FE 新・紋章の謎異聞 漂流傭兵 ルオ・ルスペード 作:おかのん
門で、番兵から話を聞き、簡単な手続きをした後城門をくぐる。
城内は、質実剛健で派手さはないながらも、それでもどことなく荘厳さを感じた。
掃除が行き届いているのは勿論、作りの一つ一つが丁寧なのだろう。職人が佇まいを正して作ったのが分かる。
少し奥に進むと、そこには多くの若者達が集まっていた。
とても大勢いた。100人以上はいるんじゃないだろうか。得意とするものも様々のようだ。斧や槍を持つ者、弓や剣を持つ者。天馬や騎馬に乗っている者もいた。中には魔導に長けていそうな者も。
ルオは傭兵だ。剣を主な武器とする。
この世界に来て5年近く。それなりには磨いてきた。
とりあえず、試験が始まるまで、どこか落ち着ける所を探す。
と。
ドン!
「きゃあ!!」
誰かとぶつかった。
相手は尻もちをつき、ルオも、少しバランスを崩した。
相手が謝ってくる。
「ご、ごめんなさい!!」
「いや、そっちこそ大丈夫?」
戦いにむいているとも思えない、華奢な少女であった。
薄紫のさらりとした髪、小動物のような可愛らしく大きな瞳が印象的だ。
彼女はぶつかった拍子に、本を落としていた。それを拾っている間に、彼女の方も立ち上がった。
「ほら」
「ありがとうございます。私、少し考え事をしてて・・・・
あ、あなたもアリティア騎士を目指してここに?」
「ああ。ここで選抜試験と聞いてね。
僕はルオ。
マルス様のお役に立ちたいと、そう思ってる」
「ルオ。素敵な響きです。
じゃあ、一緒ですね私達。
私はカタリナといいます」
「よろしく」
握手をしようと手を差し出す。
カタリナは一瞬躊躇う様なそぶりを見せたのだが、その後、嬉しそうに両手で握ってきた。
嫌だったわけではないらしい。
「でも、本当にいろんな人がいますね。みんな、強そうな人ばかり・・・・・・」
「そうだね」
皆が皆、とは思わなかったが、一目見て強そうな者達はそこかしこにいた。
「くぅ~。ついにここから始まるぜ! この暁の聖騎士ルーク様の伝説が!!」
「・・・・・・先に行くぞルーク」
「うわあ!? まてよロディ!! 相棒を置いて行くなって!!」
(・・・・・・なんだか賑やかなのもいるな)
そんな事を考えていたら、ヅィン、ヅィンと鐘の音が鳴った。
「あ、行きましょうルオ。始まるみたいです」
「うん」
さっきの男のセリフではないけれど、ついに始まるのだ。
栄光や伝説は要らない。
でも。
元の世界に帰る手がかりを得てみせる。
皆、我先にと足を運ぶ会場に、ルオとカタリナも入っていった。
・
皆整列し、試験官の言葉を待った。
出てきたのは、アリティアの老将軍、ジェイガンである。
先の暗黒戦争では、アリティア落城のおり、マルスを逃がすために囮となり、命からがら逃走して、その後遺症で最近まで動けなかったという。
挙兵、アカネイア同盟時には参加していないとはいえ、その決死の囮がなければ、マルスの亡命が成功していたかどうか分からない。影の立役者ともいえる人物で、いまだ現役である。
「良くぞ来た!! 我々は新たなる若き騎士を求めている。家柄、身分は関係ない。優れた能力を持つものは用い、とりあげていくのでそのつもりでいるように」
ご老体とは思えない腹に響く声である。
「き、緊張しますね」
「うん」
ルオは、ある種の高揚はあるが、あまり緊張はしていなかった。
だが、カタリナの不安を取り除くためには、同意した方がいいだろうと思って、肯定した。
「では、その場で二人一組になれ!! まず、我が軍の兵士と試合をしてもらう。訓練されている者共とはいえ、二人がかりで一人に勝てぬようなら、即刻この場から立ち去ってもらう!!」
(なっ・・・・・・)
これは・・・・・・
なかなかおおざっぱな試験である。
仲間と連れだって来たならともかく、今日初めて会った人間と協力して戦うのは難しい。
加えて、人を見る目も必要である。
協力できる人物か。
技量をもった人物だろうか。
が、そんな事を考える前に、先ほど顔見知りになったカタリナが、真っ青になっていた。
「じ、実戦なんて、どうしましょう!?
