IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道   作:エヴァンジル

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第一話 男子二人に女子多数

「ZZZZZZ……」

 ある教室で白い髪の少年は頭を垂れ小さな寝息を立てていた、教室に着き指定された席に座った途端眠気に襲われそのまま寝てしまったのだ。

 理由としては突然の編入で色々と準備に追われていたためだった。

 少年がいたのは『IS』、正式名称インフィニット・ストラトスという宇宙空間での活動を想定して生み出された『兵器』もとい飛行パワードスーツの操縦者達を育成する場所である。

 本来『IS』は女性にしか使う事ができない、それは開発者たる篠ノ之束がそう設計したのか男にはわからない何かしろの理由があるのかもしれない。

 そんな場所に何故この少年がいるのかというと――

 

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「はぅっ!」

 少年は甲高い声に驚き眼を覚ました、開かれた瞼の下には緋色の瞳がありどこか幼さが残る顔が跳ね上がる。開いていた口から涎が流れていたが慌てて拭き取る。

 まだ寝ぼけているせいか視点と思考がはっきりしなかった。

(……あれ?)

 悲鳴に似たような声が聞こえたと思ったら今度はいきなり静かになった。しかし、静かになったとはいっても女子の妙に熱の籠もった声は未だに残っている。

「きゃああああああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないよう躾して~!」

 その様子に少年は唖然としたが自分と同い年の女の子達がこんな妄想に浸った声を出すはずがないと思いまだ夢の中だろうと眼を擦りもう一度現状確認のため眼をこらす。

 自分の席の左隣には黒いスーツに身を包んだ女性と頭を抱えて涙目になっている男子の姿があった。

(……何かあったのかな~?)

 状況を飲み込めない少年をおいてスーツを来た女性が呆れたように声を上げる。

「……で? 挨拶もまともにできんのか、お前は?」

「いや、千冬姉、俺は――」

 スッパアァァン!!

「織斑先生と呼べ」

「……はい、織斑先生」

(うわぁ~……痛そ~)

 隣の男子生徒は再び頭を抱えて机に突っ伏していた。起きたばかりの少年から見ても織斑先生の叩き方、威力、角度に速度……どれをとっても人をたたき起こすモーションとしては素晴らしい物だった。

 しかし、今のやり取りでクラスの女子が二人の関係に気づいてしまった。

「え……? 織斑君って、あの千冬様の弟……?」

「それじゃ、世界で初の男性操縦者ってのもそれが関係してるとか?」

「でも、もう一人男の子……がいるから違うんじゃない?」

(……う~ん、どうなんだろうね~。おれにもわからないや)

 少年は妙な間が空いた事に気づき見えないように苦笑を溢すが織斑姉弟のやり取りで静かになってきた為また眠気に襲われる。

(また、眠くなってきたな~……おやすみなさ……ZZZZZZZ)

 心の中で眠る前の挨拶してすぐに眠りに落ちる、この間わずか三秒。眠るまでの時間を競う競技があったら確実に世界記録保持者、しかも負けなしの絶対王者だっただろうが寝付きが良くて良い事はそれ程多くない。

 むしろ、今の状況では悪い方向にしか向かわなかった。

 

 バアアァァン!!

 

「ふぎゅ!?」

 少年は後頭部に強い衝撃を受けその勢いに押され鼻を机にぶつける。痛みのおかげで眼が覚めたモノの鼻を押さえ涙を堪えていた。

「ば……ばな、うっだ~」

「私の横で堂々と寝るとは良い度胸だな?」

「昨日まで引っ越しの手続きとか~、近所の人にお別れの挨拶とか~、編入用の提出資料の準備とかで忙しくて眠る暇がなくて。それで仕方ないと思って~……」

「何が仕方ないだ、私も貴様の編入の準備に追われていたぞ」

「……ずびばぜん」

「わかればいい、それより自己紹介をしろ、皇(すめらぎ)」

「あ、は~い」

 少年は赤くなった鼻から手を離し涙を拭いながら自己紹介を始めた。

「皇響(ひびき)です、見た目はこんなですけどれっきとした日本人だよ。好きなモノはフワフワモコモコなお布団。嫌いなモノは目覚まし時計についてるアラームのスヌーズ機能、特技はどこでも寝られる事、趣味は日向ぼっこしながら寝る事。休み時間は大体寝てるかもだけどよろしく~」

