IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道   作:エヴァンジル

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第二十二話 共に立つ戦場

 

星の輝きが照らす空の下……。

 海上二百メートルの位置に福音が胎児のように膝を抱えその身体を丸くしていた。

『――――――?』

 何かに気づいたのか不意に銀の福音が頭を上げる。直後、超音速で飛来した砲弾が頭部を直撃、大爆発を起こした。

「初弾命中! 続けて砲撃を行う!!」

 福音から五キロほど離れた場所、そこには砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』を装備した『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開しているラウラがいた。

 通常装備とは異なり八十口径レールカノン二門と遠距離からの攻撃を防ぐ為の物理シールドを展開……。

 対福音用の装備で固めたラウラは爆煙が晴れるよりも早く次弾を装填、続けて砲撃を放つ。

『――敵機Aを確認、これより排除行動に移る』

 しかし、ラウラの攻撃を察知した福音は煙の中から飛び出し放たれた砲撃を全て回避。ラウラへと接近していく。

(敵機接近まで残り四千……三千――――くっ! こちらの予想よりも速い!)

 ラウラは福音の予想を超える機動力に歯を噛みしめる、そんな中でも砲撃を続けているのだがラウラと福音の距離はあっという間に千メートルを切った。

 そして福音は後退しようとするラウラの首に手を伸ばし、あと数センチというところまで鋭い指先が迫る。

「やああああぁぁ!!」

 しかし、そこに急降下してきたセシリアがその右手を弾き、レーザーライフルで追撃を加える。

 強襲用髙機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備した『ブルー・ティアーズ』のステルスモードによる強襲攻撃、時速五百キロを超える速度からの精密射撃で福音を狙い撃つセシリア。

『敵機Bの確認、Aと共に排除する』

 が、なおも福音は主武装でもある特殊型ウィングスラスターによる持ち前の加速力を生かし、そのすべてをかわして上昇し迎撃態勢を整える。

「今ですわシャルロットさん!!」

 最高速下での攻撃をを避けられてはいるもののセシリアは慌てることなく射撃を続けステルスモードで上空に待機していたシャルロットに声をかける。

「了解! かかったね!」

 空高く舞い上がり回避を行った福音に、今度はシャルルが強襲をしかける。

 ショットガン二丁による近接射撃を背中に浴び福音は姿勢を崩す。

 体勢を崩した福音にシャルロットは得意の『高速切替』ラピット・スイッチによってアサルトカノンを呼び出し、更なる追撃をねらう。

 しかし、福音が光の弾丸を射出して応戦し始める。

 その弾丸を防御特化パッケージ『ガーデン・カーテン』を使い防御するシャルロット。

「悪いけどこのくらいじゃ落とせないよ!」

 福音の攻撃を凌いだシャルロットは再びアサルトライフルによる追撃を開始、ラウラとセシリアも物理弾、エネルギー弾と特性の異なる攻撃で福音を攻め立てる。

『……優先順位を変更、現空域からの離脱を最優先に』

 三人の射撃攻撃で消耗し始めた福音は自分にとって戦況が不利だと判断し、シャルロット達の弾幕が僅かに途切れた瞬間全方位にエネルギー弾を射出。その攻撃を避けたシャルロット達の間に出来た僅かな空間に最大加速で突入、強引に離脱行動を取ろうと――

 

「させないわよ!!」

「今度こそお前を!」

「逃がしはしない!!」

『――――!』

 

 ――した瞬間、海面が爆発的に膨れあがり水しぶきを巻き上げながら鈴と一夏、そして箒が姿を現す。

 ラウラから始まった一連の強襲、ステルスモードが使える事が前提とは言えここまで立て続けに奇襲行動をとった作戦はそう無いだろう。

「離脱する前にたたき落とすわよ!!」

 機能増幅パッケージ『崩山』によって増設された衝撃砲、計四門の砲口を福音に向け一気に不可視の弾丸を放つ鈴。普段の『甲龍』では考えられないだけ福音にも勝るとも劣らぬ数多の衝撃弾が一斉に福音を襲う。その弾幕に紛れ込むように『紅椿』を纏う箒と第二形態に移行した『白式』で突撃する一夏。

