FE 新・紋章の謎異聞 漂流傭兵 ルオ・ルスペード   作:おかのん

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第16章外伝 再会

「・・・アリティアが奪い返されたそうね」

「・・・・・・はい」

「ガーネフ様はたいそうお怒りよ」

「・・・アリティア軍は強すぎます。ローローも、クライネも死んでしまった・・・

大切な家族だったのに。もう、戻らない」

「クズがクズに心を痛めている場合?

お前はこの期に及んで何もしないつもり?」

「・・・・・・私が得意とするのは潜入と暗殺です。

手勢を引き連れたところで犬死にがオチです」

「うるさい。お前は私の言うとおりにマルスを殺せばいいのよ。

出来る出来ないの話などしていないわ。やれ、と言っているの」

「・・・・・・無理、です」

「やれ」

「・・・・・・・・・・・」

 

それは、死ね、という言葉と変わらなかった。

そして、カタリナは逆らえなかった。

 

 

その、苛立ち紛れに何度も叩きつけられた手が、遠い昔、自分が絶望しかけた時に・・・

優しく抱きとめてくれたことを、まだ覚えているから。

 

 

「・・・はい」

 

 

 

  ・

 

 

アリティア奪還から4日後。

 

アイシャが攫われた。

 

・・・部屋に残されていた手紙には、マルス王子が迎えにこれば帰してやるとあった。

 

岩山に囲まれたその場所で・・・

 

ルオとカタリナは、再びまみえる。

 

 

 ・

 

 

手紙には、マルス王子が迎えにこれば返してやるとあった。同行者については制限されていない。

 

ライアン・マリーシア・フィーナ・シリウス・ルーク・・・

そして当然のように、ルオはついてきた。

 

切り立った崖の狭間のような場所で、カタリナは待っていた。

 

 

「・・・お久しぶりです、皆さん」

 

マルスは、油断はしていない。

しかし、彼女を敵とは思っていない。

 

「・・・カタリナ、話し合おう。

僕も出来る限りのことをしよう。だから・・・」

 

「・・・別に、その必要はありません。

私は、嘘をついたことはありませんよ。彼女も、ここに皆さんを呼び出す理由になってもらっただけです」

 

すっ・・・と手を上げると、捕まったアイシャが出てくる。

 

「アイシャ!!」

「大丈夫、面倒かけてごめん。

ルオ、彼女は・・・」

「黙ってください」

 

カタリナが遮る。

 

なんの脅迫も条件もなく、アイシャは解放された。

 

「ととっ・・・」

「アイシャ、本当に・・・」

「大丈夫だってば。あの子は・・・

カタリナは、死にに来ただけだもの」

「え・・・・?」

 

カタリナの顔に浮かぶのは、希望を失った者の浮かべる自嘲気味の微笑みだけだった。

 

「・・・・・・私はもう、終わりです。

あなた達を殺さずに帰れば、役たたずのゴミクズとして、エレミヤ様に始末されるでしょう。

けれど、あなた達はこの英雄戦争の中で積んだ経験のおかげで、私がマルス様の暗殺を企てた時などとは比べ物にならない力を手に入れている。

私たちの勝利は万が一にもないでしょう。逃げ帰っても殺されるだけでしょう。なら・・・

私は、惨めに・・・ 暗殺者らしく死にます。

大罪者として、あなたたちに殺されて終わろうと思います。

それが、せめてもの償い・・・」

 

黙れと言われたアイシャがくってかかる。

 

「クライネが、それを望むと思うの!?

逆に貴方が看取られたなら、クライネのその後に何を望むの!?

考えなさいよ。

少しは考えてみなさいよっ!!」

「アイシャ? ・・・カタリナは何を言ってるんだ?」

「彼女は・・・人形にされてきただけなのよ!!」

 

そこで、鬨の声が聞こえる。

カタリナの率いる暗殺隊が、その刃を振るった。

 

 

 ・

 

 

半日前。

 

アイシャは大ポカをやらかした。

 

まさか自分が人質とされるとは思ってもいなかった。

 

ほかの重要人物にはそれとなく護衛を配置していたものの、そのプロデュースや総括に力を注ぐあまり、自分自身の警戒がおろそかだった。

気がつけば、アイシャは洞窟を使った仮のアジトで寝っ転がされていた。

 

(ルオに合わせる顔がないわ・・・)

 

「気がついているんでしょう?

