。

 

いま、行く。助け出してみせる。

そう心に誓った。

 

 ・

 

この事実は勿論皆に伝えられ、ルオはそれをアイシャにも話した。

アイシャはその日の夜には関連情報を纏めてくれ、ルオはマルスに提案して、主だった者達を集めて軍議を開いてもらった。

 

「結論から言うと、ジェイガンさんの予想は大当たりよ。グルニアの遺児達を蔑ろどころか、形式のみ『譲られた』形にしてグルニアの統治権を奪おうとしていたラングに腹を立てて意見したロレンス将軍は、どこをどうとってか『アカネイアへの叛意有り』として謀反人にされたの。

決死の覚悟で遺児達と、数騎の騎士で逃げ出して、砦に逃げ込んだら、既に反乱軍扱い。

ひどいものね。

 

よくわからないのが、この、アリティア軍への遠征の要請ね。すっかり取り囲んで潰すだけの『反乱』に、他国の軍を借り受ける理由がないわ。

まあ逆にそのおかげで、グルニアの現状を知るきっかけになったとも言える。

ハーディン殿が先の大戦での英雄であったことやその頃の逸話からだけなら、『ラング討伐』がそもそも遠征の理由なんじゃないか、とかかっこいい予想も出来るんだけど・・・・・・」

 

アイシャが口ごもる。

 

「新皇帝、評判は良いとは言えないわ。強引すぎる。

それに、ラングのような男の起用も、ヤツだけじゃない。

そもそもラングは、アリティアがグラと共にドルーア連合を相手取ろうとした時に、アカネイアが援軍を送らなかった原因の一つなの。

奴が加担していたと噂される内乱騒ぎのせいで、軍が動かせなかったのよ。

それがグラの裏切りのみでアリティアが壊滅させられた要因になった。グラ軍とアリティア軍の戦力が拮抗してしまい、グルニア軍が加わって差が決定的になった。

 

あの時アカネイア軍がこれていたら・・・

その意味で、アカネイアがあっさり滅亡した引き金にもなっていると言えるわ。

 

しかもその後、建前は結果だけを理由に、グルニア統治下のアカネイアでも幅を利かしていた。要は裏切り者だった可能性が高いの。

にもかかわらずドルーア連合の治安維持部隊の最高司令官? 皇帝陛下のご慧眼には言葉もないわ。

 

そんな皇帝が今のグルニアにアリティア軍を来させた理由・・・・・・

 

何か、裏があるとしか思えない」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

全員が押し黙る。

 

予想外でもあり、そして酷すぎる現状に、皆どうしていいかわからないのだ。

 

そんな中、ルオはあくまで自分の価値観の意見を述べた。

 

「反乱に加担したとされる人々の処刑は?」

「明後日」

「マルス様。そちらにも兵を派遣しましょう。辞めさせないと」

 

これにはドーガが苦言を呈する。

 

「・・・・・・ルオ。そんなことをすれば、今日歯を食いしばって耐えられたマルス様の我慢が無駄になるだろう」

「しかし、その人たちをこのまま見捨てれば、マルス様の心にどれだけの傷を残すことになります?」

 

むしろルオに言わせれば、この王子様が黙っているわけはないのだから、どうせなら早く何とかせねばならない。

 

この意見に耳を傾けてくれたのは、意外にも聖騎士アランだった。いや、今朝の、次世代のための意見といい、アラン自身のキツそうに見える外見と裏腹に、情の深い人なのかもしれない。

 

「城攻めは近衛の者たちのみでやりましょう。我々古参の者たちで、救出活動を行います。至れり尽せりの逃亡幇助というわけにはいかないでしょうし、正体がバレないようにするためには、個々で判断力が必要です」

「私達盗賊ギルドも手を貸すわ。おおっぴらには無理でも忍ぶのは得意分野だしね」

「ルオ。お前はどうする?」

 

アランの言葉に少々迷ったが、

 