「「「「「「寝る事しか言ってない!」」」」」」

 そんなツッコミを気にした様子もなく響はぽやっとした表情を浮かべお辞儀をした。その姿は女子と大差ない小柄な身体と童顔のせいで何処か小動物チックで千冬をのぞき男女問わずきゅんとさせた。

「こんな感じで良いですか~?」

「……言いたい事はあるが良いだろう、とにかくだ、諸君等にはこれからISの基本知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが基本動作は半月で身体に覚えこませろ、いいか良いなら返事をしろ。良くなくても返事をしろ」

(おお、清々しいほどの鬼教師だ。でも、これが素なんだろうな~)

 織斑千冬……第一世代IS操縦者の元日本代表にしてモンドグロッソ優勝者『ブリュンヒルデ』の称号を持つ世界最強の実力者にして響達の担任でもあった。

 

 

 

 

 

「くあぁ~……眠い」

 そんなこんなで無事に一時限目を終え休み時間に入ったのだがすでに眠くなってきていた、連日の疲れもあってか気を抜くとすぐに眠ってしまいそうで逆に疲れる。何日かすればここの生活にも慣れ余裕ができるだろうが慣れるまではこの眠気と闘わなくてはいけないだろう。

「なあ、皇」

「むにゃ……もう食べられない」

「頼む、起きてくれ! お願いしますから!」

「……ごめんよ、冗談抜きで眠くて~……」

 響は眠そうな表情を浮かべるも話し掛けてきた隣の男子に顔を向ける、千冬の弟で織斑一夏。自分と同じ世界で二人しかいない男の操縦者の一人。

「何か用?」

「いや、用って程の事でもないんだけど……お前は大丈夫なのか?」

「ん~? なにが?」

「何がって……この状況だよ」

 一夏は教室内に視線を向ける。

「ああ~……もともと此処は女の子ばっかりだし、仕方ないんじゃ……」

「そうは言っても教室の外にもいるんだぜ?」

 一夏の言うとおり、廊下にも女子生徒の姿があった。クラスの女子は全員で二十七人、それ以外のクラスや上の学年の女子達も一夏と響の姿を一目見ようと集まっていた。

「でもISを操縦できる男っておれ達だけだしね~……」

「そうなんだけどな……なんとも居づらいじゃないか、皇は平気なのか?」

「響でいいよ~」

 二人しかいない男子なのにいらない距離感はこの際捨てておいた方が良いだろう、男としての立場から助け合う事ができるのは互いに一人ずつしかいないのだから。

「そっか、じゃあ俺は一夏って呼んでくれ」

「わかった、一夏。それでさっきの話だけど……おれの場合は眠くてそれどころじゃないってのが本音だよ~」

 響は一夏と話ながらも眼を擦るような仕草をする、だいぶ眠いのかそれとも一夏と話をするのがめんどくさいから眠い真似をしているのかはわからないが。

「お前本当に眠そうだもんな」

「うぅ、こんなに眠いのは久しぶりかも~」

「帰りまで持つのか?」

「多分大丈夫~。心配してくれてありがとー」

「いえいえ」

 響と一夏は互いに頭を下げる。

「とりあえず、男子は俺達だけだから何かあったら助け合おうぜ」

「うん、それでいこうかあ……」

 二人が互いの協力関係を再確認した時、一人の女子生徒が二人の前に歩いてきた。

「……一夏、ちょっといいか」

「箒?」

(誰だっけ?)

