IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道 作:エヴァンジル
現在、響達はショッピングモールの四階にいた。
フロアの内容としては一般的な衣類から始まり海外の一流ブランド品まで網羅している衣料品専用の売り場だった。
女尊男埤社会である為か商品の内容もその殆どが女性もので揃えられていた、もちろん男物の売り店舗もあるのだがその店舗数は少ない。おそらく、他の階も似たようなものなのだろうが男にはとても厳しい世の中ではあるもののちゃんと男性の社会的立場を認めてもらえている分、こういった場でも苦情は出ないのだろう。
「え~と、水着売り場は何処なんだろ~?」
「………………」
響にしてみても水着だけ買えれば問題ない為、品揃えの悪さにも気づいていない様子でシャルロットに話しかける……が、シャルロットは細い眉を寄せしきりに周囲の様子を伺っていた。
「シャル?」
「え、あ、何かな?」
「うん、水着売り場なんだけど……そんなに困ったような顔しなくても大丈夫だよ。すぐ見つかるよ~」
「そ、そうだね。すぐ見つかるよね」
シャルロットは苦笑いを浮かべながら相づちをうったがやはりいつもの落ち着きを取り戻す事はなかった。
(もしかして……尾行されてる?)
それもこのショッピングモールに入ってから……気づいたのはたった今だけど、もしかしたらもっと前から尾行されて?。
シャルロットは自分達の背後をつけてくるスーツ姿の男達に気づいていた。とは言っても、彼等の尾行対象が自分か響なのかまではわかっていない。
(水着を探すふりをして四階まできたけど……一定の距離で着いてきてる、距離の取り方からすればプロ)
一定の距離でつかず離れずを保ち、自分達の視線が向いた瞬間に身を隠す。隠す事ができなかったら何食わぬ顔で近くの店に入ったり物をとって買い物客を装っている……しかもごく自然に。
(日本人みたいだけど僕が性別偽装を何の報告も無しにやめちゃったから会社が刺客を? ううん、もう僕の事は公になってるから今更何をやっても偽装の件はもみ消せない。僕を拘束するか処分しにきた……でも、そうなると人員も装備も足りない)
シャルロットの考えるとおり離れた場所で待ちぶせしている可能性もなくはない。だが、彼女は世界最強のISをかる操縦者であり白兵戦に於いてもそれなりの技術を身につけている。
その彼女に何らかの行動を取るというのなら最低でもIS操縦者は準備するだろう、なによりこの人の多い場所では向こうは手出しできない。その上で尾行しているとなると考えられるのはどちらかを対象としてた情報収集になる。
(僕が対象なら尾行する必要はないから、そうなると考えられるのは響だけだけど……世界的に注目を浴びてるたった二人の男性操縦者だから? ある程度情報公開もしてるのに保護条約を無視してまでするなら……企業スパイかどこかの国の工作員って事に……)
シャルロットは響と尾行している男達に気を配りながらも頭の中で目まぐるしく考えを張り巡らせる。
しかし、考えれば考えるほど自分に動きようがない事がわかってくる。
こんな町中でなくてもISの起動には厳しい制限がある。
有事の際でなら承認してくれるかもしれないが純粋な物理戦略、人数に任せた拘束作戦を展開されては許可を取る前に捕まってしまう。
かといって、今ここで許可を取ろうとすれば響に気づかれる。
(僕が狙いなら響に余計な心配を掛けるだけだし巻き込みたくない、響が狙いならこんなことなれてないだろうから危ない事はさせたくない)
ISを使う事ができればシールド機能に絶対防御もあるのだが……どっちにしても響に気づかれる前に行動を起こし尾行者の目的を探り排除しなければならない。
(とにかく、僕と響のどっちを狙っているのかをハッキリさせきゃ)
「シャル~、あそこに案内ディスプレイがあったよ。見に行こ~」
「うん、これだけ見て回っても見あたらないなら他の階かもしれないからね」
シャルロットは笑みを浮かべながら響に寄り添うように腕を抱える、響もこの状況になれてきているのか照れてはいるものの表情には出さない。
(こんなに真剣に水着を探すなんて……臨海学校楽しみにしてるんだね~)
シャルロットが眼に見えない水面下で追跡者をどう撃退するかを考えているなどと響は気づいていなかった。
「やっと見つけた~……けど」
ショッピングモール六階、そこには響達が探し求めていた水着売り場があった。
(女の人しかいないや~……って、当たり前だよね。ここ女性用水着売り場だもん……えっと、男用の水着は~?)
