お正月企画三題噺シリーズ・アドヴァンスドサード 作:ルシエド
IFというにはいつも通りすぎる、ちょっと恋愛要素が強いもしもの一幕……に見せかけたいつものヤツ。
絶対可憐チルドレンは、今も連載中だと言うと「え!? まだ続いてたの!?」と言われることが多い。
確かに連載20周年が見えてきている連載期間も原因の一つだが、そう言われることの原因はもう少し他にもある。
『この漫画他にそんなにすること残ってたっけ?』と思う人が、途中で買うのも読むのも辞めると、「あれから何年も経ってるし流石にあの問題は全部片付いてるだろう」と思う。
そうなると、『じゃあ今何やってんだ』という感想が出て来る。
これがあくまで一つの要素ではあるが、「まだ続いてたんだ……」と言われたりする作品の要因ってやつである。
「いつまで続くんだろう」と誰かが言う。
「いや最近も面白い小話的なのあったから!」とファンが言う。
そうして、なんだかんだ多くの人が楽しみながら買い続けて、絶対可憐チルドレンという作品は続いてんのだ。
安定感は抜群なので、固定ファンの獲得とコミックスの継続購入という意味では、今でもサンデー屈指の優等生の一角と言えるかもしれねえな。
で。
この絶対可憐チルドレンのアニメ化や、敵側キャラを主人公にしたスピンオフアニメの脚本やシリーズ構成をやってんのが、東園悟さんと、猪牙慎一さんと言う。
俺の同業者ってやつだ。
つまり、特撮で技を磨いた男達ってことだな。
東園さんはカブタックの中核ライターの一人。
ウルトラマンコスモスにも参加し、最近のウルトラマンルーブに登場した怪獣ブースカの番組ライターとしても参加してる、特撮ライター古参だぜ。
猪牙さんは魔弾戦記リュウケンドー、レスキューフォースのシリーズ構成として参加。
猪牙さんはレスキューフォースで、2008年に一年かけて子供達の心を掴んだ。
それから9年後。
2017年に、子供の頃にレスキューフォースを見ていた高校生が火災現場で「助けて」という声を聞き、燃え上がる家に突っ込んで老人と子供を合計八人助けたとか!
すっげえ勇気だ。
パねえ特撮ってのは、やっぱ人間をヒーローにするパワーがあんのかもな。
だがアニメと特撮の接点、っつーなら絶対可憐チルドレンじゃやや弱え。
それならむしろ秘密結社鷹の爪の方が、アニメと特撮の中間っぽいとこにいるかもな。
鷹の爪はちょこちょこ特撮使ってる実写映画とコラボしてるし、劇場版第九弾では実写特撮で有名なアメコミヒーローとコラボしてっしな。
……劇場版第九弾!?
俺アニメを嗜好してる人間じゃねえけど、いつの間に鷹の爪って劇場版九作も作ってんだ!?
はー。
人気あるとこはすげーな。
九作も映画作れるとか……もう超大手シリーズクラスじゃねえか。
いっけね。
余計なこと考えてねえで、仕事仕事。
「英二」
「ん? 千世子、どうかした?」
千世子が寄ってきた。
いつも綺麗だよなあ、この子は。
「あの男のどこが好きなのか、って聞かれちゃった」
「へぇ、なんて答えたんだ?」
「英二さ、よく寝癖残ってるじゃん。仕事にばっか集中してるからだけどさ」
「? うん、そだな」
「寝癖を見て『だらしない』じゃなくて。
『かわいい』って思えたなら。
それが好きってことなんじゃないかな」
「―――」
轟沈。
俺は轟沈した。
「じゃ、英二の番」
「え、俺の番とかあんの……?」
「採点してあげよう」
「えー、あー、こほん。
テレビの前で見せる千世子の綺麗な笑顔より。
俺だけに見せてくれる笑顔の方が好きで、世界で一番好きかな……」
「85点」
「あ、意外と厳しい」
やめろよお前。
俺に理想的な歯の浮くような台詞が言えると思うか!?
