FE 新・紋章の謎異聞 漂流傭兵 ルオ・ルスペード 作:おかのん
アカネイア大陸の人の歴史・・・ それは。
竜を神として崇め。
竜の怒りで滅びかけ。
竜の王によって救われ。
竜の英知と竜の遺産で命は受け継がれてきた。人が神に愛された証としてそこにあった。
現実がどうあろうと。栄華と滅びさえ過ちから生まれた破滅への序曲であったとしても。
そんなこの大陸の人間にとって・・・・・・
この光景は、『絶望』以外の何を映すのか。
そこには、数々の種の竜がひしめいていた。
炎を吐き、溶かすようにすべてを焼き尽くす火竜。
そこにいるだけで、全てを無音の檻に封じる氷竜。
瞬きの間に千里を超える翼で襲い来る飛竜。
人が唯一、人を超える力として、神と戦う槍としてきた魔法・・・ それを全く意に介さない魔竜。
大地の無限の命の力を具現化したその体躯で死することなく闇の吐息をまき散らす地竜。
それらの竜が無限に湧き出し、今もなお増え続け、目を覚ましたばかりの飢えを満たす何かを探している。
神が、己らを食おうと地の底から尽きることなく這い出てくる光景。
自らが家畜や狩の獲物をさばく時に抱く感情を知っていればわかる。
ただ「いつもの事」をする時のその思いのつまらなさと。
口にした時の快楽を想像しての高揚感。
ただそれだけのものであるという『絶対』。
それに、逆らう。
その力があるという不自然を、振いきる決意。
・
カラー・・・ ン
ガーネフの消滅した空間から、まろび出てきたのは一本の剣。
「これは・・・!!」
それこそ、メディウスを倒したとされる、竜神の牙を削って造られたと言われる、竜殺しの神剣、ファルシオンだった。
神より託された、ひと振りの希望。それは今、やはり希望と重ね合わせて語られる、勇者の末の手に戻った。
マルスは祭壇を登り始める。仲間たちとともに。
「群の英雄」と呼ばれ、いまや『英雄王』となったマルス。
神達の諍いは、人の手で決着がつこうとしていた。
自らおこした、過ちの償いとともに。
そして。
その運命に巻き込まれた者達のこれまでとこれからも、一人の少年の思いが答えを出そうとしていた。
「僕は、望んでも・・・いいんですよね」
「然り。運命の子よ。お前にはそれだけの権利がある。それだけの働きをしたと、神竜王が認めよう」
元の世界に戻れる。それはルオの悲願でもあった。
そして、そこにアイシャを連れてゆくことも可能だとのことだった。
「メディウスが無理に復活した事で、次元が歪んでいる。それを利用して招いたのが運命の子ら。歪みが戻る時には、歪めた以上の力が生み出されるであろう。その力の流れを導けば、運命の子らのすべてを、その者の思う形で導く事は出来るであろう」
「・・・その力、余りませんか?」
「? ・・・何か願いがあるか? 構わぬ。そうしてなお歪みの戻る時の力は残ろう。言うがいい」
「・・・一言で説明しにくいんですが・・・ ええと」
「ふむ」
少し首をかしげたナギは、ルオとおでこをくっつける。
「!?」
重なった二人の頭骨の間に、淡い光が浮かんだ。
「・・・成程。愛いの。お主」
「・・・ええと」
「お主の思いを読んだ。やってみよう。ただし、それでは・・・ 力の流れはほとんどが『それ』に行こう。やれて十数人。そして、『お主の分』は、残らぬぞ」
「・・・それでも、いいです。だって、そんな物を残したまま、気にせず普通に生きていくなんて僕には出来ない」
「くく。愛い愛い。娘、この男を離すでないぞ」
「? ・・・ええ。もとより」
少し赤くなっておでこをさするルオ。
「いてっ! あ、アイシャ?」
繋いだ手に力が入ったのは、やきもち半分、決意半分。
ルオの決意を、今は聞かない。怖い。
信じて、いるけど。
ナギは再び口を開く。
「神竜の加護を与えよう。ただし、出来て十数人というところであるがな」