起きたらどうですか」

 

カタリナである。さすがに蛇の道は蛇。芝居が通用しない。

奇襲、暗殺専門のクライネ、物量、奇兵のローローであるなら、アイネ・・・カタリナの得意なのは諜報、潜入、かく乱である。

 

「・・・あたしを、どうするつもり?」

「誘い出す口実になってもらうだけです」

「嘘。人質にして、一網打尽にするつもりなんでしょ」

「あなたにそこまでの価値があるとは思っていません。ダメ元の強襲か、スキを作る位の対応でしょう。心配しなくても、無傷で返すつもりです。

どうせ負けるのなら、犠牲なんかないほうがいいんです。

元々、騎士団への潜入が終わった時点で私の役目はもうないんです。なら・・・

私だけ死んでもいいんです。

 

でも、それじゃあ部下の人たちがあまりにも可哀想だから。

せめて、殺せと命じられた標的の顔くらいは見ておかないと死にきれないじゃないですか」

「・・・・・・

 

本気で言ってる?」

「私は一度も嘘を言ったことがないのです。

ちょっとした自慢なんですよ」

 

カタリナの目は、本気だった。

 

「あなた・・・ おかしいわ。

貴方には才もある。仲間もいた。

大切なものが失われるのをただ見ていたの?」

「私には、そうするしかないんです。

ゴミクズの人形は、命令を聞くだけでいいんです」

 

その一言に、アイシャは憤った。

 

「そんなわけ無いでしょう!?」

「だって、今までそうだったんです」

「でも、違う!!!」

「・・・・・・?

何がそんなに腹立たしいのですか?」

 

アイシャは、この子の・・・

カタリナの歪さの理由が少しだけわかった。

 

遠い遠い昔に、自分も覚えがある。

『自分は何のために生まれてきたのか』を、考えるときのような気持ちの沈み。

 

彼女のように、孤児として生きてきたものには、なおさらどうしてもついて回ることだ。

 

それでも、身を寄せ合う仲間や、きちんと心配をしてくれる誰かがいればなんとかなる。

だが、彼女はそれがない。

 

(自分で自分をゴミクズの人形だと本気で思ってる。そんなのは嫌だって思ってるのに、仲間のことはそんな風に思ってないのに、そこに考えが至らないんだ)

 

これは、周りのせいだ。

そういう、大切にされた経験がないからこそ、自分を大切に出来ないのだ。

 

けれど。

それでも、それを受け入れるだけでは、よくなってはいかない。

 

認められた事、感謝された事、

愛された、事。

皆無ではないはずだ。現にルオは心配してたし、助けようともしていた。

 

鈍感に過ぎる。

 

 

彼女が不幸なのは彼女のせいではないのは確かかもしれない。けれど、彼女が強く望んで、一歩踏み出せれば違っていたことは、変わったことは・・・

そんなチャンスはいっぱいあったはずだ。

 

「・・・カタリナ」

「何ですか?」

「賭けを、しましょう」

 

  ・

 

 

乱戦の中。

ルオは、カタリナに声をかけ続けた。

 

 

「カタリナ、君は、『嘘を言ったことは一度もない』と言ったよね。

なら、僕らは争う意味がない」

「そのことと争うことは矛盾しません。

私のその思いが嘘でなくても、私はエレミヤ様の命令を聞くだけだからです」

「・・・何のためにさ。

君の上司らしいけど、その人は君らを使い潰すことしかしていない。

君らを活かしきれてないだけならともかく、慈悲さえない」

「・・・私は、ノルダの奴隷市場で、本当にゴミクズだったんです。それを変えてくれたのはエレミヤ様です」

「でも、今君が受けているのは、紛れもなくそのゴミクズ扱いだ。恩義を感じることはないじゃないか」

「でも、エレミヤ様に命令をもらうしか、意味がないんです。

私に意味が生まれるのはその時だけなんです・・・

 

さあ、闘ってください。

そして意味をなくした人形を壊してください。

壊れてしまいさえすれば、意味を考えなくていい。

嘆かなくても、いい・・・」

 

「バッカ野郎ッ!!!!」

 

いい加減、ルオも切れた。

 

「どうしてそこで受け入れちゃうんだよ。そんなことばっかりを!!

あの時の言葉に、一緒にいた時の思いに嘘がないなら・・・

僕達は既に、仲間だったじゃないか!!」

「違います・・・ 私は・・・」

「『ただの人形』だっていうのか!?

ぼ・・・俺と一緒に、マルス様を守って、たくさんの人たちの役に立つのを想像すると、幸せな気持ちになれるって言ったのも、嘘じゃないんだろ!?

そんな人形は、存在しない!!

共にいることを、だれかの喜びになれることを、幸せと感じる人形なんかないっ!!」

「私は・・・」

「君は人形なんかじゃない。人形でなんかいちゃいけない!!

いつまで、そんな命令を聞いてるんだ!?

俺はマルス様の命令を聞く。けどそれは、それが正しいことだと俺も思えるから聞いている!

マルス様が村を焼き払えとか、商隊を襲えとか言い出したら、引っぱたいてでも止める!!

 

命令を聞き続けて、どうなった!?

