お正月企画三題噺シリーズ・アドヴァンスドサード 作:ルシエド
ソ馬ハルトさん! ウマ娘だったんですか!?
ビッグバンですら、ただの時間稼ぎに使われる戦い。
幾多の宇宙を巻き込み、無数の次元を喰らう化物に、万年単位の時を費やし戦う者達の物語。
人、それを『虚無戦記』と言う。
果てなき戦いの果て。
終わりなき戦いの終わりの前。
無限の敵に、有限の攻撃を無限に重ね合わせて対抗する、そんな戦い。
そんな戦いが繰り広げられるがゆえに頻繁に宇宙の壁に穴は空き、そんな恐ろしい多元宇宙の一つにある地球に、一人のウマ娘が落下した。
「あだっ」
彼女の名はアドマイヤベガ。
ウマ娘、と呼ばれる存在。
「ここ、どこ?」
だがここは、既に馬が走ることを許される地球ではない。
ガラス化した大地。
鉄の棘のようにしか見えない路面。
宇宙を消滅させる機械の化物くらいしか、もはやこの大地は歩けまい。
一歩踏み出すことすらはばかられるような、そんな恐ろしい大地だった。
「こんなところどう歩けば……鳥?」
どうしようもない状態の少女の近くに、赤い鳥が飛んできた。
玩具や機械にも見える赤い鳥。
しかし羽ばたくその姿は、生物のようにしか見えない。
人間なのか馬なのか分からないのがウマ娘なら、機械なのか鳥なのかが分からないのがその鳥だった。
鳥は少女の周りをくるりと飛び、彼方の丘の主の下へと帰還する。
鳥の主は、己の肩に止まった鳥の頭を撫でた。
「よくやった、ガルーダ」
《 Extended Please 》
浮かぶ魔法陣が、鳥の主の腕を伸長させる。
100m以上は伸びたその腕が少女を掴み上げ、鋼の大地から少しまともな丘の上へと、少女の体を引き上げていった。
「わっ」
戸惑いながらも、少女は落ち着いた声色で自分を助けあげてくれた青年の顔を見る。
「あなたは……マジシャン?」
青年は優しく少女を降ろし、優しそうな笑みを浮かべた。
「通りすがりの魔法使いさ」
《 Flower Please 》
起動されるは花の魔法。
花を出すだけの魔法によって、少女に花が手渡される。
困惑しながらも花を受け取った少女の心を、花の香りが少しばかり落ち着けてくれた。
荒廃した末期の地球。
花の一輪も無い地球。
既に花が絶えた地球。
そんな地球で、少女を落ち着かせるためだけに作られた、綺麗で可憐な花があった。
「操真晴人。晴人って呼んでくれ。
ここの地球に落ちて来た君の、最後の希望だ」
そう、魔法使いは名乗った。
優男だと、アドマイヤベガは思った。
軽い男だとも思った。
魔法使いと名乗ったあたりに、ちょっと胡散臭さも感じていた。
けれども、不思議なことに出逢ってしまった以上、多少の不思議なことは許容すべきだとも思っていた。
「俺は色々旅してる内にたまたまここに来たような、旅の魔法使いさ。
最近ちょっと『ここ』がヤバいらしくてね。
ちょくちょく他の宇宙から人が落ちてくるらしくてさ。
見張ってもらって、落ちて来た人がいたら、元の世界に連れて帰ってやってるんだ」
ボランティアの救急隊員みたいなものだろうか、とアドマイヤベガは自分なりに噛み砕く。
「可愛い女の子の馬が落ちてくるとは思わなかったけどね」
「……気軽に初対面の女の子を可愛いとか言う奴は、信用しない」
「うん、こいつは失礼した。不快に思ったならごめんな?」
「いい、別に不快ってほどでもないから。あなたはなんでここに来たの?」
晴人は苦笑する。
「友人の形見を静かな場所に埋葬してやりたくて、場所を探してたんだけどさ」
「友人?」
「友人っていうか……大切な人? 俺の片割れ、半身の相棒、みたいな」
晴人の手の中で、綺麗な色合いの指輪が転がっていた。
「ここはちょっと煩くて、死者が穏やかに眠るには騒々しすぎるかな」
上を見上げる晴人。
それにつられて、アドマイヤベガも空を見上げる。
空が割れ、空が切り裂かれていた。
星が消え、星が生まれ、空の星々の並びが次々と変わっていった。
それは星も、星が放ち地球に届く光も、無慈悲に片っ端から消されているという恐ろしい宇宙の戦いを証明する事象であった。
ビッグバンすらも一手段でしか無い多次元宇宙の戦闘が、空というモニターに映し出される、おぞましき宇宙の光景だった。
そんな空の下で、操真晴人は平然としていて、でっかい宇宙の事柄に何の興味も持たず、小さな人の心の平穏だけを気にしていた。
少女の心を気遣い、晴人は笑ってドーナッツを差し出す。
「ドーナツ食うかい? プレーンシュガーしかないけど」
「オグリキャップ達じゃないんだから……」
「オグリ? 友達?」
「……いいから、元の世界に返る方法があるなら、さっさと教えて」
「せっかちさんだな。ま、気持ちは分かるよ。ちょっと待っててくれ」
魔法使いが指輪を付け替え、ベルトにかざす。
指輪を付け替え無数の魔法を使いこなす彼を、人は魔法使い……『ウィザード』と呼ぶ。
彼はウィザード。『仮面ライダーウィザード』だ。
《 Teleport Please 》
広がる魔法陣がするりと二人を飲み込み、アドマイヤベガの"存在に相応しい波長の世界"を検索した魔法が、二人を『ウマ娘の世界』に連れて行った。
見慣れた世界の光景に、アドマイヤベガがほっとした表情を見せる。
「ありがとう」
「ここからなら一人で帰れるか?」
「一人で大丈夫。私は一人で戦って一人で勝ってきた。これまでも、これからもそう」
「そっか。ま、あんま一人でとか、自分だけでとか、気張るなよ」
《 Miracle Please 》
魔法使いの召喚魔法が、魔法使いの内なるドラゴンを呼び出す。
晴人はウィザードラゴンにまたがり、アドマイヤベガに別れの挨拶とばかりに手を振る。
「俺もほら、俺の馬とずっと二人三脚だから、あんま寂しくないからさ」
『誰が馬だ』
ドラゴンが晴人をぶっ叩こうと尾を振るが、晴人はドラゴンの上でひょいと避けた。
「心の中に誰か大切な人が一人いれば、一人じゃない。そうだろ?」
微笑む晴人がいい笑顔を浮かべると、その腰に吊られた
「そうね」
アドマイヤベガが手を振り。
互いが別れの言葉を告げて。
魔法使いが世界の壁を越えていく。
不思議な一期一会の出会い。
不思議な共感を覚えたまま別れた二人は、以後二度と再会することはなかった。
戦うことで絶望に呑まれている人を救う魔法使いにとって、それはとても、とても素晴らしいことだった。