 響は首を傾げるもすぐに何も無かったように振る舞う、箒と呼ばれた少女は名指しで一夏を呼んだのだから自分が関わるような事ではないだろう。

「すまない、皇。一夏を借りるぞ」

 髪を束ねたポニーテールの少女は鋭い目つきで響に断りを入れる。顔立ちは整っているというのにその目線が台無しにしているような感じを受けるがそんな事は口が裂けても言えない、それに眠い響としては休み時間は睡眠に当てたかったので箒のお願いを快く承諾する。

「どぞ~」

「悪いな、響」

 箒の後ろを付いていく一夏を見送りながら響は小さなあくびをする。その姿を見た女子達から『可愛い~』『ほんとに同い年なのかな?』『男の子……持って帰りたい』などの声が聞こえてきた。

(最後……なんか妙な事いわれてたような……まあ、いいや~)

 響はどこか寒気を感じる懸念を捨て机の上に倒れ込もうとした時、教室内にある放送用スピーカーから聞き覚えのある人物の声が流れてきた。

『一年一組、皇響。今すぐ職員室に来い、周りの女子、寝ているようならたたき起こせ』

 とても教師とは思えない発言に響の眠気は一気に冷める。

「……何も悪い事はしてないと思うけどな~」

 響はブツブツと文句を溢しながらも千冬のいる職員室へと向かった。しかし、到着直後に会議室へと移動させられた。

 そこには先客がおり机の上に手を組んでいる老人と青い髪の女子生徒がいた。

「久しぶり、十蔵爺さま~」

「大きく……なったかな、響君」

 十蔵は最後にあった三年前の事を思い出し思わず本心が顔に出る。

 口調は『僕』から『おれ』に変わっているが顔つきも身長も当時のままと言って良いほど変わっていない。変わった口調は響なりのささやかな抵抗なのだと気がつき何ともいたたまれない気持ちになる。

「……無理に言わなくても」

 響は苦笑気味に笑みを浮かべる老人にため息を溢した。

 響の前にいる老人の名は轡木十蔵、このIS学園の『良心』と呼ばれ学園の実質的な運営をしている人物だった。子供の頃からの知り合いではあるが中学に入学すると同時に会う回数も少なくなったのだが久しぶりに面と遭ってこの反応はもう少し何とかならないものかと思わずにはいられない。

「こっちの人は?」

 響は十蔵達の前ではあったが見知らぬ女子生徒に疑いを込めた眼差しを向ける。

 胸元のリボンの色からして二学年である事はわかる。青い髪に余裕を感じさせる笑みを浮かべ折りたたんだ扇子を口元に当てる、その様子に敵意は感じられないがそれが余計に不信感を抱かせた。

 自分がここに呼ばれた件にかんして無関係ではないとは思ってはいるが用心に超した事はないと警戒を強める。

「私は更識楯無、この学園の生徒会長にして君の協力者だよ……響ちゃん?」

「『君』でお願いしま~す」

 ここにきても子供扱いなので正直ストレスでしかない、年が近い楯無には止めてもらいたかったが立場上こっちが下なのでストレートに『やめろ』とは言えなかったので話を進める。

「それで、おれ何かしたかな~? 何かしたような心当たりはないんだけど……」

 響は恐る恐る十蔵に問いかける、何故なら此処には世界最強の『ブリュンヒルデ』と学園最強の『生徒会長』それにこの学園の経営者が陣取っているのだ。自分の些細な行動が何かトラブルを起こしてしまったのかと響は顔を青ざめる。

「いえいえ、そう言う事ではありませんよ。君に来てもらったのは先だって君に渡しておいた訓練機の調子を聞いておきたかっただけですから」

「なんだ、そっか~。心配させないでよ、十蔵爺さま~」

「すみませんね、で……どうですか?」

 響は制服の襟で隠れていた首のチョーカーにそっと触れる。

「調子も何もただ展開の練習しかしてないよ、それにテストだって思うように動けなかったもん。何か期待されても普通の一般人だよ~? 格闘技とかやってるわけでもないし」

 響はごく平凡な両親の元に生まれた、生活は贅沢が出来るかと言われれば出来ないが普通に暮らしていく上では何の不自由もなかった。

 会社勤めの父に自営業の母、それに中学に入学したばかりの妹。世界のどこに出もいるごく一般家庭の理想ケースと言っても良いほどだった、十蔵との縁もただ単に早くになくなった祖父が知り合いだったと言うだけで響の家庭事情には何の影響もない。

