IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道   作:エヴァンジル

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第十二話 皇響の休日・その二

 二度寝から目覚めた響はシャルロット共に臨海学校の準備をするべく街に繰り出していた。

「部屋に来てたなら起こしてくれれば良かったのに~」

「気持ち良さそうに寝てたから、起こすのも悪いかなっておもって……それにキスできるチャンス……だったし」

「何か言った~?」

「ううん、何でもないよ!」

「そ~? なら良いんだけど」

 響は慌てるシャルロットの様子に首を傾げたがそれ以上追求する事はなかった。

「それにしても人が多いな~」

 モノレールから降りてすぐに大型ショッピングモールの一フロアに来たのは良かったが周りは休日を謳歌する家族連れやカップル、それに友達同士で遊びに来ている人達で溢れていた。

「今日はお休みだからね、人が多くても仕方ないよ。ほら、一般の人の他にも学園の人もいるでしょ?」

「そうだね~、みんな臨海学校楽しみにしてるから準備とかも気合いが入るんだろうな~」

 自分としては水着を買えればそれで終わる、後の時間は買い物に付き合ってくれたシャルロットの買い物に付き合うだけ。用は荷物持ちではある。

 それだけでお礼になるかわからないが門限まで買い物に付き合う覚悟の響。

(母さんも瑓ちゃんも買い物は女の戦場だー! って言ってたもんな~。シャルロットの気が済むまで付き合えれば良いけど……)

 義母と義妹の買い物に付き合わされた事を思い出し響は微苦笑をもらす。

 母はともかく普段はしっかり者の瑓も買い物となると我を忘れ楽しむ事だけに集中してしまう、きっとシャルロットも目的の物が売っていないお店を見たり立ち寄ったりするのだろう。

 響は心の中で静かに闘志を燃やす。

「とりあえず腹ごしらえでも~」

「そうだね、そろそろお昼になるし込んじゃう前にどこかでご飯にしよっか?」

 シャルロットは近くにあった各階の施設を懇切丁寧に案内する電子ディスプレイを操作する。

「響はたくさん食べるから食べ放題のお店の方が良いよね?」

「普通のお店で良いよ~、ご飯食べてたら買い物する時間も減っちゃうから」

 休みに日くらいしかゆっくり食べる事ができないとはいえシャルロットを待たせてお腹いっぱいになるまで食べ続けるわけにはいかない。

「いいの?」

「うん、それに大食いチャレンジメニューがある所知ってるんだ~。すぐそこだよ~」

「じゃあ、そこにしようかな」

「わかった~、こっちだよ」

 響はシャルロットを案内知る為、先陣を切って人混みをかき分けて歩く。

 とは言え、背が低い為あまり速く歩くとシャルロットと離ればなれになるかもしれないのでゆっくりと歩いていく。

 しかし、それでも時々人混みに紛れてしまいシャルロットと離れかける。

「人が多いと移動も一苦労だな~」

「そうだね、でも……」

 シャルロットは少し気恥ずかしそうに響の手を握る。

「こ、こうすればお互い迷子にならずに済むよ?」

「そうだね~、シャルロットは頭良いな~」

「ねぇ、響。こうしてるとさ……僕達ってカップルに見えるかな?」

「っ!……ど、どうかな~」

 響はシャルロットの突然の切り返しに吹き出しそうになった。

 手を繋ぐこと自体何とも思っていなかった。しかし、誰が見ても美少女であるシャルロットからそんな事を言われてしまっては変に意識してしまう。

 ついさっきまはお互いに迷子にならないようにと手を繋ぐ案に賛成したが今は手を離した方がシャルロットのためになるのではないかと考える響。

(シャルロットがそんな事いうなんて思ってなかったから驚いたけど……正直、カップルには見えないだろうな~。そもそもカップルに見られたらシャルロットが可哀想だもん)

 背が低く童顔の自分が横にいれば兄妹にしか見えないだろう、だがそこで恋人なのでは? という視点でみれば何とも頼りのない彼氏にしか見えない。

 よくても年下の可愛い子としか見られないはずだ。

(これが一夏ならシャルロットみたいな可愛い子と釣り合いが取れるんだろうけど……おれじゃ駄目だよね~。どう見てもはしゃいでる弟がお姉ちゃんを連れ回してるようにしか見えない)

 自分の髪が白ではなく黒であったなら日本人だとわかってもらえたはずがこの髪の色では外人にしか見えない、それこそ金糸を思わせる柔らかな髪をもつシャルロットも正真正銘のフランス人……。

