IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道 作:エヴァンジル
「はあ……酷い目にあった~」
「はは、災難だったな」
「笑い事じゃないよ~」
響は旅館の露天風呂につかりながら大きなため息をこぼす。
海辺での珍事は結局自由時間を過ぎても続けられた、事の原因は本音から渡されたハムスターの着ぐるみ水着。
アレを着て女子生徒一同の前に出てしまったものだから文字通り小動物として愛でられた、その中にはシャルだけでなく良く話をする箒達も混ざっており逃げようとしても逃げられずただただ抱き枕ならぬ抱きぐるみとなるしかなかった。
「……眼が血走ってる人もいたけど、……うん、忘れよ~」
響も年頃の男子、着ぐるみを着ているとはいえ水着姿の女子達に次々と抱きしめられ女子特有の甘い匂いだけでなく柔らかな肉体の感触、そして張りのある素肌が唯一露出している顔に触れたときは気絶しそうになっていた。
そんな響の姿に思うところがあったのか順番待ちをしていた何人かの女子は荒い息をあげ口元を怪しげにつり上げ涎を流していた、その姿を見た響は照れと緊張の他に言い表せないある種の恐怖を抱いた。
「……さ、寒気が……」
響はその時の事を思い出し温かい湯船につかっているというのにガタガタと震え出す。
「それにしても、まさか千冬姉まで並ぶとは……響は凄いな」
「なんか含みがあるしゃべり方だね~」
「そうか? まあ、自由時間は大変だった分、この後の夕食で元を取るよう頑張れよ」
「そうだね~、せめてご飯だけはゆっくり食べたいよ~」
この心の疲れを洗い流し臨海学校一番の楽しみである海の幸をふんだんに使っていると聞いた旅館の食事、響が尤も心躍らせる時間。
自由時間とは名ばかりの不自由だった今日という日を謳歌できる最後のチャンス。
(うん、いつも以上に詰め込も~!)
響はギュッと拳を握り心の中で己の食欲の限界を人知れず外す、隣にいる一夏でさえその事には気づかない。
「あー、生き返るなあ。やっぱ日本人は風呂だよな。うーん蘇る~」
「お爺ちゃんみたいだよ~、一夏」
露天風呂の心地よい湯船に顔が緩む一夏をみて響は苦笑を浮かべる、かく言う響も同じ様な顔をしていたが。
「うるせー。気持ちいいから良いんだよー」
ほっこりと風呂を満喫している一夏に響もそういうものか、とこれ以上は追及しない。確かに風呂は良い物なのだから。
「それでもあんまり興奮して誘うのはやめて欲しいな~」
「……ああ、そうだな」
海岸で遊んだ際の汚れを落とそうと露天風呂へと向かおうとした時、一夏は興奮気味に響にこう言ったのだ。
『響、ここ露天風呂らしいぜ! 俺達の時間になったらすぐ行こうな!』
これを聞いた女子数名の反応が酷かった。
『露天風呂……織斑君あんなにはしゃいで』
『俺達の時間……俺達の時間!』
『そして二人は仲睦まじく……キャー♪』
と言った具合に。
因みにその話を聞いた箒以下数名は一夏に詰め寄り何やら揉めていた、響は響でシャルロットに浴衣の袖を引かれ、
『ひ、響は大丈夫だよね?』
と不安げな瞳で訊かれたのだ。
何かとんでもない勘違いをしていたシャルロットの誤解を解いた響。一夏も懲りたのか今度から気を付ける、と頷いた。
「しかし今日は随分と遊んだけど、明日からは訓練なんだよなあ。ISの各種装備試験運用とそのデータ取りだっけか。具体的には何やるんだ?」
「訓練機は学園に保管されている装備の使用方法の確認だよ~。今後模擬戦の数も増えるだろうから、自分に合った装備を選ぶ為だってさ~。専用機持ちはそれぞれ専用のパーツや装備があるからそれの運用。来る前に言われたでしょ~」
「いや、そうなんだけどさ。俺の『白式』の場合、武器が『雪片弐型』だけだろ? だからどうすんのかなってさ」
一夏の『白式』は拡張領域を全て『雪片弐型』で埋めている。故に後付け装備は出来ないのだ。