ルオ、私、軍師志望なのです。
戦略の助言ならできるつもりですけど、白兵戦の役には立ちません。いきなりこんな試験だなんて!」
カタリナは涙目になっていた。
ルオはてっきり、彼女は魔導士だと思っていた。
よもや軍師とは。
そして、すがるような、月並みだがそれこそ捨てられた子犬のような目。
どうやらルオには選択の余地がないようだった。
「わかった。僕の後ろに隠れていて。すぐに戦闘になる。巻き込まれないようにしてて!!」
「は、はい。ありがとうルオ。ごめんなさい!」
カタリナを後ろに押しやり、ルオは前に出た。
「位置に付いたようだな。では、始める!!」
開始の合図がなされ、模擬戦が始まる。
ルオはこの5年、自分なりに毎日研鑚を積み、実戦も数度経験した。
通り一辺の訓練を受けただけの兵士なら、おいそれとは負けない自信があった。
他の試験場の様子を見ると、早速合格を決めた者までいる。位置についたと同時に始まるようで、各試合場での開始時間はバラバラだ。カタリナとのやり取りのこともあり、ルオ達は開始は遅いほうだった。さらに、兵士の質もばらばらのようだ。
カタリナが近づいてきて、助言をくれた。
「ルオ!! 槍と戦う時は、まず懐に飛び込むことです。槍の攻撃範囲は、近づけば無くなります。隙を見て飛び込んでください!!」
「・・・・・・了解!!」
ルオは槍の先端を払いのけ、沿うようにして兵士に肉薄する。
そこから連撃を叩きこんだ。
「はぁああっ!!」
ドッ!!
「!?・・・・・・何ぃ!?」
相手の兵士は、あっさり踏み込まれて戸惑った。
理屈が分かっていても、一度は刃物のとどく範囲に飛び込まねばならない。試験を受けに来たようなひよっこにやすやすと出来ることではないと思っていたのだろう。
ドカッ!!
二撃目も叩き込む。兵士はあっけなく膝を折った。
「ぐおっ!!? ・・・・・・ま、まいった!!」
(やった・・・・・・!)
一息つき、周りを見渡す。
すると、様子がおかしい。
さっき、自分たちより先に兵士を倒していた者達が、何組か倒れ伏している。
見れば、傍には騎馬兵の姿が見受けられた。
そういえば、試験会場に兵士と一緒に騎馬兵も並んでいた。
「ルオ、まだ試験は終わっていません!!
騎馬兵との連戦に勝たないといけないみたいなんです!!」
「えええ!!?」
今度はルオが青ざめた。
騎馬兵は、力量のバランスが取れていて、一定の強さを持つ者が選ばれる。
馬による移動力を得た、ワンランク上の相手だ。
この枠の中では逃げる事もかなわない。
しかし騎馬の機動力が生きるだけの広さがある。
「それまで!! 合格とする!!」
中には見事勝利した者もいるようだ。
だが、それらの者も二人で力を合わせただろう。
自分で決めたこととはいえ、助言を貰えるとはいえ、一人で連戦はきつかった。
間の悪いことに、ルオの印象的な踏み込みを、ジェイガン将軍が見ていたらしい。
「ほう。なかなかやるものだ。私が鍛えた兵士を・・・・・・
ん? お主は一人で戦ったのか?
二人組ではあるようだが・・・・・・
お前達が最後の組のようだな。
ならばこの私が直々に相手してやろう。
さあ、力を見せてみよ!!!!」
(えええええええええ!?)
よりによって老将軍みずからとは。
光栄なことではあるが、試験相手となると有難迷惑である。
ジェイガン将軍の兵種は聖騎士。
騎馬兵など比べ物にならない実力を持つ。
手槍をブンブンと振り回す姿は、ご老体とは思えなかった。
ただ、こちらの攻め方を見たいのか、向こうからはこないようだ。
ちなみに、肩に乗っていたはずのルオの飼い子猫、チビは、カタリナの胸にいつの間にか避難していた。
(あいつめ・・・・・・)
さて、どう戦うか。
(将軍直々に来るからには、衛兵の2,3も一緒に来るかと思ったけど、取り越し苦労みたいだ。あくまで1対1)
そもそも、どう協力するか、という点も試験のうちなのだろう。その意味で既に掟破りなことをしている。
(なら、傭兵の戦い方は、先手必勝!!)
ダッ!!
