FE 新・紋章の謎異聞 漂流傭兵 ルオ・ルスペード 作:おかのん
今回の訓練は、行軍である。
花形が実戦部隊であっても、補給部隊が無ければ戦は成り立たぬように、行軍というと途中のどうでもいい部分に見えて、重要な行程である。
そんな訓練のさ中、ルークの調子の良さそうな、しかし今日はどことなく白々しい空気を持つ声が響く。
「ああ、森ってのどかだなあ」
「そうだな」
「こういうとこ歩いてると癒されるなあ」
「ホントですねえ」
ロディやライアンの合いの手もどこか棒読みだ。
「あの木なんか、大きいよなあ。でも、さっきもあれくらいの木を見た気がするなあ」
「ええ。3回目です。目印のリボンがありますから」
「うん。これって、オレ達道に迷ってるよな?」
「「「・・・・・・」」」
黙るしかない。
「なあタレルオ!?おまえこっちが近道って言ったよな。言・っ・た・よ・な!!?」
「・・・・・・m(_ _)mごめん。ほんとにごめん。
実は僕、方向音痴なんだ」
「俺ならともかくお前はそういうことするなよ!」
きっちり自分のキャラを掴んだ発言と言えた。
「け、喧嘩してもしょうがないですよ。なんとか帰り道を」
「今日中にアリティア城に着ければお咎めはないだろう。だが、仲間割れで怪我でもしたらそれは厳罰だ」
「アリティア騎士が自国で迷子って、ジェイガン様に殺されるぞこれ・・・」
「つくづくごめん」
その時であった。
「・・・・・・! 悲鳴?」
「剣戟だ!」
「・・・あそこ!! 村が襲われています!!」
「行こう!!」
第七小隊は、この手勢で盗賊団と戦うことになる。
・
「ぎゃははははははははっ!!」
「全部奪え! 逃げる奴は身ぐるみ剥いでぶっころせ!」
「ウキキキキキキ。そうだ。もっとやれ。
これで計画が進む。ウキキキキキキキ」
奇妙な模様の仮面の男。こいつがならず者どもを煽っているようだった。
刹那。
ヒュオッ!!
「ウキ?」
キィン!!
後ろからの刺突に、仮面の男は反応してみせた。
「ちっ!!」
「おお? お前、見た目盗賊。でも声かけた奴らの中にはいなかったな」
藍色の髪の、気風の良さそうな娘だ。
眼帯が少し痛々しいが、雰囲気とは合っている。
先ほどの逆手短剣も、慣れたもののようだ。
「当たり前でしょ!! あたしはギルドの人間よ。無差別な強盗どもと一緒にしないでっ!!」
「ウキ。勝てないとも思わないが、やりあいたいとも思えないな。逃げろー」
躊躇なく逃げ出す仮面。
「待ちなさいよっ!!」
「ウキキ。俺にかまってる暇があるのか?
さっさとしないと村は全滅だぞ」
「くっ・・・!!
せっかく尻尾を掴んだのに・・・・・・!!」
しかし仮面の言うとおり、村も放って置けなかった。
せいぜい逃がす手伝いしか出来ないが・・・・・・
結局仮面の男にも逃げられてしまった。
(奴ら、何が目的でこんなこと・・・・・・
暗殺集団の色が濃いと思っていたけど、こんな目立つことを、あんな目立つやつがやっているとなると、違うのかしら)
女子供を殆ど逃せたのは良かった。
だが、一人であいつらを相手にするのは無理だ。
このままでは蓄えが奪われてしまう。
せめて5,6人。
戦える者がいれば・・・・・・!!
その時だった。
「まずは村を包囲する!! 撃破のためじゃなく、逃げ出している村人の盾になれるように!!」
「シーダ様やゴードンさんは、村人たちをお願いします!!」
(騎士団!?)
あまりにタイミングが良すぎる気がしたが、ありがたかった。
これで最悪の事態に続いて、ほとんど被害を出さずにこの場をおさめられるかもしれないのだ。
しかし、盗賊の姿をした彼女は、更に驚く。
知った顔を見つけたからだ。
「ルオっ!?」
「? ・・・・・・あ、ああっ!?
アイシャっ!!?」
「「どうしてこんなところに!?」」
「「・・・・・・って、そんなことはいいか」」
「こいつらを片付ける!!」
「頼んだわ、ルオ!!」
それなりにコンビを組んだ仲だ。
状況がなんであれ、互いに味方なのは決定事項だ。
「みんな、一人に二人以上でかかってくれ!