つまり、この祭壇で竜と戦う事が出来るのは、加護を受けるたったの十数人だという事だ。
{『十数人』って・・・この事?}
言葉に出さないアイシャの問いに答える者はいない。
そして・・・・・・
「あれは・・・!!」
マルスがその目を向けた先には、メディウスの姿。そして、その四方を囲む四人のシスターの姿。
子を成すための生命力を持ち、魂の力を解放する方法を知らない、つまりは穢れのない娘達。同時に人の上に立つ立場であることを自覚し、幼きころから磨き続けてきた高貴な魂。
それは、暗黒竜が復活する時に全て奪われ、涸れ果てる。
「皆、目がうつろだ・・・ 多分、ガーネフに術をかけられたままなんだ」
その心にかけられたくびきは、やすやすと解けるものではないだろう。
カタリナのように、その魂に響く言葉でなければ、闇に沈んだその精神が浮き上がる事はあるまい。
アカネイアという、この大陸の主の・・・唯一の血筋となった女、ニーナ。
望む望まぬに関わらず、愛され、恨まれ、利用され、翻弄された王女。
誰もが王の血をその瞳に見て、誰一人その娘を顧みなかった。
真実に愛したろう二人の男は、一人は皇帝となってこの世を闇に沈めかけたのちに死に至り、もう一人は未だに生死さえつかめない。
辺境の聖女、レナ。
ミシェイルに寵愛を受ける筈であったマケドニア貴族よりの出生でありながら、野に下って、今救いを求める民達に寄り添おうとする慈母。
それ故に一人の女として誰かを愛するなどという事はしてはこなかった。
その彼女に、誰の言葉ならば届くと言うのか。
マケドニアの至宝、マリア。
ドル―アと連合を結び、この大陸を混乱に陥れた一端である国として、苦難を強いられたマケドニア。その中にあって、ミシェイルに代わるリーダーであらねばならなかったミネルバと並んで、皆が守りゆこうとする国の象徴であった、たった十才の幼子。
兄が父を殺し、姉と諍い殺しあう中で、一人牢獄で泣いた、しかしそれでも再び家族が手を取り合う日が来ると信じていた末の娘。
何よりも望む物は、この戦いの最中常に遠くあった。
彼女の声を聞き届ける神などいない。ならば・・・・・・
誰が叶えるべきなのか。
アリティアの巫女、エリス。
アリティア落城の際、マルスを逃がすために残った実姉。
彼女は穏やかでありながらも、一国の姫である事は忘れずにいた。
彼女の望む物は常に周りにあり、それ以上を彼女が望む事もまたなかった。
そう、女として愛するその相手さえも決まっていて、そしてそれはそうあるべきと義務感で愛した者ではない。エリス自身もそう望み、育んだ愛であった。
先の戦の最中、籠の鳥としての生活の中、何度その幼馴染のあどけない笑顔を思い出したろう。
心さえ囚われている今、その青年は実の弟よりも彼女の心を慰めていた。
「くっ・・・ 姉上達を盾にしているだと・・・!」
「彼女達の生命力を奪い尽くしてしまった時が、暗黒竜の完全復活でしょう。それまでに倒さねばならない。のに、それを邪魔するのが救わねばならない姫君達とは・・・!」
「どうすれば・・・どうすればいいんだ!!」
軍師であったジェイガンにも、皆目見当はつかない。
けれど、ガーネフとの戦いでカタリナは己を取り戻している。それは確かな手掛かりであった。
「マルス様」
「ルオ・・・」
「カタリナには、届きました。僕の声が」
「・・・・・・!!」
その言葉は、答えとなった。
カタリナと同じ方法が、使えるはずなのだ。
「彼女達に語るべき言葉を持つ者達がいます。ぼっ・・・俺の、言葉が、カタリナに届いたみたいに!
彼らの言葉も、ちゃんと、届く!!」
マルスが振り向くと、そこには彼女らに近しい者達が、決意を胸にした顔をしてそこにいた。
「うん。・・・うん! ありがとう、ルオ。みんな!!
