IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道   作:エヴァンジル

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第二十一話 まだ見えぬ真実は誰が為に・・・・・・

 

 

「………………」

 ……眼を開いたとき最初に見えたものは血のように赤い、赤い空。

 眼に見える全てが、空と大地を分かつ様に隔てる地平線のその先まで赤い。

 見ているだけで喉の奥から何かがこみ上げてくる。

 血のように赤い世界に吐き気を感じ胃の中のものを出してしまいたいのか、それともこの何処か暗さを感じさせる風景に恐怖し悲鳴をあげたいのか……それとも胸の中で蠢く黒い何かを解き放ちたいのか。

「……よく、わかんないや……」

 響は何処にいるのかも分からない赤い世界で小さく息を吐いた。

「……一夏達は無事なんだよね?」

 ため息と共にでたその呟きを聞く者は誰もいない。

 しかし、天才と名高い篠ノ之束が響達の前に現れ箒に世界でたった一機しかない第四世代のISを渡しその直後に福音の暴走事件……響でなくともたった一日の内に起きた事柄は疲れ切ってしまうだろう。

 目まぐるしい一日と言えばただ忙しいだけに聞こえるが実際には自衛官でも軍人でもない一人の少年が過ごす一日としては異常、その異常さを理解できるのはほんの一握りだろう。

 そんな中でも響は自分が置かれた異常なこの現状よりもここにいない一夏やシャルロット達の心配をするのだった。

「……あの子は、大丈夫かな…………思い出せないな~」

 束との闘いの最中、気を失いそうになっていた自分の前に突然現れた小さな子供。

 あの危険きわまりない戦場で泣いていた少年は響の前で泣いていた、その光景が強く頭に残っているというのに響は子供を逃がそうとした後の事を全く憶えていないようだった。

「……最後に見たのシャルだったけどもう泣いてないよね~……、シャルが泣いてたのは驚いたけど来てくれたならあの子もきっと大丈夫」

 自分の目の前に現れた子供の安否を知る術はない、それでも響はあの場に駆けつけたシャルロットが無事保護してくれたはずだと何とか納得する事にした。

「それにしても……身体が動かないや、これって金縛りなのかな~?」

 響はただじっとこの世界の空を見上げていたわけではない、何度か身体を起こし周囲を歩き自分が置かれた状況を確認しようとしたのだ。だが、すぐ行動に移ろうとしたとき足は愚か手すら動かないことに驚いたのだ。

 動くのは肩から上、つまり首と瞼と口だけ……そんな状態では当然何も出来ない。

「う~ん、これって夢なのかな? 夢なら早く覚めて欲しいな~、早く一夏達に束さんのこと伝えなきゃ…………」

 響は眼を瞑り起きろ起きろと念じるがふと脳裏に千冬の事が思い浮かんだ。

「伝えなきゃ……いけない事なんだよね」

 今回の福音暴走事件の首謀者は篠ノ之束である事に間違いはない、現に彼女は響に自分が犯人である事をつげ福音を使って一夏と箒と闘っていた。

 その事実は変わりようがない、変わりようがないからこそ響はこのことを千冬に知らせる事を迷った。

 何故なら、この事が千冬だけにではなく世間に知られれば束だけでなく妹の箒や幼い頃からの親友である千冬と一夏の立場も危うくなるかもしれない。その上『紅椿』を渡された箒は共犯者と疑われてもおかしくない状況に置かれている。

 そうなれば無実である事を知っている、信じるであろう一夏達は確実に政府関係者と敵対する事になる。そうなれば今度は箒と一夏を護ろうと束がどんな行動に出るか分からない。

 分かっている事があるとすれば篠ノ之束を敵にしてしまえば間違いなく世界は壊滅的なダメージを受ける事になるのは間違いないだろう。

 そうなってしまえば束を止める事が出来るかもしれない千冬にどんな『命令』と言う名目の脅しが掛かるか分かったものではない。

「……どうしら、いいのかな」

 響は自分が知る事の事実を千冬に伝えるべきか、否か……ただ一人相談できる相手も居なく自分が取るべき行動を、出すべき答えになや――――

 

