いつかルシファーを一発殴るために   作:ぱせり

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 今でこそフェードラッヘ出身ヒューマン五歳女児である俺だが、生前は日本生まれの成人男性でした。職業とか年齢は聞かないで。あ、勿論騎空士です。rankは175くらい。まだまだゴリラには程遠いけど、チンパンジーくらいには成れたかなって程度。

 そんな()が何故、グランブルーファンタジーの世界の記憶を持っているのか。

 それは俺をこの世界に引きずり込んだ諸悪の根源、そして唯一無二の友であった星の民であるルシファーが全ての元凶だった。

 

「順を追って確認していくぞ。俺はあいつに召喚された召喚獣、召喚目的は未来を識る者。選ばれた基準はなし。偶然俺だった。OK?」

『相違ありません』

「ゲームの世界観とか何千年先の話しか知らない俺じゃ殆ど意味がなかった。けど帰れないし仕方ないからあいつの助手みたいな立場になって一緒に暮らしてた。そこで魔法を覚えたり星晶獣とか作ったりした。お前は記念すべき俺の第一作目。合ってるよな?」

『光栄です、マスター』

 前世の俺がルシファーと試行錯誤しながら作った機械知生命体、そして聖晶獣のプロトタイプとなったこいつだが、本体核は目の前の義体ではなく俺のスマホだったりする。聖晶獣が島と契約するのと同じく、こいつは島ではなく戦艦を母体として自由に航行できる仕様だ。もちろん本体核は戦艦に隠されている。先程まで俺達が覗き見ていた巨大な球状の物体だが、今だからこそわかる、あれは艦の一部に過ぎない。大部分が崖どころか地中に埋まっているのだろう。

「その俺至上主義なところ、初期は無かったはずなんだけどなぁ……なんでこんな成長しちゃったんだろ。まあいいや。後はなんやかんやあいつらとお前たちと楽しく暮らしてた。俺の記憶は大体そんな感じ。自分の最期とかも全く覚えがない」

 この身体に生まれ変わっているということは、生前の俺は死んだのだろう。まさか肉体だけ保存されているということもあるかもしれないが、魂がここにあるのだからそれはもう俺ではない。相棒が俺を主認定していることからも確信できる。

「で、今の俺はフェードラッヘで生まれたヒューマンの五歳児。それも女の子なんだな~……ははっ、どうしよう?」

『淑女教育を希望されますか』

「いらん」

 飯屋の娘がそんなの覚えたって何処で披露する機会があるってんだ。というか、俺が目覚めなくてもこの娘は結構な男勝りでお転婆だ。将来的にお淑やかに育つことは確実にない。断言できる。

「生前の俺はこの身体に生まれるって知ってたのか?」

『――ERROR:code00』

「これもダメなのかよ!?」

 子供の身体は我慢が効きにくいのか、俺は衝動のまま地団駄を踏んだ。許して、このやり取り既に両手の数を越えてるの。

 アイの【ERROR:code00】とは管理者権限によってブロックされている機密事項だ。勿論、管理者とは俺のこと。じゃあ何で解除出来ないのかって? 生前の俺がパスコード変更してるからに決まってんだろぉおおお!!

「マジ死ねよ俺」

『既に死んでおります、マスター』

「マジレスやめて」

 とまあ、こんな感じで先程からずっと生前の俺とルシファーについてを探る応酬を繰り広げているのですが、戦果は全く得られておりません。俺ってばそんなに恥ずかしい最期だったの? めっちゃ気になるわ。どうせ知るのも俺だけなんだからよくないか。ダメですか、そうですか。ケチー!

「じゃあこの質問で終わりにしよう。俺とティポルトは崖上から真っ逆さまだったはずだ。俺が此処で目覚めるまでの経緯が欲しい」

『イエス、マスター。マスターの魔力を感知後、落下中のお二人を転移にて艦内に収容。ハーヴィンの児童には機密保持の為に睡眠魔法を掛けてあります。マスターにはご説明した通り記憶転写の施術を、以上になります』

 崖から紐なしバンジーが何故五体満足なのかは解ったけど、俺の頭痛が……まさか、頭開けたのか!? うへえ、怖くて聞けねえ。

 切り替えていこう。アイは俺の魔力を感知したと言っていた。しかしこの身体は魔法を使ったことがない。よって魔力の操作も出来なかったはずだ。火事場の馬鹿力で魔力が出たのか、それとも元から垂れ流し状態だったのか。

「というか、俺が使い方を完全に忘れているせいで魔力の確認ができねえ」

『マスターは私をお造りになられてからご自分で魔法、魔術の類を使用する頻度が滅多にありませんでしたから』

「生前の怠慢が来世で響くなんて思いもよらんだろ……!」

 今度は項垂れる俺に、相棒がそっと肩を叩く。顔を上げれば優しく右手を取られ、人差し指に細身のシルバーリングが嵌められた。ああ、そういやこんなの着けてたな。

『マスター、使い方は覚えておられますか?』

「それはもう、魔法の使い方をさっぱり忘れるくらいにはお前が便利すぎて染み付いてる」

『光栄です、マスター』

「だから喜ぶなよ……」

 過去にルシファーも認める最強の装備を手に入れた俺は、そろそろ戻ることにした。何より時間がヤバイ。昼の鐘が鳴ってからすでに一時間以上経過している上に、置いてきてしまった友人二人の行方も気になる。

 外の様子をアイに聞けば依然として騎士団が取り囲んでいるとのこと。子供らしき生体反応も傍にあるので迎えにいくのは確定だ。この艦はステルスモードで街の近場、人のいないところに停泊してもらうことで話が纏まった。

 ティポルトを背負った俺が「じゃあ行ってくる」と軽く手を上げれば綺麗なお辞儀でアイが見送ってくれた。一瞬の暗転、足が地に着く感覚と同時に目の前の景色が変わる。ご丁寧にも人がいない森の中へ転送してくれた相棒の気遣いに感謝しつつ、俺は友人たちが待つ騎士団の元へと歩き出した。




古戦場本戦一日目お疲れ様でした。明日も頑張ろうな。

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