一人倒したら、必ずリフさんにライブを!!」
幸い、人質となる村人は全員無事らしいし、逃がしたら逃がしたでかまわない。
蓄えを持ち出そうとするような奴は、動きが鈍い。
ルークやロディあたりに後ろから串刺しにしてもらえばいい。
向かってくる奴に遠慮はいらない。ライアンに射かけてもらって、動きを止めたところを切り刻めばいい。
阿鼻叫喚の絵が、役どころが逆転した。
ゴロツキ盗賊どもは、あっという間に退治されたのだ。
「・・・・・・見事だね。 ええと、赤い髪の傭兵君。きみが隊長かな?」
そちらを見やると、そこには一人の魔道士がいた。
緑色の髪の青年で、どこか気品が見えた。
「確かに僕が隊長ですけど・・・貴方は?」
「僕は『風の聖剣』マリクだ。ここには偶然通りかかったんだ。従騎士の教官としてアリティアに招かれているんだが、道に迷ってしまってね。
案内を頼めるかい?」
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
全員が絶句した。
「私達はどうとでもできるのだけど・・・・・・」
「これが『課題』である以上、付き合わないとね」
シーダもゴードンもなかなか厳しい。
「お取り込み中悪いけれど」
「ああ、ごめんアイシャ」
確かにアイシャである。
盗賊ギルドの長の娘で、わりと長い期間パートナーであった。
騎士団に入ることとなれば、会えなくなるだろうと思っていたが、意外な再開であった。
「道案内は私がするわ。道中色々話してもらうんだからね」
「うん。僕も聞きたい。どうしてこんなところに?」
「あ、あのルオ・・・・・・その人とはお知り合いなんですか??」
「ああ、少し前に、冒険者だった頃のパートナーで」
どうやら、話のネタには事欠かなそうである。
・
「ふふ。チビ、久しぶりね」
「なおん」
アイシャの胸に抱かれて、チビは気持ちよさそうに寝ている。
「・・・・・・で、その・・・・・・暗殺集団を、各ギルドで追ってるのか」
「ええ。知ってのとおり、ギルドはその職に就くものが『世間的』にまともである為にあるわ。
盗賊ギルドはその最たるものといっていい。
『盗む』事でしか取り返せない損害、得られない利益・・・・・・治外法権の大使館関係者に盗まれた書類や、逆に国家機密の奪取、王族のスキャンダル潰しと、盗賊だって社会の役に立ってる。
そのそれぞれの盗賊たちをまとめるのがギルドだもの。
今回、暗殺集団の情報がギルドに寄せられたわ。
退治は騎士団に報告すればいいけど、潜伏場所の割り出しや情報収集は盗賊ギルドの役目。
奴らは手段を選ばない。
だから逆にこっちの網に引っかかったんだけど・・・・・・
この件に関しては私だけじゃない。盗賊ギルド全体が力を入れてるの。
なにせ、奴らの目的が目的だしね」
「目的?」
・
「ウキキ」
この巨体、緑色をした顔全体を覆う、狩猟民族の祭事のモノのような仮面。
これだけ目立つ容貌をしていながら、彼のせいで木々が揺れることもない。小鳥が飛び立つこともない。
誰もいなくなった廃墟に飛び乗る。
「これでまずまず計画通り。後はアイネがうまくできるか。
まあ、心配はしてない。
あいつは色々と上手。忍ぶ事しか出来ない俺とは違う」
「ローロー」
下から声がした。
見ると、長い金髪で少しつり上がった目をした、可愛らしい少女がいた。
「あり? クライネがいる。
別のとこで仕事があったんじゃ?」
「あんな簡単な仕事、とっくに終わらせたわよ。子供の使いじゃ無いんだから全く・・・・・・
私はね、アンタ達みたいなグズとは違うの」
「ウキキ。そうだな。
お前は優秀だから、時間が余ってしまって、俺達のグズな仕事ぶりを笑いに来る余裕があるもんな」
「そのとおりよ」
彼女が心配して見に来たのはローローも分かっている。
それを素直に言えないのも、今の皮肉をそのまま受け取ってしまう馬鹿正直さも、ローローは好きだった。
だいたい、クライネだってアイネの能力は認めているのだ。
「オレ達は仕事ぶりはグズだが、任務はきちんとこなす。
言われた通りに・・・・・・」