困って目をうろうろさせていると、まるで押しやられたかのようにポツンと誰もいない売り場が響の眼に映る。
悲しいかな、そここそ男子水着売り場だった。
「じゃ、水着を買ったらまたここで……」
「あ……」
響がシャルロットの腕を優しく解いた瞬間、シャルロットが妙に心残りのあるような声を漏らした。
「どうしたの~?」
「な、何でもないよ。それじゃまた後で!」
「う、うん?」
シャルロットは顔を紅くして女性水着売り場へと消えていった。
響もそんなシャルロットの背中を見送り自分の水着を買うため売り場へと向かう。
「どれにしようかな~……あ、これにしよう」
ポツンと孤立した売り場ではそれほど種類は多くない、それに男は水着選びに時間を掛けたりはしない。
響も偶然眼にとまった水着を手に取り即決で買う事に決めた。
買ったのはごくシンプルなサーフトランクスタイプの水着で動きやすさ重視、色は白だった。
「おれは終わったけど……シャルはまだだよね~」
響は女性水着売り場をさっと眺める。
あまり長い間じっとみていればあらぬ疑いを掛けられる可能性もあるのでそうしたのだが売り場にはシャルの姿は見あたらなかった。
「確か女の人は試着室があるんだっけ~……なら、時間かかるよね~」
その響の考察は実に的をえておりシャルロットは試着室の一つに身を隠していた。
「響、もう水着選んじゃったんだ。こっちもはやくしないと」
シャルロットは試着室のカーテンを僅かに開け響の様子を伺っていた、近くに男達の姿もあるものの動く気配はない。
「今のうちに」
早く誰かに協力を求めなければと携帯端末を取り出し手早く番号を押す。
トュルル、トュルル…………
「早く、早く出てよ。ラウラ」
『私だ、どうしたシャルロット?』
「ラウラ! よかった、出てくれた」
シャルロットが電話を掛けた相手はラウラだった、軍属である彼女であれば荒事になれているだろう。仲間内で協力を求めるのであれば彼女以上の適任はいない。
『その様子だと何か問題か?』
「うん、実は――――」
シャルロットは響と街にいる事と怪しい二人組に尾行されている事を伝えた。
最初は気のせいかと思ったが現に自分達の後を付いてきている、偶然と言うにはあまりにも都合がよすぎる上にスーツに身を包んだ男二人が水着売り場など不自然すぎるのだから。
『状況は理解した、狙いはどちらかはまだわからないのか?』
「うん、それがわかれば僕も動きようがあるんだけど――あっ!」
『どうした! 何か動きがあったのか!?』
「ごめん、とにかく手伝って欲しいんだ! お願いだよ!!」
『シャルロット! ま――』
シャルロットは電話を切り試着室から飛び出した、何故なら二人組の男が響に歩み寄ろうとしていた。
しかも、響は二人に気づいていない。シャルロットは不自然にならないよう冷静にかつ早急に響の元へ駆け寄る。
「響」
「あっ、シャル。おわったの~?」
「ううん、まだなんだけどね……」
シャルロットは響に隠れるように立ち男達の様子を伺う。
「……、ま……だ……」
「わか…………、あ……分後……」
響に歩み寄っていた男達はシャルロットが傍に来た事でまた一定の距離を取った、女性売り場と言う事もあり今までよりも離れている男達が何を言っているのかわからなかったがそれはあちらも同じ事だった。
「響に水着を選んでもらおうかなって」
「シャルの水着を?」
「う、うん……ね? いいでしょ?」
響に上目使いで懇願してくるシャルロット。
美少女てあるシャルロットがそれをすると破壊力が桁違いである事を思い知らされる響。眩しすぎるその光景を直視でいずこれでは断るに断れない。選択肢など『はい』しかないようなものである。
「……それってセクハラになるんじゃ~」
しかし、ここで素直に選ぶと返事をしてしまえばもう後がない。もしかしたらシャルロットが思い直してくれるかもしれないという期待を込め響は最後の悪あがきと思える反論をしてみた。
「ならないよ!」
だが、そんな響の願いは届かずシャルロット本人にばっさりと切られた。
「……頑張ってみるよ~」
もし誰かがこんな自分を女に甘いやつだと言うなら、それは間違いなく間違いである……と思って欲しい。
響は頬を掻きながら諦めにも似た決意を胸に刻んだ。
「えっと、どの水着なの~」
「試着室の方に置きっぱなしだから、そっちに行こ! 早く!」
「う、うん」
響は何処か慌てた様子のシャルロットに手を引かれ試着室へと向かう。
「あ、あ! 試着室はこっちだよ!」
「へぇ~! 結構中も広いんだね~」
さすが女尊男卑。女性にはとことん気を使ってる。
待遇の違いに感心つつ、響はシャルに手を引かれ一緒に試着室に入る……。
(え? ……一緒って~??)
