不定期更新にはなってしまいますが、完結するまでは続けて行きます!
一旦ビルを登る僕、愛夜、刹那さんの3人で集合した。
「あの、刹那さんの能力ってどんなものなんですか?」
アンチビートチャイルドに所属しているほぼ全員の能力を僕は知らない。知ってるのは会長と愛夜、感連さんぐらいで、電波さんが電気関連の曲、という事しかわからない。だから、このビルを登るメンバーに選ばれたからには、それなりの身体能力上昇系の能力を持っているんだろうなぁ、って推測できるぐらいだ。
「あっ、そういえばまだ全員の歌と能力教えてなかったね。刹那ちゃん、夜空君に教えてあげてくれない?」
「そうね、教えないと作戦行動に支障をきたす可能性が高いわね。良いわよ、教えてあげる」
「私の持ってる曲は『セツナトリップ』だよ。主な能力としては、刹那の時間だけ周りが止まってるみたいなスピードで動けるのわ。そうね、こんな感じよ。」
そう言った次の瞬間には風が吹き、僕の背後には刹那さんが立っていた。事前動作から僕の背後に立つという過程までが全く見えない。僕の視点では、前にいた刹那さんが突然消えたと思ったら風が吹いて後ろに立っていた。まだ瞬間移動されたと言われた方が信じてしまいそうだが、嘘をつかれる理由なんかないので本当に一瞬で移動したのだろう。
「これで理解したわよね?それじゃぁ、問題はどうやってこのビルを登るかよね。」
「はい、本当に動きが全く見えませんでした。ビルの階段を上がっていくわけにも行きませんしね…」
感連さんのテレポーテーションは座標の把握が恐らくできていない、できていたとしても怪物の中にワープしてしまったらそれだけで積みだ。
「それなら、このビル結構凹凸が多いから、そこを足場に力技だけど、一気に駆け上がっちゃおうか。」
たしかに怪物がスイスイと登っていた事からもわかるが、このビルは凹凸が多い。しかし、そこから登ったら登りきる瞬間を怪物に襲われるのでは無いだろうか?
「でもそうすると、登った瞬間を狙い撃ちにされないか?」
「それなら心配不要よ。私が攻撃の瞬間に弾くわ。」
確かにそれなら安全策だ、登りきるタイミングで刹那さんが能力を使用し先行、その後僕たちが安全に登りきる。こうすれば比較的安全に登りきれるだろう。
「そういうことだから心配しなくていいよっ!会長たちから合図が来るまで待ってよっか!」
……数分後、会長からの合図が来る。
『ビルの包囲は完了した。愛夜君、刹那君、そして夜空君、危なくなったら飛び降りるんだ。では、3人の健闘を祈る。』
「よし!合図が来たから登り始めるよ!先行は私が、次いで夜空くん、刹那ちゃんの順番で登っていこっか。最悪私は落とされたりしても死なないからねっ!」
キャピーン!と音がしそうなほどのウィンクを華麗に決めると、体から影を伸ばして器用にビルの凹凸を使い登り始めた。愛夜に置いて行かれないように、僕も身体能力を強化する事で足場を蹴り、ジャンプをしながら追従する。
そろそろ愛夜がビルを登りきろうとしたとき、僕の後ろを瞬間移動をしている様な速度で着いてきていた刹那さんが加速して、僕と並ぶ。
「今から先に登って愛夜さんのサポートに回ります。貴方が登りきるときも支援に回りますので、安心して登りきってください。それから、多少の瓦礫が降って来ることが予想できます。できる限り自力で回避してください。」
と、言い残すと僕を追い越していった。
「避けろって…この足場でどうやってやるんだよ…」
そうつぶやいた途端に、上の方から「スパァン!」と、弾けるような音がしたと同時にビルが細かく振動して、砂埃が降ってくる。どうやら上では既に戦闘が始まったようだ。
「やべっ、早く登りきらねぇと…」
その時、先程の衝撃の振動で割れたのだろうか、窓ガラスの破片が降りそそぐ。狭い足場、両手は壁に張り付いているので、避けることも迎撃することもできない。ガラス片が目に入らないように目を瞑る。