「そうだね~……。だったらより効率のいい運用方法の模索とかそんな感じじゃない? その辺りは織斑先生が考えてると思うけどな~」
「結局明日にならなきゃわからない、か。まあ仕方ないよな。所で響はどうなるんだ? やっぱ専用機になったから運用データの測定か?」
「どうだろ~、おれの場合は事情が事情だから~」
自分の場合、訓練機から専用機へと変化した『打鉄』の測定をしなければならないのは当然の事である。しかし、一夏の『白式』と同じように武装は『鳶葵』のみ……おそらく一夏と同じような訓練内容になるだろう。違う点があるとすれば『鳶葵』の剣戟射出機構の運用テストと単一能力である『一騎当千』最大連続稼働時間及び限界出力の試験運用くらいだろう。
「おれの『打鉄』も『白式』と同じで武器は一つだけだけど、射撃武器みたいなのは付いてるから一夏よりは何するか予想しやすいけどね~」
「そっか、しかしやっぱ『白式』にも射撃武器が欲しいよ。そりゃ、いきなり使いこなせるとは思わないけどやっぱりあると無いとじゃ大違いだろ?」
呟きながら己の手を握る一夏。その眼には強さへの渇望が。向上心が見える。
「うん、それはそうだよ~」
響も一夏の言葉を肯定するように返事を返えした。
響の場合、射撃の才能は一夏よりも低い。もしかしなくても学園内で最低レベルだ、そんな響だからこそ射撃武器の有用性は身に染みていた。
彼の場合『打鉄』の助けもあり点の射撃ではなく斬撃による戦の射撃でなんとか射撃武器のような効果を実現しているにすぎない。これがもし剣戟射出でなく通常の弾丸、もしくはビーム系統の射撃武器であったなら響は暴走した『シュヴァルツェア・レーゲン』に勝利する事はできなかっただろう。
「でも、一夏が追加装備が欲しいのはやっぱり強くなりたいから~?」
「当たり前だろ。俺は強くなりたい。それで俺の周りの人を守りたい。まだ守られるばかりのガキだけどさ、いつかは俺が守ってやりたいんだ」
それはとてつもない夢だろう。何せ彼の周りには彼より強い人間が多くいる。実の姉を筆頭に担任や代表候補生達。それは分からない一夏では無い。それでも守りたいと言う。
「……ねぇ、一夏。一夏は何でそんなに守りたいと思うの~?」
一夏の人生も大よそ普通ではないかもしれない。ラウラとの一件を考えても過去に何かあったのは明白だ。その事を聞こうとも話してもらおうとは思わない。それに同じ男としてISを動かせることで学園入学し、色々なトラブルもあった。そこで一夏は自分と同じように身の丈を知った筈だ。それなのに上を目指し続ける。その心の内が気になった。
「そうだな……やっぱ守られてばかりなのは悔しい、ってのもある。だけどさ、それ以上に俺は、俺の為に頑張ってくれた人たちが大切なんだよ。その大切な人たちが悲しまない様に、今度は俺が守ってやりたいんだ。だからこそ強くなりたい。結局は自分の為かもしれないけどさ」
ちょっと恥ずかしそうに頭を掻きながら話す内容は一夏の本心だろう。彼は彼と、その周りの人たちの為に強くなりたいのだ。そんな一夏の姿がどこか眩しく感じ、それを誤魔化すように響は湯口から出たばかりの熱湯を一夏にかけた。
「熱っ!? いきなり何するんだよ!」
「まったく、カッコイイこと言ってもおれは口説かれないよ~。口説くのは女の子だけにしてね~」
「口説いてなんかないだろ! そもそも響から訊いてきたんだじゃないか! このやろっ!」
「うわっ!?」
お返しとばかりに一夏が同じように熱湯をかけてくるが響はギリギリで回避した。悔しそうに一夏が呟く。
「相変わらず避けるの上手いな」
「それが取り柄ですから~」
そのまま数秒睨み合うが先に折れたのは一夏だった。はぁ、とため息を付くと湯船につかり直す。
「そういう響も俺と同じだろ?」
「ん~?」
「強くなる理由だよ、ラウラの時に喋ってたのモニター室でちゃんと聞いてたんだぜ」
「わ~、なんか恥ずかしいね~」
まさかあの時の試合で自分を心配してくれていた箒に洩らした本心を聞かれていたとは思っていなかった。