仮面の下で、見えるはずのない顔が笑った気がした。
「マルスを、殺す」
・
「マルス様の暗殺!?」
「声が大きいわよバカルオ!!」
皆とは離れているため、聞こえてはいないだろう。
しかし、冗談ごとではなかった。
「まだ、裏は取れてないわ。でも、手をこまねいていられるような話でもない。
さっきも言ったけど、ギルドが力を入れてる。かなり大きなヤマになると思う」
「そうか・・・・・・」
暗黒竜が倒され、平和な時代となったというのに、マルスの暗殺とは。
勿論、英雄が誰の恨みも買わないなどありえないが、それでも驚きを隠せない。
「ルオは、オーブ目当てだっけ?」
「ああ、うん。手に入れられるとは思ってないけど、それに関わる話を集めておきたくて」
大地のオーブのことを探ってるということは既に話した。
「どうせ、今は騎士になるのが先とか言って、調べてなんかないんでしょ。
いいわ。どうせこの仕事はアリティア関連だし、ついでに調べておいてあげる。
代わりに、そっちの噂話や、ちょっと怪しい人間のリストとか頼むわね」
「了解。ありがとうアイシャ」
のんきなルオには、情報源となるアイシャとのコネクションはありがたかった。
従騎士の間は、寮住まいで、外出もそうそうは出来ない。
「こっちこそ、その・・・・・・
今日は、ありがとう、ね」
「いや、文字通り『当然のことをしたまで』さ」
「ふふ。そうね、騎士様だもんね」
そしてお互い、またコンビが組めるのが嬉しかった。
・
一方。
積もる話があるだろうからと、二人を離れて先行させたカタリナは頬をふくらませていた。
「突発おたふく風邪とかかカタリナ?
うつすなよ。オレだって家族計画くらいあるんだからな」
この男の空気の読めなさは天下一品である。
「おかまいなく」
話が終わったようで、アイシャと別れてこっちに来るルオを見て、カタリナは極上の笑顔を見せる。
(この子の猫かぶりもなかなかのものだな)
ロディは少し安心した。
外ヅラくらいは作れねば軍師は務まるまい。
・
「やれやれ。やっと帰って来れたぜ」
ルークの一言が耳に痛い。
ジェイガンに叱られるのは避けられまい。
足取りはここに来てまた重くなる。
「? どうしましたルオ?」
カタリナがルオの様子に気づく。
マルス暗殺計画。この事は仲間に話すべきだろうか。
余計な混乱を植えつけるだけの気もした。
「いや、流石にお腹がすいて」
「ふふ、私もです。今ならまだ間に合うかもですね。
行きましょう。ルオ」
第七小隊の長い一日が、ようやく終わった。
次の日。
ルオはマルスに呼び出されていた。
勝手に軍隊としての作戦行動をとった事が懲罰対象になったのかと怯えるカタリナだったが、
「いや、振るえるはずの『民を守る力』を振るわない方が問題だよ。
ましてや、そういう罰を受けるかもしれないと思っても、人々を助けようと思ってくれたなら、これほど頼もしいことはないさ」
「・・・・・・・・・・・・」
気持ちとしてはルオも同じだが、姿を現すわけにはいけない隠密行動中や、時間を定められた、もしくは一刻を争う救援行動の最中には出来ることではない。
マルスが行き過ぎた理想主義者なのが、ルオにもだんだんわかってきた。
「どうだろう。正式な騎士となった暁には、二人とも僕の近衛騎士になってくれないか?」
「「・・・・・・はい!?」」
とんでもない話になっている。
「今回の従騎士の小隊の中で、今だ一人の脱落者もないのは第七だけだ。君たちの才とチームワークは飛び抜けているよ。
今すぐでもなければ、強制でもない。
考えておいて欲しいだけさ」
話はそれだけだった。
その場から下がり、二人は寮に戻る。
カタリナは、魂が抜けたようになっていた。
カタリナの手を引きながら思う。
(元々の動機がオーブの話を探りに来ただけの僕に、そんなことが務まるだろうか。
けど、暗殺集団がマルス様を狙っているこの状況で、『自分以外』を薦めることもできない。
従騎士の誰かが刺客でもおかしくないんだ)
板挟みの思考が、頭の中をグルグル巡る。
気がついたときには、ルオはカタリナと一緒に迷子になっていた。
その5 行軍任務 終