FE 新・紋章の謎異聞 漂流傭兵 ルオ・ルスペード 作:おかのん
第7章 紅の剣士
ラーマン神殿は、カシミア大橋のたもとにある。
古代の至宝が数多く残されていると言われる上、神聖な場所として立ち入りを禁じられている。
唯一立ち入る許可を得られるのは、大賢者ガトーと、その命をおびた者のみ。
しかし・・・
許しなど貰わずとも、入っていく者はいくらでもいた。
古代の遺跡をめぐって、戦いが始まろうとしていた。
・
その娘は走っていた。
止まってしまえば終わりだとでも言うように、休むことなく駆けている。
まるっきり踊り子のようなひらひらとした服装なだけに、森の中では走りにくそうだ。
それでもかなりの速さのはずだったが、追ってくる足音は間を変えずぴったりと付いてくる。それは明らかに圧力として感じられ、彼女の精神を削っていた。
それに耐えかねたのか、体力が尽きたのか、その両方か。
いきなりがくんと速度が落ち、彼女はへたりこんだ。
「はあ・・・・・・はあ・・・・・・
もうダメ・・・・・・
好きにすればいいでしょ!!
ああもう、ついてなーい!!!
あたしの人生ってなんだったのかしら!?」
フィーナはやけくそになっていた。
踊るのは嫌いではないが、先にいた一座は待遇が悪すぎた。というか扱いが奴隷並みだった。
しかも座長のセクハラもひどかった。
しかし逃げ出してみれば、今度は盗賊団に見つかり追い回される始末。そして今しがた力尽きたところである。
なのだが。
彼女は悪運はあるようだった。
追っ手であるその男は、ただの盗賊ではなかった。
「・・・・・・女、お前は生に意味があると思うか」
その男は、盗賊団の用心棒だった。
長い黒髪と、赤いその服はその筋では有名だが、フィーナは知らなかった。
「? 変なこと聞くのね。
あるに決まってるじゃない。『楽しい』ってことよ!!
私はこれでも、自分の踊りで、みんなに『楽しい』をあげてきたの。それは私の誇りだわ。
でも、でもね。あげた分の見返りになるくらいには、私も『楽しい』が欲しかったのよ」
「・・・・・・」
「疑うの? じゃあちょっと見てみなさい!!」
彼女は息を切らしていたことも忘れ、歌い踊りだす。
軽快ながらも、それまでの声とは質の違う伸びやかな声。躍動感のある、魅惑的な踊り。
パチ、パチ、パチ。
男は、知らず手をたたいていた自分自身に驚いた。
何かに賞賛を送る。
それは先の大戦の中の英雄達にもした覚えがなかった。
その踊りは確かに楽しさをはらみ、心を浮き立たせ、活力を与えた。研ぎ澄ますことしかしてこなかったはずの自分の心が、初めての感情を得るほどには。
「あら、ふふふ。ありがと!
あなた、陰気そうに見えるけど、意外と素直な性根の人なのかもね。それに驚いた顔がなんだか可愛いわ」
自分を見て『可愛い』などといった女も初めてだった。
「・・・・・・気が変わった。
女、このかこみを抜けて南に下れば、アリティア軍が来ているはずだ。そこまで逃げるぞ」
「え、え?
あなた、盗賊の用心棒なんじゃないの?」
「来るのか来ないのか」
「い、行く!
でも、どうしていきなり・・・
あ! 分かった。私が可愛いから恋に落ちちゃったんでしょ!!
もう、私ったら罪な女よね。
でも、私のいい人になりたいなら、その伸ばしっぱなしの髪を何とかしないと。
目元までかかる前髪なんてダメダメよ。
それから・・・・・・」
「・・・・・・」
完全に無視して歩き出す。
「ってちょっとおいてかないでぇーーー!
あ、そうだ。ねえ、名前くらい教えてよ」
「・・・・・・ナバールだ」
・
アリティア軍の天幕では、お決まりの軍議の時間であった。
「・・・アイシャに集めてきてもらった情報によると、カシミア大橋にはアストリアがいるようだ」
「! 『アカネイアの守り刀』・・・・・・
アストリア・・・・!!」
シーダやオグマ、ウェンデル司祭など、前大戦の英雄達には記憶に新しい。
「彼らとは戦いたくないし、正直勝ち目がない」
「一人一人がアストリア殿に匹敵しようかという勇者で、アカネイア製の銀の剣を携えています。
ただ、彼らの任務はカシミア大橋の防衛のはず。いずれ渡らねばと思うと頭が痛いですが、今は気にせずおきましょう」
「うん。まずラーマン神殿だ。
深い森に囲まれているから慎重に・・・」
「マルス様ーーーっ!!!」
駆け込んできたのは、ラーマン神殿の様子を見に行かせたカチュアであった。
「どうしたの!?」
「ラーマン神殿が、盗掘されたようです!!