響は思い違いである事を願いシャルロットに声をかける。
「あの~シャルさん、ひとつ質問していいでしょうか?」
「な、なに?」
「試着室って二人で入るもんだっけ~?」
「ち、違うんじゃないかな?」
「ですよね~。じゃ、おれは外に出――」
「ま、待って! それはダメ!」
「何で!?」
カーテンを開けて外に出ようとすると、シャルロットがぐいっと手を引っ張っる。響も負けじとそれから数回無言で出ていこうとするも、すべて阻まれた。
「も、もう一回聞くけど……何で!」
「な、何でって言われても……その……。と、とにかく! すぐに着替えるから待っててっ!」
「え!? ちょっと~!!」
いきなり上着を脱ぎ出したシャルロットに度肝を抜かれながらも、響は素早く背を向けた。
(なにこれ!? どんな状況ですか!?)
響はまずは何が起こっているか、問題はなにか、冷静に分析するべく深呼吸をする。
(え~と……まず最初に確認だよ。シャルが後ろで水着に着替えてるのは理解できる……)
響の思考がそこでとまる。
(できない! できません! できるわけがない!? シャルが水着に着替えてる、イコール服を脱いでいるってことだよ!? ということは裸になる……裸? ええっ!? 後ろで女の子が、は、裸になってるの~!?)
背後から聞こえるシャルロットの微かな吐息と服を脱ぐ音が響の理性を蝕んでいく。思春期の男子には刺激が強すぎる状況であり思春期でなくとも対処のしようがない状況に響は目眩を憶える。
(戻ってきて理性! どっか行って煩悩! もしくは助けて、店員さーん!)
響が頭を抱え心の中で必死に戦っていると、突然後ろから声がした。
「い、いいよ……」
その声に心臓がひときわ大きく跳ねた気がした。響がゆっくり振り向くと、そこには水着姿のシャルロットが恥ずかしそうに立っていた。
(うう……へ、変な子って思われたかな……で、でも響に気づかれないようにするにはこれくらいしか……)
響は自分以外の事であれば勘が鋭い、しかもそこに問題点があればすぐに考え答えをだせる。
今、自分達がつけられている事に気づき自分が標的だとわかれば確実に別行動を取り周りに被害が出ないよう一人で対処しようとするはずだ。
響にそうさせないために密室で水着を選ばせるという何とも常識破りな行動ではあったが 作戦が功を奏したのか響はとてつもなく動揺していて、感想を言うのはもちろん、口を開く余裕すらもなくただじっとシャルロットの水着姿を見つめていた。
「…………」
(ひ、響ったらなんで黙ってるんだろう……み、水着が変だったかな? あ、改めて見ると、結構大胆な水着だよね……)
しかし、シャルロットは響の視線を感じてもじもじと背中で組んだ指を動かす。
シャルロットが身につけているのはセパレートとワンピースの中間のような水着で、上下に分かれているそれを背中でクロスして繋げるという構造になっている。色は夏を意識した鮮やかなイエローで、正面のデザインはバランスよく膨らんだ胸の谷間を強調するように出来ているのだった。
とうとうシャルロットは沈黙にたまりかねて口を開いた。
「変……かな?」
「え!? へ、変じゃない、変じゃないよ! 可愛くて、つい、見とれちゃって……は、ははは~……」
シャルロットもかなりテンパっているのか、響の『可愛い』が聞き取れるとそれで満足だった。
「じゃ、じゃあ、これにするねっ」
しかも、何を思ったか響の目の前で水着を脱ごうと背中に手を伸ばす。響もその事に気づいたのか慌ててカーテンの隙間からはい出た。
「お、おれ飲み物買ってるから! 一階にあった自販機の前で待ってるよ!!」
「まって、ひび――」
響は引き留めようとするシャルロットの声に耳を貸さず試着室から飛び出し水着売り場から走り去った響は彼女に伝えたようにエスカレーターにのり一階へと向かう。
「何でこんな事に~」
響は紅くなった頬を隠すように俯く。
誰も響に注目しているわけではないがシャルロットとの密室での着替え現場にいたせいか後ろめたいものを感じたのだろう。
(……逃げるように出てきちゃったけど、大丈夫だよね~)
シャルには悪い事をしたと響は大きくため息を吐く。
