IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道 作:エヴァンジル
「箒、援護を頼む!」
「任せろ!!」
海上で福音と刃を交える一夏と箒、二人は繰り出した初太刀を福音に躱され追い詰められていた。
追い詰められていたと言うには戦闘時間は短い。しかし、『重要軍事機密』として扱われているISである福音に搭載されている高出力の多方向推進装置によって必殺の一撃を避けた……その現実が否応なく二人を窮地に立たせる。
「くっ! このっ」
自分達の置かれている状況がどれだけ悪条件なのかを分かっているのか一夏の声には焦りが感じられた。
事実、彼が繰り出す攻撃はそのどれもが紙一重で躱されている。
見事なまでに翻弄されている一夏は『零落白夜』の使用限界が迫っている事で本人も気づかないうちにその動きが鈍っていた。
その決定的な隙を見逃す福音ではなかった。
福音が背負う銀色の翼が羽ばたくように開かれる、同時に翼を起点に無数の光が一夏へと降り注いだ。
翼だと思っていたそれは砲口の役割も担っているらしく反応が一瞬遅れた一夏は撃ち出された高密度のエネルギー弾を受けてしまい爆音と共に弾き飛ばされる。
「ぐぅ!」
一夏が受けた弾丸はまるで羽のような形をしていたがISの装甲に突き刺さると同時に装甲を抉るような爆発を引き起こす特殊弾丸。これが福音の主兵装にして射撃武器であるのだが――
(何て連射速度だよ!!)
銃というたった一つの砲口から撃ち出されるのではなく翼に備え付けられている無数の砲口から撃ち出される数がその連射性をより高く感じさせる。狙いはそれほど正確ではないもののその欠点を補えるほどの攻撃範囲と回数……弾丸の特性を考えてもそうなんども受けるわけにはいかなかった。
「これ以上長引けばやばい! 箒、俺は右から攻める。左は頼んだぞ!!」
「任せろ!」
一夏と箒は散弾のように降り注ぐエネルギー弾を回避し多角軌道を描きながら福音との距離を詰め攻撃を仕掛ける。
しかし、回避に特化したスラスターを持つ福音に二人の攻撃は掠りもしない。その上、反撃されシールド・エネルギーを削られる一方だった。
福音の持つ特殊型ウィングスラスターは実用性が高く、思わず舌を巻いてしまう性能を有していた。
「一夏、私が奴を止める!」
「ああ、頼む!」
このままでは防戦一方になる事を見越してか箒は雨月と空裂を構え両腕の展開装甲を解放、刺突と斬撃を交互に繰り出し福音へと斬りかかる。
箒の攻撃に合わせて腕部展開装甲から二本の刀にエネルギーが流れ込みその斬撃軌道を切り裂くようにエネルギー刃が射出され福音へと放たれる。
(福音も半端な性能じゃないけど、紅椿も似たような……いや、それ以上か……!)