君と一緒にいた仲間は、僕らと争った挙句、命を落とした。失敗したら始末されるって、君が言ってるってことは、今までの仲間もだろう!

使い潰されて、意味のない死に方をしたかったのか。それで本当に満足か。

 

君は本当は、誰にも死んで欲しくなんかなかったんじゃないのか!!

俺は、彼らと戦った。だけど、殺したくなんかなかった!!」

 

「・・・・・・っ」

 

「もう嫌だ。絶対に嫌だ!

僕はもう諦めない。君だけでも!!

 

あの日々が、嘘じゃないなら・・・」

 

「嘘、です」

 

 

それは、前提を覆す言葉。

 

 

「潜入、諜報です、よ? ・・・嘘に、決まってるじゃ・・・ないですか。

どうして、信じたりする、んですか?

 

 

そんなだから。

マルス様を、窮地に、陥れたり、するんです、よ?」

 

それについては言葉もない。

けれど。

 

 

「・・・なら。

どうして君は今、泣いてるのさ?」

 

 

彼女は、嘘をついた。

『嘘だった』という嘘。

 

「カタリナ。・・・賭けは私の勝ちよ。降伏して」

 

「賭け?」

 

「・・・・・・っ」

 

くずおれたカタリナに変わって、アイシャは明かす。

 

「彼女と賭けをしたの。『カタリナが嘘をつく』上で、『ルオを諦めさせる』ことが出来なかったら、何もかもいうことを聞いて、降伏して、って」

 

亀のように縮こまったカタリナは、首を見せるようにうなだれる。

 

「私の、負けです。

どうとでもしてください。

償わせてくれるのなら、首を落としてください・・・」

 

そこに、マルスが来る。

 

「それだけは許さない。

償うのは当たり前だ。そして、君の死に意味はない。そんなものでは償えない。それはただ、逃げたがっているだけだ」

「マルス様・・・」

「人とは、親のために生まれてくる。そして自分のために子を作る。それからの人生を、子供に捧げる。

その事が幸福であると感じられるのが、人が『人である』ということだ。

君の親がそれを叶えられなかったこと。

周りの人間もそれの代わりたりえなかったこと。

それは不幸だったと言えるよ。

でも・・・

 

君は学んだろう?

何の疑問も持たずに、それこそただ人形のように受け入れていれば、君の想いは無視される。

聞き入れてもらえないならば、逆らう事も必要なんだ。離れるという選択もあるんだ。

 

君は、確かにそのエレミヤという人に助けてもらったんだろう。恩もあれば、諦めたくもないんだろう。

でもそれなら尚更、受け入れているだけではダメだ。

 

君にはもう別の仲間がいる。

共に送る幸せな未来を思い描けた仲間が。

支えてみせる。だから・・・

 

一緒に、生きよう。

 

償いも、そこから始めるんだ」

 

「でも・・・ どうすればいいのですか?

何をもってなら、許されますか・・・」

 

「そんなこと、自分で考えなさい!!!」

 

アイシャの、一喝だった。

 

「それ、俺のセリフ・・・」

 

ルオは無視された。

 

「今までしてきたことを振り返って、自分で結論をつけて、そして、自分がどう生きていくのか決めなさい!!

あなた自身のことでしょう。あなたが決めるの。決めていいの!!

貴方が奪ったものも、目を逸らしたものも、失ったものも全部飲み込んで!!

もうそれを紡ぐことの出来ない、ローローやクライネや、仲間や殺した人たちの、せめてものの意味にあなた自身がなるのっ!!!

そうでなきゃ、みんな、みんな・・・

 

悲しすぎるじゃないのっ!!!」

 

 

生きる意味を持つ者などいない。

それは、見つけるものだからだ。

そして、死ぬまでを生き続けることのできなかった者の無念は、それを知っている者がいる時に少しだけ和らぐだろう。

ローローの墓を一つ一つ作った、クライネのように。

クライネを看取ったカタリナにも、きっとその資格があるのだ。

 

エレミヤを裏切ることが出来なかった。

 

失敗する度に頬を打つその手が、一度は優しく抱きとめてくれたことを覚えている。

自分をゴミだグズだと罵るその口が、自分たちを宝物だと言ってくれたことを忘れていない。

 

なにより、他の生き方を思いつけなかった。

エレミヤにすがることしか、自分の中になかったから。

 

でも。

 

 

アイシャは、カタリナを抱いて泣いた。

悲しすぎる、人の成れの果ての人形に、魂を込めるための儀式であるかのようだった。

狂うように声を殺すアイシャの震えと嗚咽は。

 

 

 

カタリナが、アイシャを抱きしめ返すきっかけになったのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

罪と後悔と、失ったものと等価値であるとは思えなくても。

 

 

意味が生まれたと思いたい。

 

 

 

第16章外伝 再会 終

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