試着室から逃げ出すためとは言え緊張状態に追い込まれ喉が渇いたのは事実、嘘は言っていない。そうでなくてもあんな状況になるとはこれっぽっちも考えていなかった、考えていなかったというか思ってもいなかった……。
(とりあえずジュースでも~)
一階に到着した響はすぐに自販機まで走り財布を出し小銭をいれる。
「コーラにしようかな~」
自販機のボタンを押し響は取り出し口からコーラを取り出し蓋を開け一気に飲み干す。
炭酸飲料は一気飲みに適さないのだがそんな事はお構いなしという風に喉を鳴らし最後までの見切った響。
「ゲフゥ~……それにしても、シャルはどうしてあんな事したんだろ~?」
水着を選んで欲しいとは言われたモノの試着室に一緒に入る必要はない、ましてや男である自分が同じ空間にいるというのに臆することなく着替えまでしていた。
「……もしかして、水着に着替えてる間に迷子になるって思われてたのかな~」
ああいった試着室で母親が服を着替えている間に試着室の前で待たせていた子供がいつの間にかいなくなってしまうという話を聞いた事がある。
(そうじゃなくてもシャルは街に出るのは初めてみたいだし……はぐれるとまずいと思ったのかな~)
響は空になったペットボトルをゴミ箱に入れ他の利用者の邪魔にならないよう自販機の反対側に設置されているベンチに腰掛ける。
日よけの広葉樹もあり待っているのには好都合だった。
「でも、シャルのあの感じだと迷子になるとかはぐれるとかとは違う感じだけど……。う~ん……女の子って何を考えてるのかわからないや~」
と言うより、十五年の人生の中で異性と付き合った事のない自分が少し考えただけでわかるようなら恋人同士の方々はお互いを知り尽くしてしまっている事になる。
実際には恋人同士でも互いに秘密にしている事や不満に思っている事、伝えたい、わかって欲しいっといった想いや考えがあるのにそれがわからないし伝わらない。それを考えればわからないのが当然だ。
「もしくは男として認識されてないって事かな~」
響は自嘲気味に苦笑いを浮かべた。
見た目が幼いとはいえ自分も思春期真っ直中の高校生である、もちろん異性に興味もあり女の子とお付き合いをしてみたいと思っているが自分の置かれている立場を考えるとそれは不可能に思えた。
学園における自分の立ち位置は残念かな『マスコット』である。
「……一夏みたいに背が大きくて格好良かったら違ってたと思うけど、無い物ねだりだよね~」
ならば、こんな自分でも好きになってくれる人を見つけるしかない……いないかもしれないが……。
響は肩を落としベンチの背もたれに寄りかかった。
現時点の響ではシャルロットの好意のこの字にすら気づいていない事がよくわかる、灯台もと暗しということわざがあるが今の響はまさにそれだった。
「……皇響君だね?」
「はい?」
急に声をかけられた響は声のした方に顔を向ける。
響の眼に映ったのは黒いスーツに身を包んだ男が二人、そして一人は胸元に手を忍ばせていた。
響が試着室を出て行った後、シャルロットは大急ぎで着替えと会計を済ませ響の後を追って一階の自販機へと向かって全速力で走っていた。
「もー! 響の気を逸らそうとして逆に失敗しちゃったよ!!」
尾行を気づかせないという一点に意識を集中しすぎたせいで響の羞恥心の沸点が低い事を計算に入れていなかったシャルロット。あのような状況になれば確かに響の意識は彼女に集中するだろうが水着を選び終われば逃げる、それを防ぐという所まで考えて置かなければ試着室に二人で身を隠すという作戦は成功しないのだ。
「早く、早く響の所に行かなくちゃ!」
自分が一人になっても男達は姿を現さなかった、それはつまり彼等の狙いが響であると言う事が確定した事でもある。
「ラウラに電話してもでてくれない、響の近くにいてくれれば良いけど……」
シャルロットは待機状態の『リヴァイブ』を握りしめる。
いざとなれば処罰覚悟でISを展開し響を助ける、本当の自分を取り戻させてくれた、居場所になってくれた彼を護るために。
唇を噛みしめシャルロットは思い詰めた表情を見せながら一階へ到着した。
「響は――!?」
響の姿を探し辺りを見回すシャルロット、そんな彼女の眼に映ったのは探していた響とスーツ姿の男達。
スーツ姿の男達は響の目の前に立ち上着の中に手を入れ何かを出そうとしていた。
(まさか拳銃、こんな所で!?)