紅椿の機動力と展開装甲による自在の方向転換、急加速を利用し福音を攻め立てる箒。専用機を受け取って間もないとは言え彼女は紅椿の性能を充分に引き出せていた。
そんな彼女の動きに福音も防御を使わざる動きを止めたが、反撃の隙だけは見逃さなかった。
『La……!』
甲高い機械音、それはまるで意志のある声に聞こえた。
それを証明するかのようにその声に似た音と共に翼を羽ばたかせる福音、その翼の砲口は全部で三十六……それも全方位に向けての一斉射撃である。
「やるな! だが、このまま押し切らせてもらう!!」
箒は紙一重で砲撃を回避、福音に接近すると同時に両手の近接ブレードを振るい幾重にも斬撃を繰り出し福音の動きを止める。
「一夏、今だ!!」
「おう――――ッ!?」
箒がやっとの事で作り出した最大のチャンスを逃すまいと瞬時加速で距離を詰め《零落白夜》を振りかざす一夏。しかし、福音を止める事が出来る好機だというのに一夏は福音と箒を通り過ぎるように海面へと急降下した。
「一夏!?」
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」
一夏が海面へと急降下したのは福音が箒にはなった弾丸、その内の一発を撃ち落とすためだった。
海面へと向かっていたエネルギー弾に追いついた一夏は《零落白夜》の刃でそれを切り落とす。
そして、その一振りが作戦の要である一撃必殺の刃の最後となる。
雪片二型から伸びる光の刃は瞬時加速と単一能力の併用で大幅にエネルギーを消費した代償か、見る見るうちに消えていき雪片二型の展開装甲が閉じた……それはもう福音を止める術を失った事を示していた。
「せっかくのチャンスに何をやっている!」
「船がいるんだ、海上は先生達が封鎖したはずなのに――くそ、密漁船か!」
かといって見殺しにするわけにもいかない。密漁船には人が乗っている、命には代えはないのだから。
「馬鹿者! 犯罪者など庇って、そんな奴等は――――――」
「箒!」
「――――っ!?」
「箒、お前どうしたんだよ? そんな寂しい事言うな、言うなよ。力を手にしたら弱い奴の事がわからなくなるなんて……らしくない、そんなの全然お前らしくないぞ!」
「っ! わ、私、私は……」
一夏に辛そうな声で問い詰められた箒は動揺した、その表情には力に溺れた自身への後悔と失望が滲み出ている。
その顔を隠すように両手で顔を覆う、その際に溢れ落とした刀が光に包まれその姿を粒子に変えその形をけす。
その光景に一夏は自分の心臓が大きく脈打つのを感じた。
(今のは具現維持限界……まずい!!)
――具現維持限界、つまり武器をISのエネルギーが底をついた事をしめす。しかもここは学園のアリーナではなくまごう事なき戦場……命を懸けた実戦だ。
「箒!!」
一夏は箒を助けようと最後のエネルギーを使って瞬時加速にはいる。
彼の視線の先には箒と距離を取って警戒していた福音が静かに、寒気を感じさせる様に翼を広げいていた。
(頼む、白式! 頼む!!)
いくら希代の天才が作り上げた最新機であっても一度エネルギーが切れてしまえばその装甲は酷く脆い。絶対防御に必要なエネルギーを確保していたとしても脅威の連射速度による爆撃を喰らえばひとたまりもない。
(間に合え! 間に合ってくれ!! 俺は仲間を――)
スローモーションの世界で、福音が幼なじみに向かって光の弾丸を放つのが見える。
(――箒を護りたいんだ!!)
『力を欲しますか?』
「えっ?」
突然の問いかけに一夏の眼に映っていたスローモーションだった光景が時を止める。
いや、止まっているのではなく限りなく『停止』に近い状態で世界が動いているといった方が正しいのかもしれない。
「な、誰だ!」
福音が、福音の放った凶弾が、そしてその攻撃を受けようとしている箒が……世界の全てが遅延している異常な状況の中で一夏は箒と自分の間に割り込むかのように静かに佇む一人の女性に警戒心むき出しの声を投げかける。
『………………』
自分の前に立っていたのは白い輝きを放つ甲冑を思わせるISに身を包んだ女騎士。
その手には身の丈と動揺の大剣を携え、その表情は目を覆うガードのせいで口元しか見えない。それ故に彼女がどんな表情をしているのか全く分からない。
だが、これだけは分かった。
(……敵じゃない、それに……なんか知ってる気がする……この人を……?)