『相手が自分じゃ敵わないくらい強くても、自分が弱いって事が……逃げる理由にはならないって、戦えない理由にはならないんだって』
『だから、おれは逃げない。この刀を握られなくなったって、足が動かなくなったってどんなに格好悪くたって、どんなに見苦しくたって……最後の最後まで戦い抜くんだ!!』
今思い出してみると自分でも何を言っているんだと頬が熱くなる。
言っている事は格好いいように聞こえても自分が勝つまで降参しないという何とも悪あがき感がある、それもかなり諦めの悪い方向で。
「恥ずかしくなんかないって、俺もそう思うぜ」
「そう言ってくれると助かるよ~、それでさっきの話の続きだけど~」
「おう」
「おれも一夏と同じかな~。大切な人を守れる力が自分にあれば、って思う。もしもの時、大切な誰かを……」
響の言う大切な誰か、それは大切な家族であり、仲間であり、友達であり……そして、まだ見ぬ恋いこがれるであろう異性も含まれていた。一夏と同じように大切な人達を守りたい、その思いに『打鉄』が答えてくれたのだから。
響ははにかんだ笑顔を浮かべながら待機状態である『打鉄』に触れた。
「そうか。なら俺達は同じだな。お互い頑張ろうぜ」
「うん。でも、一夏は座学からだね~」
「うっ……」
気まずげに視線を逸らす一夏に苦笑する。入学してから大分経ち、大分マシにはなったとはいえ、まだまだ足りてないのが現状である。
「そっちはおいおいで……。そろそろ俺は先に上がるぜ。響はどうするんだ?」
「おれも出るよ~。そろそろご飯の時間だろうしね」
「じゃあ行こうぜ」
「よ~し、今日は食べまくるぞ~!」
「……今日も、だろ」
湯船から立ち上がり満天の星空に小さな握り拳を振り上げ緋色の瞳に燃えたぎる食欲の炎を灯す響に一夏は表情を引き攣らせるのだった。
――『花月荘』大宴会場。
隣接する大広間を三つ繋げた部屋で響達は食事を取っていた。
い草の香りがする畳席やテーブル席があり、響は知らぬ者がいない小さな大食漢である為旅館の侍女の方々が食器を片付けやすいようにと出入り口近くの六人掛けのテーブル席を占拠し食事にせいを出していた。
「学園のご飯もおいしいけどここのご飯もすっごくおいしねー!」
「そ、そうだな。確かにそうだと思うが……」
そんな響の食事を観察していたラウラは旅館の食事にご満悦名響とは反対に表情を引き攣らせていた。
(……外での食事という事もあって食欲に拍車が掛かっているのか? だとしてもこの量、いつもの倍だぞ!?)
既に食事を終えたラウラはシャルロットが終わるまで待っていた……が、隣の席で今までに見ない粗食速度で食事を平らげていく響に言葉を失う。
「お刺身も、天ぷらもお吸い物も全部おいしい~! 臨海学校来てよかった~!」
既にテーブルの上は侍女の方々が全力で後片付けているというのに次々と食べ終えた食器が積み重ねられていく、それこそ出された瞬間には食べ終えていると言ってもいい速さで。
毎度の事だが、響の身長は箒と同じくらい。シャルロットより少し大きい位なのだがあり得ない質量が小さな身体の胃袋に納められている。
(質量の事もそうだが何故体系的に見栄えが変わらないのだ? シャルロット達お言っていたがこれだけ食事を摂取すれば太ってもおかしくはないというのに)
カロリーの大量摂取、その代償と言える体重の増加が全く見られない。当然身長も伸びる様子はない、はっきり言って生物学的に言っても響の胃袋は普通ではない。科学的にも解明できるかどうかという領域に達している。
(……まさか、ブラックホールを持っているとでも……いやいや、それはない)
心の内でボケとツッコミをするラウラ、だが響の食べっぷりを見ればそれもあながちあり得るかもしれないと思える。
すでにその光景に何にかの女子生徒は食事を中断し自室へ戻っていった者達もいる。
「……皇、そろそろ終わらせた方が良いのではないか?」