「僕は救出活動の方に行きたいです。元は流しの冒険者だったし、みなさんよりは溶け込みやすいはず。

アイシャとのこともあるし」

「わかった。なら、私は近衛の補助にまわろう。

ゴードン、ドーガ。任せたぞ」

「任されよう」

「ゴードン兄さん、気をつけて」

「ああ。頑張れよライアン」

 

「初陣からいきなり別行動かよタレルオ」

「救出活動の方も誰か参加しておいたほうがいいと思ったんだ。マルス様の下で働く以上、こういうことはちょくちょくありそうだろ?」

「ふむ、それもそうだな」

「さすが隊長ね。考えてるじゃない」

 

マルス本人が目の前にいるのだがいいんだろうかこの会話。

 

「そちらが決まれば、今度は明日の城攻めの話だ。

といっても、山越えもあるし2日は見ておくべきだろう」

「あ、その件ですけど、ラングの情報収集ついでに周辺情報もまとめておきました。盗賊ギルドを信用していただけるなら、この場で開示しますけど」

「是非もない。頼むよ」

「では」

 

広げてある地図に、チョークとチェス駒で現状を示していく。

 

「・・・・・・こんなものですかね」

 

今いる盆地から、ほぼ北西に向かえば砦である。

北東に少し行くと小さな村があり、真西には洞窟がある。

アランが仕切って進めていく。

 

「敵はどれくらいいるんだ」

「実は、この混乱のせいでならず者が暴れているんです。反乱軍は砦近くに陣取っていますが、それより手前にいるのはただの蛮族かと」

「叩きのめして問題ないというわけだ」

「全くないですね」

「村に兵をやったほうがいいな・・・・・・

村長やらに直接話を通さねばならん。マルス様にご足労願うより他ない」

「ああ、行こう」

「お願いいたします。それと・・・・・・」

 

アランは真西の洞窟を指す。

 

「ここは?」

「ならず者の根城ではないかと。規模から言って、ここには殆ど残っていないと思いますが」

「ふむ。君がそう言うならそうなんだろうが、私のカンが何かを告げる。

なんなのかとははっきり言えんが・・・・・・」

 

その後、いくらかの会話が交わされ、軍議は終わった。

明日はいよいよ討伐に乗り出す。

近衛騎士団、元第七小隊。初陣である。

 

 ・

 

まずは遭遇戦である。

ならず者達は、見つけたら襲ってくるというだけで連携する気が全くない。

軍と賊の強さの違いは、徹底した集団戦闘をとるということに由来する。オグマとの訓練のおり、少し傷を負ったルークは、実戦経験を重ねるのが遅れ気味であったが、なんとかついてきている。

資質はセシルやロディに引けは取らない。

 

「はあああっ!!  はぁっ・・・ はぁっ・・・」

「ルークさん。少し休んだほうが」

「いや、どうせ今日中には砦まで攻め上れない。

なら、今のうちに実戦でのカンってのを掴んでおかないとな」

「・・・・・・」

 

軽い男に見えて、それなりに努力家だ。

 

 

 ・

 

 

アランは剣士に身をやつして、洞窟の方に向かった。

マルスが率いる才ある若者たちだ。ならず者相手にどうこうなることもあるまい。

 

「!? ・・・・・・あれは」

 

盗賊の一団が、村の方向に向かっていくのが見えた。

 

(・・・・・・まあいい。村にはまっ先に王子やあいつらが向かった。奴らも若者たちの剣のサビになろう)

 

実際そうなった。

 

 

アランは、盗賊どもの根城に入り込み、なんと金塊を見つけた。

 

「これは・・・・・・

見に来て正解であったな。貴重な民の財産が、死蔵されるのも盗掘屋の遊ぶ金になるのも防げた。

マルス様に報告するとしよう」

 

 ・

 

その頃、村ではひと騒ぎ起こっていた。

軍隊がやってきたのを、占領軍・・・・・・ラングの兵だと思った村人がパニックを起こしたのだ。

 