 

 

 

「自分を傷つけた相手の事も気遣うなんて、アナタは本当に優しいのね」

 

 

 

 

 ――響しか居なかったはずの赤い世界に凛とした声が響いた。

「えっ?」

 その声に響は思わず声を洩らしながら声が発せられた方向に顔を向ける。

 そこに立っていたのは落ち着きに満ちた一人の女性……、この暗い世界でも艶やかな質感を失わない長い黒髪、つり目がちな黒い瞳には憂いが感じられ身につけているのはまるで研究者を思わせる汚れ一つ無い白衣。年は二十代後半と言ったところだろうか……相反する色を纏いながらも調和の取れた風貌に響は言葉を失う。

「…………あの、貴女は~……?」

「ワタシがアナタと直接話すのはコレが初めてだけれど……、今の『私』の姿を見ても思い出さないのはカノジョが優秀だったとお礼を言うべきなのかしら」

「貴女の姿? 彼女? 一体何を??」

「思い出せないのなら良いの、むしろ思い出して欲しくないもの。たとえ『過去』を、『本当』を取り戻す事が出来るとしても……アナタがそれを望んだとしても、ね」

 白衣姿の女の凛とした声が僅かに震える、黒い瞳に映る哀しみも一層色濃く……今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。

 彼女が言う過去と本当がいったい何を意味しているの、この時の響は状況について行けず聞き逃したのか彼女に気配っていた。

「あの、大丈夫ですか~? 何処か具合が……」

「ワタシの心配はしなくて良いわ……ところで自己紹介がまだだったわね、立てる?」

「それが身体が動かなくて……金縛りに遭ってるみたいで~」

「そう……ならワタシが起こしてあげるわ、響」

「いや、だから金縛りがですね……って何でおれのなまえ――」

 女は未だに寝そべっている響の手を掴みゆっくりと起き上がらせる。対して力が込められているようには見えなかったが響の動かなかった身体を苦もなく掴み起こし響を立たせた。

「あ、あれ~? さっきまで全然動かなかったのに、何で?」

「フフ、当然よ。だってワタシはアナタを助け、アナタの力になるために居るんだもの。これくらい出来なきゃね」

「へっ? おれを助ける?」

「そうよ」

 女は未だ自分が言っている事を飲み込めず混乱している響の頭を優しく撫でながら自分の名を明かした。

「ワタシの名前は『天魔』、第二世代支援交戦型IS……アナタの専用機だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

「山田先生、福音は?」

「……閉鎖している海域内で停止しています」

 モニターに移った『福音』の現在地を示す印は同じ場所で点滅し続けている。

「皇の容態と、ご家族への連絡は?」

「はい、皇君の治療は無事完了したとの事です。しかし、外傷よりも内臓器官に受けたダメージの方が深刻で今も……眼を覚ましてはいません。ご家族への連絡も正体不明の敵対勢力の所在が確認できないとの事で皇君の事は何も伝えられていない状況です」

「そうか」

「……本部はまだ私達に作戦の継続を?」

 普段から温厚な真耶であるがこの時ばかりは怒りと偽心を隠せなかったのか批難めいた声音で千冬に問いかける。

「解除命令が出ていない以上、継続だ」

「ですがこれからどのような手を!? 暴走した福音だけでも手に余る状況で皇君を狙った敵にどのように対処するのですか! 今の戦力ではとても……っ」

 福音と正体不明の敵対者に対してこちらの主な戦力は代表候補生の一夏達だけ、海上を封鎖している以上は彼等を上回る実力をもつ教員達からの援護はない。

 此処にいる千冬と真耶も現場の指揮をする為動く事は出来ない、出来たとしてもこの臨海学校の授業で持ち込んだ訓練機の大半は海上の封鎖に使われている上に生徒達を護る為の機体も必要、はっきり言って攻撃戦力として出す余裕はない。

 その上、真耶ならば使用可能でも千冬の動きに耐えられる事が出来るISは現段階ではこの場にないという事実もある。

(……あの時、皇を一人にした時点で後手に回るしかなかったと言う事か)