「ぜらああぁぁっ!!」

「はああぁぁぁっ!!」

 『零落白夜』を発動した雪片二型と雨月と空裂の二刀を持って福音へと肉薄、容赦のない斬撃を振るう一夏と箒。

『――《銀の鐘》最大稼働開始』

 鈴の圧倒的火力を持つ援護射撃とこの場のどのISよりも速い速度を出せる一夏と箒の息のあったコンビネーション攻撃で決まるかと思いきや、福音は銀の両翼を羽ばたかせエネルギー弾の一斉射撃により連携攻撃を阻止した。

 なおかつ三人の攻撃を防ぎきった直後にまた膨大な量の弾丸を射出し自分に接近していた一夏と箒目掛けて撃ち放つ。

「箒! 一夏! 僕の後ろに下がって!!」

「頼む、シャルロット」

「すまない!」

 エネルギー弾が二人に届く寸前でシャルロットは前に躍り出る。

 防御に特化したシャルロットが一夏と箒に代わり攻撃を防ぐ事で白式と紅椿のエネルギー切れを防ぐ。

 前回の闘いでも箒はエネルギーを使い果たし一夏も第二形態に移行できたとは言え僅かしか残らなかった、その失敗を踏まえて集団戦闘の利を活かし各自が自分の役割を決め担う事で福音と互角以上の闘いを可能としている。

「とはいえ、これはきついね」

「六人がかりでやっとってところだな」

「どうあっても長引けばこちらが不利になるのは変わらないようだ」

 福音の攻撃を防ぎながらもシャルロット達は冷静に戦況を見極める。

 確かに六人で闘う事で福音とも互角に戦えているのは間違いない。しかし、人数的に有利でも埋められないモノがあった。

 ――それはISのエネルギー総量の差。

 今までの闘いでより多くのエネルギーを攻撃と防御に使っているのは福音のほうだ、その事実が福音を確実に消耗していると感じる事が出来る。だが、それでも長期戦になれば先に動けなくなるのはシャルロット達である。

「何弱気な事言ってんのよ、あんた達は!」

「こうして闘う以上、わたくし達がすべき事は変わりませんわ!」

「それとも今更怖じけついたのか?」

 シャルロット達が福音の攻撃に晒されて身動きが取れない中、声を張り上げながら交互に援護射撃をしながら追いついてきた鈴、セシリアとラウラ。

「そんなわけないよ、この闘いは福音を止めるだけじゃない……響を護る事にも繋がってる闘いなんだから」

「ここで逃げるようなら最初からきてないって」

「ああ、何故なら私達は……」

 鈴達の援護によって一旦距離を取る事が出来たシャルロット達は鈴達に強気な言葉を返し、そして六人全員が自分達の頭上で銀の翼を広げる福音の姿をその眼に捉える。

「「「「「「大切な仲間を護る為に此処にいる!!」」」」」」

 福音を止めその操縦者を助け、そして何よりたった一人で絶大な力を持った暗躍者に立ち向かった友達を護る為にこの戦場へと来た……その決意は誰一人寸分の狂いもなく同じだった。

 今も眠りについている響を今度こそ自分達の『力』で護る為に……。

 

 

 

 

 

 

「代表候補生一同、福音との戦闘に入りました!」

「わかった。山田先生は引き続き織斑達から眼を離さないように、他の先生方はこの花月荘内部と周辺に設置した監視カメラの映像を常に確認してください。何かしろの異常、不審者がいればすぐに報告を」

「「「はい」」」

 一夏達が海上で福音と交戦する一方で千冬は旅館に残り同時進行している響の護衛似ついていた。

 響の護衛に着いているとはいえ未確認の敵をおびき出さなければならない為、福音の対処につきっきりという慣れない一芝居を打っている最中だった。

(一夏達が福音に向かったのはあくまでこちらの指示に従わず身勝手な判断による出撃……その対処にも手を拱いていると敵に思いこませれればいいが、さてどう動く?)