「お願いですじゃ、お願いですじゃァぁ。儂の孫はまだほんの十才。連れてゆかんでくだされ・・・・・・」

「・・・・・・あの、落ち着いてくださいおばあさん。僕達はあなたがたを守りに来たのです。何一つ奪うつもりはありません。

失礼ですが、生きるに足る糧さえないご様子。軍糧から少しお分けします。必要な分を言ってください」

 

今までの軍隊とのあまりの違いに、むしろ浸透が早かった。あまりにわかりやすい情報なのだ。

 

村には久しぶりに活気が戻り、炊き出しで皆生気を取り戻した。

 

「マルス様。聞いて回ると非道いものです。

みて下さい。年寄りと子供ばかりでしょう?

男は強制労働、女は皆慰み物、特に美しい女を選んでは、ラングが犯し殺しているとか」

「・・・・・・・・・・・・」

 

ロディの報告で、皆憤る。

治安の維持の為に、強硬な手段を取るというのは、賛成できぬまでも、マルスとてひとつの方法であることは理解している。

だが、村の評判が示す奴の行状は政治や治安維持ではない。ただのやりたい放題だ。

 

そんな男が、占領軍最高司令官だなどと。

まさに、世も末だ。

 

「・・・・・・行こうみんな。ロレンスを助け出す」

 

もう既に、この城攻めの目的は、『助け出す』に変わっていた。

 

 ・

 

アランが金塊の報告に戻ってきた時には、村の信用も勝ち取り、最初の老婆が隠していた娘が、自分から軍についていくと言い出した。

 

「これは運命だわ。心優しい、しかし薄幸のシスターである私は、王子様と結ばれて王妃になるの!!」

 

「・・・・・・マルス様がシーダ様と婚約したのも知らないのね・・・・・・しかも考えていることが俗っぽすぎるシスターね」

 

セシルは呆れかえる。

 

どうもこの娘、レナの弟子らしい。

レナにしか使えないと言われる、ハマーンの杖の使い方を知っているのだそうだ。人は見かけによらぬものである。

 

しかも例の金塊は、その老婆のなけなしの蓄えが盗賊に盗まれたモノだったらしいのだが、いつラングや盗賊にまた奪われるかもしれないことを考えれば、マルスのような王に役立てて欲しいと譲り受ける。結納金と思えばとかなんとか聞こえたが、マルスは聞いていなかった。

 

目的がやや複雑とはいえ、元第七小隊の初陣は、順調だった。

 

 ・

 

一方、ラングが反乱に加担したものを処刑すると聞き、やめさせようと南下するルオ、ゴードン、ドーガ。

そこで場にそぐわぬ人物に出会った。

 

「ちょうど良かったわ。あんたたち、この辺で商隊か、弱っちそうな軍隊を見かけなかった?」

 

いきなりそう言ってきたのは、金髪でツリ目の、人形のように顔立ちの整った女の子だった。

森の中で、冒険者風の男3人にかける言葉だろうか。

行動の一つ一つが上から目線にとれるその娘は、どこか浮世離れしている。

 

「・・・・・・商隊は見かけないけど、軍隊なら知ってる。

北東にある村に、やる気はありそうだけど若造が多くて経験の少なそうな部隊。

それと、これから行く、南の平野にある街にいるはずの、クズ野郎(ラング)の率いるチンピラ部隊」

 

微妙に気のたっているルオは、いらないことまで正直に答えながらつっけんどんであった。

だが。

 

「ふうん。面白い男ねあんた。

私ね、山賊団の女ボスなの。

質のいい武器って、軍隊から奪うのが効率いいのよねえ。手伝ってくれない?」

 

今、マルス達とやり合っている筈の蛮族達とは別口のようだ。

 

「・・・ムチャクチャ言ってるなあ。まあいいや。

今から僕らは、この国の反乱に巻き込まれた仲間を助けるために、そのチンピラ部隊と事を構えるんだ。

強盗を手伝う気はないけど、機会を合わせればお互い楽にいけるかもね」

 

そう聞いて、女の子はにやりと笑う。

 