 そんな響がこの学園に来てしまったのもただ単に妹のIS適正検査が面白そうで自分もやってみてたいと申し出ただけ、その結果IS適正が判明してしまったのは本当に偶然でしかない。 

 何故ならISは女にしか使えないはずなのだから…………。

「何も不調がないのなら良いんです、君と織斑君の場合は極めて特殊なケースですから慎重にならざるおえないってだけですから」

「わかってるよ~、でも何でおれだけ訓練機を貸してもらえたの? 代表候補生じゃないし。それに一夏の方が色々と必要になるんじゃ」

 世界最強の弟、織斑一夏……その重要性と立場を考えれば自分よりも先に専用機があてがわれてもおかしくはない。訓練機とはいえむしろ自分が先に手にしている事自体が異常とも思えた。

 そんな響の疑問に十蔵は表情を曇らせる。

「織斑君の専用機は準備できています、君の言うとおり重要な立場ですからね。しかし、君の場合……あまりいい話ではないのでしたくはないのですがそれでも聞きたいですか?」

「うん」

 響の迷いのない返事に苦笑いを浮かべる。

「……君の場合、後ろ盾は何もありません。ISの男性操縦者がどうすれば増えるのか、その為の人権侵害の実験を行うなら一夏君よりも君の方が社会的にも対処しやすいと考える輩がいます」

「あ~……」

「一夏君は織斑先生の弟さんである事はすでに公にされています、一般人の方々からしてみれば君の印象はとても薄いものとなっているはず……そんな君を合理的かつ不平等を感じさせない方法で護るにはこうするしかなかったのです」

「事情はわかったよ、それで父さん達は大丈夫なの~?」

「はい、既に何人か護衛を付けています。もちろんプライベートに干渉しすぎないよう指示は出してありますし何かあればすぐにIS操縦者を向かわせる準備も整って――」

「なら安心、おれはともかく父さん達が無事に過ごせるなら問題ないよ~」

 自身の身の安全を聞かされても消える事のなかった不安を映し出していた緋色の瞳からそれが消えた。

「……相変わらずですね、君は」

「何が~?」

「何でも」

 常に自分の事を考えるよりも周りにいる誰かの事を真っ先に考える響の在り方に十蔵は笑みを緩ませる。

「あと学園では織斑先生と更識さんが君の護衛を務めますから心配しないでくださいね」

「すごいVIP扱いじゃない!?」

「そんな事はないさ、お前も私が受け持つ生徒の一人である事に代わりはない。むしろ当然の処置だ」

「そうだよ、特に君は弱いんだからさ」

 楯無はにんまりとした笑みを浮かべ扇子の先を響に向ける、笑みを見せているがその眼は笑っていない。まるで響を品定めでもするかのような視線を向ける。

「助かります! 一応、授業とかで織斑先生には教えてもらおうと思うんですけどそう簡単にいかないと思うので~」

 そんな楯無の言葉を挑発として受け取らずただ事実として受け取ったのか響は少しも嫌悪感を見せる事はなかった。

「……君、素直過ぎるって言われた事ない?」

「よく言われますけど何で知ってるんですか~?」

 響は驚きつつも首を傾げる、その姿は小さな小さな小動物が『何?』と言っているような仕草を思わせ楯無は眉間に皺を寄せながら視線をそらした。

「……私って汚れてるのかしら」

「えっ? 美人さんだと思いますけど? ? ?」

 響の口からさらっと溢れた言葉に楯無は更に肩を落とした。

「……ごめんなさい」

「えーと、何に対して謝ってるのかわからないですけど……?」

 その後、響は十蔵と千冬に護衛に関するいくつかの約束事を聞き会議室を後にした。

 ……最後まで楯無がやさぐれている理由はわからずじまいに。

 

 

 

 

 

(はあ……前途多難だ~)

 響は授業中ではあったが廊下をとぼとぼと歩いていた、護衛プランの話し合いはすぐに終わったもののやはり自分が置かれている状況が『普通』ではない事を知りため息を吐いた。

(まあ、父さん達が無事なら別に良いんだけど……)

 気がつけば教室の前まで戻ってきていた、響は気分を一新するように表情を引き締める教室の扉に手をかける。

(授業中だし……静かに入ろ~)

 本当なら教室の後ろからはいるべきなのだが自分の席は一夏と同じ最前列、しかも扉側から二列目。どう考えてもこちらから入った方が女子達の視線を受けずに済む。

 響は意を決してゆっくり静かに扉を開けた。

「決闘ですわ!」

「おう。いいぜ、四の五の言うよりわかりやすい」

(なんで!?)