 福音に対する作戦を立てた時、束と言い争い様子がおかしかった響に付き添いをつけるべきだった。それならばこうも追い詰められた状況にはならなかったかもしれない。

 千冬は胸のまで腕を組みながら歯を食いしばった。その時、控えめなノックの音がこだまする。

『失礼します……』

「誰だ?」

『デュノアです』

「待機といったはずだ。入室は許可できない!」

 答える間も千冬はモニターからは目を離さない。そんな彼女の胸の中で自分外いる以上何とか出来る……そんな慢心への後悔は誰にもわからなかった。

 

 

 

 一夏、箒、シャルロット、鈴、セシリア、そしてラウラは作戦本部の目の前にいた。

 今さっき入室を断られ、どうしようもなく立ち尽くす。そんな六人の焦りと不安は増すばかりだった。

 柱に背を預けて、目をつぶっていたラウラは静かに口を開く。

「此処は教官の言うことを聞くべきだろう」

「でも……! 先生だって響の事が心配なはずだよ!」

 ラウラの意見に対し、シャルロットが反論する。

「皇さんはまだ目覚めていらっしゃいませんのに……」

「手当ての指示を出してから、一度も様子を見に行ってないしね……」

 医療班の適切な処置で響は何とか一命をとりとめたものの、依然意識がもどらない。

 千冬も作戦室にこもり、全く出てくる気配がない。

 シャルロットでなくてもラウラの言葉に意見を言いたくなるのも当然だった。

「教官だって苦しいはずだ。苦しいからこそ、作戦室にこもっている。皇を見舞うだけで、福音が倒せるとでも? しかも皇を襲った敵の詳細も分からない以上、我らにはこうして次の指示を待つしかできないのは……事実でしかない」

 ラウラの言っていることは正しい。正しいが……五人は言い返す言葉が見つからず、視線を落とす。

 その中でもこの旅館で待機組になっていたシャルロットやラウラ達だからこそ次の指示まで万全の状態で待つという冷静な判断と心のままに福音と未確認の敵へと打って出たい……その葛藤は福音と闘っていた一夏と箒よりもずっと強いものだった。

 しばらく黙っていると、すっと響が眠っている部屋がのふすまが開き、白衣を着た女性が出てきた。

 その姿を眼にしたときシャルロットは誰よりも早く医師と思われる女性に声をかける。

「す、すみません!」

「はい?」

「あ、あの……響は……」

「あなたたちは? あの子の友達?」

「は、はい。そうです……それで響は……?」

 とたんに女医の顔が曇る。いい答えが返ってこないのは容易に想像できた。

「右腕と左足の骨折、肋骨も三本折れてる。正直外傷の方は治療用ナノマシンのおかげで命に別状はないわ。ただ……」

 どんどん声がくぐもっていく。聞いている六人は息を呑み説明を待った。

「ISの事は専門外だからよくわからないのだけど治療する上で最低限必要な情報だった『シールド防御』によるダメージ軽減機能と『絶対防御』による操縦者の安全確保機能に関しては説明を受けたから言える事だけど……今回の場合、『絶対防御』が発動してくれていた方がよかったわ」

「それは、どういう……事ですか?」

「診察した結果としては腕や脚にを折られる前か後かまではわからないけれど……頭と腹部の傷の方が危険ね。内臓系に深刻なダメージを与える攻撃であればあそこまでダメージが蓄積する前に『絶対防御』が発動していたはずだと思うの」

「それは皇が絶対防御機能をカットしていたという事ですか?」

 ラウラは女医の言葉に眉を寄せた。

 『絶対防御』システムはその機能上システムを意図的に切る事は出来ない、一夏がゴーレムとの闘いで見せた零落白夜の規格外発動と似たようなものなのだろうがそれでも致命傷を受ける攻撃に対する機能制御を響が出来たとはとても考えられなかったからだ。