彼女達を救い出す!!」
まずは、彼女達とメディウスを取り囲む竜達を倒さねばならない。
「「「露払いは、任せ」ろ」て」て下さい!!!!」
近衛隊の皆も、奮闘する。
ナギにかけられた秘法によって、その力を神の領域まで引き上げられたそれぞれは、一個大隊をしてようやく倒しうる竜を、単身で屠っていく。
「グラディウスの槍よ、邪竜の眉間を貫けっ!!」
「マスターソード必殺!! 閃っ!!!」
「勇者の弓の、鏃の雨!!」
倒れ伏し、かき分けられていく竜達。そして、シスターたちの前に、それぞれが立つ。
・
「レナさん、どうしちまったんだよ。正気に戻ってくれよ!!
・・・俺、なんにも持ってない、何にも出来ない男だけど。でも、あんたのためならどんな事でもするよ。やれるようになってみせるよ。俺を救ってくれたあんたの言葉、俺の生き方を変えてくれたあんたの笑顔。それをまた、まだ見ぬ誰かに聞かせて、見せてやるのが、あんたのしたい事なんだってようやく分かるようになったよ、俺。
だから、笑ってないあんたはさびしいよ。話してくれないのがつらいよ。あんたを見てると思うんだ。貴族って、『貴い』って、最初は絶対あんたみたいな人の事だったんだって。幸せそうにしているだけで世界を変える、女神様のことだって!!
だから、聞いてくれよ。沈みこまないでくれよ。見捨てないでくれよ!! 必ず俺も、守れるようになって見せるから!!」
レナが攫われた時、ジュリアンはそう遠くない所にいた。レナは、ジュリアンに助けを求めれば求められたはずだった。
しかし、レナは呼ばなかった。それはジュリアンにとって、寂しかった。そして、力を持たない惨めさを味わった。
だからこそ、ジュリアンは彼女の事、自分の事、自分と彼女の事、世界と自分と彼女の事をずっと考えていた。
彼の言葉が届かない道理はなかった。
「ジュリ・・・アン?」
「! ・・・レナさん!!」
「・・・不思議。 あなたと、初めて会った時の事、思い出してた。あなたの仲間につかまって、私はどうなるのか、何をされるかわからない時に、あなたは辛そうな顔をして、牢の外に座って・・・ 怖くて怖くてしょうがない時に、そばにいてくれたあなたに、いつも村の人に話しているように神さまの話をしていて、子供みたいに目をキラキラさせるあなたに、とても癒やされたわ。
あなたが私を『女神さま』だなんていう、一番最初のあの時、私は、一番人間だった気がする。久しぶりにただの女の子だった気がする。
・・・ねえ、ジュリアン。お願いがあるの」
「俺、何でもするよ。何でも言ってくれよ。レナさん」
「それ、やめて。『さん』なんて。あの戦いが終わって、一年もたつのに、あなたはいつまでも他人行儀のまま」
「! ・・・レナさん、それって・・・」
「ほら、また。こんなに私の事を分かってくれているのに、それでもあなたは自分で私を遠ざけてた。あなたが自分のそれまでを悔いているのも知ってる。自分を許していないから、誰かと比べている。でも、私は・・・
その事がさびしかった。
だから、お願い。レナって呼んで」
「それはつまり・・・その・・・」
「大丈夫よ。神さまは許して下さるわ。だって私は、こんなにあなたの事が好きなんだもの・・・」
その時レナの見せた笑顔は、今までの笑顔とは少し違った。
一人の女性として見せた、もう一つの『心から』の笑顔だった。
・
「マリア、マリア!! しっかりしなさい!! ・・・ごめんなさい。あなたには寂しい思い、辛い思いしかさせていない。
やっと平和な世が訪れるはずだったというのに、私は臣も民もうまく導く事は出来なかった。その内乱の中、あなたさえも守れなかった・・・
私の望むものも、あなたの望むものも、ただお互いの幸福だけだったのに。
狂ってしまった運命を戻す前に、とりこぼしてはいけない物があったのに・・・・・・」
マケドニアの内乱の最中、ミネルバが捕らえられているどさくさに、マリアは闇の司祭たちにさらわれた。
マケドニアの王という役割をあの時、彼女のほかにやれる者はいなかった。それでもそれは重すぎた。
ミシェイルに救い出された時に聞いた話。ミシェイルを救ったのがマリアであった事。
ミネルバが急所を外して墜落させた時、それを救ったのはマリアだった。つたないライブと、手付きの危ない応急処置と、やつれきりながらも輝きを失わない瞳。すべてを諦めかけていた時に、一人きりで潰えるのだと思っていた時に、血を分けた妹がそのすべてをかけて己を守ろうとしていた事。
思えばいつもそうだった。マリアはいつもそうしていた。
過ちを止める事も出来ず、諍いを断ずる力もなく、それでも失わぬために耐えていた。
どうして彼女を顧みないなどという真似が出来たのか。
「ねえ・・・さま?」
「マリア・・・!!」
「あのね・・・姉さま。聞いてほしい事があるの。おにいさまがね、生きているの!!