 響が教室の扉を開けた途端、一人の女子生徒が机を叩き声を上げていた。彼女の視線の先には同じく護衛対象である一夏が立っていた。いきなりの事で何が起こっているのか分からなかったがさっそく問題が起きた事だけはわかった。

(えっと……イギリス人の、セシリア・オルコットさん……だったけ?)

 地毛の金髪が鮮やかな少女 、白人特有の透き通ったブルーの瞳が印象に残るがそれ以上につり上がった眉と赤い顔のほうが目についた。

「言っておきますけど手を抜いてわざと負けたら一生小間使い――いえ、奴隷にいたしますわよ!」

「侮るなよ、真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいないぜ?」

「そう? 何にせよちょうど良いですわ、イギリス代表候補生のこのわたくしセシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわ」

(一夏がオルコットさんと決闘って……)

 話の流れで何となくではあったが状況は理解できた、おそらくどちらかが怒らせるような事を口走りそれに激怒し今に至るのだろう。

 素人の一夏では国家代表候補生のセシリアに勝てる確率は低い、ましてや候補生は基本的に専用機持ちである。同じ訓練機での戦いなら一夏の勝率も上がるのだが……

 腕を組みなんとかこの状況を納める事はできないかと頭を悩ませる響の耳に女子達の笑い声が入ってきた。

 響が解決策を考えている間も話がどんどん進んでいるようだ。

「……ハンデはいい」

「当然ですわね、むしろわたくしがハンデを差し上げなければいけないでしょうから」

 自分以外の唯一の男子である一夏の重い表情が眼に入る。

(………………)

 そして周りにいる女子達の失笑とセシリアの浮かべる嘲笑、一夏がまた何か言ったらしいがこの状況を見たとき響は手を握りしめた。

「悪いのはそっちなんじゃないの?」

 女子達の笑い声が響く中で響はわざとらしく声を上げる、その声に響が教室の扉を開けていた事に気づき全員の視線が響に集まる。

「今のはど――――」

「織斑先生、今戻りました。席についても?」

 響はセシリアの言葉を遮り千冬に声をかける。

「……かまわん、座れ」

「どうも~」

 まるでセシリアは眼中にないように響は自分の席に座り教科書を取り出す、その態度がかんに障ったのかセシリアの怒りの矛先が響に向く。

「皇さん、今のはどういう意味なのかとお聞きしたのですが?」

「どうって……そのままの意味、かな」

 響はセシリアに向き直ることなく会話を続ける。

「話を最初から聞いたわけじゃないから何とも言えないけど先にケンカになるような事を言ったのはオルコットさんなんじゃない? 一夏とは会ったばかりでそう多くを知ってるわけじゃないけど『見れば』わかる、それに今は女の子達のほうが立場が強いから好き勝手言えるから加減もないのは良く知ってるし~」

「………………」

 響の言葉にセシリアだけでなく話に加わっていた女子達が気まずそうな表情を浮かべる。

「だから、先にそういう事を言っておきながら一夏をみんなで笑うのはどうかなって意味だったんだけど……間違ってるかな?」

「それでも私の国を侮辱した事に変わりわありませんわ、その結果が今に至ったのですから」

「……そっか、そうなると一夏」

 出来ればコレで引いてくれれば良かったと思いながら響は一夏に声をかける。

「な、なんだ?」

 響は満面の笑みを浮かべ親指を突き出す。

「頑張れ~、応援してるから!」

「あれ! 一緒に闘うんじゃないのかよ!?」

 一夏は響の言葉にこけそうになる。

「だって、ケンカしてるの二人だよね? それなのに横は入りしたらかっこ悪いじゃないか~」

「お前も充分ケンカうってるぞ」

「あくまで第三者の立場からという事で」

「ひでぇ!!」

 響は暗くなっていた一夏をからかい場の雰囲気を和ませる、とはいってももう一人の当事者でもあるセシリアは置いてけぼりな状況に怒りを強めた。肩をプルプルと震わせながらソプラノの声を張り上げる。

