何度目かわからない激痛に目を覚ます。
薄く開けた目からは、自らの拘束された手足に、幾つもの管のようなものが皮膚に突き刺さっているのが見える。
今が何日か、大蛇丸に捕まってからどれくらいの時間がたったのか。
意識がひどく薄れる。投与されているであらう薬物の影響か、呪印のせいかはわからないが。
朦朧とする意識の中、重傷と聞かされた母親のことを思い出した。
(母さん・・・無事だといいなあ・・・)
もう戻れるかもわからない、あのあたたかな場所を想像して、涙が頬を伝った。
ーーー
木の葉崩しの失敗。その事実は大蛇丸をひどく腹立たせたが、同時に思いがけない収穫もあった。
木の葉を出る際に歯向かいに来て、戦いの末捕らえた少年。調べたところ、木の葉の上忍の息子らしいが、そんなことは大蛇丸にとってはどうでもいい事。
少年、名をナギサというらしいが、彼の戦闘力は異常の一言に尽きる。
アカデミー生か疑わしいほどの忍術の規模に、洗練されたチャクラコントロール。そしてそこから生まれる高レベルな体術。
その一撃は同じ三忍の一人を連想させるほどだった。
そして、その高い技術を持った少年が今は自分の手の内にあるという事実が、大蛇丸の心を大きく躍らせる。久しく覚えのなかったほどに。
そういえばと、大蛇丸は思い出した。彼の繰り出した忍術のすべてに印を結ぶ前動作がなかったと。
大蛇丸はさらに高揚した。これが確かならばそれは類まれなる才能であり、その能力はあのうちは一族の生き残り、うちはサスケにも匹敵するかもしれない。
管理も兼ねた呪印は幸いうまく定着した、薬物による肉体の強化も進んでるころであろう。
「これから面白くなりそうねぇ・・・」
こみあがる喜びを隠しきれずにはいた言葉が、静かな部屋にかすかに響いた。
ーーー
「ナギサを必ず連れ戻す」
事の当初はそう決めたカオルであった。しかし、里としての機能が低下している今、捜索に人手が割けないこと、大蛇丸に対する戦力不足。そして何よりも重体のカオリ一人を置いていくことなどできず、ナギサ救出に向かえなかった。
そうして救いの手も届かぬ中。流れる月日とともに。
大蛇丸による度重なる薬物投与、拷問とも呼べるほどのそれによって。
ナギサの肉体は、心は。
少しづつ壊れ始めていた。
そして一人の少年の心を壊すには十分すぎる、決定的な出来事が起こる
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大蛇丸に打たれた薬のせいか、逆らおうとか、逃げようとかの気持ちが薄れてきた気がする
向こうもそれがわかってるのか今では拘束も緩めだし、ある程度の自由も与えられている。
そんな風に少し状況に慣れ始めてきたとき、
「やなぎカオリの死亡」
大蛇丸の部下であるカブトからそれを告げられた。
淡々と、明日の天気でも話すみたいに。
体が、心が悲鳴を上げた。これ以上は聞きたくないと。これ以上は壊れてしまうと。
「考えられたことだ。わかっててあのとき飛び出したんだ」
頭ではそう取り繕うとも、うまく呼吸ができずベッドから転がり落ちる。
そんな僕を気にも留めずに、カブト続ける。
「続けざまでわるいんだけどさ、今朝方敵の忍の侵入があってね。その忍っていうのが君と関係深いっていうか・・・まあこれを見てよ、そのほうが話が早い」
そうして取り出されたのは一つの布で包まれたもの。人の頭ぐらいの大きさだろうか。ところどころ赤く染まっており、少し異臭を放っている。
僕はその布に手を伸ばす、中を確認するために。
布の端をつかむ。脳がけたたましく警鐘を鳴らす。
そしてその中身が露わになった。
やはりそれは人の頭だった。戦闘によるものだろうか。いくつもの生傷がありながらもその顔ははっきり認識できた。
それは間違いなく父さんの顔だった。
大蛇丸のせいでとか、僕が捕まらなかったらとか
そういうことを考える余裕すらなく
母とそして父の死を
目の前の状況を
受け止められなかった。
だから僕は
こわれてしまった。
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人格の改変。
それには大きなショックが必要である。そう大蛇丸は考えた。
よって薬物の投与によって思考力を奪い、そして自身の両親の死を伝えた。思考を制限されたナギサでは、その事を疑う力すらなく簡単に信じた。あまりに大きいショックに心は耐え切れず、彼の人格は崩壊した。
そしてもう、彼の頭には家族との思い出は一つもない。残ったのは忍としての戦闘技術とナギサという名前だけ。
「さて・・・どう育ててあげましょうかねぇ」
カブトの報告を聞きながら大蛇丸はこれからのことを考える。
すべては己の新たな身体のために。