ごめんなさい、今まで黙っていて。でも、お姉さまを中心にマケドニアがまとまろうとしている時に、こんな事言っちゃだめだと思ってたの・・・
でもね、おにいさまなら、この内乱を何とかしてくれると思うの。おにいさまはお父様を殺してしまったけど、お父様を嫌ってじゃない。おにいさまなりにマケドニアの事を考えてたの。私をドル―アの人質にする時に、その事を自分で告げに来たにいさまは、お姉さまの事も絶対心配してた。だから、きっと助けに来てくれるの!!」
言えない。
あれからどれだけの時が流れたのか。
すでにミシェイル王子はミネルバを救い出し、マルス達アリティア軍によって内乱は終わった。
そして、マリアを救うためにスターライトを手に入れる代償に、その命を落としている。
「ええ、私もミシェイルに・・・にいさまに助けてもらってここに来たの。
マケドニアは今マルス王子に任せている。私達があの国を背負う必要はもうないわ。私達どこかで、静かに暮らしていきましょう。
竜の一頭も持てる程度の暮らしなら、きっと何とかなる」
「・・・ほんと!? それなら、おにいさまもきっと一緒にいてくれるわよね。やっと、家族が一緒にいられるのね!!」
「・・・っ・・・!!」
震えながら、力強く抱きしめたのは、涙を悟らせたくなかったから。
しかし、嗚咽がもれては意味がない。
「・・・ねえさま?」
「・・・そう、ね。 やっと、一緒に・・・」
もう、こぼさない。あの人が守ってくれたこの身と、この子だけは。
いまだ竜の猛り響く中での、静かな誓い。
・
「エリス様、エリス様!! 応えて下さい!!
僕はまた、守れなかった。どうしていつも、間に合わないんだ。
僕が魔法を学ぼうとしたのは、あなたのためです。僕の体は、鍛えてもちっとも強くならない。でも、あなたを守るためには、力が必要だった。だから僕は、僕が一番大きく手に出来る力を手にするために、魔法を選んだ。
なのに僕は、また・・・」
マリクはまだ未熟だった。実際マルスの幼馴染なのだから、ほんの少年である。
そして、姉たろうとしていただけで、エリスもまだ成熟した女性とは言い難い。二人の思いは、互いを思いやるなどというところからは遠い。そしてそれゆえに、互いに愛し、恋におぼれる感情は純粋で、エゴイスティックだった。
それは時に、響きあう。
「マリク・・・」
「・・・!! エリス様!!」
「マリクって、やっぱり男の子よね。守るとかその為の力とかいって、私の事ほったらかしにするの・・・」
「・・・ご、ごめんなさい。でも今はそれどころじゃ・・・」
「それどころってどれどころなの。私が怒ってるのに、それより大変な事があなたにあったらだめじゃない。マリクを好きな私が、私の事好きなマリクに怒ってる事より大事な事があるならいってみなさいよ」
溶岩のように熱く、地獄のように甘い怒り方である。いつも清楚で落ち着いているエリスの、マリクしか知らない本性だ。今それが駄々漏れている。
「私のマリクが強くなりたいのはいいのよ。強くて当然よ。でも私のそばにいないってあり得ないでしょ。私はこんなに好きで、マリクも私を愛してくれているのに、どうして離れ離れなの。おかしいじゃない」
「ええとあの」
「だからもう、待つのやめるわ。どうせマルスはもう私がいなくてもやっていけるもの。私がお母様の代わりをしなくても、シーダちゃんと仲よくしてるもの。私もカダインにいくわ。近々乗り込んでやるつもりだったけど、ちょうどいいからつれていって」
「は、はい! 実は、ウェンデル司祭が旅を終えてお帰りになったら、僕は魔導学院を開くつもりだったんです。貴族の子や恵まれた子たちだけじゃなくって、もっと広く門戸を開いた学校を。その時には、ううん、その時にこそエリス様を迎えに行こうって、思ってたんです!!」