一気に間合いを詰め、剣を振り下ろす。
歴戦の勇士たるプレッシャーは凄まじいが、それさえ受け流せば、老将軍の槍さばきは鋭いものではなかった。
「ぬっ!!」
初撃、相手の反撃。そして、
(もう一撃!!)
ドッ!!
浅い。しかし一撃だ。このまま・・・
そう思ったルオだが、ジェイガンも流石にやられっぱなしではなかった。
「ぬううん!!」
浅い一撃で出来た隙を見逃さず、
「今度はこちらからゆくぞっ!!!!」
「!!」
バキィッツツ!!
「がっ・・・!!」
「ルオっ・・・・・・!!」
カタリナが悲鳴を上げる。
胸の皮鎧を突かれた。槍は刃を落としてあったので、貫かれることはなかったが・・・・・・
(いや、違う。わざと鎧のある所を・・・)
実戦なら、まずかったかもしれない。
「うおおおおおおおおっ!!!」
裂帛の気合を振り絞り、再度踏み込んで乱撃を放った。
ガガガガガガガガッ!!
剣戟に押され、ジェイガンはバランスを崩す。
そして、一撃が届く。
ドカァッ!!!
「ぬっ・・・・・・なんと!!」
老将軍の手元から手槍がはじかれる。
「それまでっ!!!」
はあ、はあ、はあ・・・・・・
息を整えながら、これは、勝ったとは言えないとルオは感じていた。
悔しさが顔に出る。
「ふふ、若いのう。隠そうともせんな。
手槍を持つ者を相手に、じりじりと近づくのは愚。一気に間合いを詰めた判断は正しい。が・・・・・・
お主、何故いきなり仕掛けた?」
「? それは・・・・・・
傭兵の戦い方は、先手必勝です。手数が物を言うし、1対1ならなおさら・・・・・・」
「うむ。しかし、手数を気にするからこそ、初撃を譲り、その隙をつくというのも技、戦略よ」
あ・・・・・・
こういうのを目からウロコというのか。
確かに、連撃が入れられたのは、手槍の攻撃の後だ。
こちらの攻撃を攻、敵を反とする。
素早さはこちらがあるのだから、連撃は可能。そのリズムは先の先なら攻反攻、後の先なら反攻攻。
こちらから攻撃すれば、次は向こうからの先手。
そうするとリズムは攻反攻反攻攻。
向こうに譲れば、次はこちらの先手。
リズムは反攻攻攻反攻・・・
(僕の技なら、3撃で手槍を弾けた。つまり、先手を取ろうとしたことで、逆に敵の攻撃を一回多くくらっている)
これは、学ぶ事は多そうだ。ルオはそれだけに、不合格だろうことが残念だった。
「心配するでない。二試合目は負ければ不合格とは言っておらん。諦めぬ気概を見せたものは合格としておるよ」
え。
(それじゃ・・・・・・)
「傭兵ルオ。ならびにカタリナ。見習い試験は合格である!!」
「やった。やりましたルオ!!!」
カタリナが抱きついてくる。
他の見習い候補生達も、勝てた者はあまりいないようだ。
それでも、立ち向かおうとした者は合格であった。
「・・・良かった・・・・・・」
ルオはその場でへたりこみそうになった。
が、そこへジェイガンの激が飛ぶ。
「せいれぇぇぇええええつ!!!!
マルス様の御前であるッ!!!!」
合格した者は前に出て整列。
「わあ、ほ、本物のマルス様です!!」
年の頃はルオと同じはずだ。
英雄と聞いて想像する、頑強な男とは言えない。
しかし、その立ち居振る舞いには真摯な人柄、すべての候補生と目を合わせたらしいその視線からは、温かさが仄見える。
マルス直々の、見習いたちへの激励が送られた。
「平和とは、当たり前にそこにある物ではない。
それを享受していいのは民だ。
平和とは、僕のような国を治める君主が何としても保つもので、騎士とは、文字通り君主に命を懸ける者。
僕はそれを成し遂げると約束しよう。
その光の道を歩む助けとなって欲しい」
(・・・・・・へえ)
綺麗事を並べるのはどこの王族とてなかなかのものだろうが、自分を追い詰めかねない綺麗事をまっすぐに言い放てるというのは稀だ。
(元の世界へ、という目的を抜きにしても、この人のためになら、戦いがいがあるかもね)
そんな事を思いながら、案内された宿舎へ歩き出す。
ルオの運命は、若き従騎士達との出会いでどう変わっていくのか。
「なおん」
カタリナの頭の上で、チビが一鳴きした。
その1 出会い 終