(どうしてシャルロットがそんなこと考えたのかはわからないけど……おれじゃ釣り合わないよ~)

 考えれば考えるほど自己嫌悪に落ちていく響だった。

「ど、どうしたの響? そんなに考え込んで……もしかして僕と手を繋ぎたくなかった?」

「そんな事無いよ~。シャルロットの手スベスベしてて柔らかくて、触ってて気持ちいい。それにシャルロットみたいな可愛い女の子と手をつなげるんだから嬉しいけど~」

 ここに来て数日前に見せた猟奇的素直発言がサラッと溢れる、響としては本心からそう思っているので機嫌取りの邪な発言ではない。

(響が可愛いって、可愛いって言ってくれた!! ど、どうしよー! 嬉しくて顔が、顔がにやけちゃうよー!!)

 シャルロットもそれがわかっている為、大手を振って喜びたい心境だったがあいにくここは公共施設内である。響に褒めてもらった嬉しさで頬が緩んでしまう顔を見られないよう俯いて我慢するのが精一杯だった。

「……そ、それなら良いけど」

「シャルロット~?」

 いきなり俯いてしまったシャルロットに響は表情を曇らせる。

(お、怒った? 怒っちゃった? 怒らせちゃった? もしかして言っちゃいけない事いちゃったの~!? シャルロットて外人さんだし可愛いより綺麗の方が嬉しかったのかな~。……どうしよ~、何か何か場の空気を変えるような話題はないかな~!)

 響は響でシャルロットが喜んでいるとは思いもせず怒っていると勘違いし頭を悩ませる。

「………………」

「………………」

 響とシャルロットは正反対の事で黙り込んでしまい会話が途切れた、それでもシャルロットはこの何も喋らなくても手をつなげている状況に満足し浮き足立っている。

 響はダラダラと額に汗を流し懸命に気まずくなっているこの状況を打破しなければと考え込む。

 しばらく無言で歩く二人だったがそれぞれ感じ方が違う無言の時間を破ったのは響だった。

「『シャル』……なんてどうかな~」

「えっ?」

 喜びに浸っていたシャルロットが間の抜けた声をもらす。しかし、彼女でなくとも響の話の切り出し方は唐突な物だった。

「いや、呼び方だよ~。まだクラスではシャルルって呼ばれることも多いかなーって。だから新しく、……みんなも親しみやすいように」

 ただのお節介かもしれないけどと響は弱々しく笑った。

 事情が事情だったので、未だに『シャルロット』という名前でシャルロットが呼ばれることは少ない。『三人目の男子』という印象のほうが強く、クラスでも『シャルルくん! あ、ごめん! シャルロットくん!』などと言われる程だ。

 その度に大丈夫だよ、とシャルロットはにっこり笑って返していたが、響は気づいていた。本当に一瞬だけだが、そう呼ばれる度にシャルロットが悲しい顔をすることを。

 その事をシャルロット自身が気づいていなくても。

 強制的に男装させられ与えられた『シャルル・デュノア』という偽名、および男子としての印象は、シャルロットにとって辛かった日々の象徴でしかないのだろう。

 何とかならない物かと響は新しい呼び方を考えていた。

 シャルロットには、これからは今までとは比べ物にならないくらい楽しく過ごしてほしいと願いを込めて、と。

「………………」

 ……しかし、肝心のシャルロットから返事がない。

(だ、駄目だった~? ……おれにネーミングセンスはないんだね~……)

 響は無反応なシャルロットに申し訳なさそうに声をかける。

「き、気に入らないなら別のを~……」

「ううん! 全然! いいよ! すごく嬉しいよ!」

「え、ほんとに?」

「うん!」

 シャルロットは響の新しい呼び名に満面の笑みで大きく頷いて見せた、見た限り嘘をついている様子は微塵もない。

(ふぃ~、よかった~)

 響がホッと胸を撫で下ろしていると、シャルロットが少し言いづらそうにしながら口を開いた。

「で、でもね、どうせなら……ぼ、僕達だけの呼び方にしない?」

「俺とシャルロットの間だけってこと~?」

「うん……だ、駄目……?」

「そんなことないけど、どうして~?」

「ほ、ほら! もともと僕のことを『シャルロット』って呼んでよかったのは響だけだったでしょ?」

 大浴場でのやりとりは恥ずかしくなるので極力思い出したくはない響、しかし言われて見れば確かに二人だけと制限がついていた……様な気がする。

「ね、いいでしょ? ……駄目?」

「別に良いよ~」

 シャルロットがそうしたいのであれば自分が反対する意味はない、そもそもどう呼ばれたいかは彼女の自由意志である。

「本当? やったぁ!」

 にっこりと微笑んだシャルロットは響の腕に抱きつく。

(シャル、シャルかぁ。愛称を考えてくれたなんて……それって、他の子よりちょっとだけ、ちょっとだけ特別って事だよね!)

