いつかルシファーを一発殴るために   作:ぱせり

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「無事で……ぐすっ、よ゛がっだ……」

「もぅ心配したんだからぁ~!」

 森の中から現れた俺達を見つけた友人たちは大人の囲いを振り切って一目散に駆け寄ってきた。熱い涙の抱擁、オマケに鼻水付き。ちなみにティポルトを背負っている俺に彼らを剥がす術はない。両手が塞がっているからね。

『対象を排除しますか』

 止めてください大切な友人なんですううう!

 脳内に響く相棒の(アナウンス)に内心で特大の×印を掲げる。危ねー……少しでも不快に思うとコレが発動するの忘れてたわ。

 先程渡された指輪は相棒の端末、これを肌に身につけることによって俺とアイは精神感応常時接続状態となる。離れていようが脳内でやり取りが可能、というか隠し事が一切できない。機械がいくら記録しようが俺しか閲覧できないならと、大雑把な俺が製造前にお気楽に決めたことでその後一生のプライバシーを捨てることになるとは思いもよらなかったぜ。

 詳しい原理は忘れたが、ルシファーの真理の真髄がつまった超一級品であることは間違いない。相棒の主至上主義は俺に関する肉体、精神問わず全てに及ぶ。便利な自動防衛機能な反面、外敵判定されると問答無用で排除されてしまうのが悩みどころ。過去幾度となくこの過保護に困らされてきたものだ。

 いくら記憶が転写されたからといって全部が全部飲み込めている訳じゃないのがよくわかったよ。徐々に思い出していかないとな。

 そう、思い出す……思い出しちゃったんだよなあ……。

 友人たちの隙間から見える、遠く離れた騎士団の密集する一角に目立つ赤の甲冑。遠目からでも目立つ鮮やかな赤髪をじっと見つめていると、それを見逃さない相棒の自動フォーカスが入った。

『対象周辺の音声をピックアップします』

「――シヴァル副団長、捜索対象二名の児童が見つかったようです」

「よし、森へ散った捜索班の回収を急がせろ。日没までに王都へ戻るぞ」

「イエッサー!」

 間違いなく炎帝さんですね。ってことは王様まだ生きてるのか。うわー、今本編の何年前なんだろ。パーさんの年齢がわかれば逆算できるよな。ちょっと声掛けてこようかな。

『それは所謂“ナンパ”ですか』

 下心なんて無いから! 誰だよお前にそんな言葉教えたのは!? 俺しかいないよなサーセン!!

 いや待てよ、幼女が「おにーさん、何歳?」って聞くのはセーフなのでは……? そうだぞ俺、外見のアドバンテージを存分に生かしていけ。

『マスター、ご友人が返答を急かしています』

 途端に音声が切り替わり、友人の大声が鼓膜を強打した。

「聞こえてる!? 喋れないの!? 何処か怪我したの!?」

「っごめん、今聞いた……何だった?」

「何それ!? 大丈夫なの!?」

「五体満足ですのでご心配なく」

 ゴタイ……? と意味がわかっていないミリィに笑って安心させてから、二人の監視役だろう少し離れた位置に待機していた騎士へ頭を下げた。見守ってくれていた騎士は溜息を吐いてから「お説教は帰り道で。耳にタコが出来るのを覚悟するように」と告げて、背負ったティポルトを受け取ろうと手を伸ばしてくれた。それにお礼を言って断る。腕が辛くなったら言うんだぞと素直に引いてくれたこの騎士は良い人だ。普通の幼女じゃとっくに疲れてギブアップしているだろうが、今の俺は相棒の補助があるのでハーヴィンの子供一人背負うくらい朝飯前だったりする。それよりも聞きたいことが山程あるので質問タイムといこうじゃないか。よーし、早速幼女パワー全開で媚びていくぞ!