「OK。お互いに見返りも貸しもなしだけど、協力はするってことね。

やる気のある奴は『もしも』がある。でも、チンピラは危機に陥れば戸惑うだけ。

そっちの方が楽そうだわ。

 

ムジーク!!」

 

ざざざざざざざざざざざぁっ・・・・・・

 

今の今まで何の気配もなかった草むらから現れたのは、アーマーナイトと、仮面をつけたハンターの一団であった。

 

「さあ。狩るわよ。狩って狩って狩りまくるわよ。

あたし達は狩る側にまわったんだから。

好きなだけ、好きなように。

・・・・・・喰い散らかせ」

 

「・・・・・!?」

 

その少女は、クライネ。

 

アイネの、義妹。

 

 

 ・

 

 

「彼女を調べる?」

「うん」

 

先に南の街で準備を進めていたアイシャが戻ってきたとき、ルオはまず、その自称山賊団のボスという少女の事を頼んだ。

カタリナの事もある。ルオもそこまで単純ではない。

 

「わかったわ。でも、明日までとなるとちょっと短いわね。期待しないで」

「頼む」

 

そう言ってアイシャはまた消える。

 

ゴードンはその様子を見て、少し安心したようだった。

 

「君もそれなりに用心深くなったのかな? あっさり協力したりするから、変わってないのかと思ったけど」

「カタリナから学びました。嘘や隠し事をするなら、それ以外のことは正直でいい。変な用心をして、隠し事があることを悟られたら面倒だ」

「ふむ。ルオよ。こう言ってはなんだが、カタリナのことは経験になったようだな」

「・・・・・・はい」

 

カタリナの事は、まだ信じている。

隠し事をしていた事とはまた別だ。

 

 

 ・

 

 

ルーク念願の若くて綺麗(むしろ可愛く幼い?)なシスターだったが、妄想系痛い娘のため、さすがのルークもドン引きであった。

 

「マルス様との結婚式はいつがいいかしら!??」

 

先日シーダとの婚約が決まったことは、まだ誰も告げられずにいる。

 

ロレンスの救出がかかった作戦行動中に、調子が狂うことこの上ない。

 

シスターに抱く夢を壊されたルークは、順調に経験を積み、速さこそロディに少し届かないが、力は三人の中で一番強くなった。

 

「ぬ、やるわねルーク」

「ふっふっふ。その荒っぽい性格をどうにかすれば惚れても構わんぜ」

「な、何を言ってるのよバカじゃないの」

 

いつもの言動が言動だけに、セシルもまともには取り合わないが、『惚れても構わない』というのは、『君に好かれれば気分がいい』ともとれる。

 

悪い気はしないものだ。

人を見下したような男に言われたわけではない。

意外に努力家で、実力もあると示してみせた、可愛いところともとれる『お調子者』の言うことだ。

 

「親睦を深めるのも良いが、作戦中だ。

あまり気を抜いて、つまらない怪我を負ったりするなよ」

「わかってるよ。気は抜かんさ」

「言われずとも、よ」

 

たしなめるロディに、それぞれ応える。

なんだかんだで、仲は良い三人であった。

 

 

 ・

 

 

「ようは、この街からそのチンピラどもを追っ払えばいいのよ。

街に駐留してるってことは、物資は倉庫とかにおいてるはずだし、後でゆっくり運び出せる。

軍一部隊分ってのは大漁よね。

エレミヤ様もお喜びになるわ」

 

エレミヤという名にうっとりとする少女。

どう聞いても女性の名だ。

山賊団のボスの上司??

しかも女性??

