FE 新・紋章の謎異聞 漂流傭兵 ルオ・ルスペード 作:おかのん
チェイニーの話は佳境にあった。
「チキはその時に一緒に眠りにつかされた、神竜王の娘だ。そしてガトーは、神竜王の一番信頼したまとめ役だったのさ。
そして、俺も、その時働いてた・・・
まあ、雑用係みたいなもんだったんだけどな。
俺とガトーは、戦いの後、竜石を捨てた。だからもう竜には戻れない。
寿命だけは長いけどな・・・
ガトーはナーガのいいつけを守って、人を見守っている。
けど、あいつだって、そこまで人間が好きなわけじゃない。
その戦いの時だって、哀れに思った、もしくは、竜にどのみち先がないことが分かっていたからだったんだろうな。
オレは、ナーガやガトーは好きだ。
でも、ナーガが人間のことを押し付けたのは気に入らないし、それをちゃんとこなそうとするガトーの気持ちがわからない。
俺は、人間のこと・・・好きになれないんだ。
竜は、ずっと人を大切にしてきた。導いてきたんだ。
なのに、種として老いて、力を失ってマムクートとなったら、人は俺達をだんだん蔑むようになり、五百年もしないうちに虫けらのように扱い始めた。
だから俺は、メディウス達が人間を憎む気持ちもわかるんだ。
地竜達は、とても強い力を持つ竜達だった。だから余計に、マムクートになりたがらなかった。
せっかく持っている力が大きければ大きいほど、もったいないのは当然だ。
そんな中でメディウスは、部族に逆らってただ一人マムクートになった。あいつは本当は、竜族の中で誰よりも優しい奴だったんだ。
もうナーガもいない、種としてゆっくりと滅んでいくだけ。
ならば安らかに眠っていきたい。そのためには力を封じ、歩み寄り、次なる世代の大陸の守り手に看取ってもらいたいと思っていた。
伝えられるだけの知恵を伝え、何も思い残すことなく・・・
そのためにあいつは、長い長い墓守を引き受けたんだ。
なのに。
人は自分たちの方が力をつけたと知ると、マムクートを邪魔者扱いし始めた。
今の自分たちがあるのは竜族の庇護と授けた知恵のおかげなのに、ただ静かに過ごしているだけのマムクートを迫害した。
だからメディウスは、激怒した。
信じて、愛してさえいたからこそ、許せなかった。
そもそも、封印の台座は失われていた。ある事件によって。
だからメディウスも、遠慮なんかしなかった。
ドルーアにマムクートを集め、竜神族の国を作って、人間征服の戦いを始めた。
ガトーは人間を助けようと、ファルシオンをアンリに与え、人間は勝利した。
けど、竜はたとえ殺されても、百年も眠れば蘇る。
メディウスが暗黒戦争を再び起こしたのもそれだ。
封印の台座が氷竜神殿か竜の祭壇に納められていない限り、竜の力は自在に使えるんだ。その力で、倒しても倒しても100年後には復活する」
「・・・暗黒竜などと呼ばれるメディウスが・・・
竜族で一番人を愛した、優しい竜だったなんて・・・」
マルスは愕然とする。
ならば結局悪いのは人間ではないか。
受けた恩を忘れ、先人に敬意を払わず、迫害までし・・・
『貴様ラノソノ醜サガアル限リ、貴様ラニ安寧ナドナイッ!!!!!!』
「あ、ああ・・・・・・」
暗黒戦争の終結の折。
メディウスの捨て台詞が思い出される。
あの時には、聞く耳を持たなかった。
人は、醜くなどない。この戦いを終えて、平和で、皆が幸せになる世界を創るのだと本気で思っていた。
なんて愚かな。物知らずな。
彼は、人を滅ぼしても当然なほど、怒るだけの理由があった。
勿論唯々諾々で受け入れられはしない、けど。
彼にも理はあった。
怒って当然だ。
それを、自分はどうした?