シャルロットは男達が銃を取り出す前に駆けつけたかったがさすがに距離が離れすぎていた。ISを起動させてもそれでも遅いと直感的に悟ったシャルロットは響に逃げるよう声を張り上げる。
「響! その人達から離れて!!」
「……シャル?」
響はシャルロットの声に気づいたものの逃げる様子は見せず首を傾げているだけだった。
そして男達の手が完全に引き抜かれようとした時、日よけの木から二つの影が勢いよく跳び落ち男達に飛びかかった。
「ぐわっ!」
「な、なんだ!!」
響に気を取られていた男達は突如木から落ちてきた影に押し倒される、一人は肩に蹴りを受け地面に倒されもう一人は首筋に鋭い輝きを放つ軍用ナイフを突きつけられ身動きができないでいた。
「目標一、鎮圧」
「こっちも目標二、拘束したわよ」
蹴りを受けた男はツインテールを揺らす小柄の少女に俯せにされ右腕を捻り揚げられていた。
「お二人とも油断なさらないように。相手は殿方、関節を決めれば問題ないでしょうが力はそちらの方が上ですから」
シャルロットと同じ金髪の少女が響を男達から隠すように彼の前に立ちショットガンのフォアエンドを引き照準を男達に合わせる。
ナイフとは違いこちらじゃ玩具の様だが一メートルもない距離で撃てば玩具といえどかなりの威力の物のようだ。
「わかっている」
軍用ナイフを手にする少女も男に膝を着かせ両腕を頭の後ろで組ませていた。
「…………え~っと?」
いきなりの事で何が起こったのか理解できなかった響はまた首を傾げ目の前にいる少女達に視線を移す。
「よかった、来てくれたんだね! ラウラ、それに鈴とセシリアも!!」
男達を無力化したラウラ達の名前を呼び駆けつけるシャルロット。
「シャルロットか、ギリギリの所で間に合ってな。気づかれないよう隙を狙っていたのだが……二人とも無事でよかった」
「まったく、いきなり引っ張り出されたから何事かと思ったわよ」
「シャルロットさんからの電話を受けてラウラさんが顔色を変えたので心配しましたが無事で何よりですわ」
「ありがとうみんな、僕一人だけじゃ響を護れなかったよ」
シャルロットはセシリアの後ろで眼を点にしている響に駆け寄る。
「響、ケガはない?」
「ケガ? ないけど~……?」
「よかったー。……ごめんね、本当は響に気づかれる前にこの人達をどうにかしたかったんだけどもう大丈夫だから」
「大丈夫って……」
響はシャルロットが何を言っているのかわからず首を傾げる。
「……実はこの人達が響の事を尾行しててね、僕一人で何とか撃退したかったんだけど」
「そこでシャルロットから私に連絡が入ってな、鈴とセシリアにも手を貸してもらったというわけだ」
「感謝しなさいよ、あたし達が来なかったら危ないところだったんだからね」
「まあ、わたくし達に掛かればこの程度の事はどうとでもなりますわ」
「あの、みんな~……すっごく言いにくいんだけど……」
響は男達を拘束し自分の危機を未然に防いぎ自慢げな表情を浮かべるラウラ達から視線を外す。
「……この人達、IS委員会の人だよ」
「……えっ?」
「……はっ?」
「……あらっ?」
「……っ」
シャルロット達はキョトンとした表情を浮かべ小さな声をもらした。
そして……
「「「「ええええええっ!!」」」」
人目も憚らず少女達は悲鳴じみた大声を上げたのだった。
「「「「すみませんでした!」」」」
シャルロット達はIS委員会の職員達に深々と頭を下げた。
「いや、私達もこそこそと尾行していた事に変わりはない。今後気をつける事にする、君達も気にしないでくれ」
「あ、ありがとうございます」
二人はIS委員会の指示で保護している響の家族からどんな生活をしているのか知りたいとの事で響の身辺調査に赴いたのだ。
「しかし、皇君の担任である織斑千冬さんに連絡を入れておいたのだが……聞いていないのかい?」
「おれは知らないですよ~、シャルは何か知ってる?」
「……響が寝てる時に部屋に来たから、その話だったのかも」
「だそうです~」
響は苦笑いを浮かべながら事情を話す。
「そうか、親御さんから聞いた通り君は良く眠ってしまうようだね」
「学園のベッドはモコモコしてて気持ちいんですよね~」
「響ってば本当に幸せそうに寝てるもんね」
「教室でも机に突っ伏してるしね」
「お昼休みは屋上で日向ぼっこしてますし」
「何処でも寝れるのはある意味才能だな」
「「………………」」
男達は気まずそうに笑みを浮かべる、同級生からこうも寝ているところを見られているという事はそれだけ寝ている時間が多いという事で……。
「そ、それで父さん達は元気ですか? 連絡とろうとするんですけどいろいろあって!」
響じゃ生暖かい眼で見られている事に気づき慌てて話題を逸らす。
「大丈夫だよ、君の家族は全員元気にしている。今の君に様に君の事を心配していたよ」
「連絡は自由にしてもらってかまわないが今回は手紙を預かってきている」
その手紙を響に手渡そうとした時、誤解したラウラ達から襲われたのだが無事手渡す事が出来た男達、響も嬉しそうにその少し厚みのある手紙を受け取る。
「一応、今日一日の様子をこちらで撮影した映像を編集して送る事になっている。もし何か伝えたい事があれば今ここで撮影できる、恋人の事も紹介したいのであれば――」
「恋人って誰の事ですか~? おれに恋人なんていませんけど~」
「そ、そうなのかい? 今日一日一緒にいたその子がそうなのかと思ったのだが……」
「ぼ、僕ですか!?」
「ああ、ずっと見ていたが仲むつまじい様子だったのでそうではないかと」
「僕が、響の恋人……」
シャルロットは両手で朱くなった頬を押さえる。
(やったー! 他の人達が見ればちゃんと僕達恋人同士に見えるんだ、そうだよね。腕まで組んだんだもん、好きな人じゃなきゃ手だて握らないし!)