 

疑わしいところは多かったが、アイシャは何も解らなかったらしい。

少なくともこのあたりを根城にする、小規模な山賊というわけではないようだ。

それらしい痕跡は全く見つからなかったらしい。

 

「エレミヤ・・・・・・?」

「何か気づいたの?」

「ううん。例の・・・・・・カタリナの関係してた暗殺団も、確か首領が女じゃないかって話があったのを思い出しただけ」

 

珍しいようで、なくもない話だ。

 

 

結果として救出作戦・・・・・・というかラング軍の撃退はうまくいった。

ルオ達が到着してすぐ、早朝から作戦を決行した。夜討ち朝駆けは奇襲の基本である。

ルオ達は顔を隠してラング軍を蹴散らし、少女の『ムジーク』と呼ばれた部隊も、ゲリラ的な動きが上手い。

制圧も鮮やかで、手馴れている。少女の指揮する部隊とは信じられない。

 

「アンタ達、やるじゃない」

「・・・・・・そっちこそ。

ただの山賊とは思えないわね。手足のように動く、神速の制圧部隊。かなりのものだわ」

「ふふふ。ローローが物量、あいつが搦め手なら、隠密、ゲリラはこのあたしの十八番よ」

 

おかげでアイシャは手駒を使わずに済んでいるのでありがたい。殆どを救出部隊にまわせた。作戦は大成功と言っていいだろう。

 

ラングも混乱の極みだ。

 

「ぐぬおおおッ・・・・・・

貴様ら、何者だ!?

こんなことをしてただで済むと思っておるのか!!」

「ふん。あたし達が何者かも知らないくせに。

どうせ、無駄にする前に回収できたって、あんたの上司も喜ぶでしょ。

 

・・・・・・アンタのその散らかったハゲがムカつくのよ。汚らしいヒゲも虫唾が走るわ。

どうせ腹はスイカみたいなんでしょ。ああ気持ち悪い」

「貴様ぁぁああああああっ!!!」

 

ラングが激昂した直後。

 

ヒュガァンッ!!

 

弓だというのにノーモーションで打ち出される矢。ラングの隣の兵の脳天が割れる。

 

「・・・っ!?」

 

敵はラングを含め、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

一騎、竜騎士が飛んでいった。ラングの脱出用だろう。

 

「ふん」

 

アイシャは少女を観察していた。

 

(・・・・・・この子は馬鹿だわ。

ううん。こういう戦いに『特化』させてあるから、他の事がおろそかなんだわ。実際、指揮能力や弓矢の腕は尋常じゃない。けど・・・・・・

さっきのセリフで、『ローローという、物量作戦の得意な仲間』がいる事、『からめ手の得意』な仲間がいる事がわかった。それに『エレミヤ』という上司、更に、何らかの形でラングの上司を『知っている』・・・・・・

機密漏洩どころじゃない。

 

そして多分、この子は・・・・・・)

 

例の暗殺団の、一員。

 

「覚えているがいい!!」

「えーと、あんた誰だっけ?」

 

((怖い・・・・・・))

 

早朝を狙った奇襲は、あっという間に終わった。

 

制圧が終わっている道を北上するだけなら、まだ間に合うかもしれない。

 

この場はアイシャに任せて、三人は馬を飛ばした。

 

 

 ・

 

 

「無念だな。我らもここまでか・・・・・・」

 

ロレンスは、既に覚悟を決めていた。

心残りは山とあるにしても。

 

「オグマ殿。こうなれば、ユベロ王子とユミナ王女を連れて逃げてくれまいか」

「承知した」

 

しかし、それは叶わなかった。

 

「ロレンスを見捨てて逃げろというの!?

私たちを庇って足を怪我して逃げられなくなったのに、そんなロレンスをどうして置き去りにできるのよ!」

「ユミナ王女・・・・・・」

 

言いだしたら聞かない王女だ。

口論しても埒があかない。

 

「よし、ならば俺がラングを殺してくる。

簡単なことではないが、やってみせる」

「・・・・・・すまぬな」

 

タイミングが悪いとしか言えなかった。

 

ラングは今、この城に向かっている最中だったのだ。

オグマは完全にすれ違い、南の町に着いた頃には、アイシャやクライネも引き上げた後であった。

 

 ・

 

夕暮れも迫る頃。砦はアリティア軍に包囲されていた。

対峙したロレンスは、その軍がどこのものか知って愕然とする。

 

「な・・・・・・

アリティア軍だと!?

