FE 新・紋章の謎異聞 漂流傭兵 ルオ・ルスペード 作:おかのん
その日、ルオはまだ思い悩んでいた。
自分に隊長たる、近衛たる資格があるかと。
なんとなく、近くの丘で歩いていたとき・・・・・・
「あ・・・・・・」
「やあ、ルオ」
「・・・・・・マルス様」
マルスに、出会った。
「どうしてこのようなところに?」
「ああ。この先に、墓地があるんだ。
祈りを捧げてきたところだよ」
「墓地・・・・・・ですか」
「うん。
僕が、殺してしまった者達だ」
「!?」
ころして、しまった?
「先の大戦の、英霊たちだ。
僕が指揮した戦で、命を落とした」
「え・・・・・・」
マルスは寂しそうな顔をした。
「わかっているよ。勝ち戦だって兵は死ぬ。少ない犠牲で勝てるのなら、それに意味はある。
けど。
僕の命令で、結果死んだ。それも動かしがたい事実だ」
この話をすると、誰でもそんな顔をするんだ。とマルスは続ける。
「甘い考えなんだろう。王たる器ではないのかもね。
・・・・・・それでも、目をそらせない。割り切れないんだ。
どうしようもなく苦しいんだ。
恋人に振られても、新しい恋をすればいいかもしれない。
友人がある日いなくなっても、他にそばにいてくれるものはいるかもしれない。
母親がいなくても、子供は誰かが育てるかもしれない。
けど。
それは、その人じゃない。
そうだろう?
君の代わりは・・・・・・この世にいないよ。
ねえルオ。君がもし死んだら、君のこれまでは途切れるんだ。
誰だって同じだ。その人の代わりは誰も出来ない。
出来ないんだ。
だから僕は、助けてくれる人は誰でも信じた。
一人も死なせない。そんなことは不可能だけど。
そのためにする努力はしすぎることはない。
そのための力はいくらあっても足りない」
ああ。
そうか。
力を借りることを躊躇して。もしそれで力及ばず誰かが死んだら。
この人は自分を許せないんだ。
昨日の自分が浅はかに思えた。
カタリナに応えようとしなかった自分。
(カタリナ)
彼女の能力を借りよう。僕の付け焼刃の勉強じゃ見落とすことがある。きっと。
なら、任せたほうがいい。
自分より優秀な人間に任せる。それはむしろ勇気がいるんだ。
でも。
自分を委ねる事が出来るくらい信用できるなら。
それは、気高い事なんだ。
この人、みたいに。
「僕も、祈ってきます」
英霊のもとに向かおうとするルオ。
マルスは、少し驚いて。
それから、微笑んだ。
・
その帰り。
今度はカタリナにあった。
「・・・・・・カタリナ?」
!?
「あ、ルオ・・・・・・」
「泣いて・・・いたの?
どうして・・・!?」
ふと。この間のことを思い出した。
(・・・!!!)
今から考えれば。
あれは、拒絶をしたのも同然じゃないか。
「カタリナ、ごめん!!
