FE 新・紋章の謎異聞 漂流傭兵 ルオ・ルスペード 作:おかのん
「・・・行こう、みんな」
マルスにこの別働隊を任され、そう言って竜の祭壇に突入しようとしたルオ。
{ミシェイル王子と、ミネルバ王女を会わせてあげたいんだ}
マルスのこの願いをかなえるために、部隊を預かり、進撃する事となった。
そして・・・
「ルオよ、よくここまでたどり着いたな」
「あなたは・・・ ガトー様!! ・・・と・・・」
竜の祭壇への入口には、ガトーと・・・
謎の女性が待っていた。
ガトーはルオの戸惑いに気づく。
「うむ、この方はナギ殿といわれてな。ながらく眠りにつかれていた、竜王様である。
今回の事に心を痛めておられ、我らに手を貸してくれる事となった」
「りゅ、竜王様!?」
氷竜神殿で聞いた事が事実なら、竜王とは神王ナーガに相違ない。
雅やかなオーラと、気だるげな雰囲気。何よりそれでもにじみ出ている、何に向けられているのかも読み取れない、自愛のようなカリスマ。
心を許さぬ事が罪深くさえ感じるような、愛しさを抱いた心ごと撫でてもらっているような高揚。
「おまえが、マルス?」
「ち、違いますよ! 俺は一介の親衛隊長です!」
顔を真っ赤にして、固まりそうになりながら否定するルオ。
それを聞いているのかいないのか、ナギはルオの頬を両手で包み、
「お前は、数奇なる運命の子。異端にして救世主。
役目を閉じる前に、望むがいい。許されよう」
「え、ええ?」
するりと手を離すと、険しい顔をしたアイシャを尻目にガトーの横の壁にもたれる。
言われた事の意味は分からなかったが、戦力になってくれるらしい。
竜の王であるというからには、チキと同じように竜に変身するとみていいだろうか。
その時。
ルガォォオオオオオオオ・・・・・・
地響きのような、それでも生き物の声と分かる音が広がる。
「な、なんだぁ?」
「じ、地獄の底から響いてくるような声ね・・・」
ガトーが答える。
「あれが地竜の唸りだ。竜の祭壇を守るだけあって、竜がうぞうぞとおる。
火竜や魔竜ともまみえねばならぬ。
両隣の別の祭壇に竜殺しの武器が祭ってあるようじゃ、それらを持ち出すのもよいが、あれらはまさに諸刃の剣であろうな。
封印でもあるあの武器を手にすれば、そこに眠る竜を呼び起こす事となろう」
ルオはそれを聞いて、その事も含めての考えを巡らせた。
「ここまで来て装備を惜しむ意味はない。みんな、それぞれで整えてくれ」
ガーネフの潜む魔殿だ。しかもメディウスの実体の封印されている場所。
マルスから装備一式は借り受けている。憂いはなかった。
「一気に突っ込む!!」
「・・・待て」
呼びとめたのはナギであった。
「竜達の目覚めを感じる。あまり入り込むと挟撃される。
ここで構えを解かぬ方がよい」
「ええと・・・ は、はい。
警戒を解かないでおこう。しばし待機」
あまり助言を聞き入れすぎるのも、頼りない印象を与える為よくない。が、ルオのよい所はむしろ『人の助言に耳を傾けられるところ』だ。それは皆分かっている。
・・・しばらく待ってみるが、特に動きのないまま四半刻が過ぎる。
「・・・こねえな」
「勘違いとかだったんじゃ・・・」
「「竜だーっ!!」」
左右の祭壇が突如破砕し、魔竜と火竜がまろび出てくる。
「落ち着きなさい!!