蜘蛛の子が散るように盗賊が出て来て・・・!!」
「なんだって!?」
「しかも、アカネイア軍が進軍を!!
アストリア殿の部隊ではありませんが、こちらに攻撃をかけてきています!!」
マルスは即座に命令を下した。
「ルオ、ライアン、リンダ、マリーシア、バーツ!!
本隊の進軍まで僕と防衛線を張るッ!!
シーダ、カチュア!!
ジュリアン、オグマと一緒に、盗賊どもの掃討を頼む!!
ガトー様よりの使命を果たさねばならない。
すぐに向かってくれ!!」
一斉に皆動き出す。
・
「急ぐぜ!!
砦を抑えちまいたい!!」
バーツが駆けるが、
「・・・・・・! 駄目、間に合わなかったわ。既に展開されている!!」
「というか、カチュアさんの報告で『進軍をかけてきている』って言ってたじゃない。
これだけ距離があるんだから、砦の封鎖が間に合うわけがないわ」
リンダの制止とアイシャのぼやきに、バーツが苦い顔をするが、今更である。
「ここで防衛線を敷く!!
各自、隊列を整えて!!」
騎馬と重騎士の波状攻撃。
しかし・・・
・
砦近くの勇者隊は、目の前の小競り合いに全く反応しなかった。
「アストリア隊長。我らは参加せずともよろしいので?」
「我らの任務は、この先のカシミア大橋の防衛だ。余計な手出しはいらん」
アストリアは、ジョルジュと違い、アリティア軍と戦うことに疑問はなかった。
しかし、ハーディンのやり方には疑問を持っていた。
何より、ここ数ヶ月臥せったままになっておられるというニーナのことが気がかりであった。
「奴らから手出しをしてくるなら容赦はするな」
それだけ言うと、また腰を落とした。
・
砦を抑えることは不可能だったが、なんとか勝利した。勇者隊は本当にピクリともしなかったのだ。
おかげでバーツもリンダも多少の経験を得ることができた。
カンが戻ってきているようだ。
「ねえ、ルオ」
「何?アイシャ」
「あの山に洞窟があるみたい。調べてみなくてもいい?」
「?」
「もしかしたら、ヤブヘビになるかもしれないけど。
あそこに伏兵がいるということもあるし・・・」
判断しかねているらしい。
「そうだなぁ・・・・・・」
・
盗掘をした盗賊たちを相手取ることになったジュリアンやオグマ達。
「奴らはもう逃げの一手・・・・・・と思うのは早計だ。あれだけ大勢で荒らしたなら、何も取れなかった奴もいるだろう。
そういう奴らは向かってきて、追い剥ぎをしようとするかも。
そうでなくても、こっちが追っているんだとわかれば、逃げるよりは返り討ちにしようとする気性の荒い奴はいる」
ジュリアンのこの助言は思いの他役に立った。
追いすがれなくても呼び止めると向かってくる奴もいた。
おかげで追いかける手間は省けた。
そして・・・
シーダは懐かしくもある意味因縁の相手と出会っていた。
「貴様か、シーダ」
「っ!! ナバール!!?」
「盗賊に追われていた小娘がついて来ている。保護しろ」
「!!?? え・・・ じゃあ、協力してくれるつもりなの?」
「こっちの質問にまず答えろ」
「わ、わかったわ。ジュリアンに頼んでおく」
「貴様らといた方が戦場にめぐり合うだろう。俺は剣が振れればそれでいい」
「た、頼むわね!!」
今回は変に話が早かった。
まあそれで都合の悪いことはない。
まだ盗賊は掃討しきっていない。
素早い盗賊を相手取っての戦いは経験となり、特にシーダの速さはアリティア軍随一にまで伸びた。
「ちょっと私を無視して話を進めないでよ!?」
再行動させる特殊コマンド『踊り』を持つフィーナが仲間に加わった!!