「大丈夫! まだ腹八分目だよ!!」
「いや、胃袋の心配ではないのだが……」
その言葉の通りラウラが心配していたのは響の胃袋ではなく、この旅館に残されている食材の残量とIS学園に請求されるであろう膨大な食費だった。
千冬なら響の食欲を計算に入れて経費を申請しているだろうがこの勢いでは他の学生だけでなく引率している職員やこの旅館の従業員の分の食糧まで食い尽くしてしまいそうな勢いである。
「明日は過酷な訓練になるかもしれない、あまり食べ過ぎると吐く可能性も考えられる」
「そ、そんなに辛い訓練するのかな~?」
「教官の事だからな、可能性は充分に考えられる、それに皇は学園の訓練機を自分の専用機に変えてしまったからな。イレギュラー中のイレギュラーだ……一体どんな過酷な訓練が用意されているかわからないぞ」
「……も、もうやめよかな~」
響はラウラの深刻そうな声音と苦虫を噛み潰したような表情に怖じ気づいたのか世界で唯一吸引力の落ちない掃除機ばりの食欲に歯止めを掛けるように箸を置いた。
「その方が良いだろう、それよりこの後はどうするつもりだ?」
「この後は部屋で少し荷物の整理をして、それから織斑先生の部屋で一夏と何かして遊ぶつもり~」
「ふむ、つまり教官と一夏の部屋に行くまでに弱冠時間があるわけだな」
「そうだよ~、それがどうかした~?」
「いや、こちらの話だ。気にしなくて良い」
「……? よくわからないけど、ご飯も一段落したしおれは部屋に戻るよ~」
「ああ、ゆっくり片付けると良い。その方が都合が良い」
「う、うん?」
響はラウラが何を思って都合が良いと言ったのかわからず首を捻りつつも自分の部屋へと戻る。
あてがわれた部屋の前には『山田真耶・皇響』と堂々と名前が書かれていたがやはりそこは学園の教師が同室という事もあり女子生徒達が入ってくる事はなかった。
「はあ~、ご飯はお腹いっぱい食べられなかったけどこれでゆっくりできる~」
部屋に戻った響は本音から借りた着ぐるみ水着を備え付けのハンガーラックに掛ける、旅館の女将の好意で洗濯機を貸してもらえたのはありがたかった。
本音にはそのまま持ち帰って洗うからと言われた洗って返すのが当然であるため自由時間が終わってすぐに洗濯したのだ、最終日三日目には僅かだが自由時間が設けられている。その時に本音が使えば使うかもしれないので今から乾かさなければさすがに間に合わない。
「ふふ、今日はお疲れ様でした。就寝時間まではもう自由にしてくれて構いません、織斑君とお話をしてきても大丈夫ですよ」
「荷物の整理をしたら行かせてもらいま~す」
「はい、どうぞ」
響は水着を掛け終え今度は慌てて海に泳ぎに行こうとして乱雑に置いてしまった荷物を片付ける、とは言ってもそれほど中身を取り出して部屋の中に広げたわけでもないのですぐに終わる。
「あ」
「どうしました、皇君?」
「いえ、臨海学校の準備をしてる時に間違って持って来ちゃったみたいで~」
響は鞄の中から小さな電子端末を取り出し電源を入れた、すると投影モニターが展開されそこには響と家族の姿が映った。
「アルバムですか、ご家族の写真ですね」
「はい、父さんと母さん、それに妹の瑓ちゃんです」
響は真耶に端末を手渡す、そのモニターに映っているのは恰幅の良い中年男性と優しげな笑みを浮かべる女性と響より小さい活発そうな少女が映っていた。勿論、響もその三人に囲まれるように映っていた。
「入学式の時に一度お会いしましたけど皇君はちゃんと連絡とかしてますか?」
「はい、今日の臨海学校の事を話したら一緒に来たかったって言ってました~」
もっとも来たいと言っていたのは妹の瑓だけ。
両親である忠と頼子は年齢の事もあって日光浴くらいしかできないからと難色を示していたが。
「それにIS委員会の人達からも良くしてもらってるみたいで今の所危ない事は一回も起きてないって言ってまたした~」
「それなら安心ですね、皇君もIS学園の生徒であるのでその点は心配ないですから安心してくださいね」