この停滞仕掛けている世界と女騎士の突然の出現に警戒していたはずの一夏の心が落ち着きを取り戻していく、彼の目には箒に福音の攻撃が向かっている光景が映っているがそれでも慌てる様子は微塵もない。
『……力を欲しますか?』
理由は分からない。
でも、この奇妙な世界で今まで通り動けているのは自分だけ……そして女騎士も。
なら、この世界がこんな風になってしまったのもきっと彼女のせいに違いない。そう気づいたときから自分は落ち着いていられる。
『力を……欲しますか、何のために?』
三度目の問いかけ、この時一夏はこの常識から逸脱したの始まりと終わりがこの質問に集約されている事に気づいた。
「……俺は、この世界で一緒に闘う仲間を護りたい」
『仲間を……』
「ああ、こうして闘いの中で危ない目に遭ってる箒は大切な仲間だから……だから護りたいんだ」
勿論、ここで一緒に闘っていたのが箒でなくセシリアや鈴達でもその思いは変わらない。IS学園で出会い共に切磋琢磨したクラスメイト達は掛け替えのない友達で仲間だ。
……ほんの少しだけそれ以外の事も思い浮かんだ気もするが。
「俺は俺の大切な人達を護りたい」
『そう……――――だったら、行かなきゃね』
「っ!?」
ほんの一瞬、一夏が瞬きをした間に女騎士の姿は消え変わり立っていたのは白いワンピースに身を包む少女。
風に揺れる長い白髪は太陽の光を受け眼を背けたくなるほど美しい髪、それを靡かせながら少女は無邪気な笑みを浮かべ一夏へと手を差し出す。
「行こう、貴方の求めた力の……その先へ」
「……おう!」
差し出された小さな手を一夏が握りしめた瞬間、世界に時間の概念が取り戻される。
同時に福音と箒の間に割り込んだ一夏と白式は眩い白光を放ち……光弾の衝撃と爆発に巻き込まれた。
『………………』
海上で爆炎が漂う、福音は追撃する事も逃げる事もせず観察するようにその場に佇んでいた。
何故なら、今の攻撃でどちらもエネルギーが底をつき海へと落ちていくはずなのに一向に二人が煙の中から海に墜落していかなかったからだ。
『……………………?』
福音は反撃を経過しつつ漂う煙へと近づく。
反撃する力が残っていない事は分かっているが、それでも攻撃に備えることに間違いはない。
『…………!?』
しかし、次第に消えていく煙から放たれたのは攻撃ではなく煙をかき消してしまうほどの白い光だった。
一瞬、爆発かと思ったが爆発に伴う爆音は聞こえずパイロットが意識を保っていたのなら思わず眼を逸らしたくなるほどの眩い光が空と海を照らす。
「……本当に白式にはいくら感謝しても感謝しきれないぜ」
『迎撃目標―――第二形態への移行を確認!』
眩い光が収まる中で一夏は箒を抱え変化した白式を見つめる。
――白式第二形態『雪羅』
「一夏……これは」
「聞かないでくれると助かる、俺にもよくわかんねぇからな」
ハイパーセンサーに映る白式のスペックデータ。
主にウイングスラスターの大型化と左腕に増設された新装備『雪羅』が顕著な変化だが、自分のみと箒を護ったのは『雪羅』の防御形態、その機能である『零落白夜』のシールドのお陰だった。
(これなら福音の射撃攻撃を完全に無効化できる、だけどもうエネルギーが……)
箒を救い窮地を脱するために『白式』が第二形態移行という奇跡を起こしてくれたというのに……状況は好転していない。
『白式』のエネルギー残量は既に警告アラームが鳴り響き抱きかかえる箒は『紅椿』を維持するだけのエネルギーもなく生身だった。
(どうする……せめて箒だけでも逃がせれば……)
一夏は抱える箒の体温と胸の鼓動に表情を曇らせる。
ここで一つでも判断を間違えれば箒は間違いなく死ぬ、その事実に箒を抱きしめる腕に
力が入る。
「一夏、私の事は気にするな。今ならお前だけでも福音を止められるかもしれん」
「馬鹿な事言うなっての! お前の言う通り福音と止められてもお前が傷ついたら、死んじまったら俺の闘う意味が無くなっちまうんだよ!!」
護るために力を求め、助けるために剣を握っているのだ。ここで箒を見捨てるという論外な選択肢は最初から自分の中にはない。
