お正月企画三題噺シリーズ・アドヴァンスドサード 作:ルシエド
透真は吐いた。
ルパンブルーこと宵町透真は、うなされていた。
悪夢。
悪夢である。
地獄の悪夢に、透真は本気でうなされていた。
「ううう……ぐうううっ……!」
『操作する/Le contrôle』。
「頑固な無頼漢をも言霊の音色で操ってしまうリコーダー」と語られたこのルパンコレクションを巡る戦いで、透真は信じられないほどの生き恥を晒してしまった。
それこそ、ビルの屋上から飛び降り自殺して地球を踏み砕いてやろうか、という憤怒が湧いてくるほどの恥辱だ。
自殺と殺意が混ぜこぜになって一緒に蒸発するほどの、怒りと恥辱は今も透真の中にある。
そう。
透真は。
ギャングラー・ピョードルのルパンコレクションで洗脳され、大真面目な顔で古武術と思い込まされたエアロビをやらされてしまったのだ!
その恥ずかしさたるや天元突破。
静かな授業中にクソデカ放屁をしてしまう以上の大恥である。
透真はクールキャラで通していただけに、そのダメージは大きかった。
例えば警察の朝加圭一郎ならば「許さん!」の一言で激怒し、ぶち倒し、明日に引きずらず終わる……ということができただろうが。
なまじクールなイケメンをやっていたことが不運であった。
このルパンコレクションは非常に強力なもので、口にした言葉だけで相手を強制洗脳、その心と体の動きを自在に操作するというもの。
「あのバカ以外が持ってたらヒーロー全滅してたよね」と言われるほどのものである。
透真が逆らえないのも当然だった……とも言えるものなのだが。
洗脳されて自分の意志でとんでもなく恥ずかしいことをしてしまったのもまた事実。
これは透真の一生物のトラウマとなった。
事件の直後は、婚約者が目の前で氷漬けにさせられ消滅させられた時の悪夢を見る頻度より、エアロビの悪夢を見る頻度の方が高かったくらいである。
「はぁぁぁぁぁッ!?」
そして、飛び起きた透真は、それがただの夢であったことに安心した。
「ゆ……夢か……」
眉間を揉む。
びっしょりとかいた汗を拭き取る。
顔を洗い、水を拭う。
だが、過去の記憶を拭い去ることはできなかった。
「ふっ……過去を忘れられないのが俺達だと、分かっていたはずなのにな……」
起き抜けの透真の脳裏を、忘れられないトラウマ―――婚約者のこと、エアロビのこと、キツツキ迷言のことなど様々な記憶が駆け巡る。
過去は変えられない。
だがそれも覆す奇跡を求めて、彼はルパンコレクションを集めているのだ。
受け入れられない過去を覆すため、今日も宵町透真は『怪盗』として戦い続ける。
ひゅっ、とそんな彼の部屋に窓から飛び込んで来る、一つの影。
「大変だ大変だぁ!」
「グッティ? どうした、何かあったのか?」
「街中の人達がエアロビを踊ってるんだよぉ!」
透真は膝から崩れ落ちた。
街は大混乱に陥っていた。
街中で開催されるエアロビ。
全てのインフラは停止し、特に街が破壊されるということはなかったが、社会は完全に崩壊してしまっていた。
すなわち、世界の終焉一歩手前である。
「踊れ踊れ! 足腰立たなくなるまでなぁ! はっはっは!」
街中で暴威をもたらすピョードル……蘇ってきた悪夢の前に、誰よりも速く必死の疾走にて到達した透真が立ちはだかった。
「貴様……どうやって蘇った!」
誰よりも速く辿り着いたこと、それすなわち透真の殺意の証明である。
「ワシの亡霊を取り込んだ『不死身の何か』を媒体に……復活したのだよ!」
「不死身の何か、だと?」
「死したワシの怨念を……往生際の悪い何かが吸収した。
そしてワシは、ワシと融合したその何かの力を使い、ワシの笛を取り戻した!