(シャルロットは笑顔が似合うね~。でも、少し喜びすぎじゃないかな~?)

 響はそんな子供みたいに喜ぶシャルロットに、やれやれと笑いを浮かべておこうと思ったのだが、そうもいかないことに気付いた。

 

 

 ――むにゅ。

 

 

 自分の腕にシャルロットの柔らかな胸が当たる、抱えられているため包み込まれるような形であるのだが……そんな事よりもこの状態は非常にまずい。

「ねぇ、響?」

「な、何~? シャルロ――シャル」

「ふふ、何でもないよ。呼んでみただけ!」

「そ、そ~」

 幸せそうなシャルロットの笑顔に響は眼を反らしまい胸が当たっていると言いそびれる。

(は、早くお店に行かないと~!)

 響は顔を赤くし目的地である飲食店を目指すのだが、さっきまで感じなかった周囲の視線が妙に気恥ずかしく感じたのだった。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!!」

 距離にして僅か百メートル、目的地である和食飲食店の暖簾を通る響。

 さすがに店内で手を繋いで入ればいらない勘ぐりを受けるという事でシャルロットに離れてもらった。

 腕を包み込む何とも言えない包容力から解放された響はほっと一息を着いたのだが、シャルロットは少しだけ残念そうにしていたのは言うまでも無かった。

「本日は何名様……です……か……」

 そんな二人を見て飲食店の店員は羆にでも会ったかのような表情を浮かべた。

「二人ですけど、席空いてますか~?」

「お客さんいっぱいだね、少し待ち時間ありそう……?」

「……あ……あ……!」

 和やかに話しかける響に対し店員の顔色がどんどん蒼くなっていく、店内を見回していたシャルロットはその事に気づき響に耳打ちするように話しかける。

「店員さんどうしたのかな? 顔色悪いよ」

「おれが来るといっつもこんな顔されるんだよね~」

「いっつも? じゃあ、ここ響のいきつ――――」

「てんちょおおおおおおおおおっ!! 奴です! あの子供の皮を被った白い悪魔が五ヶ月と五日目の今日! とうとう姿を現しましたああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 響達の目の前にいた店員は周りで食事を続ける客の眼も憚らず大声を上げる。

 その姿にシャルロットだけでなくすでに食事をしていた来客者も「何だ何だ」と眼を丸くする。

 しかもそんな彼らに追い打ちをかけるように店の奥にある厨房で調理をしていた店長らしき人物も大声で叫びながら姿を見せる。

「ついに来たか! 今こそ積年の屈辱を晴らす時!! お前達急いで準備しろ!!」

「「「「「わーした!!!! (訳→わかりました)」」」」」

「……響、これって――」

「今日の営業はここまでにさせていただきます、お代はいりませんので誠に申し訳ありませんがまたのご来店をお待ちしております」

(えぇぇ! 何なのこの状況!!)

 受付係の店員が響とシャルロットを覗く客の大半を返してしまった。

 残っている数人の客もいるのだが……

「とうとうこの日が来たか……どちらが勝つか、見物だな」

「今日こそ店長のスペシャルメニューが勝利するだろうな、あれから五ヶ月以上……戦力差は縮まっているはずだ」

「いや、それだけの時間があれば悪魔も魔王になっているかもしれん」

「どちらにしろ、まさかあの白い悪魔の食い潰しが見られるとは運が良い」

 そんな意味不明の会話が続けられていた。

 シャルロットは何が起きているのか理解できずぽけーっとした表情を浮かべていた。

「お客様、お客様はお連れ様でしょうか?」

「……え、はい! そうです」

「学校の友達です~、この子には普通のメニューをお願いしま~す」

「わかりました、ではこちらにどうぞ」

「は~い、行こうシャル」

「う、うん」

 二人は落ち着きを取り戻した店員に座敷席に案内される、ゆったりとした空間で家族連れがゆっくりと食事をする空間であるはずなのだが……店内にはこの前の学年別トーナメントに近い緊張感がある重い空気が漂っていた。