「いいでしょう! そこまでおっしゃるのなら二人ともお相手いたしますわ!」

「何でそうなるの!?」

 ここで響はセシリアに向き直り両手をあげる。

「あなたも男なのですから同罪です!」

「そんな無茶苦茶だよ~」

 響は肩を落とし大きくため息をこぼす、その仕草がカンに障ったのかセシリアは再び声を張り上げる

「あなた馬鹿にしてますの!」

「えっ、そんなつもりは無いんだけど……」

「ならわたくしと闘いなさい!」

「えーっと……」

 闘う意志を見せなければ大丈夫だと思っていたがどうやらその考えは甘かったようだ、怒りの矛先が一夏からそれたのは良いとしても自分に向けられた怒りを込められた視線に戸惑う。

 響は助けを求めるように千冬に眼を向ける。

(護衛の件もあるしここは場の収集に協力してくれますよね~?)

 千冬も響のそんな視線に気づき小さく頷き威厳ある声でこの場を収集する案を提示した。

「織斑に勝ったら皇と闘うという事でいいだろう、それで納得しろオルコット」

「ちょっとー!!」

「わかりましたわ、それでかまいません」

「承諾しないで! というかおれの意志の方を尊重しようよ、先生!?」

「やってやろうぜ、響! 男でもやれるんだって事を見せつけてやろうぜ!」

「そんなにやる気なの!」

「ではこの件に関しては以上だ、勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで行う。各自それぞれ準備をしておくように。それでは授業に戻る」

「……あ~、眼から汗が……」

 有無を言わせない担任の態度と一時の感情に流された自分の未熟さに両手で顔を覆った響だった。

 

 

 

「う~……ねむ……い」

 響は眼を擦り閉じようとしている瞼を必死に開こうと努力している。

「休み時間も昼休みも眠れなかったからきつい~」

 セシリアとのやり取りで余計注目を浴びてしまいクラスの女子達の視線が集中した、物理的な攻撃力があったなら今頃は視殺されていただろう。

 隣にいる一夏もIS理論に頭を悩ませていた、入学前に配布された電話帳並みの厚さを持つ専門書を間違えて捨ててしまったと聞いた時は自業自得だとしか言えなかった。

(……護衛の方は不測の事態が起きたらって言ってたし当面の問題はオルコットさんとのクラス代表決定戦か~)

「「はあ~」」

 響と一夏のため息が重なる、こんな所まで気が合うのだろうかと思わず苦笑が漏れる。

「悪かったな、響」

「ん、何が~?」

「巻き込むような形になって」

「気にしなくていいよ~。おれも女の子達の態度にはカチンと来たのは確かだから」

 たとえ闘う力が無くても闘おうとしている人間を馬鹿にするような態度は許せなかった。もし、一夏があそこで引き下がっていても話の流れによっては自分から闘うと言っていたかもしれない。

 闘いたくないとは言っていても自分の心には嘘を付きたくなかった。友達が馬鹿にされたり傷付けられるというなら正面から立ち向かう、そう両親にも教えられていたのだから。

「とりあえず、響も今日はもう家に帰るんだろ?」

「そうだね~、寮にはいるまでは一週間くらいかかる~って聞いてたからその間に荷物をまとめておかないといけないし」

 女子寮しかないこの学園で男子二人だけの為に部屋を調整すると聞いていたが思っている以上に時間がかかるようなのでしばらくは家から通う事になっている。

(帰るにしても護衛の事は話さない方が良いかな~、いらない心配かけることもないよね)