「ねえねえ騎士様、あの大きいのは掘り出してどうするの?」

「君たちが知ることではないよ」

「じゃあ、あれが何かわかったの?」

「それを調べるために我々が調査にきているんだ」

 推測だが、地表に飛び出ている僅かな一部分だけでは何も解らなかった、ということかな。

 それもそのはず。アイの母艦はこの時代では明らかなオーバーテクノロジーだ。移動することは決定していても、人目が消えてからでないといけない。聞けば帰還する部隊とは別に保護を目的とした常駐部隊もいるらしい。早いとこ隠さないとマズイのだが、かといって一夜のうちに消えても問題になるし。

『問題にさせなければよろしいのでは』

 と、いいますと?

『この場にいる全員の記憶を改竄します』

 止めた所で脳の足りない今の俺じゃあ代替案もないし、お任せしちゃおうかな。

『イエス、マスター。昔から面倒臭がると私に一任するところはお変わりありませんね』

 頼れる相棒を持つと主人は怠けるの。俺がこうなったのはお前のせいよ?

『光栄です、マスター』

 

 

 ◇

 

 

 眼の前に広がる人間の海は中々に圧巻である。いつの間にここは戦場になったのか。自白すると犯人は俺です。ごめんなさい。

 相棒へGOサインを出した次の瞬間、糸が切れたように騎士たちはバタバタ倒れていった。甲冑の音がすげえ響いてちょっとしたホラーだったぜ。

 何が起きたかもわからず仕舞い、敵襲だと声を上げる暇もなく落ちる超速攻性。人体には無害な催眠ガスを魔法で散布しただけですのでご安心。友人たちだけは俺がゆっくり地面へ寝かせる特別待遇です。そんな人海の中、剣を支えにこちらへ殺気を向ける人影――間違いなくパーシヴァルだろう、赤髪の騎士が吠えた。

「貴様、一体何をした!?」

「ちょっと眠ってもらっただけですよ。安心してください。危害は加えませんし、周囲の魔物も認識阻害を一帯に張り巡らせているので危険はありません」

「そんな言葉が信じられるか!!」

 まあ、その通りだろうな。向こうからしたら怪しい子供の姿をした魔物にしか見えないだろう。それも知能を持った上位の、更に人質付き。なんだかラスボスにでもなった気分だよ。

『濃度の設定ミスです。申し訳ありませんでした』

 いやいや、子供もいるんだからあんまり強いと害が出るし。これが最善だったはず。多分だけど、パーシヴァルはイイトコの貴族出身だし魔法や毒に耐性があったりするんじゃないかな。それに、タイマンのこの状況は俺にとって逆に都合が良かったりする。

「っと、その前に……」

 今にも一戦始まりそうな気配があるので、先に友人たちの安全確保だ。ちょちょいと三人の記憶をいじって、今日の俺達は山の中を走り回って遊んでいたということにしておく。いつもの空き地は周辺に憲兵の詰め所があるのでこのまま転送しても問題なかろう。遊び疲れて寝てしまったという考えに至るはずだ。俺だけいなくても、忘れ物をして取りに戻ったのかなと思ってくれるだろう。後は転送先で巡回の警邏が見つけて起こしてくれる。

『対象範囲設定完了、転送します』

 音も立てずに姿を消した子どもたちを見たせいだろう、パーシヴァルが勢いよく突っ込んでくるのが視界の端に映った。常人である俺にはそこまで脳が理解する頃にはすでに相棒の自動防御が発動して剣を防いでいた。

「子ども達をどこへやった!?」

「街へ送っただけですって。危害は加えないって先程言いましたよね?」

 滝汗をかきながら鬼の形相で剣を振り下ろす姿勢で止まっている成人男性とか、いくらイケメンでも普通に怖いわ。普通に会話しているように見えるけど俺の膝今すげえ笑ってるから。もうガックガクだから。辛うじて被ってた猫も剥がれ落ちそう。というかもう無理。