「あの傷ではそう推測するしかないのだけれど……とにかく、結論としてはそのせいもあってより厳しい状況に追い込まれたのは間違いないわ」

 女医は閉めた襖の向こうにいる響を見るように顔を向ける。

「一応、作戦開始が決まった時点でこの旅館には大学病院と同じくらいの設備が準備されたわ。今後お友達の状態が急変しても対応できるよう準備はしておくけれど……このまま眼を覚まさないようなら、覚悟を決めたほうがいい」

「覚悟……ですか」

「ええ」

 その言葉は響の命は尻すぼみに消えるしかないと言われているのと同じだった。

 突然の死刑宣告と言われてもおかしくない……そんな状態にまで響は追い込まれていた。

「意識が戻っても予断を許さない状態だけどこのまま眠り続けるよりはよっぽどいいわ……あなたたちみたいな若い子にこんなことを言うのは本当に嫌なんだけど、私達に出来る事はちゃんと手を尽くしたわ……あとは、神様にでも祈るしかない。医者としては情けない限りだけどね」

 そう言って女医は白衣を翻してその場を後にした。

「……響」

 祈るしかない、そう言われたときシャルロットは両手で口元を覆った。

 あの屈託のない、人懐っこい笑顔。たまにイタズラっぽい笑顔も見せる、あの少年が死にかけている。

 信じられなかった。

 信じたくなかった。

 昨日まではあんなに元気で、今日の朝だって呑気にあくびなんかしていた。

(なのに……どうしてこんな事になっちゃうのかな)

 女医が立ち去ったあと、残されたシャルロット達の沈黙は長く深く続いた。

 今何をすべきか、何が出来るのかを必死で頭を巡らせるシャルロット。

 そして、行き着く先は皆同じだった。 視線を交わせば、互いの考えが不思議とよくわかる。

 皆が無言でうなずいた。

 もしかしたら、この選択は間違ってるのかもしれない。本当なら響のそばにいるべきなのかもしれない。

 だけど、いてもたってもいられなかった。

「問題は福音の居場所、だね」

「うむ、こっちが福音と闘えばもしかしたら皇を傷つけた輩もこの隙を狙って姿を現すかもしれない」

 本当なら此処で戦力を分けたい一夏達だったが福音との戦力差を考えるとそれはできない、ここはあえて全員で打って出る事で響よりも福音を優先していると思いこませ千冬達に対処してもらう方がこの状況を打破する事ができる可能性は増す。

「とはいえ闘おうにも居場所がわからないのでは打つ手がないな」

 六人の心に闘う意志があっても行動を起こす事ができないのではどうしようもなかった。

「……命令違反は感心せんな」

「千冬姉!」

 いつの間にか姿を見せたのか思い悩む一夏達の後ろに千冬がいた。

「どうせお前達の事だ、黙って行くつもりだったのだろうが……私がさせるとでも?」

 鋭い眼光を放つ瞳を向ける千冬の言葉に一夏達は一瞬息を呑んだ。しかし、それでもシャルロット達は千冬から眼を反らす事はなかった。

「すみません、織斑先生……」

 シャルロットは千冬の前に立ち今考えている事を伝える。今から向かう場所は命がけの戦場である事は分かっていた、何より自分の手で響を護りたくてもその役目を残った者達に任せるしかない現状で自分がすべき事をやりきるしかない事も。

「僕は福音と闘います。本当は此処に残って響を護りたいです……でも、それじゃ響を狙った敵の正体を掴む事が出来ません」

 理由は分からないが響は束と言い争った後、部屋には戻らず旅館の外へと森へと向かった。

 たった一人で居る時を狙われたのだ、ここには他の生徒とそれを護る千冬がいる。その時点で相手が動きをみせるかどうかわからない。しかし、現在最大戦力でもある自分達全員が福音の下へ向かえばその警戒を緩め動いてくれるかもしれない。

 出来る事なら響への危険を少しでも早く取り除きたい今、このなんの意味もない自分達の暴走にも見える行動が必要だとシャルロット達は確信していた。

「……福音の下へ向かい勝てたとして、それでも何の収穫も無かったらどうする?」

「助けます、響が僕を助けてくれたように……今度は僕が響を助けます!」

 父の呪縛に縛られ母を失った悲しみに打ちひしがれていた自分を救ってくれたのは響だった、自分が嘘をついていた事を咎めるのではなくこれから自分がどうしたいのかを聞いてくれた。