「は~い」
学園長から内密に響の護衛を依頼されている千冬と楯無の事は知らされていないため真耶が言ったのはあくまで独立機関に在籍する上での保証である。
しかし、今のところそう言った工作員達の接触もない。
(今は学園を離れちゃってるけど織斑先生が何も言ってこないなら大丈夫だよね~)
学園の外に出たとはいえこの旅館は学園が貸し切ってある、しかも世界最強の兵器であるISが持ち込まれている以上警備は自然と厳重になる。部外者が侵入すればすぐに経過思うに掛かり捕まるのが落ちだ。
「それにしても皇君は小さい頃からあまり変わらないんですね」
「あはは……そうなんですよ~、どうしたら身長が伸びるんでしょ~?」
一般的に言われる、よく食べ良く運動しよく寝るを実戦しているというのに全く背が伸びる気配がない響。
伸びる気配がないとは言ってもそれは今の話で決して背が伸びていないわけではない。
実際、写真に写っている今よりも幼い頃の響である。ちゃんと比較できる物はないが両親と妹との身長から判断するに今よりも小さい。
「学園に入学してから伸びなくなったんですけど……もう駄目ってことですか~?」
響はどこか縋るような視線を真耶に向ける。
けっして身長が低いからと言って男として駄目なわけではない、しかし、当の本人としては一夏と同じくらいもしくは少し低いくらいの身長が欲しいと願っているのだ。
「ど、どうでしょう? 男性は二十五歳までは身長が伸びると言いますから皇君はまだ十五歳ですしまだまだこれからだと思いますよ」
「ほ、本当ですか~!」
「ええ、ですからあまり気にしちゃ駄目ですよ」
「はい~!」
真耶の励ましの言葉に響は満面の笑みを浮かべるもけっして背が伸びるという保証があるという事に気づいていなかった。
「ところで、荷物整理は良いんですか?」
「あ、そうでした~! 写真まだ見ますか~?」
「そうですね、折角ですし皇君の可愛らしい子供時代を見させてもらいます」
「ですか~」
響は片付けの途中だった事を思い出し荷物整理を再開する。真耶は雪那に渡された電子モニターに指で触れ画像をスライドさせていく。
(どの写真も可愛らしく撮れてますね)
主に最近撮られた写真から見ている物のモニターに映る響の姿は十代の少年が見せる眩しい姿では合った物の子供らしさが滲み出ている物が多かった。
見た目もあまり変わっていないのか人混みの中で埋もれている響の写真でも真っ白な髪のお陰ですぐに見つける事ができた。
「これは運動会の時の写真ですね、でも何の競技でしょうか? 顔が真っ白ですよ」
「ああ、その写真は少し深さがあるトレイに小麦粉を入れてその中に埋まってる飴を食べるやつですよ~」
「そうですか、手持ちの旗を見る限り一位だったみたいですね。こういうの得意なんですか?」
顔を小麦粉で白くしている響の手には手作りの一等旗が握られていた。
「得意じゃないですよ~、飴を見つけるの大変だったんで結局中身を全部食べたんです~」
「……食べたんですか? 全部?」
「そうですよ~」
「よ、よく食べれましたね」
「名前に付いてる通り粉だけあって食べにくかったですけどね~」
響は鞄の中身を整理しながらその時の事を思い出す。
息を止め必死に小麦粉の中に埋まっている飴を探して口を動かしたが一向に見つけられず最下位になるのではないかと焦ったとき小麦粉も食べてられる事を思い出したのが一位に繋がったのだ。
「中に入ってる飴と一緒に食べると甘いもんじゃみたいで美味しかったですよ~、飴をかみ砕く時に口の中に入れる小麦粉の量がミソで――」
「あー! この写真は何かのお祭りですか!? 皇君が可愛い浴衣来てますよ!!」
「それは中学一年生の頃ですね~。母さん縫い物が得意でおれの浴衣を縫ってくれたんです、瑓ちゃんとおそろいの生地じゃないですか~?」
「そうですね、妹さんと同じ柄の浴衣ですから。ふふっ!」
「どうしたんですか山田先生、急に笑って~?」