 

マルス王子・・・・・・そなたまで我がグルニアの民を苦しめるというのか・・・・・・」

「待ってください、ロレンス将軍!

ラングの非道のことは聞いています。この事をハーディンは知らぬはず。

聞けば必ず、取り計らってくれるはずです。

お願いです、剣を引いてください!!」

 

ロレンスは、僅かな希望と、憐れむような悲しみをうつしていう。

 

「・・・・・・あのような男、昔のハーディン公なら重用するはずがない。

奴は、我らに反乱を起こさせ、アカネイアが完全に征服する理由を作ろうとしたのだ」

「は!?

なぜそんな・・・・・・国が奪われる辛さは、ハーディンとて知っている。

どうしてしまったというのか」

「分からぬ。しかし皇帝は変わってしまった。

 

・・・・・・マルス王子。ここにはグルニア王の遺児二人をかくまっている。

どうか、保護してやってくれ・・・・・・

 

反乱は、儂一人でやったこと。

お二人には関わりないこと、と・・・」

「・・・・・・っ!!?」

 

マルスは、レイピアを引いていた。

それ故にロレンスの剣を弾けず。

 

彼の自害を、許した。

 

「ロレンス将軍ーーーーーーっ!!」

 

駆け寄った時には、手の施しようがなかった。

大切な臓器を、いくつも貫いている。

 

「あ、ああ、あ・・・・・・」

 

若き騎士たちは勿論、アランさえ動けなかった。

こんなことがあっていいはずがない。

なのに、現に起こっている。

現実に起こる悪夢。

続く、悪夢。

 

 ・

 

 

実際、悪夢は続く。

城の最奥で、その二人は見つかった。

 

「君達が・・・・・・グルニアの、希望」

 

まだ、幼きに過ぎる双子。グルニア王族らしい、波打つ金の髪と透明感の強い肌。

 

「うっうっ・・・ ロレンスが、ロレンスが死んじゃった。僕たち、どうすればいいの・・・・・・」

 

泣き始めるユベロ。

ただの、子供だ。

弱々しく、愛らしく、なんの力もなく。

しかし、未来を持つ、資格を持つ子供達。

 

「けだものぉっ!!! 近寄らないで。

近づけば私たちも死にます!!!」

 

ユミナのその叫びは、マルスの心をえぐった。

そして、ロレンスを救う事が出来なかった為に、慰める資格さえマルスは持っていない。

 

けれど。

 

守るのは、彼しかいない。

 

 

だが、運命は最悪の方向へ向かう。

 

 

「ほお。反乱軍の制圧は完了したのですな。

ならばグルニアの遺児達は引き渡してもらう」

 

「!?」

 

もうラングが来てしまったのである。

 

本来、南の街の処刑があって、ここに来るのは早くとも明日になるはずだった。

しかし、今日の早朝に奇襲を受けて、こちらに来るのが早くなってしまったのだ。

 

身を隠した後ならとにかく、この場に出てこられては隠しようがない。

 

「ま、待ってくれラング殿!

彼らはこちらで預からせてくれないか」

「それは出来ぬな。火種は放っておくわけにはいかぬ。

さあ、貴様ら、さっさと来い!!」

「いやあっ!! 離して!! 誰か・・・・・・

ユベロ、ユベロぉ!!」

「ゆ、ユミナぁ・・・」

 

腕を取れば暴れるからといって、頭髪を掴んで引き回している。

これが、一国の王子王女に対する扱いだろうか。

 

「やめろ!! ラング、その手を・・・・・・」

「マルス様!!」

「ジェイガン!? なぜ止める!!」

「忘れたのですか。奴に逆らえば反乱軍とされる。その末路は今見たとおりです。

アリティアを反乱国となさる気ですか!!」

 

そんなわけにはいかない。

しかし。

しかし・・・・・・

 

