ロイド・ミュージック症候群   作:羽倉

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能力の覚醒

真っ赤な花弁が無残に散らばった…

 

生暖かい血が僕の頬を赤く濡らす

 

「なんで?なんで君がここにいるんだよ!」

 

そこには先程逃した筈の少女が僕の身代わりとなって異形の怪物に体を足から貪り喰われていた。

 

「あなた…だけは……に…げ…て……」

 

最後にそう言った少女は怪物の腹の中に収まる。

 

ーニヤリー

 

怪物の表情がわかるわけでは無いが確かに奴はその瞬間、「次はお前の番だぞ」と言うかのように笑った。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!お前だけは!お前だけは許さなねぇ!」

 

頭の中で何かがぷつんと切れて視界が赤く染まり、思考が怪物を殺す事以外の情報が全て排除される。

 

(あんな太い腕を持ちながら動きが素早い。まずは機動力を削ぐ為に足に攻撃するべきだ。まるでゲームのように、弱点とそこに攻撃するまでの軌道が見える!この軌道をなぞればいいんだな。)

 

怪物の剛腕をかわすようにスライディングをしながら後ろに回り込む。

 

「これはさっきお前が食った彼女の分だ!」

 

そう言って怪物の足に蹴りを入れた。ーゴキッーと嫌な音がして怪物の足が砕ける。

 

「グオオオォォォ」

 

痛みに耐えかねたのか怪物が膝をつき口からは悲鳴が漏れる。

 

「ハハハハハ!おいおいおい、さっきまでの威勢はどうしたよ?もう終わりか?なら、もう片方も壊してやるよ。」

 

 ーベキッー

 

 再び鈍い音をたてて足が砕ける。今度は完全にバランスを崩して地べたに這いつくばった

 

 それでもまだ怪物の心は折れていなかった。怪物に心なんて物があるのかは知らないが、まだ俺を殺す事を諦めているわけでは無いようで、目で睨みつけられている。

 

 「睨むだけで動かないのか?何もしないなら、次は腕を壊させてもらうぜ!どうした?みっともなく抵抗してみろよ!」

 

 腕に蹴りを入れようとしたとき怪物が動いた。踏まれるはずだった腕を庇うかのように横に転がる。夜空(よぞら)に踏まれたアスファルトはひび割れ蜘蛛の巣のような亀裂が走る。

 

 「ガアアァァァァァァァ!」

 

 最後の力を振り絞り砕けた足で地面を踏みしめ、怪物は目の前の敵を排除しようと拳を叩きつける。そのまま相手がミンチになるように、何度も何度も念入りに拳を叩き込む。

 

 「うるせーんだよ。いい加減、鬱陶しくなってきた。これがお前の反撃か?全然痛くないんだが……お前力入れてんのか?」

 

 怪物は化物を見るような怯えた目でミンチにしたはずだった敵を見る。そこにはボロボロの制服を着て舞い上がっていたホコリを被っているが、全く体に傷がない無傷の少年が立っていた。

 

 「あーあ、お前のせいで制服がボロボロになったじゃねーか!」

 

 「グッ、」

 

 睨まれた怪物は怯んだように後ずさる。アレには勝てないと悟ったのか、素早く体を反転させると、足を引きずりながら撤退を始めた。

 

 「逃がすかよ!」

 

 が、そうは問屋が卸さない。引き離した距離を一瞬で詰められ進路を塞がれる。そして次の瞬間に起こった事を怪物は理解する事すら出来なかっただろう。わかった事と言えば起こった事による結果、頬に熱した鉄の棒を当てられたような激しい痛みと、先ほどまで進んでいた方向と逆向きに自分が進んでいる事から、攻撃された事程度しかわからないだろう。

 

「ギャアァァ!」

 

 「なぁ、こんなセリフがあるのは知ってるか?サッカーしようぜ!お前ボールな。ってセリフをな!」

 

 怪物を蹴り上げる事で宙に浮かせ、格ゲーのハメ技のようななめらかな繫ぎで、絶え間なく攻撃を入れる事によって抵抗する間も無く壁や地面に激突し、あっという間に体中は血で染まり、ところどころ骨折しているのか凹んでいた。

 

 「グ……グフッ…」

 

 怪物はもう立ち上がる体力も気力も無いのか、体を仰向けに倒して浅い呼吸を繰り返す。

 

 「哀れだな、舐めてた相手にボコボコにされるなんて。お前なんかに殺された女の子が可哀想だ、もう死ねよ。」

 

拳を握りしめて怪物の脳天にトドメの一撃を入れようとしたが既に事切れていた。死んだ怪物はまるで最初からこの世界に居なかったかのように、存在がだんだん薄くなり最後には消えた。後には怪物の胃の中に居たであろう少女のバラバラになった遺体だけが残った。

 

 それを見た途端赤く染まっていた視界が正常に戻る。そして思わず胃の中のものを吐き出してしまった。

 

 「うっ、ハァハァ……彼女の遺体どうしよう。このまま放っておけないし、警察とか救急車とか呼んでもこんな状況で来れると思わないし、まず信じてもらえないだろ……埋めるしかないのかな。」

 

 すぐそばにあった雑木林に遺体を持っていき、管理の為の物置に立て掛けてあったスコップを借りて穴を掘って埋める。

 

 「絶対にこの事件が終わったら家族のところに連れて行くから、それまでここで待っていてくれよ。」

 

 そう言って目印となるように石を置き、手を合わせる。そうしてしばらくしてから服に着いた土を払い友人に預けたカバンを取りに戻る。

 

 「だいたい40分くらい経ったかな。アイツ待っててくれると良いんだけど。」

 

 戦闘の余波で壊れなかった時計を見ながら走っていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 夜空が立ち去った後、少女が埋められたはずの場所から腕が生えていた………

 

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