昼間はアカデミーでの授業、夕方は自主修行。
それだけを繰り返す日々が続いたが、それだけに確かな成長を感じられ、充実感のある毎日だった。
ある一つの問題を除いては。
事の始まりは、修行が庭で行うには手狭になり、里の訓練場で修行していた時である。
そのときは印を使わずに水遁術を使う練習をしていた。修行に熱が入り、集中しすぎていたのか、背後から接近する人影に僕は気がつかなかった。
「それ。どうやってやったの?」
僕は急に背後から話しかけられて驚き、術のコントロールを間違えて操っていた水を頭からかぶってしまった。
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ずぶ濡れの僕と向かい合うのは、一人の少女。名をソーカというらしい。肩上まである藍色の髪の毛と、白い目が特徴的な可愛らしい女の子だった。
どうやらこの子とはアカデミーで同じクラスらしく、以前から僕のことを知っていたようだ。こちらはまったく知らなかったが。
そして訓練場に練習しに来たところ、僕が印を結ばずに忍術を使っているのを見て、話しかけてきたということだった。
それを聞いて思う。少し困ったことになったと。
もともとこの印を結ばない忍術ーー次からは無印忍術と呼ぶーーは、父上からあまり人に見せるなと言われていた。おそらくこの能力が里の暗部などに知られ、取り込まれることを危惧したのであろう。
それを赤の他人、それもこんな小さな子に知られてしまうとは。これでは彼女の親や友達にもこのことが知られてしまうかもしれない。
どうにかして口封じしておかなければ。そう考えたのと、彼女が話しかけてきたのはほぼ同時だった。
「その術、私にも教えて!!」
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日向ソーカから見て、やなぎナギサは不思議な少年だと言える。
成績優秀、容姿端麗で人当たりも良く、同じクラスの女子達からはかなりの人気を得ていた。
実際に話をしてみたところ、確かに優しそうで、性格も良さそうだったが、周りの子とは少し違うと感じた。一体何が違うのか、その違和感の正体に気づくことはできなかったが、それから彼のことが気にかかるようになっていた。
そしてある日、アカデミーで習った術の復習にと、訓練場を訪れたところ、彼の姿を見つけた。
なにやら集中しているようだったので、邪魔をしないように静かに観察していると、なんと印を結ばずに水遁術を使ったのではないか。
アカデミーでは印を基本として習っていたので、ソーカは驚き、そして彼に近づいて尋ねた。その術はどうやってやっているのかと。背後からいきなり話しかけたので彼はびっくりして自身の術で水浸しになってしまった。これに関しては自分が悪かったと思う。
同じクラスのはずなのだが、彼は私のことを知らず、そのことは少し私を悲しませた。
そうして話していくうちに一つの願望が心に浮かんだ、さっきの術を教えてもらうことはできないかと。
水遁術にはあまり詳しくないが、さっきやっていた忍術が高度なものであることぐらいは流石にわかった。なのでそれを習得できたならきっと周りに自慢できると思った。
それに教えてもらうことで彼と友達にもなれるかもしれない。
そう思いお願いしたのだが、彼はしばらく悩んでいた。そして悩んだ末にこう答えた。
「わかったよ。この術を君に教える。その代わり一つ約束して欲しいんだ」
続けてこう言った。教えた術のことは誰にも言わないで欲しいと。
わたしは考えた。この約束をしてしまえば、目的の一つである周りへの自慢はできなくなる。しかし、もう一方の彼と友達になることはできるかもしれない。
そう考え、わたしはその条件で教えてもらうことにした。
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少し厄介なことになった。こうなるならばもう少し場所を考えて修行するべきだった。
しかし一応口封じできたのはまだよかった。口約束に過ぎないが、しないよりはマシだろう。これで周りに知られた時は、諦めて腹をくくろう。
そう考えて目の前の少女を見る。
「ソーカさんの基本性質はなんだっけ」
まずは相手の性質が分からなければ修行といっても始まらないだろう。
「風だよ。あと呼び捨てでいい。」
彼女は友好的な性格らしい。さん付けは気に食わなかったようだ。
(しかし風か、確か父さんの書斎の巻物の中にあったな。)
「それじゃあ、今日のところはこれで解散にしよう。明日同じ時間にここへ来るから、修行は明日からね」
「わかったよ」
こうして僕とソーカの奇妙な師弟関係が生まれた。