マルスとて、幸せな青年期ではなかった。

しかし、少年時代は、豊かなアリティアと、正義感あふれるコーネリアス、優しい王妃や姉エリスに愛され育った。

辛く苦しい、全てを失ったと表現される青年時代さえ、自らを鍛える環境はあり、献身的に尽くしてくれる恋人ができ、志を共にする騎士たちに囲まれていた。

 

グルニアの遺児二人は、物心ついてまもない頃に、ドルーアの人質として牢獄送りにされている。ウェンデル司祭が助け出した時には、比喩でなく、心も体も死にかけていたという。

そして、今また。

ラングのような男に、連れ去られようとしているのだ。

 

「こんな、こんな・・・・・・!!」

「今は耐えてください。無理です!!

我らまで全て失っては、守る守らぬの話ではありませぬ!!」

「う、うおお、うおあああああああっ!!!」

 

戦友が命を散らしてまで、守って欲しいと言われたものさえも、僕は守れないというのか。

 

マルスが叫ぶなどということは滅多にない。

が、その声に答える救いの手などない。

 

二人がただ攫われるのを、皆ただ見ているしかなかった。

 

 

こうして、勝利であったはずの初陣は、最悪の結末を迎えたのであった。

 

 ・

 

 

「マルス様。一言ご命令ください!! 僕が今からアイシャと行って、お二人を取り戻してきます!!」

 

追いつくなり話を聞いて、ルオの第一声がそれであった。

皆同じ気持ちではある。

それが出来ないのもわかっている。

 

「私達が救出作戦を急いだことで、こんな結果を招くとは・・・・・・」

「運が悪かった。そこは攻めるべきところじゃないよ」

「くっ・・・・・・」

 

 

皆、一様に沈んでいた。

 

 

「くそっ・・・・・・

なんでこんなことに・・・・・・」

 

「弱いから、だ」

 

!?

 

アランの言葉であった。

 

 

「マルス様。マルス様は、この大陸を支配せんとし、後一歩までアカネイアを追い詰めたドルーアを打倒された。

ニーナ様は、成る程尊い方ではあられるが、自ずから世を統べる方ではない。

事実、実権をハーディンに渡してしまっている。

 

マルス様は、メディウスを倒したその時、この大陸ごとよこせといえば手に入れられたでしょう。

なぜそうされなかった?」

 

アカネイアは主国であり、シーダのことがあるとはいえ、マルスは皇帝として見初められる事はなかった。

アランの言うことは、先走りすぎている。

 

だが、皆、なんとなく何が言いたいのかはわかった。

 

自分の目に映るもの、全てを愛おしく思い、守りたいとするなら。

 

誰の手に委ねてもならないのだと。

自ずから守らねば、守りきるだけのその力を持たねばならないのだと。

 

 

ラングがいかに非道でも、それは今のアカネイア皇帝ハーディンの命に則ったものであり、マルスの言ったことはただのわがままにされる。

権力を持たないというのは、そういうことなのだ。

 

それが人として正しくとも、優しき祈りだとしても。

強くあらねば、何も守れない。

 

「・・・・・・僕が、多くを望まなかったことが、今の結果を生んだと?」

 

「一端ではあるかと言っております」

 

マルスは、さらにうつむき。

搾り出すように言う。

 

「・・・・・・覚えておくよ」

 

 

 ・

 

 

そして、次の日。

 

あくまでロレンスを救おうとしたことをどこからか聞いたのか、村の宝物を捧げたいと村のものが言ってきた。

渡されたのはただのリライブの杖だ。

村の宝がこれだというのだ。どんな生活かうかがい知れる。

 

程なくして。

元凶たるラングがまたやって来た。

 

「ハーディン様から続いての命令が下された。

マケドニアに反乱勃発。クーデターが成功し、ミネルバ王女が捕らえられたとのこと。

 

クーデター軍を叩き潰し、マケドニアを占領せよ。後、帝国にミネルバ王女ごと引き渡せとのお達しだ」

 

「なんだと・・・・・・!?」

 

悪夢が、終わらない。

 

 

第一章 グルニア遠征 終

 

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