 シャルロット・デュノアとして自分を見てくれた。一人の女の子として見てくれた、たったそれだけの事なのに心を埋め尽くしていた後悔、無力感、怒り、悲しみ……そんな負の感情に染まっていた心を照らしてくれるような笑顔を見せてくれた。

「僕は……響に笑っていてほしい、だから……」

 シャルロットは揺るがない決意を言葉に託し千冬の言葉を真っ向から受け止める。

「僕は助けるだけじゃなくて護ってあげたいんです」

「俺達も行くぜ、響には助けてもらってばっかりだからな……今度は俺達の手で助けてやりたいんだよ!」

 一夏の言葉に賛同するように箒達も頷く。彼女たちは何も喋らなかったが響の為に闘う気持ちは一緒だった。

(皇はいつだって力のあり方を示してくれていた、なのに私は力を手にして過ちを侵しかけた……そうならないように言葉をかけてくれていたのに)

(何度も助けてもらいましたもの、そろそろこちらが助ける番ですわ!)

(あいつは一人で抱え込みすぎなのよ、たまにはあたし達が頼りになるって事を教えてやらないとね!)

(私の暴挙を止めた礼はまだしていなかった……今がその時だ)

 シャルロットや一夏達の決意が宿る眼を見た千冬は小さくため息をついた。

「……どうしても行くというのなら、作戦を立ててからにしろ」

「千冬姉!」

「六人がかりであれば福音の撃破と操縦者の救出は十分可能だ、それに福音と闘っているお前達を餌に隠れている敵をあぶり出すチャンスを作れる事も確かだ」

「それじゃ!」

「作戦会議だ、中に入れ」

 

 

 

 

 

「――――――あ、あの……もう一回言ってくれますか~?」

「ええ、ワタシの名前は『天魔』よ。普段は打鉄と呼んでいるから違和感があるかもしれないけれど今度からはそう呼んでくれると嬉しいわね」

「じゃ、じゃあ本当に貴女がおれの専用機の?」

「そうよ、まあ……そうは言っても信じられないでしょうけどね」

 自分の言葉を理解しききれず驚きと戸惑いの表情を見せる響に天魔は小さく笑みを溢す。

「まだワタシのことについて頭も心も整理できてないだろうけど時間もないし本題に入るわね」

「本題?」

「ワタシの姉と妹達に危険が迫ってるの……それとパートナーでもあるアナタのお友達にもね」

「天魔の姉妹さんにおれの友達って……まさか!?」

 さっきまで呆けていたというのに響は天魔の言う友達に迫る危険という言葉に表情を一変させた。

(此処がどこだかわかんないけど早く一夏達のとこに、シャルのところへ戻らなくちゃ!)

 この血のように赤い世界が何かは分からない、天魔の言う彼女が自分の専用機であることや姉妹に友達……混乱している頭では全部が全部理解できたわけではない。

 それでも友達がなんなのか危険がなんなのかだけははっきりと分かった。

「福音を操って束さんが一夏達を襲おうとしてるの!?」

「ええ、おそらくカノジョはまだ目的を果たしていない。それが何なのかは分からない、でも何らかの目的を達成するまでは何度でも今日と同じ事をするでしょうね」

「そんな……篠ノ之さんは血の繋がった妹なのに、一夏だって大切にしてるのに。どうして、どうしてこんなこと!」

「アナタで分からないのならワタシにも分からない、ワタシが知っているのはアナタに関する事だけだもの」

「…………おれの事?」

「そうよ」

 響の頭を撫でていた天魔はその手をおろしそのまま右肩に手を添え、反対の手も彼の肩に添える。そして響と目線を合わせるように地面に膝を付いた。

 着ている白衣が土で汚れてしまうのも構わずに。

「ワタシは……どのISよりもアナタと早く出会い、別れ、そしてこうして再開した。でも、アナタと離ればなれになっていた間もワタシはカノジョの元でアナタを見守り続けた」