一夏は『雪片二型』を片手で構え福音と対峙した、彼の頬には滝のような汗が流れ落ち呼吸も次第に大きくなっていく。正真正銘、自分のもてる全てを懸け一撃で仕留めるため一夏は福音の一挙一動動きの全てに集中し反撃のチャンスを伺う。
福音も一夏と『白式』の想定外の形態移行に臆したのか動きを止めていた――
…………ォォォォォン
『――――――――――――――――――――――――!!!』
「何だ!?」
ハイパーセンサーを通してノイズのような小さな音が一夏の耳に届き、福音もその音を拾ったのか音の発生源に向かって体勢を変えた。
「あれは……黒い、柱……いや光か!?」
一夏は突然の警報とハイパーセンサーを通して見る事が出来た蒼い空へと立ち上る黒い光に眼を奪われる。箒も一夏の腕の中でその映像を見ていた。
そして、両名のハイパーセンサーに映し出された索敵情報がこの流れを一気に変える。
『――――花月荘、周辺領域に造林された森林区域から超高エネルギー放出確認
――――エネルギー源 第二世代支援交戦型『打鉄・天魔』
――――単一能力『一騎当千』 シンクロ率臨界点突破・他ISとのコアネットワーク
のリンクを許可及び単一能力の一時完全解放を確認
――――シールド・エネルギー 『敵』物理攻撃により低下中
――――稼働限界まであと三分十二秒 』
「皇が、闘っている……のか?」
「あ、ああ。そうみたいだ……でも、一体誰と――――!!」
一夏と箒が索敵情報に気をとられていた間に福音がウイングスラスターを羽ばたかせる、その姿に二人はまたあの激しい攻撃が来るものと身構えたが福音は一夏達に攻撃することなく急上昇し高度を上げる。
「まさか、逃げる気か!?」
「まずいぞ、ここで逃がしてしまえば次のチャンスは――」
福音の逃走という最悪に近い作戦結果に狼狽する箒の予想した通り福音は一夏達との戦闘を中断し封鎖海域を離脱してしまった、『白式』が第二形態に移行したとは言えエネルギーは殆ど残っておらず追いかけることはできない。
ここに福音撃退、操縦者救出作戦はそのどちらも完遂することなく失敗に終わった。
「くっそ! だけど響の方も放っておくわけにも……とにかく、響のところへ――」
『その必要はない』
「千冬姉!」
福音を取り逃してしまった今もう追いかける事はできない。
しかし、今何が起きているのかは分からないが響のところへ向かう事は出来る。その途中で箒を安全な場所へ降ろし一刻も早く加勢しなければ。
そんな考えを巡らせていた一夏を通信回線越しに千冬がと止めた。
『今、デュノアとボーデヴィッヒを皇の元へ向かわせた。一夏、お前は箒と一緒にそこで待機していろ。迎えにはオルコットと凰を向かわせた』
一見冷静な対応を見せる千冬だったが本人も気がついていないのか一夏を『織斑』とは呼ばず名前で呼ぶ……それは彼女が不測の事態に冷静さを欠いていることを示していた。
「何が起きたんだ? 何で響が闘ってるんだよ!」
『わからん、こちらもすぐに皇と通信を試みたが何者かによって妨害された、しかもご丁寧に通信だけでなく戦闘が起きている森林一帯の映像解析も出来ないようにな』
「そんな……」
「一体だれがそんな事を……」
『今言ったはずだ、わからんと……お前達はオルコット達と合流しだい帰投、旅館で待機だ。二人ともすぐに戦線に復帰できるだけの余力はない、いいな』
「はい……」
「……了解しました」
一夏はエネルギーの消費を押さえるべく箒を抱えつつも海面へと静かに降下する、高い高度を維持するだけでもそれなりに消耗する上に途中でエネルギーが切れてしまえば高い場所から海面へ落ちる事になる。
「……皇は無事だろうか」
「わからない。だけどラウラ達が加勢に行ったんだ、きっと大丈夫だって」
その言葉は箒を安心させるためのものだったかもしれない、それでもその言葉は一夏自身も自分に向けたものでもあった。
……空に立ち上った黒い光を見たときから変わらず胸の奥で蠢くように大きくなる不安を消し去るために。
