突如として、暴風が吹き荒れた。風が土を巻き上げ、敵の姿を覆い隠していく。目も開けてられないほどの風の強さにたじろいでいると、円の中の反応に違和感を覚えた。
先ほど現れた巨大な龍と、戦っていた忍の存在が、そのチャクラがダブったように感じたのだ。
(いったい何が起こってる?)
しばらくすると、巻き起こっていた風がやんだ。そこから現れた人物。その風貌を例えるなら、龍の化身だろう。
先ほどの忍と比べて少し大きくなった体つきに、白い鱗が覆う手足、額の横からは黄色い大きな角が伸びている。その角は、武器としても使えそうなぐらいに鋭くとがっていた。
「悪いが長くはもたない変身だ、一瞬で終わらせてもらう」
そのとき体が軽くなった。遠くなっていく地面を見て、自分が吹き飛ばされた事実を認識する。体中を走る痛み、臓器にも深刻なダメージを感じた。
(治すにしても、これでは時間がかかる…態勢を――)
立て直す時間。それをあたえてくれるほど、目の前の敵は甘くはなかった。
空中に向けた追撃。ノーモーションで放たれた空気の塊が計二発。避けることもできずにそれをモロに受けた。
視界が真っ白になる。遅れて地面がひっくり返ったような衝撃が二回。さらに遅れて体中を激しい痛みが襲った。そのまま空気にもまれながら、地面にたたきつけられ、その衝撃にまた体が悲鳴を上げた。
このままじゃ殺される
大蛇丸との鍛錬、そして肉体強化のための薬物投与。どちらも激しい痛みを覚えるものだったが、これほどの恐怖、感情を抱くようなことはなかった。
死への恐怖が、ナギサを支配していく。
なぜ死ぬ? ーー目の前の敵が殺してくる
なぜ死ぬ? ーー敵が想定より強かったから。
なぜ死ぬ? ーー僕が弱いから。
ーーそれなら。僕がもっと強くなればいい。
ナギサは、無意識に呪印の力を抑え込んでいた。呪印細胞という他人の細胞への潜在的な拒否反応と、そして、自分がなくなるということへの恐怖からだった。
比較的症状は軽いとはいえ、呪印状態1でも精神的な作用は確かにある。生まれてくる強力な殺人衝動に身をゆだねることを、記憶をなくしている状態でも、ナギサは避けようとしていた。
その枷が今、死への強い恐怖によって解き放たれていく。
体の奥からあふれてくるどす黒いチャクラ、その流れに身をゆだねた。
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人龍一体。それは優れた忍と口寄せされた龍による秘術である。チャクラは何倍にも増幅し、さらに自然エネルギーを使う龍と合体したごとによる仙人化。極めつけには、忍術と体術の分担による戦闘の効率化が可能になる。
ごく一部の才のある忍者にしか許されない技な上に、龍とのチャクラ量の比率、相性も重要となる。
カオルのそれは、術としてはなる立っているものの、完成度としては7割という程度ではあった。しかし、それでも圧倒的な戦闘力。勝負は決したかのように思われた。しかし…
突如として、ナギサの様子に変化が起こった。
チャクラの奔流としか言えないほどの爆発的なチャクラが、ナギサから放たれていく。
それに対しカオルは、先ほどの空気弾を牽制として放つが、チャクラの膜に阻まれてしまう。
「なんだこれは…?」
動揺するカオル、それを尻目にナギサの肉体に変化が始まる。
状態2は、呪印による疑似的な仙人化といってもいい。しかしオリジナルの重吾のそれも含め、結局は紛い物である。ナギサの変身もそうであるはずだった。
大蛇丸でさえもそうなると考えていた。うまくコントロールできるようならナギサの強化。できなくても本命であるサスケへのサンプルにはなるだろうと。大蛇丸が知らなかったのは、ナギサのチャクラコントロールのセンス、そして仙術への高い適正である。
呪印を使って集められていく自然エネルギーは、精神エネルギー、身体エネルギーと合わせ、自動で仙術チャクラとして練り上げられていく。しかしその要素同士の配分や、自然エネルギーの質、純度の悪さを感じ取ったナギサは、無意識化で呪印の制限を外そうとしていた。
当たり前なことだが、呪印を己で解除することなどはまずありえない。あるとするならば、かけた側と、かけられた側の力の差があまりにも離れていた時ぐらいであろう。
しかしこの瞬間において、その仮定は成立している。今のナギサはチャクラ量、コントロールとともに、大蛇丸を大きく凌駕していた。呪印の管理から外れるほどに。
それはもしかすると起こり得なかった事実かもしれない。大蛇丸が普通の呪印以上のものを与えていたこと、ナギサの力が想定を超えていたこと、そして生への強い渇望。それらが引き起こした、呪印からの解放。これによって何が起こったか、それを知るのはこの場で、いやこの世では当の本人であるナギサのみであった。
チャクラの渦が収まり、そこから現れたそれをみて、目の前の人は本当にナギサなのかと、カオルは直感的にそう感じてしまう。
外見に関しては大きな変化は見られない、むしろ体をめぐっていた呪印が消え去り、記憶のナギサに近づいたといってもよかった。
問題はその中身、チャクラの質、雰囲気とも言えるそれを、人龍一体によって強化された感知能力で感じていた。ひりひりと肌に張り付くような、どす黒いチャクラだ。仙人になった身をもってしても恐怖を覚えるほどに。
そして顔を上げたナギサの頬には涙が流れていった後のような黒い痣が浮かんでいた。
「カオル、おぬしもわかっているとは思うが、あやつは確実にわしらのいるステージに上って来とる。今はまだわからんが、この急成長。今後どうこうできるかわからんぞ」
アマツもそれを感じ取ったのだろう、カオルの内から呼びかけてくる。
(アマツ様の言うとおりだ。ここを逃せばチャンスがあるかもわからん。人龍一体もそう長くはもたない。なら…)
「…全力で行きます」
ゆっくりとナギサを見つめるカオル、その目には、強い覚悟が込められていた。実の息子を手にかけるという覚悟が。