「そのまま登りきりなさい。」
耳元で刹那さんの声がした、と思って目を開けると、僕の近くだけガラスが降ってきていない。
ほんの一瞬で僕に当たりそうなガラス片だけを全て弾き飛ばしたってのか!?だが、何度も頼るわけにはいかない。脚に力を込め、残り少しの高さを数度のジャンプで登りきった…
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(???サイド)
派手な戦闘音が鳴り響くビルからかなり離れたビルの屋上、双眼鏡を構えた男と暗がりでシルエットがよく見えない人影が佇んでいた。
「ずいぶん派手におっぱじめやがったなぁ!どうするよ先生、こっちから仕掛けるか?」
双眼鏡を持った男は振り向きざまに問いかける。
「いや、私は何もしないよ、彼女には最後まで見ていると約束したからね。セツナ君が加勢するというなら、止めることはないし邪魔をする気もないさ。私には君の決断をとめる理由など無いのだからね。」
問いかけられたシルエットの主は本当に興味が無く、結末がどうなっても関係無いかのように返す。
その様子に呆れたように、男、セツナは視線を双眼鏡に戻し戦闘を眺める。
「もうちょい興味持とうぜ、先生がけしかけたんだろ…」
「”けしかけた”とは人聞きが悪いな、私は彼女の背中を押して一歩足を踏み出すのをサポートしたに過ぎないのよ。」
「それを世間一般では”けしかける”って言うんだよ。お!珍しく刹那がサポートに回ってるじゃねぇか!行かせて貰うぜ先生!」
セツナは双眼鏡をかなぐり捨て、ニヤァっとした邪悪な笑みを浮かべる。そして次の瞬間にはその場から掻き消えていた。
一人だけになった人影はやれやれ、といったような様子を見せた時、月明かりが照らし出す部分に翼を生やした少女が降り立った。
「おや?
「……………」
少女は初めから聞こえていないかのように沈黙を貫き、ただ戦闘が行なわれているビルの一点を凝視していた。
「相変わらず無口ですか…ま、良いですけどね。くれぐれも邪魔だけはしないでくださいよ。セツナ君とは違って貴方が出るとパワーバランスが完全に崩壊してしまいます。それでは彼女の復讐は果たされませんからね。」
「……」
再び無視、というよりは集中しすぎて周りの声が聞こえない、といった言葉が似合いそうなほどに凝視を続ける。
重苦しい沈黙が辺りを支配する。月明かりが雲で遮られ、次に出た時には少女のみが消えていた…
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登りきったビルの上。そこは先程とは打って変わって静かな空間であったが、その分謎の重圧に押しつぶされそうなほどの緊張感が張り詰める。愛夜が怪物に向けて振り下ろしたであろう鎌を2本指で男が受け止めていた。
庇われた側の怪物には無数に切り刻まれた跡があり、片膝をつきながら肩を上下させながら荒い呼吸をしている。
愛夜はこれ以上押し込めないと思ったのか、漆黒の闇で作られた鎌を弾けさせ、鎌は形を弾丸のように変えて囲むように男に襲いかかる。
「おわっとぉ、あっぶねーなぁ!」
弾丸は確実に男を捉えたように見えたが、弾の収束点は男の一歩前をすり抜けるような軌道でズレ、外れる。
いや、愛夜が狙いを外して外れたんじゃない、当たると思った瞬間に一歩後ろに下がる事でかわしていた。その避け方はまるで刹那さんとよく似た能力を使ったようだった。
「何しに来たのさ、セツナ!貴方が邪魔をするなら本気でトドメを刺しにいくよ!」
どうやら男は愛夜の昔の知り合いのようだ。鎌を受けていたことから薄々気づいていたが、彼も能力者の類だろう。
刹那さんと名前が同じだが、何か関係でもあるのだろうか?