「お連れの方、メニューの方はどうなされますか?」

「は、はい。えっと……それじゃ、この穴子の天ぷら定食をお願いします」

「穴子の天ぷら定食ですね」

「おれは大盛り特別メニューで~」

「……少々お待ちください」

 シャルロットには笑顔で接客をしていた店員だったが響にはまるで眼の敵というような視線を向けていた、そんな接客をすれば口コミで閉店にまで追い込まれかねないのだがそんな事を気にしているような気配はない。

「……響、このお店で何したの?」

「何もしてないよ~、ただ……」

「ただ?」

「全メニュー制覇してから大食いチャレンジメニューを食べただけ~、月五回。もちろんおかわり有りだよ~」

「………………」

 質量を無視した量を食べる響がそんなペースで来店したならこの店の食材は底をつく、しかも大食いメニューは基本的に制限時間内に食べれば無料というシステムのはず。

 そうなるとこの店の経営はかなり危ぶまれたに違いない。

「お待たせしました、穴子の天ぷら定食です」

「早いですね!?」

 注文してから五分も経っていない、あらかじめ用意されたものを大急ぎで温め盛りつけたとしてもこんなに早く持ってこられるはずが……

「こんなお美しい女性を待たせるわけにはいきません、ましてそちらのお客様との真剣勝負です。余り時間をかけていたら食べきられ「まだですか~」と言われてしまいますから」

「……そう、ですか」

「では、ごゆっくり……大盛りチャレンジ特別メニューも間もなくお持ちしますので」

「は~い、シャルは先に食べてて良いから~」

「うん、それじゃ……」

 シャルロットは早速穴子の天ぷらから食べようと箸を持つ。

「「「「お待たせしました、大盛りチャレンジ特別メニューです」」」」

「わ~、凄い迫力だな~」

「………………」

 箸を持ったシャルロットだったが響が頼んだ特別メニュー、そのボリュームに箸を落とす。

 二人の目の前にあったのは四人用の大型テーブル、その半分の広さを占める大皿の上にのった熱々のご飯と食欲をそそる黄金色に揚げられた様々な天ぷらが突き刺さっている料理、最早「山」と行っていい程の量の丼? メニューだった。

「ふふふ、驚いたか? 炊いた米の総量二十キロ。飾り付けに使われている天ぷらは肉や魚介、旬の野菜をふんだんに使ったものだ。合計三十キロのこの特別メニュー……貴様を倒す為だけに作り上げた俺達の最高傑作だ!!」

 厨房から姿を見せた店長は額からダラダラと汗を流し疲れ切った表情で響に出した渾身の一品を解説していく、その姿からは様々な工夫を試みて失敗しやっと完成させた……そんな感慨深い情景が浮かぶようだった。

「「「「「さあ、これを食いきれる物なら喰ってみろ!!」」」」」

 店長と店員、計五人が鬼気迫る表情で響に挑戦状を叩きつけた。

「……響、これ……」

 しかし、この勝敗の行く末はすでに決まっている。

 その事を知っているシャルロットは言いづらそうに響の肩に手を置いた。

「うん、久しぶりに来たけどここいっつも美味しもの出してくれるんだ~」

(あぁ! 響がこんなに眼を輝かせてる! 残してあげたらなんて言えない!!)

 シャルロットはこれから起こる悲しい現実に静かに涙を流す。

「制限時間は四十五分、心して食せ!!」

「いただきま~す!」

 そこからはもう眼も当てられなかった。

 響が箸を手にした瞬間から、揚げたての天ぷらはものの五分でその金色の姿を消し天つゆに染まったご飯が姿を現した。

 その時すでに店員の何人かはその場に崩れ落ち涙を流していた。

 そんな彼らにかまわず響はご飯を口に運び続ける。途中、ご飯を喉に詰まらせるというアクシデントに見まわれ辛い表情を見せた。

 店長と店員はその表情に勝機はまだ残っていると淡い期待を抱いたがそれを打ち砕くように響は追加でメニューに載っている全種類の味噌汁を注文、この時、経過時間は十五分。

 追加注文した味噌汁の助けもあり響はご飯を流し込むように口に運んでいく。

「シャル、ご飯食べないの?」

「……僕、食欲なくなっちゃったよ」

「じゃあ、もらっても良い~?」

「……いいよ」

 だめ押しとばかりに響は手つかずだったシャルロットの定食に箸をのばす、まるで食後のデザートを食べるかのように流し込んでいった。その姿に自分達の敗北を悟った店長と店員は涙ぐみ仲間の健闘をたたえ合っていた。