『対象を排除しますか』

 そういう物騒なのいいんで、さっさと片付けて帰りたいです。あーでも、パーシヴァルには聞きたいことあるしなあ。

 どうするべきか、考えている間に圧し斬れないと判断したパーシヴァルが間合いを取って下がった。

「此処にいる者たちをどうするつもりだ!」

「どうもしません。調査団は遺掘品の調査に来たはずがいつのまにか船が消えていた、その捜索をしたが見つからなかったと城へ報告を持って帰るだけです」

「貴様に従う理由はない!」

「ははっ、理由もなにも」

 今まで見てきた記憶がなくなるんだから。そう言おうとして、ふと思いとどまる。

「そうだな、面白そうだから貴方以外の記憶を消してあげましょう。自分以外がこの惨状を覚えていなくて、そして信じてもらえない。副団長、勤務中に居眠りは感心しませんね。なんて言われたりして」

 俺今すっげえ悪役な気分半端ない。猫がいなくなって魔王降臨しちゃったか。もう取り繕えればそれでいいや。チビらないだけマシ。

「安心してください、全員傷は癒やしてから送り届けます。今日は意地悪してすみません。私は城下の大衆食堂の女将の一人娘ですので、よかったら食べにきてください。お詫びに奢りますよ」

 なけなしの笑顔を浮かべて指パッチン。演出は大事だよね。そして目の前の脅威は膝から崩れ落ちていった。相棒の鑑定(スキャン)では意識混濁状態と出ている。まだ抵抗(レジスト)できるのかよ、すげえな炎帝。

 倒れ伏したパーシバルに近づき、その綺麗な赤髪を撫でる。いい夢が見れるようにおまじないを掛けながら。

「おやすみ、パーシィちゃん」

 今度こそ浸透していった睡眠魔法がしっかりと彼の意識が落ちたことを確認して、俺は大きく息を吐いた。

 

 

 ◇

 

 

 今日は大変な一日だったなと、文字通り人生の転換期を乗り越えた俺がようやく帰宅できた嬉しさに「ただいま」を大声で宣言した瞬間。振ってきたのは母親の拳骨でした。本日二度目の頭部負傷に悶絶して転がる俺に頭上から母親のお叱りが飛ぶ。

「こんな時間まで何処ほっつき歩いてたんだい、この馬鹿娘! これから明日の仕込みがあるってのに。遊んだつけは払ってもらうからね」

 痛みに唸りながら「へーい……」と気の抜けた返事をして立ち上がる。ちなみに玄関を跨ぐ前に相棒へは家族からの接触は全て白判定を出すように設定済み。うちの親は鉄拳制裁教育なので絶対こうなると思ったんだ。

「あ、そうだ母さん。この前火傷したところ見せて」

「なんだい突然」

 いいから、と無理やり腕を引っ張って手を見る。常に厨房に立つ母親の手は職人といえば聞こえはいいだろうが、決して見栄えのよいものではない。油ハネの火傷、水仕事の皹、包丁の握り胼胝など。その中でも先日つけた火傷の痕は大きく残った。子どもの目でもわかるそれに、常々気を揉んでいたのだ。

 もう痛くないからと手を引こうとする親を両手で握りしめて止める。小さな子どもの両手でも包みきれない親の片手だが、俺の治療魔法ならそんなの関係ない。

 対象は手……いや両手……もう面倒くせえ、全身治しちゃえ。

 握った端から漏れる淡い光はどことなく暖かく、やがてそれは母親の全身を覆う。五秒にも満たない奇跡は母親が驚く間に終わった。念のために手をひっくり返して自分の目で確認。うん、傷一つ無し。

「はい、おしまい」

「ちょっ、あんた一体どこで魔法なんか…!」

「細かいことは気にしない気にしない。それより手伝う前に着替てくるね」

 ぽかーんな母親を尻目に俺は自室へと走った。良いことをしたと自己満足した俺は、そうだ他の皆にもやってあげようと安直な思考で今度は祖父母へ突撃。そして今度こそ何処で習ったと家族から問い詰められて早まった行動をしたと反省するのだった。




古戦場お疲れさまでした。今度は四象ですね。過去のクロム鉱が山程きたので取るのに必死です。
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