「おれと会った事があるの? どのISよりもはやく? カノジョの元でってどう言うこと!?」

「……………………」

 響は困惑した表情を浮かべながら天魔を問いただしたが彼女はその質問に答えようとはしなかった。表情にも再び苦悩の色が浮かぶ。

「……お願いだよ」

 天魔は自分の知らない、覚えていない事の全てを知っている。

 束と出会ったときの事も、それを含めた自分が忘れてしまった過去を……その過去に隠された重大な何かを。

「知ってるなら教えて、何でも何でも良いんだ。おれの事を、束博士の事を知っているなら何でも良い! 教えて、教えてよ天魔!!」

 響は自分の肩にのる天魔の手を掴みこの不可解な事ばかり起こる現状を、解消できない不安をかき消そうと懇願するように天魔に頭を下げる。

 言い表せない不安が、束と『再会』してからずっと胸の奥で蠢く暗い感情が束を危険だと警告している。それと同時に一夏達にせまっている危険をどうにかしなければならない……不安と焦り、二つの感情が響の心を焦燥で満たす。

「……それは――――――っ!」

 焦燥に震える響の姿に天魔は躊躇いがちに口を開き言葉を紡ごうとしたがすぐに息を呑んだ。

「……天魔?」

 まるで何かに遮られたかのように声が止まった天魔に気づき響は顔を上げた。

「これ……って?」

 顔を上げた響の眼に映ったのは小さな光、それは一つだけではなく全部で六つ。

 汚れのない純白、鮮やかな紅、空を思わせる蒼、花のような淡蘇芳、揺らぎのない黒……そして太陽の柔らかな陽光を思わせる日色の光。

 そんな小さな光達が響の周りをつかず離れずといった様子で漂い続ける。

「『一騎当千』でコア・ネットワークを繋げて情報を渡してもらっていたけれど……意識だけとは言え姉さん達が響とワタシの深層世界に直接来たってことはもう時間がないみたい」

「姉さん達って……もしかしてこの光が一夏やシャル達のIS?」

「詳しい説明は省くけどそうよ」

「これが……白式やリヴァイヴ……?」

『『『『『『――――――――!』』』』』』

 自身の色を鮮やかに纏う小さな光、白式達は響周りをせわしなく動き回る。

 響の周りをグルグルと飛び回ったり上下に撥ねたり、それは響に何かを伝えようとしているように見えた。

 そんな中でリヴァイヴであろう日色の光がそっと響の目の前にまで浮かび上がる。

「な、何?」

「触ってみて、そうすればあの子達がどういった状況か直接理解できるはずよ」

「う、うん!」

 響は天魔の言う通り自分の前でふよふよと浮かぶ光を急いで握りしめる。

 だが、握りしめると言っても力強く拳を作るような要領ではなく脆く壊れやすいガラス細工を手の平にのせるように優しく包み込む響。

「――――!!」

 その瞬間、響の脳内にリヴァイヴがシャルロットの視点で見ている光景と独自に分析している戦況の情報が映像として一気に形となる。その奇妙な感覚に響は眼を閉じて意識を集中する。

 リヴァイヴが響に見せたのは福音と闘う一夏達の姿だった、そこに映った福音は背にエネルギー状の光翼を背負い、一夏達も六人がかりでも挑んでいるというのに苦戦している。

(これが第二形態への移行! 福音だけじゃなくて一夏の白式まで? それに『絢爛舞踏』って紅椿の単一能力の発動、稼働率四十二パーセントって……)

 頭の中で闘いの過程と結果が目まぐるしく流れ続ける中で響はその濁流とかしている情報の波を一つ一つを信じられない速度で理解していく。

「………………」

 その様子を黙って見つめる天魔の表情は何処までも悲しく、辛いものになっていく。

(一夏の白式、新しい装備が着いたみたい。雪羅なら福音の攻撃を全部防げみたいだけどエネルギーの消費が大きすぎて紅椿の『絢爛舞踏』をつかってもすぐに消耗しちゃう……篠ノ之さんも単一能力を使いこなせないみたい……このままじゃっ!)