一夏と箒が通信回線を通している帰投を命じられていた頃、シャルロットとラウラは旅館から少し離れた場所にある森林区域へと到着していた。
それは一夏達と福音の闘いを見守る中で突然作戦室の大型モニターへ映し出された響の単独行動及び謎の敵性反応との戦闘、千冬を含めその場にいた全員が驚愕の表情を浮かべたもののすぐに対処するべく残っていた四人の中で即時連携が出来るシャルロットと軍における実戦経験のあるラウラが選ばれたのは当然と言えば当然かもしれない。
しかし――
「何……これ……」
「…………見たままを言うのであれば、ここはさっきまで紛れもない戦場だった」
シャルロットとラウラの眼に映ったのは緑豊かな森林ではなく、凄まじいほどの戦闘行動によって残された破壊の波紋。
立ち並ぶ木々は一本残らず折れ、猛狂う炎に灼かれ木が根を張っていた土ですら焦げていた。そして、地面にまざまざと見せつけるように残る巨大な斬撃の後……、空高くから見たとしても分かるほどに大きく深く刻まれたそれは規模と威力こそ桁違いではあったが響がラウラとの闘いで見せた剣戟射出機構『断空』のものだとわかった。
焦土と化した森、その光景を一言で現すならそこは地獄だった……。
「ひ、響は? 響は何処! ここに、ここにいたんだよね? ここで闘ってたんだよね!?」
シャルロットは辺りを見回して見るも響の姿を見つける事が出来なかった、その焦りが彼女の不安を一層引き立てる。
「響! 響!? 何処にいるの、返事をしてよ!!」
「落ち着けシャルロット! まだ近くに敵がいるかもしれぬのだぞ!」
ラウラは周囲に警戒しながら焦るシャルロットを宥めた。
「で、でも――」
それでも冷静にないシャルロットはラウラにくってかかろうとしたとき、二人の耳に小さな声が届く。
「………………か…………の? …………やく、……ちか…………達………………」
「この声! 響、何処にいるの!?」
「発信源は――あそこだ! あの焼けた木々が積み重なっているところに皇がいる!」
二人は少し離れた場所に瓦礫の如く積み上がっていた木々へと駆け寄り急いで撤去していく。
「響!!」
シャルロットは焼け焦げた木の下敷きになっていた響の姿に声を上げる、打鉄はまだかろうじて展開されていたが彼は酷い傷を負っていた。
重要な血管を傷つけたのだろうか、額から止め処なく流れ出る血は顎を伝い土を濡らし既に血だまり。身体には切り傷と火傷が幾つもつけられ右腕は左足はあり得ない角度に折れ曲がっている……。
「……はぁ……………………はぁ……はぁ…………」
響の傷ついた身体を押し潰すように乗っていた瓦礫を退けても響の呼吸は弱まる一方だった、おそらくISスーツに隠れている箇所にも何かしろのダメージを受けているだろう。
木の下敷きになっただけでは到底つく事のない傷、ラウラ戦の時でさえここまでの重傷を負う事はなかった。今のシャルロット達が確実に理解できたのは響が闘っていたのがISのシールド防御をいとも容易く突破する事の出来る強力な兵器を有した何か。
それも福音よりも高性能な機体……としか答えを見つける事が出来なかった。
いや、シャルロット達だけではない。この現状をみてたった一人の、それも生身の人間が代表候補生ではないとは言えIS操縦者を『無傷』でここまで瀕死の状況に追い込んだとは思いもしないだろう。
「響、もう大丈夫だよ。すぐ手当てするから!」
「しかし、ここでは応急処置が限界だ。教官に救護班の準備を要請しておくぞ」
「うん、お願い!」
響の手当をしようと俯せになっている響を仰向けにする、その際の僅かな振動で響は声をもらす。
「ぐっあ! ……く……ぅ……」
「響、痛いかもしれないけど我慢してね」
「……だ……れ……ど……、より…………二人…………へ……はや……く……」
「どうしたの、何か伝えたいの?」
シャルロットは救急セットを取り出しさっそく応急処置に取り掛かろうとするも手を止め弱々しく何か喋っている響の口元に耳を近づける。