「俺達……頑張ったよな」

「ああ、何処に出しても恥ずかしくない品を提供し続けて来たんだ」

「戦いに敗れてもその姿勢だけは残る、俺達の努力は……無駄じゃ……ない」

「「「「店長!!」」」」

「お前達!!」

 そんな彼らの姿は対決を見守っていた観客に涙を流させる物だった。

「ごちそうさまでした、美味しかったです~……けっぷ……」

 終了時間十七分十一秒……制限時間の大半を残し響の勝利で終わる。

「それじゃ、買い物に行こうか~」

「そうしようっか」

 響は特に苦しそうな表情を見せず少しだけ汚れたテーブルを片付け始めシャルロットは申し訳なさそうに自分の分の会計をしようとレジに向かう。

 本来ならここは響が払うべきなのだろうが、そうすればまたこの店の反感を買ってしまう可能性があった。

「あの、僕の分だけですけど……」

「いえ、お代は……結構です」

「えっ?」

 シャルロットは代金を払おうとしたがその手を店長が止めた。

「差し出がましいですが、きっとあなたはこれから先あの悪魔……いえ、伴侶となるあの胃袋と戦い続けなくてはいけないでしょう」

「え、あの、僕達まだ、そんな関係じゃ……」

「見ればわかりますよ、お嬢さん」

 店長は目元に浮かぶ涙を拭いながらテーブルの上を店員と一緒になって片付けている響に優しげな眼差しを向ける。

「正直、勝負は最初からどうでも良かったんです」

 店長は何処か清々しい表情を浮かべていた。

「ただ、私達が彼にもう食べられませんと言わせたい一心で汗を流し、血が滲むような努力で作り上げた品を彼は何の偽りも嫌みもなく「美味しいです~!」と食べてくれる……、いつしかその姿を見る事が私達の喜びになりました」

 命名するとすれば『タベラレーズ・ハイ』……マラソンランナーが陥る『ランナーズ・ハイ』に近い状態、普通の人間であれば食べきれるはずのない量の食事をこともなく平らげる響の姿に心を打たれたという事なのだろう。

「もし、あなたが彼の胃袋に挫けそうになった時はここに来てください」

「店長さん」

「また、いらっしゃる時まで私達はここで良質な食事を提供し続けます。彼の笑みに応えられるように」

「ありがとうございます!」

 そんなやり取りがあった事を知らずに響は店員に汚れた布巾を手渡しシャルロットの元に駆けつける。

「おまたせ~」

「ううん、待ってないよ。行こ!」

 響とシャルロットは食事を終え買い物に繰り出す。

 そんな後ろ姿をまるで戦士の旅立ちを見送るように店長と店員が見送る。

「……店長、また来てくれますかね」

「ああ、きっとまた来る。それまで俺達がすべきことはわかっているな? いずれ来るであろう新たな戦いに備え心を癒し、体を鍛え、技を磨き研磨する。もしかしたら次はもっと過酷な戦いになるかもしれない……それでも私に着いてきてくれるか?」

「「「「はい、お任せください!!」」」」

「よし! ならば明日の材料をそろえに行くぞ!!」

「「「「はい、店長!!」」」」

 店長と店員は店を閉め今だ乾かない涙を拭い仕入れに向かったのだった。

「……何だったんだ、あれは?」

「……俺に聞くな、それより……」

 店に残っていた観客の内のこの暑い中黒いスーツに身を包んだ二人は信じられない物を見たと呟く。

 そんな中、一人の男がスーツのポケットから一枚の写真を取り出す。

「俺達の仕事は、こいつの私生活から友人関係、学園の成績に至るまで調べ上げる事だ。依頼主も待ちに待っているだろうからな」

 写真に写っている人物を容姿を確かめた。

「目標はあいつで間違いない」

「そうか。なら、見失わないうちに後を追うか」

「ああ、行くぞ」

 スーツ姿の男達が鋭い視線を向ける先には、シャルロットと一緒にショッピングモールの中に入っていく白い髪と緋色の瞳を持つ少年……皇響の姿があった。

 

 

 




 原作にない展開の挿入とオリ主らしさを書きたかったのですが途中から自分でもわからなくなりましたw 
 話を打っている最中はこういうのも面白いかもと思ったのですが……。
 とりあえず最新話のアップでしたが見ていただき感謝(^^)/
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