そんなシャルロットの様子をみた男達は小さく笑みを溢す。
美少女であるシャルロットが頬を朱くして嬉しそうににやけている姿を見れば誰でも彼女が響に思いを寄せている事がわかる。
しかし……
「シャルは恋人じゃなくて友達ですよ~、今日は臨海学校の準備で来ただけですから~」
響はシャルロットの様子に気づかず返事を返す、一夏と鈍感同盟を結成しているだけあって少しでも間接的な言い回しでは全くと言って良いほど鈍かった。
「「「「「「………………」」」」」」
その場にいた響以外の全員が言葉を失う、シャルロットに至っては先程まで嬉しそうにしていた表情が青ざめていた……。
「……それは失礼した」
いたたまれない雰囲気に絶えきれなかった職員は愛想笑いを浮かべ踵を返す。
「と、とりあえず私達はこれで失礼する。後で君からも手紙なり電話なり連絡してくれて構わない」
「わかりました、ありがとうございま~す」
何故か逃げるように帰っていった職員達を見送った響はベンチに座り渡された手紙の封を開ける。
「あ、手紙読むの?」
シャルロットは手紙の中身が気になったものの響個人に当てられたものであるため響から離れようとする。ラウラ達も手紙から視線を外した。
「見たいなら見てっていいよ~。何となくだけど内容は予想着いてるしね~」
しかし、響は手紙の内容を知られる事に抵抗がないのかシャルロット達が気になるのならと手紙を見やすいように堂々と広げる。
「響、僕達も見ちゃって本当にいいの?」
「うん」
「まあ、あんたがそう言うなら遠慮無く」
「失礼な気もしますが……」
「ふむ、皇の家族がどのような人物なのかも知っておく必要があるかもしれん」
ラウラはチラッとシャルロットに視線を向ける、シャルロットもラウラが何を言いたいのかわかったのか意を決したような表情を浮かべ手紙を覗き込む。
「え~っと、なになに~……響ちゃんへ。響ちゃんは――」
手紙の差出人は響の母の様だった。
響は手紙に書かれている達筆な文字を眼で追いながら声に出す。
『響ちゃんへ。
響ちゃんはご飯をちゃんと食べていますか? ご飯をたくさん食べさせてもらっていますか? 響ちゃんはたくさんご飯を食べる子だから学園の食堂で働く人達がボイコットしてしまっているのではないかととっても心配です。
それ以外にもIS学園は授業料免除にその他の経費も負担してくれるというお話だったけれどいつか加算だ食費の請求が来るかもと気が気じゃありません! ご飯を食べてはいけないとまでは言わないけれど他の生徒さん達の分までご飯を食べないようにね。
学園は響ちゃんと織斑君って子を除いて女の子だけってきいてるわ、響ちゃんはおねだり上手なところがあるから周りの女の子達からお菓子等も貰っているのではないかと――』
「…………あれ~?」
「あはは……か、変わった手紙だね」
「あんたの母親ご飯の事ばっか書いてるわね」
「しかも内容がまるで見ていたような感じですわ」
「皇、続きを」
響はラウラに促されるままに手紙を読み進める。
『――とにかく、ご飯はしっかり食べなきゃ駄目よ!