 帰ったあとどう動くか算段を考え始めるが不意に教室の扉が開き千冬と副担任の山田真耶が姿を現す。

「ああ、織斑君に皇君。よかったまだいてくれたんですね」

「はい?」

「……山田先生~?」

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」

 笑顔を浮かべながら寮の場所が記された紙と部屋のキーを渡す山田先生。

「俺と響の部屋は決まってないんじゃなかったですか?」

「たしか、一週間くらいは家から通ってもらう事になるって話じゃ……」

「そうだったんですけど、事情が事情なので一時的な処置ですけど部屋割りを無理矢理調整したらしいんですよ」

 すみませんと頭を下げる真耶、別段彼女が悪いわけではないので文句は言わない。

「そうだったんですか~……どうする、一夏?」

「どうするもなにも一回家に戻って荷物とか持ってこなきゃ駄目だろ」

「そうだよね、それじゃ一回もど――」

「その必要はない、私が必要なモノをすでに持ってきておいた」

 響は口を開け唖然とした、実の弟である一夏は問題ないとしても自分は赤の他人である。それ以前にどうやって入手したのか気になった。

「生活必需品だけだがな、着替えと携帯電話の充電器があれば充分だろう」

「どうも、ありがとうございま~す」

 響は開いた口を何とか閉じ礼の言葉を述べるが一夏は日々の潤いも欲しかったようで苦い表情を浮かべていた。

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にシャワーはついてますが大浴場もあります。学年ごとに使える時間がちがいますけど……その、二人は今のところ使えません」

「わかりました~」

「え、なんですんなり納得してるんだよ? 俺、大浴場好きなんだけど……」

「一夏……女の子達と一緒に風呂はいるつもりなの~?」

 響は頬を朱く染め気まずそうに使えない理由をわかっていない一夏に一言釘を刺す。

「あー……」

「おっ、織斑君! 男の子としては健全だと思いますけど駄目ですからね」

「い、いや、入りたくないです!」

 冷静に考えて自分がそのような発言をしたのかわかった一夏は慌てて返事を返す。

「ええっ! 女の子に興味ないんですか!? それはそれで問題があるような……」

 きゃあきゃあと響と一夏の前で騒ぐ副担任の言葉が教室内で伝言ゲームのように伝播したのか早くも一部の女子の間で『婦女子談義』が開催されていた。

「織斑君、男にしか興味ないのかしら?」

「それはそれで……いいわね」

「もしかして、皇君も? きゃああっ!」

「中学時代の交友関係を当たって、もちろん二人よ! 裏付け急いで!!」

(…………何かおれまで巻き込まれてるな~)

 響は額に手を当てた大きくため息を吐く、学園に通う女子生徒達が調べた程度では自分本来の経歴はわからないだろうがそっちの気があると誤解されるのは気分が悪い。

「一夏、おれは普通に女の子が好きだからね~」

「お、俺だってそうだよ! 今のは言葉のあやだって」

「なら……安心」

「その蔑むような眼でみないでくれ」

 そんな響と一夏のやり取りに笑みを溢した真耶は書類を抱え直し教室の扉へと向かう。

「それじゃ、寄り道しないように帰るんですよ」

「ではな」

 響達は千冬と真耶が教室から出て行くのを見送りてから鞄を手に取る。

「一夏、おれ達も行こ~」

「そうだな、賛成だ」

 二人は迷わずこの場から離れた、『婦女子談義』を交わす女子達の視線から一刻も早く解放されたかったからだ。

 

 

「おれは……1026、1026っと……ここだ~」

「えーと俺は1025室だ」

「隣?」

「ああ……隣だ」

 何故二人しかいない男が別々の部屋に割り振られているのか疑問思った響だったが少しでも早く休みたかったのでスルーし部屋の扉を開ける。

「じゃ、なんか用があったら声をかけて~」

「響もな」

 そうして二人はそれぞれ部屋の中に入っていった。

「ふぅ……」

 響は小さく息を吐きながら室内に入る、そこには勉強をするためのスペースと大きめなベッドが二ずつ置かれていた。響は疲れた表情を見せるも倒れこむ事はせず腰を下ろす。

 感触は響の好みであるフワフワモコモコなベッドだったがすぐに横になる様子はなくただじっと固まっていた。

「一人になると……やっぱり不安だな~」

 十蔵から千冬と楯無が護衛を務めてくれると聞いてもやはり身の危険を感じる、この学園は国家から独立している事は知っているがそれでも此処にいない家族を取引材料とされれば出ていくしかない。