「!!」
怒りが、しゅるりとしぼむ。ふと、マリクを見る。この一年で伸びたマリクの背は、マルスさえ追い越し、エリスは見上げる形になっていた事に今気がついた。
蛮雄の逞しさではないにしても、彼女を包み込むには十分な成長をしていたマリク。
エリスは改めてマリクに恋をし、心の中はマリクに染め上げられる。
「じゃ、これからは・・・」
「ずっと、一緒です。もう離しません。一瞬でも寂しい思いはさせません。だってそれ以上に大事な事は、僕にはないんだ。
あなたを幸せにする事が、僕のしたい一番の事なんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
竜との死闘の中、交わされる口づけ。
どこまでも場にそぐわず、それ故に強固な世界。
英雄の姉であり母でもあった女が、只一人女であれる人と。
当たり前のように、確かめ合う。
・
「しっかりされよ、王女!!
ことここにいたって、あなたはまだ投げ出すか!?」
彼女をそんな風に叱りつけた人間は、後にも先にも一人きりだった。
ニーナの魂はいとも簡単に震えた。それは望んでやまぬ、忘れる事かなわぬ人の声ゆえに。
「・・・貴方は・・・ 私は夢を見ているの? どうして・・・」
「・・・いや、これは夢ではない。そして私は旅の聖騎士シリウス。貴方の名を聞き及ぶものであっても、あなたに会うのはこれが初めてだ」
それは、明確な拒絶だった。
その立場と誇りを異としながらもその命を救いながら、ニーナの思いに応えようとしないところまで変わっていない。
彼の気持ちは分かっていた。時折向けられた眼差しにはそれがあった。だが彼は貫くべき生き方があった。
アカネイアとニーナ王女は、彼なしでも生きていけるだろう。しかし、グルニアは彼なしでは立ち行かなかった。
「皇帝からの伝言を持ってきた。『すまなかった、許してほしい。私はあなたを愛していた。それは信じてほしい』と」
「それを・・・ それを、貴方が伝えてくれるという事が、どんなに残酷なことか、分かっているでしょうに・・・
ああ、ハーディン。ごめんなさい。本当に・・・」
「ボア殿も、亡くなられた」
「じいが・・・!」
「『私が間違っていた。もうアカネイアなどどうなってもいい。ニーナ様を苦しめるだけだというのなら』と・・・」
「・・・もう狂ってしまった運命の果てに聞かされても、私の心に穴を穿つのみです。私は・・・この先どう生きればいいのですか」
ニーナほどこの二つの戦に翻弄された人間はいない。望む望まぬに関わらず背負わされ、ことここに至って、投げ出す以前にもうすべて失っている。
それでも。
「それでも、貴方自身が託して見せねば、投げ出した事になるのだ。あなたがどう生きるかさえ、その先にしかない。
もういらぬというなら、きちんと託してからになされよ。その先は、望まれるままにするといい」
「ならば、 ・・・ならば、連れて行って。
何者でもないあなたと私なら、共に歩めるでしょう。そうさせて・・・」
泣き崩れるニーナ。
国を、大陸を、地獄に陥れるきっかけとなっても、偽る事の出来なかった思い。
それでも互いが取りあわねば、繋がれぬ手。
「ぼくは、やってみせるよ」
そう言ったのは、ユベロであった。
「シリウスに教えてもらったから。僕は、誰かが僕の国に酷い事したら怒れるよ。ニーナ様は、ハーディンがアカネイアに酷い事し始めた時にひっぱたけなきゃだめだったんだ。そして、それを知っててもしなかった。もう、資格はないんだ。
僕や、マルス王子がやる。ちゃんと怒るよ。悪い事したら、許さないぞって。