仇と罵って、ただ殺した。
「あ、ああああっ・・・!!!!」
その後の世界はどうだ。
ハーディンの元、強引な政策と帝国の恐怖支配。
自分は反逆者扱いで国を失い、世界には怨嗟の声が響いている。
メディウスの言葉通りではないか。
あまりにも気落ちしたマルスを見て、チェイニーはフォローをし始める。
「・・・・・・ただ、人間は寿命が短い。
限られた時間の中で生きるお前達が、実際に見たこともない竜を恐れられない、受けたことのない恩に報いる暇などないと思うのも、人の中で生きてるとわかる気もするんだ。
だから俺は、嫌いきることも出来なかった。
今こうやって、ガトーのお使いなんかしてるのも、それが理由かな。
特にマルス、お前は危なっかしいよ。
心配すんな。俺は、お前は・・・
お前たちは、多分好きだ。好きでいられる。
メディウスも、こんなふうに出会ったのでなかったら、人を憎み切ったあとでなければ、分かり合えたと思う。
俺は客観的に見る癖がついていたから、今の人間を昔と同じように恨むのは無意味だって知っているしな。
大事なのは、ひとりひとりと向き合っていくことだ。互いに認め合うってことを、忘れないことだ。
竜人族がそれを怠っていたのも要因の一つだ。人間だけのせいじゃない。
力を封じる選択をしたのが全員じゃなかった時点で、竜にだって勝手なやつも、話が通じないやつも、醜い奴もいたのさ。
竜が人を大切にしていた、導いていたといったけど、龍族全員そうだった証拠もない」
少しだけマルスは顔を上げて、力なく笑う。
「・・・・・・ありがとう」
「さあ、気持ちを切り替えろ。あそこに見えるのが氷竜神殿だ。
氷竜どもがうじゃうじゃいるぜ」
「・・・わかった。
みんな、行くぞ!!」
「「「御意!!」」」
相変わらずの速さで迫り来る飛竜、川をものともしない氷竜。
それらを相手にするだけでも大変なのに、この寒さは堪える。
しかし、ミネルバやナバールが竜に特効のある武器を振り回すことで、なんとか先に進んでいった。
その道中、ベックにあう。
「ベック!? なんで君こんなところに・・・」
「いやあ、あてのない旅を続けていたら迷ってしまって。
シューターも動かなくなってしまいましてね。
シューターは特殊な油を常にさしていないと、移動させられなくなってしまうんですが、あの戦争以来、その油の取れる木の実が全滅してしまったらしくて・・・
今はこの愛馬ポニーが相棒です」
相変わらず主義主張はないようなので、誘ってみると、二つ返事で同行してきた。まさに渡りに船である。
「さて、神殿が目前だね」
「氷竜が三体、闇司祭も・・・
しかも誘いに乗ってこないわね」
さてどうするか。
「誘いに乗ってこないなら総力戦しかないよ」
「・・・まあ、それもそうなんだけどね」
「あたしはいつでも行けるわよ」
遅ればせとはいえ、セシルもパラディンに昇格して張り切っている。
門の前を動かぬ氷竜たちは強敵であったが、魔法にはそこまで強くもないし、遠くから攻撃されれば反撃も出来ないらしい。
ライアンやリンダの手も借りて、こちらが被害を受けないようにしながら、特攻武器で止めを刺す。
竜はバタバタと倒れ、神殿への道を確保した。
「ところでチェイニー、オーブというのはそんなに大切なものなのか?
ガトー様を疑うわけでは勿論ないけど、今ひとつ実感がわかないんだ」
「ああ・・・・・・
オーブはな、元々『封印の台座に収められていた五つの宝玉』なんだよ。
台座はただの飾りだ。
ここまで言えばわかるだろ?」
「・・・!
眠りについた竜らを封印していたのは、オーブそのものだっていうことか!?」
「そのとおり。
つまり、600年も前から、この大陸は滅びの危機に瀕していたのさ。
伝説にも残らないような太古の昔に救われて、封印までしてもらっていたのに、な。
くだらない、本当にくだらない話さ。
それでも聞きたいか?」
マルスは当然に、ルオもなんとなく重ねた。
600年前とはどういう事が起こった時か。
アカネイア王国は、建国されてそろそろ600年になる。
どういう結び付きか知らないが、無関係とは思えなかった。
その先が聞きたいような、聞きたくないような気持ちでいるとき、報告があった。
「部隊の後方に人影を見た者がいる・・・?」
挟撃を受けても面白くないし、味方なら合流せねばならない。
「マルス様、俺がいってきます」
「いや、僕も一緒に行こう。
暗黒戦争の時の、あまり知られていない仲間とかだと、誤解を生むかもしれないしね」
氷竜神殿を目前にして、アリティア軍は少しだけ引き返す事となった。
第13章 氷の大地 終