その往生際の悪い不死身の何かを護送していた巨人も、今やワシの洗脳下よ!」
「なんだと!?」
ずずず、と巨人が立ち上がり、その巨体を見せる。
彼の名は(誰も知らないが)グリッドマン。
設定上、現実世界では自在に巨大化し巨人となれる戦士であるが、電脳世界で戦う時は人間の作った巨大化プログラムがなければ戦えず。
人間と融合しているため、人間の体に無理がかからないよう時間等の制限があり。
ボロPCと一体化しているため、エネルギー限界と負荷限界があり。
電脳世界を介して人間を救うため、多くのハンデを背負っている巨人であった。
その制限も、ルパンコレクションに操られ、ギャングラーを媒体に顕現している今は無い。
「なんだあの巨人は……グットクルカイザーVSXより大きい!」
ルパンレンジャーとパトレンジャーが力を合わせた最強のてんこ盛り巨大ロボ・グットクルカイザーVSXは頭頂までで60.3m、装飾含めた前高が69.7m。
グリッドマンが全長70m。
対し、普段透真達が使っているルパンカイザーは46.5m。
グリッドマンは、そりゃもうデカいのだ。
身長70m、体重6万トン。
現実世界では重力操作能力を行使し(電脳世界では使えない)、光速以上の速度で飛ぶ。
活動制限時間はコンピュータワールド内のみと設定されており、現実世界ではその弱点も存在しない最強ヒーロー!
そして、魔力超獣ジュバゴン戦然り、グリッドマンは割と洗脳されやすい。
洗脳笛の格好のカモである。
「貴様らのルパンカイザーもパトカイザーもワシのコレクションでは操れん!
よってワシは大きくなっての戦闘にやや不向きだが……この巨人がいれば話は別よ!」
「くっ」
エアロビを踊るグリッドマンが、透真に迫り来る。
「さあやれ! 巨人よ、街を破壊しろ!
人間界を掌握し、ワシこそがドグラニオ様の後継者となるのだ!
『呂布のようになれ巨人よ』、全てを破壊する巨人になあっ! フハハハハ!」
そしてグリッドマンは、自分を洗脳し命令するピョードルを、踏み潰した。
「フハハハハハギャアアアアアアッー!?」
巨人はハッと我に帰り、ぐしゃっとなったピョードルから何かを回収し、どこぞへと消えた。
「あいつ、本当にバカだな」
呆れた顔で、透真もピョードルの金庫を探る。
解錠(物理)されたグシャグシャの金庫から、奇跡的に無傷の笛のルパンコレクションが発見された。
呂布になれ、とピョードルは言った。
上位者として命令した。
人の心と認識すら操る、笛の力で。
それはつまり。
「『命令してくる上司を下剋上してぶっ殺す』のが呂布だろ……」
そういうことだった。
ほどなくして、透真の仲間達もやってくる。
「透真、もう終わったのか」
「えー、私達することなかったカンジ?」
「ああ。……俺の心だけが、とてつもなく疲れただけだ」
超速攻で問題は解決された。
後に残った疑問は一つ。
「で、あの謎の巨人はどっから来たんだ?」
「知らね」
「知らなーい」
「オイラも知らねー」
結局よくわからないまま、ノエルかコグレさんに聞いてみよう……ということになって、謎の解決は棚上げして、一旦お開き。
透真は自室に戻り、まるで自分に言い聞かせるかのように口にする。
「もう二度と湧いて出るな、エアロビの亡霊が……!」
エアロビの亡霊は何度でも蘇る。
そう……透真が求めるルパンコレクションが、この世にある限り。
それはある意味。人の業そのものと、言ってよいものであった。
ルパンコレクションを求め、ルパンコレクションを破壊できない透真の心がある限り……またいつか、第二第三のエアロビは現れるであろう。
それが、世の条理である限り。