あの時は・・・・・・
隊長をやり通せるのか、みんなを怪我させずに終われるのかって、不安で・・・・・・
自分に自信が持てなくて、それで。
君と近衛騎士になるのを拒んだつもりじゃないんだ。
ただ、自信が持てなかっただけなんだ」
手を取って、そう言った。
カタリナは、びっくりしていた。
「あ、あの・・・・・・違うんです。
確かに、ちょっと悲しかったけれど、後で考えてみれば、ルオが一番落ち込んでた時に、変なこと聞いた私が悪かったんです。
今のは、そうじゃなくて、その・・・」
少し、息苦しそうにして、カタリナは俯く。
「いずれきっと、話します。
今は、次の訓練のことを」
そう言って、カタリナは寮に戻っていった。
「カタリナ・・・・・・」
寮に戻ると、張り紙があった。
次回の訓練を、最終試験とする。と。
演習場は、川の流れる山間部で、砦が多い。
弓兵、傭兵、斧兵、各2人ずつ。
囲まれている状態から始まる。
「これは・・・・・・」
なかなかきつい試験になりそうだ。
・
「告知のとおり、これを最終試験とする。
今回の試験官はこの方だ」
そこに来たのは、一人の天馬騎士だった。
「元マケドニア白騎士団エストよ。今はダーリン・・・・・・元『黒豹』アベルと雑貨屋やってまーす♪
お近くをお通りの際にはぜひウチに・・・・・・」
「営業するな」
カインに釘を刺される。
カタリナは戦力分析に入った。
特に、目の前の試験官について。
「天馬騎士の中でも天才と呼ばれた人です。
・・・・・・まずいですね。今のみんなは、普通の兵の相手は出来ても、あの人では相手になりません。
鋼の槍の2連撃をくらってやられてしまいます」
止めを刺すくらいしかできないということか。
「ライアンに待ち伏せをさせて、一撃で仕留めるか、ルオが戦うしかありません。
しかも、ルオが後手になって、止めを誰かに任せる流れでないと倒しきれないでしょう」
「・・・・・・ライアンを待ち伏せさせたほうが良さそうだね」
「でも、それも弓兵のライアンを前線に引っ張り出さないといけません。この演習場も狭いですから、初動で迎撃しないと。
一度仕掛けられたら勝ち目のない者がほとんどなのに、地形無視で飛び回られたら、被害甚大です」
「思ったより更にきつい試験だなあ・・・・・・」
「更に、この砦の多さが怖いです」
?
「休める場所が多いのはいいことじゃあ?」
「いえ、伏兵の可能性が高いんです。
最終試験だけに、そういうのに備えられているか、または対応できるかを見られているかもしれません。
そして・・・
実戦でそれを見抜けなければ、全滅につながります」
「・・・・・・」
よく勉強している。
まるでその怖さを知っているかのよう。
(軍師志望の子って、みんなこんななのかな)
「はじめ!」
とにかく始まった。
「ライアンを前線に出せるように、砦を確保しつつ増援に警戒して、初動でエストさんを迎撃できる布陣を張って・・・・・・」
なかなか難題である。
・
「うおおおおおおっ!!」
ルークが吠える。
「熱くなるなルーク!!傷薬も使っていけ!!」
「その距離では弓兵が来ますセシルさん!!」
「ご、ごめんライアン。でも、こいつをなんとかしないと、あんたが危ない!!」
思ったとおり乱戦となってしまった。
しかし、中央の小島と砦のいくつかを抑えたいとなると、うって出るしかない。
新人のセシルとも息はあっている。
いきなり「女と思ってなめないでね」と凄まれたりしたが、勝気な割に面倒見のいい姉御肌だ。
なんとか相手の攻撃が止んできた時。
ボシュッ!!
「信号弾!?」
煙を上げて打ち上がるそれと同時に、予想通り増援が現れた。
「地形を利用して囲まれるのを防いで!!
エストさんに初動で捕まる位置にいちゃダメだ!!」
「・・・・・・ふむ。なかなかの指揮ぶりね。
結構優秀なんじゃない??」
「ああ。元々結構無理難題を出して、ボロボロにしたところを説教する予定だった。
他のチームは予定通りボロボロになったし、説教も存分にした。
それで凹んで逃げるような奴はいらんしな」
「・・・このチームしか残んないわけだわ」
既に騎士候補は五人になっていた。つまりルオ達しか残っていない。
「一般兵を雇うんじゃない、アリティアを支える次世代の騎士たちの育成だ。
年によっては合格者を出さない時もあるんだ。妥協なんぞ出来ないさ」
「ま、そのへんは私が口を出すことでもないけどねー。でも、じっくり育てることも必要だと思うわよ?」
「優秀な教官が多くいればそう出来るが、現状では厳選するしかないんだよ。
俺の『相棒』が残ってくれれば、もう少し残しても育てる余裕があったんだがな」
「うわあさりげにあたしのせいか。
じゃ、行ってくるわ!!」
「加減はしてやれよ」
・
「ライアンは中央の小島の砦に隠れて!」
「増援の足を止めろっ! 切り込まれてリフさんをやられたら後がないっ!!」
「無理をするものではありません!! 動けるうちに戻ってください。治癒魔法を!!」
大混戦となってきた。
演習だというのにこの大騒ぎ。
数万の人間が戦う戦場というのは、一体どんなものだろうか。
しかし、前回の反省を踏まえていたため、多少危ない場面はあっても、総くずれという心配はなかった。
「む、少し出遅れたかしら」
エスト教官が来る頃には、迎え撃つ準備は出来ていた。
「ライアン!!」
「はいっ!!」
「弓兵ッ!!!?」
間髪いれずに矢を放つ。体制が整う前の一瞬の隙にしか勝機は無い。
ヒュオンッ!!!