魔竜は魔法が全く効かないわ。ライアン、ルーク!!」
「アイシャ、それ僕のセリフ・・・」
「ルオも行きなさい!!」
「はいっ!!!」
(((尻に敷かれてる・・・)))
構えが出来ていれば、そこはアリティア軍だ。竜とて遅れを取る事はない。楽にとはいかないが、危なげもなく片づけてゆく。
対竜用の装備もそろえていたし、皆獅子奮迅であった。
ナバールの剣閃も、シリウスやカチュアの刺突も冴えわたる。
少し戦局が落ち着いてきた時、またナギが話しかけてきた。
「ルオ」
「はい? なんですナギさん」
「わらわの力なくしても、この場はしのげよう。しかし・・・
お前は気になる事がある様子だ。何を気にしている?」
見抜かれていた。
この別働隊を任されているだけに、その原因となった出来事は気にせざるを得ない。
「・・・その、ミシェイル王子の事を」
「竜に跨るあのわっぱか」
「童(わっぱ)て。
・・・昔はマルス王子の敵だったけど、ミネルバさんやマリア姫にとってはたった一人のお兄さんです。僕はこの先、元の家族に会えるかどうかわからない。けど、あの三人は今が分かれ目です。彼が生きているかどうかで、この先どうなるかが随分変わる。
俺には何も出来ないけど、気になってしまうんです。助かってほしいと、そう思うから」
「なればしてやれることが一つある。この先にオームの杖の波動がある」
「おーむ?」
「命を失った者を再び呼び戻す究極魔法。瀕死の者の治療に転じる事が出来るはず。それを手に入れよ」
「そ、そんなものがっ?!」
それがあれば、ひと組の家族・・・いや、王族である事を鑑みれば、大陸の歴史に与える影響さえ計り知れない。
「ただしそれは、一度使えば砕け、砂と灰になってしまう。その先仲間が死した時に、取り返しがつかぬ事となる」
「・・・・・・!」
ルオは、迷った。
最終的には皆に意見を聞く事にした。
「もし、それを手に入れる事が出来たとしたら・・・ どうするべきだと思う?」
「・・・マリアちゃんの事もある、いいんじゃないか?」
「でも、これから万一の事があったらどうする?
少なくとも私は、ルークやセシルがこの先何かあったら、その選択を後悔するだろう」
「助けてあげたい気持ちは、当然あります。僕も」
『ミシェイル王子を助けよう』との意見は多かったが・・・
「何を迷ってるの、ルオ? あなたらしくない」
「俺はずっとこうだよ。エゴイストな自覚くらいはあるさ。
ミネルバさんにとって大事な人だって分かってたって、この先の戦いで、誰か一人でも失うことになったら、使ってしまった事を後悔する・・・ 絶対に」
「・・・・・・
とりあえず、手に入れてからでいいわ」
確かにそうであった。
この件は保留された。
そして祭壇の周りにひしめく竜や闇の部族たちを追い払い、登り口手前を守るダークマージを倒し・・・
巨大な祭壇を見上げた。
竜が上るために積まれた石段は本当に巨大で、軍が展開できるだけの広さがあった。
山一つというほどのそれは、そのままこれから戦う敵の大きさを感じさせた。
(・・・そうだ)
ルオは、ふと先ほど言われた事を思い出した。
『お前は、数奇なる運命の子。異端にして救世主。
役目を閉じる前に、望むがいい。許されよう』
ナギはもしかして、ルオがなぜここに、この世界に来たのかを別の見方で知っているのでは?
「ナギさん。運命の子って、なんですか?
役目って、何なんですか・・・?」
ナギは、少しだけ憂う表情になってから続けた。
「竜の力とは神の力。世界の意志をねじ曲げるほどの物。それは意思ある生き物が持つべきものではなく、竜はそれゆえに、黎明の世が終わるこの時に消えゆくさだめ。
しかし神の力持つ者が滅び逝く中、その終わり方は苛烈。
力を失い、迫害を受け、世を呪い死に逝く。 怒りは当然。
神の一族と崇められ、たたえられ、愛され看取られ逝くならば、この事は起きなかった。
メディウスは竜達の最後の希望。
我ら神竜はそれさえも受け入れ、全てを人に託した。しかし地竜はもっとも人を愛した竜達。ゆえに人の竜への、竜人族への扱いをゆるせなかった。
この戦いは神の力いまだ宿すものが、全てをかけて行う戦い。
それゆえに世界の意志とかけ離れ、時に歪みさえ生み、その中で世界の意志が呼んだ異端の一つ。それが主(ぬし)」
「????」
「・・・要するに、竜の力ってのはものすごく強くって、それで世界が歪むくらいで、ルオはそのどさくさに神さまが引き込んだ『物は試し』だったって事ですか?」
「まさに」
「なんだよそれ!?」
どうやら、神王ナーガと呼ばれ、崇められる彼女も、神そのものではないらしい。
神の力を借りられる、上級天使のようなものだろうか。
ルオにとっては理不尽極まりない。