「なんでそんなナレーションっぽいの!?」
その傍らでは、オグマとナバールがにらみ合っていた。
「決着は」
「またいずれ」
ライバル心はお互いにあるらしい。
・
アイシャの気にしていた洞窟の件は、マルスから許可が出た。
「後ろから攻撃されても嫌だしね」
ということで潜入を試みようとしたところ・・・
「か、火竜が!! 火竜が出現しましたァっ!!」
「うええ!?」
「・・・ごめんルオ。ヤブヘビの方だったみたい・・・」
「いや、判断したのは僕だし、それどころじゃあない!!」
火竜は巨体で攻撃が通じにくく、タフである。しかも意外に敏捷で、ブレスは高威力だ。
魔法が一番効果的だが、リンダを連れてきていなかった。
しかし、ブレスの届く範囲は狭い。
「はぁっ!!!!!!!!!」
ヒュガッ!!!!
ルギャオオオオオオオオオオオ!!!!!
「・・・・・・へ!?」
「あ、ひ、必殺の一撃・・・・・・」
ライアンの愛用の弓が眉間に突き刺さり、火竜は倒れ伏した。
「僕の出番がなかったね・・・」
「これ、ただの鉄の弓じゃあないね。少し手を加えてある」
「僕が加工したんです。少しでも威力をあげたくて」
皆それぞれ、自分の武器に手を加え始めていた。
シリウスもやっているというから、効果のあることなのだろう。
火竜のいた洞窟を探ると、そこには幾ばくかの財宝と、リブローの杖があった。
リブローは離れた相手にライブをかける優れものである。
・
逃げ遅れたのか殿なのか、未だにラーマン神殿に居座っていた男が、盗賊団の首領のようだった。
「盗賊の上前はねるたあ・・・ てめえら人間じゃねえ! 悪魔だ!
お、俺の、俺の子分どもを皆殺しにしやがって・・・・・・
たたっ斬ってやる!!!!」
「「「「・・・・・・」」」」
アリティア軍全員、あいた口がふさがらなかった。
「・・・貴様は村を襲う時、女子供をどうする??」
「は? そんなもん、綺麗どころは犯して、子供は売り飛ばすに決まってんじゃねえか」
ズバシュ!!
「ぐぎゃああああいてええええええ!!!!」
「「「「・・・・・・」」」」
アリティア軍全員、あいた口がふさがらなかった。
「成敗ッ!!」
ドカアッ!!
「ひ、人殺しー」
ナバールとシーダの連携で、あっさりと盗賊の頭領は退治された。
彼の言うこともあながち間違ってはいないが、彼に言われる筋合いはない。
「おおおおおおお・・・・・・
神よ、この魂をお救いください。
彼は自分がどれほどの罪を犯しているか、知らずに死を迎えました。
彼に奪われた命も、彼自身も、このままでは浮かばれぬ・・・・・・」
ウェンデル司祭の尊い言葉であるが、努力目標の参考にしかなるまい。
神殿は奴らに荒らされ尽くしていた。
しかし、盗賊のひとりが星の欠片を持っていたとの報告もあり、なにもえられなかったわけでもなかった。
そして。
「ここまではなんとかなったが・・・
先送りにしていたカシミア大橋はどうするかな。
アストリアの部隊とは正直、二重の意味で事を構えたくない」
と、こぼすマルスに、
「それですけど、考えがあります。任せておいてくださいな」
アイシャはそう答えたのだった。
・
数時間後。
アストリアははしから離れた場所におびき寄せられていた。
「西の砦にかけられた攻撃は揺動だと!?」
「はっ! 盗賊どもによる破壊工作で、その間にアリティア軍が消えております!!」
「草(スパイ)はどうした!?」
「察知されていたのか、連絡が見張りともども取れません!!」
アストリアの勇者隊は、まんまと出し抜かれていた。
アイシャに言わせれば、アカネイアの部隊付きのスパイなど、素人に毛が生えた程度である。
いざという時までほうっておいて、ここぞというところで使えなくしてやればいい。
騙していると勘違いしてもらっている相手ほど、手玉に取りやすい相手もいない。
「ぐぬううううううっ!!
アリティア軍め・・・ しかし、逃げ場はカシミア大橋しかあるまい。
その上、渡りきった先にはジョルジュ率いる一軍が待ち受けて防衛している、皇帝率いるアカネイア軍本隊もそろそろ到着する!!!
準備急げ!!
奴らを挟撃してくれるっ!!!」
カシミア大橋を渡られたとなれば話は別だ。
防衛任務のためにという名目で追いすがって、なます切りにしてやる。
第7章 紅の剣士 終