 福音の捕獲に失敗し焦る学園側、自分達の力を過信し暴走した生達への遅くなってしまった対処、通信回線を切り指揮をする事もままならないこの状況を……ここまでお膳立てをすれば暗躍者も動かずにはいられないはず。

(これで動かないのなら、目的は皇ではなく他にある事になる……もしそうなら皇を襲ったのも陽動と考えられるが……、どちらにせよ今は相手の出方を見てから動くしかないか)

 千冬は大型モニターに映し出される一夏達と福音の闘いを鋭い眼光で見つめる。

 彼女の眼に映るのはまだ十五、六になったばかりの少年少女が少しでも対応を間違えば命を落としかねない戦場で懸命に武器を手に空を駆ける姿だった。

 本当なら自分が動くべきなのだろうがここには一夏達と違い自己防衛の為の力を持たない多くの生徒達と数名の職員と旅館関係者がいる。

「……まったく、今の私ではただ闘う事さえままならないな」

 戦場で戦う一夏達と一般人を含めた旅館に残る百名を超える人命……。

 命を、その重さと価値を天秤に掛けるなどしてはならないのは誰もが知っている事だ。だが、それでも責任という枷を手にする千冬にはどう足掻いても選ぶ事を強要される。

 六名の命と百を超える命どちらを優先するべきかと……。

「山田先生……皇の状態は?」

「はい、脳は心拍数共に安定しています。皇君がいる隔離部屋に近づく不審者も今のところ確認できていません」

「皇の状態及び周辺の警戒も怠らないよう注意しながら敵の発見に全力を尽くせ……残る問題は白式のエネルギーだけだが……」

 集団戦法を用いて福音と闘う所まではこちらの作戦通り。

 しかし、そこからは予想通りにはいかない。現にラウラの射撃をかいくぐり接近し近距離戦を仕掛けられかけた。つまり射撃武装しか搭載されていないとは言え徒手格闘による近接戦闘も行えるという事。

(近距離にも対応出来る性能と強度……あいつ等はけっして弱くはない。同年代の中で代表候補生に選ばれ専用機を持つ事を許されるほどの実力を持っている、それでも分が悪いか)

 大型モニターに通してみる事ができる一夏達の一進一退の攻防。

 ギリギリのところで実力が均衡してはいるが自分達にとって唯一の勝利条件である『零落白夜』の一撃をどうしても決める事が出来ない。

 六人がかりでほんの僅か、本当に紙一重の差で届かない。

(せめてあともう一人……もう一人いれば確実に福音を止める事が出来るというのに、このままでは――)

 千冬はただ見守る事しかできない自分に、そして胸の奥で強くなる焦燥を表に出さないよう奥歯を噛みしめ平常心を保つ。

 そんな中、作戦指令室内に大音量でエネルギー限界を知らせるアラームが鳴り響く。

「織斑君の白式からです! このままだと単一能力の維持だけでなくISその物を維持できなくなります!!」

「ちっ……考えた矢先にこれか。白式のエネルギー残量は?」

「あと百二十です、瞬間加速を使わないにしても残る攻撃回数はあと一回が限度です」

「後が無いな……」

 絶体絶命的状況に千冬は腕を組みこの状況下における打開策を模索する。

 自分の経験と知識を総動員するも誰もが導き出せる答えしか出て来ない。千冬を含めもう撤退するしかないという決断が司令室に漂い始めたその時、今度は『紅椿』に変化がしょうじた。

