お昼休みです! ご飯を食べたG41は指揮官室に戻ります。
G41はうきうきです。お昼休みは余程のことがない限り、ご主人様も仕事の手を休めます。なのでご主人様に甘えることができます。
そして、今日はG41が副官の日です。明日も明後日も副官です。ずっとご主人様を独り占めできるのです。こんな幸せなことはありません。
ふと、中庭のところに差し掛かると二人分の人影がありました。
うち一人は見間違えるはずもありません。ご主人様です。ご飯を食べ終えたご主人様は中庭でお休みしていたのです。
それでもう一人はファルコンさんでした。最近入って来たばかりの人形で、G41の後輩です。
二人の様子が気になるG41は、物陰に隠れて様子を見ることにします。それでご主人様がファルコンさんと別れたら甘えるのです。
「いい天気だね、こひつじちゃん。日向ぼっこでもしようか」
「ああ、そうだな。いい天気だし、可愛い娘が隣にいると気分もいい」
「はははっ、誰のことよ、バカなんだから~」
む~。ベンチに座って二人で仲良さそうにお話をしています。ご主人様もファルコンさんも楽しそうです。ご主人様が楽しそうなのはいいですが、これでは甘えられません。昼休みが終わってしまいます。む~。
「そういえばファルコン、個人フォルダに随分沢山テキストファイルがあるんだが、あれは何だい?」
「ちょっと!私の楽譜を勝手に見ちゃダメだよ!あれは全部こひつじちゃんへのラブソングだから……いま見られるのは恥ずかしいよ!」
「そうなのか。じゃあ、聞かせて貰える時を楽しみに待ってるよ」
顔を真っ赤にしているファルコンさんをご主人様がなでなでしてあげています。む~、G41も早くなでなでして貰いたいのに…む~。
とっても面白くありません。それにこのままではご主人様に甘えられないままお昼休みが終わってしまいます。多少強引にでもご主人様を取り戻さないといけません。というわけで、G41はフリスビーを持ってご主人様のところに駆けて行きました。
「ご主人様~」
「お、G41。お昼済んだのか?」
「はい!」
ご主人様の前にやってくると、ご主人様はファルコンさんとの会話を止めて、G41の頭をなでなでしてくれます。気持ちいいです。やっぱり、ご主人様はG41が一番大好きなのです! えっへん!
「はい、ご主人様」
というわけで、G41はフリスビーをご主人様に手渡します。ご主人様にフリスビー遊びをして貰うのです。そうすれば、昼休みが終わるまでご主人様を独占できます。
「G41、フリスビー遊びはまた仕事が終わってからにしよう」
あう。やんわりと断られてしまいました。G41はしょんぼりです。
「とりあえず、俺はもう少しここで休んでいくから、指揮官室で電話番をしてくれないか?」
しかも、ご主人様はまだファルコンさんとお話しするつもりです。む~。G41は物凄く面白くないです。
「あはは。こいぬちゃんは今日も可愛いね~」
むか。ファルコンさんの言葉に、G41はかちんときました。
G41はファルコンさんよりも先輩で、しかもこの基地で序列第5位の戦術人形です。そんなG41を勝手に渾名で呼んだりしてはいけません。ファルコンさんは失礼です。
もうG41は怒りました。ご主人様のばか。もう知りません。
こうなったら、今日はG41はご主人様のことをぷいってします。ご主人様がなでなでしたがっても、お膝の許可を出してもぷいってします。ぷいっ。
というわけで、ばいばいご主人様。ぷいっ。
ててててててててて…
…ててててててててて。
戻ってきてしまいました。やっぱり気になります。む~。
「…ふふん、こひつじちゃんって意外と不器用なんだね。じゃあ、私が作るのをよ~く見てて」
「ああ。ファルコンは上手だなぁ」
む~。二人でシロツメクサの冠を作ったりしてます。む~、ご主人様のばか~。
もうG41は切なくて切なくて堪りません。どうにかしてご主人様を奪還したいです。
というわけで、G41は通信モジュールを開いて、秘匿回線でFALさんに連絡します。FALさんならきっとご主人様を取り戻す作戦を考えてくれるはずです。
『FALさん、今時間大丈夫?』
『ん? どうしたの、G41? 秘匿回線なんか使って…』
『うん、あのね…』
戸惑うFALさんに、G41は現状を伝えて、ご主人様を奪還する作戦がないか尋ねました。
『ええ。それならいい手があるわよ』
FALさんは快く作戦を教えてくれました。さすがFALさんです! G41はFALさんが大好きです!