「……父さん達が無事なら問題はないけど、ちゃんと解放してくれるのかが問題だ~」

 交渉材料として危害を加えられるのであればそうなる前にこの学園から出た方が家族の安全は確実なものとなるが此処まで自分を心配してくれた十蔵の厚意は無碍にも出来ない。

「何事も起きませんように!」

 響は祈るように両手を合わせる、何事も『普通』が一番良い事で何よりも尊いのだ。

 

 ズドン! 

 

「…………今のは?」

 

 ズドンズドン!

 

『本気で殺す気か、今の躱さなかったら本当に死んでるぞ!』

(一夏! まさか、間違って襲われた!?)

 響は首元のチョーカーに触れ命の危険にさらされているはずの一夏を助けるべく勢いよく扉を開けその先に広がる光景に眼を見開いた。

「……箒、箒さん、部屋に入れてください。すぐに。まずい事になるので。というか謝るので。頼みます。頼む。この通り」

「……は?」

 響の眼に映ったのは女子に囲まれ情けない声を上げ頭をさげている一夏の姿だった。しばらくして、ドアが開かれた。その部屋から出てきたのは箒だった。

「……入れ」

「お、おう」

 一夏は開かれた扉の中にいそいそと入っていた、また理解不可能な状況にうなだれ大きなため息を吐く響だった。

(そう言えば一夏は相部屋だったっけ)

 護衛されている時点で僅かな異変にも対応しようと気を張っていたがこれでは先に自分の方が倒れてしまう、一夏のトラブル体質にこの先思いやられると下げた頭を起こす。

「……は?」

 今度の『……は?』は自分の置かれている状況に大してだった。

「あー、皇君だ」

「織斑君の隣の部屋なんだね」

「いい情報ゲットしちゃったー!」

 一夏の騒ぎを聞きつけ駆けつけていた女子達の視線が一斉に響に注がれた、しかも放課後で寮の中と言う事で全員がラフなルームウェアだった。

「――――!」

 そのラフな女子達の姿をみた響の顔が一気に赤くなる。

(な、なんて格好してるの女子の皆様~!!)

 今、響の目の前にいる女子の大半が男子の眼を気にしていない格好をしていた。長めのパーカーを着てその下にはズボンもスカートもはいておらず白の逆三角形がチラチラと見える、他には羽織ったブラウスの合間から肌色の胸元が見える女子もいる。

(女子寮って地獄なの!?)

 同世代の女の子に興味津々な男の子であれば今の光景は鼻の下を伸ばし喜んだかもしれないが響にしてみれは恥ずかしさの方が先走ってしまう。同世代の女子と触れあう事などない生活を過ごした影響なのかほとんど女の子というものに免疫が無かった。

 現に今も顔を赤くして視線を絶対女子の方に向けないようめまぐるしく動かしていた、その姿は誰がどう見ても照れていると言う事が丸わかりだった。免疫のない響にとっては肌の露出が増えただけでも動揺させるには充分だった。

「どうしたのかな~? 顔が赤いよ」

「皇君も男の子なんだね!」

「その顔……ゾクゾクするかも」

 女子達は頬を朱く染めているものの作為的な笑みを浮かべ響に歩み寄ってくる。

「なななな何でもないです、それじゃ~!?」

 響は女子達のからかいの声に耐えきれず急いで部屋の中に緊急避難した。

(一夏のまずい事になるって……このことだったのか!!)

 響は眼を通して脳裏に焼き付いた光景を消去しようとやっきになり隣の部屋から聞こえる爆音に気付く事はなかった。

 

 

 




二次作品なのでうまく書けているか心許ないですが感想と評価していただければ幸いですm(_ _)m
あと、読んでいただいた方々の指摘を元に少しずつ手直ししていきたいと思ってますのでもう一度眼を通していただければありがたいです!
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