響ちゃんは人より何倍もご飯を食べているけど全然身長が伸びないんだから牛乳もちゃんと飲む事、他にも野菜不足にならないよう野菜も食べる事。
好き嫌いが無い事は良い事だけどお肉ばっかりだと栄養が偏っちゃうから注意しなさいね、お魚も一日分のカルシウムを取るためには二十匹食べなくちゃいけな……これは心配しなくても大丈夫だっわね、お母さんうっかりしてました。
響ちゃんは言われなくても出されたものは何でも食べるものね。
でも、お菓子は駄目よ。お菓子の食べ過ぎは糖分の取りすぎに繋がるから肥満になるかも……ってこれも心配ないわね。響ちゃん一人で二十六センチサイズのケーキを一日に十ホール食べても次の日の血液検査に引っかかりもしなかった時の事はお母さんも瑓ちゃんもビックリと同時に嫉妬したわ。だって―――――――――――〈中略〉―――――――――――と、ケーキの事は一旦置いておいて置く事にしておきましょう。
お母さんが今とても心配なのはお腹がすきすぎて消費期限が過ぎたものや道端に落ちている食べ物を食べてお腹を壊さないかと言う事です。
食べられるものなら何でも食べてしまっていたときもあった小さな頃の響ちゃんを思い出すと良い思い出のような気がしますがお腹を壊すのではないかとはらはらした、けどそんなこともなくて逆にドキドキしたこともあったのよ? 響ちゃんは高校生になったんだからもうそんな事しないわよね? ね? ね? このお手紙を読んだら電話でも良いから約束してちょうだい! IS操縦者になって有名になった響ちゃんが食あたりで有名にならないかとお母さんだけじゃなくてお父さんも瑓ちゃんもとーっても心配し―――――――――――〈中略〉―――――――――――だからせめて食中毒に―――――――――――〈中略〉―――――――――――』
「………………」
響は手紙の内容に絶句し暗い表情を浮かべる。
書かれた内容の大半が食事に関する事であり、一番知りたいと思っていた家族の状況が未だに出てこない始末……。
自分としては身体の体調はどうか? とか、ISの操縦はなれたか? とか、学園での生活の事を質問してくる内容なのではないかと思っていた。
だが、実際にIS委員会の職員から手渡された手紙には食事の心配しかしていない心情だけが書かれている。
そんな悲惨を通り越して哀れな内容に字が霞んで見える、きっと自分は泣いているのだろう。
(……せめて食中毒って、それは無いよ~……)
響は手紙をシャルロットに手渡し両手で顔を覆いすすり泣くのだった。
「……響は変わった子供だったんだね」
「響だけじゃなくて家族も相当変わってるみたいよ」
「わたくしなんて言ったらいいのか……」
「しかし、事実だけ書かれているのだからそれを受け止めるしかあるまい。シャルロット、皇を追い詰めるようで不本意だが続きを頼む」
「う、うん」
シャルロットは響当ての手紙を読み進めていく。
『――いろいろご飯の事を言ってきたけどやっぱり響ちゃんはご飯の事が一番大事だと思うから遠慮しちゃ駄目よ?
とりあえず、ご飯の事は置いておいて本題になるけどお母さん達は元気です!
お母さん達の事は心配しないでくださいね、連絡待ってるから。
あ、あとね響ちゃん寂しがり屋なところもあるから家族みんなで写っている写真を学園に送っておきます。
親愛なる母より』
(って! 終わっちゃったよ!? 手紙の枚数十枚超えてるのにご飯の事しか書いてないし、と言うか肝心の本題が最後数行っておかしいよ! 響の事聞いてないし、自分達の事もあっさりしてるし! こんな内容になるなんて一体どんな食生活してきたの!?)
シャルロットは手紙から視線を外し泣いている響に追求するような視線を向けてしまう。
ここで慰めておけば好印象であるのだがあまりの手紙の威力? に動揺しているようだ。
「……あ、あたし達はもういくわ。一夏探さなきゃ出し……」
「お、おほほ。そうですわね。では、シャルロットさん……また、後ほど~」
「私が言える事ではないが皇はもう少し食生活を改善する事だ、その間違いを正す事ができれば……くっ!」
「み、みんなー!!」
シャルロットは自分達を置いてショッピングモールへと駆けていくラウラ達を呼び止めたが彼女達は一切後ろを振り向くような事はしなかった。
理由は響にどんな言葉をかければいいのかわからない、と言ったところなのだろうがラウラに至っては目元に涙が浮かんでいたような気さえする。
「……ぅ……ぐす……せめて食中毒って……書くような事じゃないよ~……」
(ほんとにね)
二人きりになれたのは良かったがロマンチックな状況とはかけ離れているこの状況……。
泣いている響を情けないとは思わない、響でなくともこんな手紙を渡されては涙が出てしまうのは当然だった。
シャルロットはため息をこぼしつつ手に持つ手紙に視線を戻す。
(あれ? 裏に何か書いてある)
シャルロットは親愛なる母と書かれた紙片の裏に字が書かれている事に気づき最後の手紙を裏返してみる。
「あ……」
そこに書かれていたのはたった五行の文章。
しかも、それぞれが違う字体で手紙に書き記されていた。
その文に眼を通したシャルロットは小さく笑みを浮かべそんな彼女の瞳には落ち込んでいる響が映る。
「響」
「なに~、シャルロット……おれ、まだ立ち直れないよ」
「これを見れば大丈夫だと思うよ」
「これって……?」
響は目元を拭いシャルロット差し出す手紙を受け取り字を読んだ。
「…………こんな書き方、わかりにくいよ~」
「そうだね、でも……響の事大事に思ってる事はすごくわかる」
「……うん」
シャルロットの言葉に泣いていた響の頬が緩む。
シャルロットが発見した手紙の裏に書かれていたメッセージ、それは紛れもなく響の家族からのものだった。
『 追伸
今は離ればなれだけれど忘れないで……
この先に何があっても……
響は父さんの自慢の息子だぞ!!