矢についた羽が鏃を回転させる。
バッ・・・!!!
「羽を・・・・・・!!」
戦場の地形を無視し、素早い攻撃を繰り出す驚異の天馬騎士。その数少ない、しかし致命的な弱点である。
「てやぁぁあああああっ!!!」
地上に降りるしかなくなったエストに、ルオの剣が挑みかかる。
ザンッ!!!
致命傷とは認められないだろうが、刃のおとされた剣は鎧をかすめた。
「くっ!! 強い・・・!?」
「そこまで!!」
カインの合図が聞こえる。
演習終了だ。
「結果を発表する。というか、一人の脱落もなしにここまでやった時点で文句もでん。
お前らは合格だ!!」
・・・・・・!!
皆の、声にならない歓喜がおこる。
余韻の後、それぞれが興奮して声を漏らす。
「やった。 ・・・やった!!」
「俺達は、騎士になれたんだな」
「そうだ。見習いでなく、騎士だ。
勿論、ここが始まりだ。どんな騎士たるかはお前ら次第だ。
しかし、今日くらいはただ喜べ。
後日、叙勲式の予定を伝える」
そのカインの声をきちんと聞いていたかどうかはわからない。皆それほど喜んでいた。
(これで、果たせた。隊長も終わりか)
ルオは、肩の荷が降りた気分だった。
(これから、どうしよう?)
オーブの事は、確かに騎士になったところでどうなるわけでもない。情報収集はアイシャに任せる方がいいだろうし。
仕事のついでがあると言っていたから、頼んで構わないだろう。
近衛騎士の話をければ、マルスは残念がるかもしれないが、小隊の誰かがなるだろう。
それとも自由騎士扱いにしてもらえば、義理を欠く事もないだろうか。
そんなことを考えながら、ルオも輪の中に入っていった。
・
「なおん」
チビがアイシャの頭の上に乗る。
「あんた、最近はあの女の子の上がお気に入りだったんじゃないの?」
そういえば、ここのところカタリナの所にはよっていかない。
「なーご」
「ま、いいけどね」
猫の好みなど知ったことではない。
・
今回はうまくいった。
で、興奮して眠れない。
ルオはまた、庭で夜風にあたろうとした。
「あれ」
「あ、ルオ・・・」
また、カタリナだ。
「今度は、叙勲式だね」
「ええ」
カタリナは、マルスを慕っていた。
なら、ここに残るだろう。
「いよいよ、ですね」
「うん」
「・・・・・・ルオ。私の生きていた場所の話はしましたか?」
「いや、聞いてないよ」
「私、ノルダの孤児だったんです」
「え・・・・・・」
アカネイアの下民層の街、奴隷市場まである暗黒街。
「あそこでは、力を持たないものはゴミです。庇護の手のない子供は、特に。
面白半分でぶたれるのも、数日食べるものがないのも当たり前。
生きるためには、人に迷惑をかけなきゃならなくて、そんな自分が惨めで・・・・・・
でも、そんな時、助けてくれた人がいました。
自分の世話も出来ないあたし達を、生かすために力を尽くしてくれた人が」
「それが、マルス様だったの?」
「違いますよ。でも、奴隷市場を潰して、孤児院を作ってくれたりしましたね。
私が救われたのはもっと前です」
え。
「私は、その人のためなら、どんな努力もしようと思います。
一緒に育った仲間たちも、そう思って頑張ってます。
私も、頑張ります。
騎士になったら・・・・・・
式が終わったら・・・・・・
ふふ。おやすみなさい」
「うん・・・・・・」
「あ、そうだ。これ」
渡されたのは、ハチマキだった。
「セシルが、隊長にって。試してみたらどうですか?」
「うん」
近々、叙勲式がある。
そこで皆、騎士となる。
そして。
その7 最後の試練 終