 モニターに映る箒の姿は鮮やかな光に包まれ瞬く間に『紅椿』のエネルギーが最大まで回復していく。

「これは『紅椿』の単一能力のようです。『絢爛舞踏』……どうやらエネルギーを回復する事ができる能力のみたいです!」

「エネルギーの回復だと……いや、今はありがたいことに代わりはないな」

 消費したエネルギーを行った良い何処から補っているのかが気になった千冬ではあったがこの危機的状況を乗り切るには願ってもない能力だった。

「篠ノ之さんが織斑君と接触、どうやらバイバスを介さなくてもエネルギー譲渡が出来るようです『白式』のエネルギー百から四百まで回復……戦闘続行可能です!!」

「よし、福音に対する作戦もこのまま続行する。もうしばらくこちら側に動きがないようならこちら側で待機させている訓練機三機の内二機を支援に向かわせられるよ――」

「織斑先生!」

「今度は何だ!?」

 好転した戦況を崩すまいと矢継ぎ早に指示を飛ばす千冬の声を遮るように真耶が酷く狼狽した声で千冬を呼ぶ。

「か、隔離部屋の映像を出します!!」

「な……何だこれは……」

 真耶が大型モニターの右端に響が寝ている部屋の映像を映し出す。その映像をみた千冬と部屋にいた教員全員が声を失う。

 千冬達が見ていたのは自動修復を終えた『打鉄・天魔』を纏い白銀の光を放ちながら部屋の中で浮遊している響の姿だった、モニターに映る彼はまだ意識が戻っていないのか眼を閉じたままだった。

「ISが……操縦者の意志に関係なく起動しているのか」

「どうやらそのようです、しかも単一能力の『一騎当千』まで発動しています!」

「いったい何がどうなっている!」

「モニターに打鉄の機動状況を映します」

 真耶は今までに例を見ない光景に戸惑いながらもキーボードを操作していく。

 モニターに映し出されたのは彼女達の疑問に答えるかのような情報と常軌を逸脱したシステムの発動を知らせるメッセージだった。

 

 

 

 ――――単一能力『一騎当千』 シンクロ率臨界点突破及び単一能力の完全解放を承認

                コア・ネットワーク完全リンク可能コアの検索

 

 操縦者 織斑一夏        専用IS準第四世代『白式』第二形態『雪羅』

 操縦者 篠ノ之箒        専用IS第四世代『紅椿』

 操縦者 セシリア・オルコット  専用IS第三世代『ブルー・ティアーズ』

 操縦者 凰鈴音         専用IS第三世代『甲龍』

 操縦者 シャルロット・デュノア 専用IS第二世代『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』

 操縦者 ラウラ・ボーデヴィッヒ 専用IS第三世代『シュヴァルツェア・レーゲン』

 

 その他IS学園所有機多数確認 『ラファール・リヴァイヴ』及び『打鉄』 計十五機

 

 上記 二十一機とのコア・ネットワークを接続……完了

 

 専用機、訓練機に蓄積される対福音戦に使用可能と思われる戦闘データ・戦術を抽出

 

 自機操縦者 皇響への深層共鳴による高速学習準備

       抽出データの利用における最適化の完了を確認……

       高速学習開始

 

 

                                       』

 

 

「皇の専用機が……これを全部やっているというのか」

「そ、そのようです」

「……何なんだ、このISは」

 ISのコアに内蔵されている、データ通信ネットワーク……それは広大な宇宙空間での相互位置確認・情報共有のために開発されたシステム。現在は操縦者同士の会話として、オープン・チャネルとプライベート・チャネルが利用されている。最近の研究で、ようやく非限定情報共有を行い、コア自身が自己進化していることが分かったばかりだというのに。

 響の専用機『打鉄・天魔』は更にその先……自身の進化だけでなく操縦者にもその自己進化を促している。

 しかも今回、訓練機・専用機ともにコアに関しては不適切なアクセスに対する高度な防衛プログラムが組まれているのにもかかわらず福音と闘う為に膨大な戦闘データを読み取りそれを最適化し効率よく響に学ばせ福音と闘えるだけの……いや、『勝つ』為のプログラムを組み上げている。

(いくら最適化しデータ総量を少なくできているとしてもそんなものが皇の、人の脳に収まりきるのか!?)

 人の脳は精密機器にも劣らぬ情報を蓄積、記憶する事が出来る。だが、人一人の脳と『打鉄・天魔』を含めた全二十二機のコア・ネットワークのデータではその蓄積総量は文字通り桁違いである。

「このままでは何が起こるか分からん。皇のISをこちらから強制解除する、山田先生!」

「強制解除信号発信……駄目です! こちらからの信号を受け付けません!?」

「くっ、こちらからは何も出来ないという事か」

 これも天魔の意志なのか、と千冬は眉間に皺を寄せ一切の操作を受け付けないISを睨み付ける。

「皇の状態は?」

「えっと……身体・精神共に目立った問題は無いようです。何て言って良いか分かりませんがまるで皇君を護っているような感じですね、これを見てください」

 未だに理解が追いつかない状況ながらも真耶は天魔から発信されるシステムデータをモニターに映す。

 