響ちゃんはお母さんの子供なんだから!
お兄ちゃんは瑓のお兄ちゃんなんだからね!
皇 忠
皇 頼子
皇 瑓 より』
「よかったね、響」
「うん、聞きたかった事はほんのちょっとしか書いてなかったけど……みんな元気そうで安心したよ~」
「今度はちゃんと忘れないように電話しなきゃだね」
「そうするよ~」
響は心をくじかれたはずの手紙を大事そうに封筒に入れ直し制服の内ポケットにしまう。もう涙も乾き泣き顔はいつものぽやっとした表情に戻っていた。
「ほっとしたらお腹すいちゃった~。シャル、何か食べてから帰ろっか~」
「ふふ、響ったら本当に食いしん坊さんなんだから」
「えへへ~」
シャルロットは響がいつもの響に戻って安心したのか笑みを浮かべる、響もそんな彼女につられるように照れたような笑みを浮かべ頬を掻く。
(母さん達に直に会えないのは残念だけど……でも、元気でいてくれた安心した)
知らない土地と環境にも慣れた、家族と一緒にいられない寂しさにも慣れた……。
寂しさも孤独も学園での慌ただしい時間が解決してくれた。
(でも、今寂しくないのは、悲しくないのはきっとシャルのおかげだよね~)
心を包み込んでくれるような優しく、暖かい笑顔を見せてくれる。そんなシャルロットが傍にいてくれているおかげで自分はこうして笑っていられる。
「ん? どうしたの響、僕の顔に何か付いてる?」
「ううん~、何も……でも~」
「でも?」
だから、自分もシャルの助けになれる様に頑張らなくては。
シャルロットだけではない、一夏や他のみんなの為にも強く、こうして笑い会えるように。
「シャルは笑ってる時が一番可愛いな~って思ってさ~」
「ひ、響! いきなり何言ってるのさ!?」
「えっ? 可愛いから可愛いって言ったんだけど……あ、やっぱり高校生なんだし可愛いより綺麗って言われたいよね。ごめんよ~」
「そんな事無いよ! あ、その、嬉しいけど突然そんな事言われちゃうと驚いちゃうから……」
「じゃあ、今から可愛いって言うから~って言えばいいのかな~?」
「そ、それもどうかな? 結局、いきなり言われる事に変わりはない――あ、嫌じゃないよ、嫌じゃないから! むしろ嬉しいからね!!」
「そっか~、なら問題ないよね~」
問題その物は何も解決していないがシャルロットが嬉しいならその時点で響には解決した問題になってしまった。
「……問題ありすぎだよ」
そんな響に対してシャルロットは顔を真っ赤にして俯きこれから前触れもなく言われるであろう嬉しい言葉に自分は耐えられるのかと涙目を浮かべる。
「あ、あれ~? 何でシャル泣いてるの~!」
「も、もう! 少しは自覚してよ!!」
「……えっと何を? ? ?」
先程までとは立場が逆になってしまった二人は門限まで延々と照れたり照れなかったり……そんな光景を見ていた通行人達はこう思った。
『……ああ~、あれがバカップルってやつか』
本当の本当にカップルではない二人を見守る視線は、温かいものから冷たいものまであった。そしてごく一部の男達は血の涙を流したそうな……。
読んでくださった方どうもありがとうございますw
今回は少し長めで投稿できたかなと思います、一度で読むのが辛い量かもしれませんがなにとぞご容赦を。
次のお話から福音編に入ろうかなと思っていますが結構オリジナルで行きたいかなと思っているので次の投稿まで時間が掛かると思いますので待っていただけれれば幸いですm(_ _)m