 響は弾かれたように眼を開きリヴァイヴを包み込んだ手を開く。

「答えは分かってるけど、一応聞くわね……あの子達の所へ行くのね?」

「うん、みんなを助けに行くよ。おれなんかが行っても戦力にならないかもしれないけど……それでもここで黙って見ているより、何もしなかったっていうよりよっぽど良いもん」

 本当ならここで天魔に自分と束について知っている事を聞きたかった。

 でも、それよりも大事な事ができた今それを聞いている時間もない。ここで足を止めている間にも一夏達は命を懸けて闘っているのだから。

「どうすればここから出られるの?」

「簡単よ、普段現実の世界で眠るようにこの世界でも意識を沈めればいい。そうすれば眼が覚める」

「わかった」

 響は思いの外簡単な戻り方に安心しつつ眼を閉じる。

 立った状態とは言え響ならすぐに眠りに落ちる事が出来るだろう。

 眼を閉じ数秒が経ち、響の意識が消えそうになったとき天魔が響の頭を撫でる。

「……一方的に話すけれどそのまま眼を閉じて聞いて」

「……うん」

「アナタはワタシに聞きたい事たくさんあったと思う、でもそれはワタシが教えなくてもいずれアナタ自身がその答えに辿り着くわ。アナタが自分の為に闘い、誰かの為に闘い、その闘いの中で傷つき続ける事で。それがアナタの優しさで強さなのは認める、けれど誰かを護る為にワタシの力を使えば使うほどアナタは自分の中にある闇を――憎しみと向き合わなければいけなくなる。その原因を作ってしまったワタシがどうこう言う資格はないんだけどね」

「………………」

 天魔が自分に何を伝えたいのかは分からない。

 ただ分かったのは彼女の伝えようとしている何かが全ての元凶、篠ノ之束の暴走も自分が覚えていない記憶も全てが彼女だけが知る過去に見てきた今に繋がる。

 そして、求める答えは酷く重く黒い結末……それを自分が思い出してしまう事を何よりも恐れていることを。

 響は少しずつ薄れていく意識の中で天魔の微かに震えている声に耳を傾ける。

「きっと此処での事は殆ど覚えていられないと思うわ……でも、どうか……これだけは忘れないで」

「……?」

 震える声と共に天魔は眼を瞑る響を優しく抱きしめた。

(何で抱きしめられてるんだろ……でも、何か懐かしいな~。小さい頃、義母さんに……抱きしめてもらったみたいな……そんな感じがする)

 むろん響を抱きしめているのは義母である頼子ではない、響の精神世界の中で人の姿を模造した天魔である。それも夢と同じような世界で感じる温もりも幻に過ぎない。

 それでも響の心は落ち着いていた、これから命を懸けた戦場へと向かう事になるというのに何処か安らいだ表情を浮かべている。

「憎しみよりも先にアナタが与えられてものを、託されたモノを忘れないで……アナタの目の前に広がるものが前に進む事さえできない限りなく暗く深い闇だったとしても―― 」

 響の意識がこの世界を離れる事を示しているのか彼の身体が徐々に薄れていく、一夏達の危険を知らせにきた白式達もいつの間にか姿を消していた。

 あと数秒もしないうちに消えてしまう響を抱きしめ天魔は耳元で小さく、それでいて今までで一番はっきりとした声で最後の言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あの人達が残したアナタの道標となる小さな光を」

 




 またもや期間があいての投稿、申し訳ありません!!
 今回は主人公と天魔さん、シャルロットや一夏君達の視点をころころ変えてのお話になりますので読むのが大変かと思いますが何とぞ読んでいただければと思います<(_ _)>
 次回は、やっと福音戦のメインバトルのお話を手がけようと思います。
 オリ主の響君とシャルロットのイチャイチャはまだ遠く・・・・・・正直ストレスですがもう少しだけお付き合いくださいませw
 後書きも久しぶりなので長くなってしまいましたが感想と評価など頂けたら嬉しいかなと・・・・・・
 では、また次回のお話まで~ノシ
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