『試しに』などという理由なら尚更だ。
「我に声を荒げてもせん無き事」
「そうだけど!!」
「落ち着きなさいって。・・・実はね、なんとなく予想はしてたのよ。ルオは会わなかったのかもしれないけど、ルオの世界やそのほかの世界からも、いろんな人が来てたの。
まあ、せいぜい両手のひらで数えれるくらいだと思うんだけど。
私も実際にあったのは二人だけ。ルオと、・・・ネクス」
「ネクスさんっ!?」
アイシャを『お嬢』と呼ぶ、ギルドの腕きき。
彼も、異世界から来たというのか。
「あいつは、ルオほど元の世界に執着はなかった。だから、元の世界への戻り方なんて探してない。
でも、お酒飲むと話すんだ。『変な夢を見ている』みたいな話にしてるけど、見たた事のないような道具、聞いたこともない国、時々作ってくれる、不思議な作り方の料理。
調べるうちに、他にも異世界人が来てたらしい痕跡があった。
闇市に混ざってた見たこともない、でもどう使うかわからない何かの噂。
見慣れない服でうろついていて、盗賊に殺された旅人。
少しでも頭の回る人は、『自分が異世界人だ』とは言わないわ。自分がそれを聞いたら、その人をどう思うかなんて想像できる。
ルオはその中でたまたま、一番この事件のそばに近づけただけなのよ」
アイシャも確信はなかったのだろう。ネクス自身がかくしたがっていたのなら尚更。
「じゃあ、その・・・ 元の世界に戻りたい僕は、どうしたらいいんですか?」
「竜の力がこの世から消えてしまえば、それを抑えるために働いていた神の力が消える。
同時にそれによって起こっていたひずみが元に戻ろうとして膨大な力が生まれ、お前はそれに巻き込まれる。
そのネクスとやらや、他に巻き込まれた物たちも、何らかの形で。
それを操れば、元の世界の戻るという事も可能性が出てくる。
主が願うのなら、我がその役を果たそう」
それはさらなる衝撃だった。
帰れる。
元の。
僕の世界に・・・
しかし、それ以上に・・・
(もしかして・・・)
あまりに大きな話な為に、むしろ駄目でもともとで、聞いてみたい事を思いついた。
「あのっ!! 他の人たち・・・ 僕の他の異世界人はどうなるんですか!?」
「巻き込まれてどうなるかは予測がつかぬ」
「その人たちもついでに、戻してあげたりとか出来ますか!?」
「次元のひずみの大きさによるが、メディウスほどの魔竜を封印して出来るひずみなら、十やそこらの子らなら何とかなろう」
「なら・・・ あ、でも」
ネクスのように、ここを離れたくない人間もいるかもしれない。
いや、ネクスも本心は戻りたいかもという事もある。
「・・・異世界人が誰なのか分かっていると良かったのに・・・」
「歪みの波動を追えば容易である」
「嘘っ!?」
どんどんと新しい事実と。
嘘のような話が現実になっていく。
このナギという竜王、最終決戦の助っ人というより、ルオにとってのデウス・エクス・マキナそのものである。
「じゃあ、その人たちに聞いてあげて下さい! 元の世界に戻りたいかどうかを・・・
戻りたいと言った人たちを、元の世界に帰してあげたいんです!!」
「よかろう。他にはあるか?」
・・・・・・
「・・・この世界の人を、僕の世界に連れて行ってしまうというのは、出来る事ですか?」
「それは、世界が・・・ 神がどう見るかによる。
連れ出されるその者が、お前との縁がいかに深いか、お前とともにいる事や、別の世界に行くことを望むか。
いかにそばにいたか。
どうすれば確実に連れ行けるというものはない。歪みを利用することゆえに、前例がない」
そう聞いて。
アイシャはルオの手を握った。
「アイ、シャ」
ルオは、俯く彼女の名を呼んだ後、優しく握り返した。
連れ出されるその者が、お前との縁がいかに深いか、お前とともにいる事や、別の世界に行くことを望むか。
いかに そばにいたか。
多分、アイシャはその瞬間が訪れるまでその手を放してくれないだろう。
「・・・敵わないなあ」
ぼそりとカタリナが言う。
聞こえないように、でも、届いてほしいという思いを満たして。
「ルオ。よかったら、私も連れて行って下さい」
そう、言うだけは言う。
きっと、無理だとは思うけれど、でも。
ルオはずっと忘れられなくなるだろうから。
その時。
後方から、気配がした。
「・・・ルオ、ご苦労だったね」
「マルス様!!」
後続の別動本体との合流だ。
そこには、マルスと、ミネルバと、そして・・・
大きな棺桶があった。
「ま、さか・・・」
「・・・ごめんなさい。マフーのせいで、回復魔法がうまく効いてくれなかった。
傷も深すぎて・・・」
リンダがそう告げた。
リンダの傍らで奥歯を噛み締めるミネルバの姿が、どうしようもなく痛々しかった。
第22章 竜の祭壇 終