「そんなカッカすんなよ愛夜ァ!昔の仲間のよしみじゃねぇか。お!そっちにいるやつは見たことねぇな、新顔かぁ?」
男改め、セツナの立っていた位置と僕が立っていた位置はかなり離れていたはずだが、一瞬で僕の前に現れた。
「なっ!」
いきなり距離を詰められたので警戒心を強める。さっきも思ったが能力がやはり刹那さんと似ている。
ちょっと試してみるかぁ、死ぬんじゃねぇぞ新顔!」
セツナは舌舐めずりをするかのような動作をしながら足を一歩前に踏み出す。
「夜空君逃げて!」
愛夜の叫ぶ声が聞こえるが、それより早く腹に雑なヤクザキックが迫ってくる。避けれるような速さではなく、後ろには下がれない。飛び降りれば逃げられると思うが、大丈夫と言われてもこの高さから落ちるのは怖い。なので、右手の拳をヤクザキックに合わせて叩き込む。ビリビリと痺れるような反動が腕にくるが、直接蹴られるよりかはだいぶマシな結果だろう。
「面白れぇなお前、おっとぉ!」
先ほどまでセツナがいた位置には刹那さんが振り下ろした鉄の棒が突き刺さっている。避けていなかったらスプラッタな光景が広がっていただろう。
「これ以上好き勝手にはさせませんよ先輩!」
「ようやく出てきたかぁ!待ってたぜぇ、刹那ァ!嫉妬しないでくれよぉ、俺の目的は最初からお前一人だけだぜぇ!」
唐突に刹那さんがビルから吹き飛ばされた。手に持っていた鉄の棒は真ん中から歪み、いかに強い衝撃だったのかが見て取れる。
だが、セツナが蹴り抜いた姿勢で立っている事から蹴りで攻撃して、刹那さんが防いだ事はわかるが、先ほどとは違いその蹴りは全く見えなかった。
そしてセツナの姿が消え、強い踏み込みから地面が陥没する。同時に刹那さんも加速、二人の姿は掻き消え、あたり一面には激しい戦闘音が響き渡るが、姿を捉えられるのは刹那さんが加速のクールタイムに通常速度に戻る時だけで、セツナに至ってはクールタイムが無いのか、目視することができない。
「刹那ちゃん!頑張って耐えて!こっちの怪物片付けたら加勢するから!」
状況は最悪だ。散弾のようにばら撒いている闇は尽くが怪物に砕かれ、逆に怪物の一撃はその風圧だけでビルから吹き飛ばされそうなほどに苛烈を極めている。
戦力は分断され、動ける人員は僕一人。
つまりこのどうしようもない状況を変えれられるのは僕しかいないのだが、怪物に接近戦を挑んだところでこちらは一撃貰えばそれでゲームオーバー。かと言って目に見えない速度で戦っている状況に参加することは無理だ、足手まといになる。
……いや、違う。
ここで前に出なければ、きっと一生そのままだ。
逃げ続けていては何も成せない。誰かに頼りっきりで前に進めなくなってしまう。そんな感覚が不思議とあった。
前に進もう。そう思った瞬間、何かに突き動かされるように体が前に動き始める。
接近してくることに気がついた怪物が拳を振り抜くと、ひび割れたコンクリートの礫が流れ星のように降り注ぐ。しかし、それらが最初から外れる事が決定されていたかのように当たらない。
その間にも体は前に進み、まるで誰かに背中を押されているような感覚で、時間にしてコンマ数秒、身体強化を遥かに上回った速度で怪物の懐に転がり込む。
手を引かれるかのように拳を前に突き出す。
「せつなァ!誘い込みやがったなテメェ!!」
しかし、拳が捕らえた感覚は想像していた無防備な怪物のそれではなく、ガードされた部分を殴った時のものだった。
だが、そんなものは関係ないと拳を振り抜く。
鈍く肉を叩く音と轟くような轟音。
殴りつけた衝撃で隣のビルの中腹まで真っ直ぐに怪物が吹き飛び、突き刺さった……