「じゃ、そろそろ夢から醒めよっか。もう十分やる気は入ったでしょ?」
「え?」
「英二君って私に都合の良い女で居てほしくないって願望有るよね。多分」
そんなこんなで。
夢の中でも都合の良い女にならねえ、何を考えてんのか分からねえ、他人を振り回す小悪魔な天使やってた百城さんは、夢の中の俺を叩き起こした。
がばっ、と起き上がる。
そこは見慣れたデスアイランド撮影期間中の宿泊施設。
「はっ……ゆ、夢。夢だった。
なんつー身の程知らずな夢を……百城さんに合わせる顔がねえ」
百城さんはあんなこと言わ……言うかもしれねえが俺には言わねえ!
あー嫌だ嫌だ。
俺がまだ夢にガキみてえな妄想を投影する18歳のガキだって思い知らされた気分だ。
もう少しでいいから自分の無意識も理性で制御できるようにならねえと。
親父は夢を見ながらでも仕事できるやつだったんだ。
あの寝ても起きても仕事できるテクニック、このままじゃ身に着けられる気配がねえ。
「英二くーん、起きてるー? ご飯いこー」
「あ、すみません景さん、ちょっと待っててください」
朝飯のお誘いか。
景さんのお誘いなら喜ん……いや、待て。
この時間だと百城さん普通に飯食ってるな。
じゃあ駄目だ。
今百城さんを直視できん。
俺の方が落ち着くまで待ってよう。そうしよう。そいつがいい。
「今ちょっと百城さんの顔が見れないんで、俺は後で飯食いに行きます。先行っててください」
「そうなの? わかった」
ふぅ。
心情が落ち着くまで仕事してよ。
朝風英二と別れた後、夜凪は茜を誘って朝食を摂っていた。
自分の道を自分のペースでとことん突き進んでいるように見える夜凪だが、毎朝誰かと一緒に食事を摂っているのを見るに、決して孤独ではない。
むしろこの自然と周囲の人を引きつける不思議な魅力こそ、彼女を女優として急速に成長させているものなのかもしれない。
「英二くんが千世子ちゃんの顔見たくないって」
「そーなん? 喧嘩したんかな」
夜凪から、茜に。
ちょっと伝言がズレて伝わる。
「英ちゃんが千世子ちゃんの顔も見たくないんやて」
「喧嘩か何かしたんスかねえ」
茜から真咲へ。
ちょっと伝言がズレて伝わる。
「英二さんチヨコの顔なんかもう見たくないって不機嫌っぽいぞ」
「真咲。人からの又聞きで事実を理解した気になるのは良くないと思うが」
「いやマジなんだって! 茜さんからの情報だしよ」
真咲から烏山へ。
ちょっと伝言がズレて伝わり。
その会話を、百城千世子が聞いていた。
「へー……」
千世子はひょっこり歩いていき、英二が窓際で窓に背を向け作業しているのを発見。
あえてドアの方から入っていかず、冷水で冷やした細い指で英二の首に触れた。
「ひゃっ」
更にすかさず、英二の肩を押さえる。
窓越しに、英二は完全に千世子に捕まってしまっていた。
千世子の口元が、英二の耳元に寄る。
ささやく声が耳の中へと流し込まれる。
「英二君、私の顔が見たくないんだって? 噂に聞いたんだけど」
「か、輝かしい百城さんの笑顔を見たら目が潰れると思ったからで……」
「私に英二君の嘘って通じると思う?」
「思いません……」
「ちょっとお話しよっか」
「はい……」
夢の話は絶対にせず、沈黙を守ることを決め、その秘密を守りきった英二であったが。
他の心情的秘密を守れたかというと、そんなことは全くなかった。
鷹の爪は辛い。バカの詰めは甘い。