 

『  

   対福音用戦闘プログラム学習終了。

   過剰蓄積情報の削除、必須プログラムを自機コア内に保存……

   戦闘状況下における変更、効率的支援の為に待機タスクを作成……

   高速学習全課程の終了を確認

 

   操縦者体内に治療用ナノマシンを確認、システム解析――完了

   ナノマシンによる治癒力の促進を開始

   

   破損箇所の細胞癒着・固定化の完了まで後三十秒

 

 

   操縦者皇響の脳波に反応有り完全覚醒まであと三秒

 

                                       』

 

 

「……呆れてものも言えなくなるな」

「コア・ネットワークの自動接続から始まって治療用ナノマシンへの干渉、皇君の怪我まで治してしまうなんて……もう何が起きているのかわかりません」

「ああ、私もだ……分かっている事があるとすれば一つだけだ」

 千冬は諦めにもにたため息を吐きながら大型モニターに映る響を見た。

『……行こう、天魔。一夏達が危ない』

 白銀の光を放つ天魔を纏う響が静かに、ゆっくりと眼を覚まし折れていたはずの右手に鳶葵を握りしめ――

 

 

ドガアアァァァン!!

 

 

 ――轟音と共に旅館外壁を破り超高速で飛び立った。

「……山田先生、旅館関係者の方に破損状況の報告を。謝罪と一緒に修理費用はこちらで持つと」

「わかりました……」

 響の後先考えていない行動に先程まで驚愕と混乱に包まれていた作戦室の空気が軽くなった気がした千冬。

 意識不明で危篤状態だった教え子が眼を覚ました事で真耶の表情も明るくなった。

 だが、経費上では負担が増えた事に代わりがない事とまだ手を上げて喜べる状況ではない事に気を引き締める。

「周辺に敵らしき反応は?」

「生体反応、IS反応どちらもありません……皇君を襲った人物は動かなかったようです」

「ここでケリをつけたかったが動かないなら動かないでくれたほうが助かる。それに皇が眼を覚ました、これ以上は下手な芝居をする必要もないだろう。織斑達と通信を」

「通信回線回復までしばらく時間がかかります、おそらくこちらの作業が終わる前に皇君がみんなの所に到着すると思います」

「わかった、作業を続けてくれ」

 千冬は気を抜きすぎない程度に肩から力を抜く。

 先程まで後手に回り追い詰められていたのだ、気を張り詰めるのは仕方がない事だが響が眼を覚ました事とこの場における第三者が動かないもしくはもう周辺にいない状態になったのは千冬達にとって願ってもないチャンスが舞い込んだ事でもある。

(打鉄の特異現象に皇の覚醒、それに加え生体再生に限りなく近い治癒促進……色々気になる事はあるが今は福音に集中しなければな)

 周りにいる教員達に聞こえないよう一度だけ大きく深呼吸をする千冬。今の彼女の顔に普段の教師としての顔が、世界最強のIS乗りとしての風格が戻る。

(……勝負はまだこれからか)

 

 

 

 

 

「逃がしませんわ!」

 セシリアは手に持ったスナイパーライフル『スターダスト・シューター』の引き金を再び引いた。

 しかし、光の翼を背にした福音の速さに翻弄され、まったく狙いが定まらない。

 強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備しているため、六基のビットは射撃機能を封印し、スラスターとして使用しているため、福音の動きについていくためとはいえ多方向同時攻撃は行えない欠点がある。

 福音の光弾がセシリアに向けて発射され、なんとかそれをかわして反撃に転じるも、やはり相手の機動力とこちらの連射力の少なさが影響してか、放った弾丸は雲を貫くばかりでセシリアは焦った表情を浮かべる。

「本当に嫌になるわね、この機動力!」

 そう言いながらも攻撃の手を緩めない鈴。

 セシリアの射撃によって回避行動にいくらか動きを制限されているのにもかかわらず福音は空を踊るようにそのすべてを避け続ける。視認できない特性をもつ衝撃砲も攻撃感知センサーのみで反応するシステムが開いてはその特性を活かしきれない。