響は荷物の整理を終え小さな笑いを溢した真耶に向きなおる。
「いえ、皇君は妹さん思いだと思って」
「え、どうしてですか~?」
「だって皇君、この写真だと妹さんの綿飴とか屋台で買ったお菓子を持ってあげてるじゃないですか」
真耶が見ている写真には響が両手一杯に様々な屋台で売られていたであろうリンゴ飴やバナナチョコ、それに様々な焼き菓子を握りしめその小さな背に女の子が好きそうなアニメのキャラクターや動物の写真がプリントされた袋に入っている綿飴を背中一杯に担いでいる姿だった。
「あー、それはおれの分ですよ~。お祭りのくじ引きで好きな物を好きなだけプレゼントしますっていう券を引いちゃってそれでもらったお菓子です。その写真だと半分くらい食べた後のやつですね~」
「……これも、食べたんですか?」
「そうですよ~、その時は嬉しくて食べたかったお店の物全部もらっちゃって、でもその写真を撮ってた父さん達は何故か泣いてましたけど~」
「………………」
真耶は楽しかった思い出を嬉しそうに話す響を見て何も言えなくなった。
今二人が見ているこの写真は忠と頼子が家族の思い出として取った物だったがこの写真を撮っていた時の心境を考えると思わず涙が溢れそうになる真耶。
まさか自分の子供が祭りに出店している全ての出店を潰す勢いで食べ歩くなど思ってもいなかったはずだ……。
真耶は次の写真を見ようとしたがまた響の尋常ではない食欲話に繋がる物ではないのかとなかなか次に移れないでいた。
「山田先生失礼します、響のやついますか?」
そんな時、真耶を助けるかのように一夏が二人の前に姿を見せる。
「織斑君!」
「あ、一夏。こっちで話すの~? っていうか、髪濡れてるね~」
「ああ、今部屋に箒達が来ててな。千冬姉とセシリアをマッサージしてたら汗かいてもう一回入ってきたんだよ、それで風呂から戻ってくるときにでも響を連れてこいっていわれてな。何か聞きたい事があるとかないとか……」
「そっか~、山田先生。片付けも終わったのでおれ一夏と一緒に織斑先生の所に行ってきますね~」
「どうぞどうぞ! 私の事は気にしなくて良いですから充分楽しんできてくださいね!」
「それじゃいってきまーす」
「はい、行ってらっしゃい!」
響は一夏と一緒に部屋を出た。
残された真耶は何故か安堵のため息を付く。
「まさか、この写真全部が食べ物に関係してるとは思いませんが……」
苦笑をもらしながら真耶は記録されている写真を見ていく。どの写真も運動会や学芸会、入学式に卒業式、もちろん日常の何気ない写真まで網羅されている。
この電子アルバムを見ると響がどれだけ大切に、愛されているのかがわかる。
「それにしても、身長の事はともかく皇君は昔からあまり変わってないみたいですね」
真野の眼に映るのは今と対して変わらない姿の響。
家族と一緒に生き生きとした笑顔を浮かべていた、高校生になった今でもそれは変わっていない。
「ふふ、これじゃ他の生徒さん達にからかわれたり年下と思われるのも仕方がない気がしますね……ん? この写真は……」
微笑を浮かべながら写真を見ていた真耶の眼が不意に止まる。
真耶が眼を止めたのは家族全員が映っている写真、その写真に映る響達は幸せそうに笑っていた。
「これはどういう事でしょう?」
何処にでもある家族の何気ない集合写真。しかし、その一枚だけが他の写真とは違う物が映り込んでいた。
何も幽霊が映った心霊写真というわけではない、誰か他の人物が写っているわけでもない。
それでも真耶が目を丸くしてその一枚の写真を見つめたのは写っているある人物のたった一つだけ外見が違っていたからだ。
「――――皇君、髪が黒かったんですね」
ども~!
今回も投稿が遅れてしまいましたがあまりいつもと変わらない文章量で投稿できたと思います。
最近ですが人物の視点や場面の転換がころころと変わり読みにくいかもしれませんがなにとぞお付き合いくださいm(_ _)m