だから、シリウスとニーナ様は、僕達が守るこの大陸のどこかで、見守っていてくれれば、それでいい。どこかに二人がいると思えば、僕は一生懸命守っていける。
二人は・・・ただの二人になって」
未来の王たる彼の決意が、誰かの幸せと重なっている。
自らの思いを、継いでいる。
こんな頼もしい事が、他にあるだろうか。
「ニーナ、来るか」
「ええ」
「・・・少し、待っていてくれるか」
「慣れました」
「すまない」
短い抱擁の後、ニーナは、シリウスのマントの下に隠れている紋章を引きちぎる。
これであなたは、誰でもない。とでもいうように。
ユベロは、このためについて来たのかもと、なんとなく思った。
彼と共にグルニアを愛し、彼女と同じくこの戦乱に振り回された自分にしか、二人を解き放つ事は出来なかったと、そう感じた。
そして二人のために、今の言葉を違える事は許されないと心に刻んだ。
・
百億の鏡の欠片が降り注ぐ幻影とともに。
メディウスを守っていた結界が砕け散る。
『グルォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ・・・・・・!!』
「ファルシオンよ、神竜の牙よ!! 暗黒竜の闇の帳を吹き飛ばせ!!!」
マルスが振りかざすたびに、闇そのものが切り開かれてゆく。
「紋章の盾よ、闇よりいでし竜を返せ!!」
闇の魔法陣からはい出てくる竜を、5つのオーブの力が押し戻す。
「・・・ほんとは、誰にも罪なんかない。我慢ならない事があったり、未熟だったりしただけなんだろう。
だからこそ、もう終わりにしよう。疲れたなら、眠ろうよ。馬鹿だったなら、ちゃんと覚えておこうよ」
メリクルを手に、ルオは思う。
みんなが納得するのは無理なんだろう。でも、なるべく多くの人が幸せになるのは、やり方次第だ。
自分の答えが、全てを救うとは思わない。けど。
「リザーブ!!」
マリーシアの杖が、皆の傷を癒やす。
シーダの槍が飛竜を次々と落とし、フィーナの踊りが戦意を高揚させている。
近衛隊の皆が、畳みかけるようにメディウスに挑んで・・・・・・
「炎の弓よ・・・!」
ズシュっ・・・・・・・・・!!!
ライアンのパルティアの炎の矢がメディウスののどを貫く。
『グオオオオオオオ・・・・・・
覚えていろ、人間ども・・・ お前らの卑しい心こそが封印を失わせ、国を作る礎となった事・・・
紋章はまたいつか再び失われる。必ずだ!!
お前らがお前らである以上、必ずだ!!』
その捨て台詞に、しかし二人の勇者は応える。
怒りにまかせた恨み事ではない。
それは、敬うべき先達に贈るはなむけと誓い。
「僕らは僕らだろう。けど、今のままである筈がないよ。
封印が失われたのは、一度も国を作った事のない人間達が欲望のままに作ったころの話さ。
真実も知った。神の正体も、欲望のみを見据えて生きる愚かさもその末路も、悲しみも。
僕らはそれを伝える事が出来るんだ」
「眠ってください。もう一人の竜の王。
貴方の眠りが妨げられるような愚かさをそれでも持ち続けているようなら、その時はむしろ、叱りに出てきてほしい」
ルオの言葉に、メディウスは少しだけ目を見開いて。
マルスの言葉に、メディウスは少しだけ微笑んだ。
最初からこんな風に滅べたら、もうすこしちがう世界が出来ていたのだろうか。
でも。
『・・・まあ、よいわ』
頭を、なでてもらったような気がした。
「もう休め。メディウス。
わらわももう眠るとするよ」
神竜王の、お休みの言葉。
次元のはざまに暗黒竜が飲み込まれてゆく。
恐ろしい筈の竜のあぎとは、微笑んでいるようにも見えた。
そして。
ズズズズズズズズズズズズズズズズズズ・・・・・・
次元の歪みが、戻りつつある。
運命の子の答えが、示される。
続く