でも…作戦の内容を聞いて、G41は首を傾げました。内容が杜撰だからです。なんだか、FALさんらしくありません。
でもまあ、G41はFALさんを信じて作戦を決行します。G41はFALさんを信じます。
というわけで、G41は再びご主人様のところに走って行きました。
「ご主人様~!」
「ん? どうしたんだ、G41?」
「大変です、ご主人様! 事件が起きました!」
G41はご主人様にそう言いました。FALさんの曰く、事件が起きたら仕事に戻らないといけないのでファルコンさんと引き離すことができる、とのことです。
それは確かにそうなのですが、どんな事件かとか詳細は話してくれませんでした。そう言えば大丈夫だから、の一点張りです。ご主人様から質問されたらどうしましょう…
「そうか。事件が起きたのなら仕方ないな。じゃあ、ファルコン、またな?」
「あ…」
そう言ってご主人様が立ち上がりました。やりました、作戦は成功です! さすがはFALさんです!
「こひつじちゃん…!」
ファルコンさんは去っていくご主人様の背中に向けてそう言って手を伸ばしますが、やがて諦めたように俯きました。手には作りかけのシロツメクサの冠を握り締めています。とっても切なそうです。
G41の心が痛みました。ファルコンさんに酷いことをしてしまった、と思いました。
ファルコンさんはこの基地に来たばっかりで、まだ友達もいません。仲がいいのはご主人様だけです。ファルコンさんもまたご主人様が大好きなのです。
でも、副官業務はこのところずっとG41か
G41はご主人様の言葉を思い出します。自分がされて嫌なことは、他人にもしてはいけないって。G41は自分がされたら一番嫌なことをファルコンさんにしてしまいました… 嫉妬に目が眩んで大切なことを見失ってしまっていたのです。
G41は指揮官室に向かうご主人様の後ろを俯きながらついて行きます。
まずはご主人様に嘘を吐いたことを謝らないといけません。でも、言うのが怖いのです。
G41はご主人様に叩かれたことはないですが、今回ばかりは叩かれても仕方ないです。それぐらい悪いことをしました。叩かれるのは嫌です。心が痛いから。
でも、G41はご主人様の前に回り込んで、意を決して言うことにします。嘘を吐いたままだといい子じゃありません。それはご主人様もFALさんも望んでいません。だから、謝ります。叩かれても我慢します。
「ご主人様、ごめんなさい!」
「ああ。どうしたんだ、G41?」
足を止めたご主人様に頭を下げて、G41は事件は嘘だったということと、全部ご主人様をファルコンさんから取るためにやったことを告白しました。叩かれるかもしれないので、耳は寝かせています。
「いや、事件ならあったさ。G41が寂しくてやきもちを妬いてしまうって事件がな」
ご主人様は穏やかにそう言って、G41の頭をなでなでしてくれました。ご主人様は何もかもお見通しだったのです。きっとFALさんもお見通しだったのでしょう。そして、二人ともきっとG41が自発的に反省すると信じてくれていたのでしょう。
G41はご主人様が大好きです。なのでやきもちも妬いてしまいます。でも、それは他のみんなだって一緒なのです。みんなご主人様が大好きなのです。そして、G41はこの基地の中でもトップクラスにご主人様に構って貰えています。他のみんなが少しぐらい構われても、やきもちを我慢しないといけない立場なのです。それを自覚しないといけません。
「G41? G41は何がしたいんだい?」
ご主人様がG41と目を合わせて言います。
今G41がしたいことはファルコンさんに償いをすることです。酷いことをしてしまったのだから、謝って償いをしないといけません。そして、そのための手段をG41は知っています。
「はい! ご主人様、明日の副官はファルコンさんにしてあげてください!」
「そうか、分かった。ファルコンは副官初めてだから、よく教えておいてくれ。俺はしばらくFALと話するから」
「はい!」
ご主人様はG41の申し出を快く許可してくれました。そして、ファルコンさんと仲直りする機会もくれたのです。
というわけで、G41はファルコンさんを探しに行きました。中庭にいたのですぐに見つかりました。すぐにそばに駆けて行きます。
「ファルコンさん、ごめんなさい!」
「…こいぬちゃん?」
頭を下げるG41にファルコンさんはきょとんとしていました。でも、明日副官副官業務に当たったことを伝えると、とっても喜んでくれました。
そして、G41はファルコンさんと一緒に台所に行って、お茶の淹れ方とかを教えてあげました。ファルコンさんはとっても感謝してくれて、ギターの作り方とか弾き方を教えてくれました。そして、二人でご主人様のお歌を作って楽しみました。
こうして、G41にまた新しい友達が出来ました! ファルコンさん、副官業務頑張ってね! まる!