「……誰かわからないけど、おれ……より…………他の二人……があぶない……です。だから……早く……とこ……」
「大丈夫、大丈夫だよ! 二人は無事だよ!!」
「おれ……大丈夫……だから、一夏達……の……ところへ」
シャルロットの声が聞こえていないのか響は一夏と箒の下へ向かうようにとうわごとのように繰り返した。その緋色の瞳にシャルロット達の姿を映しならも何処か虚ろだった。
「出血が多いせいで一時的に眼が見えていないようだ。それに意識も定まっていない」
「救護要請の方は!?」
「既に準備を開始しているとの事だ、皇がこの状態ではここで応急処置をするよりも一刻も早く旅館に戻り医師に診せた方が良いだろう」
「うん、わかった!」
少しの振動でも痛みに表情を曇らせる響になるべく負担を掛けないようシャルロットは慌てずしかし迅速に響を抱きかかえる。
「っぅ!」
「ごめんね、響。でもすぐに手当てしてもらえるから」
「…………シャ……ル……?」
シャルロットに抱きかかえられた際の痛みで意識がはっきりとしたのか響はかすれた声で彼女の名を呼んだ。
「そうだよ! 助けに来たから、もう安心だから」
「……一夏……達は……? 二人が、あぶない……」
「一夏達も大丈夫だよ。今セシリアと鈴が迎えに行ったから、だからもう喋っちゃダメだよ」
「……そっか……一夏達は……無事なんだ、ね……よか――――ゴホッ!」
一夏達の安否に安堵の言葉を溢すと同時に大きく咳き込んだ響。
咳き込むと同時に口から大量の血を吐き出してしまい、その血がシャルロットの顔を朱く染める。
「ひ、響!!」
「まずい! 内臓もやられているのか!!」
「だい……じょうぶ、だから……しん……い……な……いで……」
「喋らないで、喋らなくて良いから!」
シャルロットは自分の顔についた吐血を拭う事なく響に声をかける、喋る度に響の呼吸が弱くなっていく。
ラウラの言う通り内臓にもダメージを負っている、吐血した事から肺か食道……胃に深刻なダメージを負っているのは間違いない。
自分を心配しているシャルロットに心配を掛けまいと懸命に喋ろうとする響の姿にシャルロットの大きな瞳から涙が流れ響の頬に落ちた。
「……? ……ない、てるの? ……泣かないでよ、シャル。おれは……だいじょーぶ……だか………………ら………………」
泣いているシャルロットの表情は見えないものの響は泣きやませようとまた言葉をかける。だが、その声は途切れ途切れで次第に弱くなっていく。
まるで微かに揺らめいている灯火が静かに消えていくように。
「響? 響! しっかしして、寝ちゃダメだよ!!」
気をうしないかけている響に大声をあげるシャルロット。
普段の彼女なら取り乱す事なく意思確認をしていたはずだ。いま、それが出来ないのは大切に想っている響が死の淵にむかっているせいなのかもしれない。
「急ぐぞシャルロット、このままでは危険だ!!」
「う、うん!」
シャルロットは響を落とさないようしっかりと抱きかかえ敵の攻撃を警戒しながらも先行するラウラの後を追いかけ空へと飛び上がる。
「響、やだよ。死んじゃやだよ!」
「………………」
シャルロットの悲痛な願いに返事を返さない響、それは完全に気を失った事を示していた。
こんなに、こんなに近くにいるのに遠く感じる。
響がどんどん遠くに行っちゃうそんな嫌な感じが強くなってく。
「僕を……僕を一人にしないで、響っ!」
シャルロットは涙を流しながらも必死に嗚咽を堪え響を抱きしめた。
傷口から流れ出る血を止めようと、遠くに行ってしまわないようにと、すぐ傍に自分が居ると伝えようと……そうする事しかできなかった。
久しぶりの投稿、申し訳ありません!!
今回、投稿した割には短い感じになってしましました~。
キャラクターさん達の視点をどう書くか迷った末に時間ばかりが掛かってしまいましたが何とか更新出来ました。
次は今回よりも間が空かないようにしたいなと思いますが最近ラノベ投稿の方に力を入れております。更新速度が落ちるかもしれませんが完結まで気長にお付き合いいただけたら幸いです<(_ _)>