目の前に上がった巨大な水しぶき。それを見て僕は勝利を半ば確信していた。
しかし、円からの反応を感じて、その確信は間違いだとわかった。
(この反応はなんだ…?)
円からの反応、それは二つあった。一つは自身の父であるカオルのもの、しかしもう一つは…
「まさか、これまで出さざるをえないとはな」
水しぶきがやんだ。そしてそこから現れたのは、巨大な一頭の生き物だった。
蛇のような長い体、いくつもの翼をもち、トカゲのような白い鱗を持つその生き物は、龍と言い表すのが正しいだろう。
「カオルよ。ワシを呼び出したんだ。それ相応の相手なんだろうな」
目の前の大きな龍は、口寄せしたであろうカオルに向け、そう重々しく言い放った。
「いやぁ実は…息子との模擬戦をしてまして…呼び出さざるを得なかったと言いますか…」
カオルは珍しく歯切れ悪く話している。
「息子だと?お主、自分の息子と殺し合いでもしたいんか」
「殺し合いとかじゃなくてですね…そうしないと後がなかったといいますか…」
あのカオルがめちゃくちゃ下手に出ている。それを見て少しの失望感を覚える。
「父さん、その龍は?」
「おお!よく聞いてくれた。この方はオレが口寄せ契約している嵐龍のアマツ様だ」
龍との口寄せ?そんなものは聞いたことがない。いやそれよりも…
「口寄せする暇などなかったはずですが?」
円による感知、それによるとカオルは印を結んだりはしていなかった。まさか、自分と同じ無印忍術なのだろうか。
「あぁそれはな。これだよ」
そういって見せたのは右手の手首、そこに巻かれた包帯には、何やら術式が刻まれていた。
「あらかじめ口寄せの術式を書いておくことで、チャクラを流して口寄せできる。まあ、一種の裏技みたいなもんさ」
なるほど、つまりあれが父さんの奥の手ってわけか。それなら…
「ここからが本番、そういうことですね」
次なる攻撃に向け、チャクラを足に集中させる。そして一歩踏み出そうとしてーー
「いやいや!模擬戦はここ終わりだ!これ以上はお互い無事では済まないだろうからな。」
盛大に肩透かしを食らった。
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今は戦いも終わり、木陰で休憩しているところだ。
「まさか、ナギサがここまで強くなっているとは…最後は本当に危なかったよ」
カオルは冷や汗をかきながら言う。
「そんなこといって、本気なんて出してなかったくせに…それにこんな奥の手があるなんて」
僕はそう言って近くにたたずむ龍ーーアマツの方を見る。見れば見るほどにその威圧感が感じられ、内心、模擬戦があそこで終わったことに安堵していた。
「忍とは常に奥の手を残しておくものだ。それにしてもアマツ様まで呼ぶことになるとは完全に誤算だったがな」
そう話していると、アマツがこちらへ近づいてくる。しかし翼を広げてるだけで羽ばたいている様子はないのだが、どうやって飛んでいるのだろうか。
「ああ、あれは風遁の応用だな。嵐龍であるアマツ様はあらゆる風遁術を使いこなすお方だ」
なるほど。名前に負けないぐらいすごい龍ってわけね。それにしても、そんなの口寄せするとか大分大人気ないな。
「カオルよ。坊主をわしらに預ける気はないか?其奴、仙術の才能がありそうだ」
それを聞いて驚くと同時に嬉しく思った。仙術といえば、割とチートな能力である。それの才能があるなんて。
「そうは言ってもですね、ナギサはまだアカデミー生です。仙術の修行にはまだ早すぎますよ」
「なんと、そうであったか。ちっこいとは思ったがそれほどとは。ならばもう、ワシからは用はないのォ」
残念。仙術はお預けらしいです。まあ習得に時間がかかるらしいし、来年からは下忍になるしなぁ。そんな時間ないか。
「その代わりと言ってはなんですが、こいつに口寄せ契約を結ばせようと思ってですね」
なんだって?龍との口寄せ契約ってことか?てことは僕もこんなかっこいい龍を呼び出せちゃうってこと?テンション上がるわそれは。
「なるほどのォ。それならばこれを使え。」
そう言ってアマツが口から吐き出したのは大きな巻物だった。
ていうか、この世界の蛇型の生き物は口からゲロゲロと吐き出す癖でもあるんだろうか。
そんなことを考えていると父さんは巻物を広げ、その内の名前が並んであるところを指差して言った。
「自分の血で名前を書き、その下に片手の指全ての指紋を押せ。それで契約完了だ」
そう言われて、歯で親指を噛み切る…のは怖いので、クナイで親指で切れ込みを入れ、そこから溢れる血で名前と指紋を書き記した。
「うまくかけたな。それじゃあ早速口寄せしてみろ。印はーー」
父さんの言われるままに印を結び口寄せの術を発動する。するとチャクラが吸われていく感覚と共に、大量の煙が目の前を覆った。
「おお!!」
自分の口寄せ動物…というか龍がどんな姿をしているのか。期待を込めた眼差しの先にいたものは。
「ぷぅー。ここどこ〜?」
龍とは言い難い、僕と同じぐらいの背丈の太った腹の生き物だった。
赤色の鱗、黄色味がかった大きな腹に胸にはよだれかけらしきものをしているそれは、思い描いていた龍とはかけはなれたものだった。
唯一の龍らしさといえば、その大きな翼だが、重すぎるからだゆえにうまく飛べていないようだ。
「これが、僕の龍ですか?」
「…見たところまだ幼体のようだし、希望を捨てちゃいかん」
「お主の息子、口寄せの才能はないようじゃな」
初めての口寄せは散々な結果に終わった。
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僕が口寄せした龍。聞いたところ、名前はファルコンというらしい。
なんでも火龍に分類される種類らしく、火を吐くことが得意だそうだ。
実際に見してもらったところ、術の火力は中忍レベルで、範囲も申し分なかった。なおさら他の残念な部分が目立ったわけだが。
そんなこんなで口寄せ動物(固定砲台)が仲間に加わり、一応の戦力アップをすることができた。奥の手と呼べるかどうかは甚だ疑問だったが。
そうして、来たるべき木の葉崩しに向け、力を蓄えるのであった。