『――――La!』

「くっ!」

 猛攻の後に出来る鈴の僅かな隙を見逃さなかった福音はすかさず無数のエネルギーの弾丸を鈴に向けて放つ。

「させないよ!!」

 その攻撃を全員を援護できるよう常に全員と自分の位置撮りを把握するシャルロットが防御パッケージ『ガーデン・カーテン』を展開して防ぐ、そして左手にアサルトライフル『ガルム』を呼び出し、福音の攻撃を中断させるよう弾丸を浴びせる。

 だが、福音もまるで対抗心を燃やすようにエネルギー弾を連射し始める。

「離脱しろ! 鈴、シャルロット!」

 ラウラは鈴とシャルロットに集中砲火を浴びせる福音に狙いを定め、二人を援護する。

『La――!?』

 福音が攻撃目標をら裏に切り替えようとした刹那、箒が福音に斬りかかる。

「もらったぁぁ!!」

 雨月と空裂を福音目掛けて振り下ろす……がその二刀は苦もなく福音の両手で受け止められる。

 バチバチと火花が散り、刃が福音の装甲を切り裂こうとするも第二形態移行の影響か第四世代である『紅椿』の物理攻撃力を持ってしても破壊することは出来ないでいた。

「硬い……だが!」

「はああああああ!!」

『――――!?』

 箒に気を取られている隙を突き一夏が福音へと迫り『零落白夜』の刃を振り下ろす。

 それでも――

 

 ギギ……ギ……ギィィン!!

 

 福音は両手を固定するように押し込まれていた雨月と空裂をはじき飛ばし光翼を羽ばたかせ緊急回避行動を取った。

 少しでも攻撃を受け止める事を考えていれば絶対に一夏が振り下ろした一撃必殺の攻撃を避けることの出来なかったタイミングだったが、やはり恐怖も迷いもないシステムが相手では後一歩が遠い。

 福音は『零落白夜』を避け再び空で滞空する。

「くっそ! しぶとすぎんだろ……」

「まさか、これも凌がれるとは」

「……そろそろ決着をつけたいところですわね」

「そうだね……、エネルギーにも余裕が無くなってきたし」

「ああ、おそらくあと十分も保たんだろう」

 目まぐるしい攻防を開始してからどれだけ時間が経っただろうか、暗かった空もいつの間にか朝日が顔を出し始めだした。

 うっすらと日が差し掛ける空の下、一夏達は好転しない戦況に焦りを隠しきれなかった。

「次の一撃が最後になりそうだね、一夏……白式のエネルギーはもちそう?」

「シャルロットの言うとおり後一撃が限界だ、次で決めないとマジでやばい」

「そうなるとわたくし達に残された手段は一つしかありませんわね」

「そうね、正攻法で挑んでも駄目なのはもうわかってるし」

 シャルロットにラウラ、そしてセシリアに鈴……四人による援護射撃をもってしても箒が福音に肉薄するまでしか行かない。

 いくら一夏の攻撃を喰らえばまずいといえ、福音の動きは凄まじいとしかいえない。

 最後の一撃さえ凌げれば落ちる事はない、その一点に戦闘プログラムをくんでいるのだろう。

 なら、それがわかっていても避けることが出来ない状況に追い込めれば……

「問題は誰が先行するかだが……」

 箒は攻撃役である自分と一夏を除いた四人に視線を向ける。

「適任なのはシャルロットとラウラね」

「うん、僕ならシールドで接近して隙を突いて福音を拘束できるし」

「私であればAICの準備をして置いてあとは隙を見逃さなければいける」

「でも機動力を考えるならシャルロットさんですわね」

「わかった、まずは僕が先行して福音の攻撃を凌ぎつつ拘束、それが難しいようならラウラが後ろからAICの発動圏内に福音を捉えて拘束そこに一夏が跳び込んで一撃……ってところかな?」

「私と鈴、それとセシリアは援護にまわる。もう正攻法が通じないのであれば少しでも一夏が動きやすい方が良いだろう」

「あたしもそれでいいわ」

「わたくしも」

「なら……作戦は決まりだな」

 一夏達は雪片二型を握り込み滞空して戦闘プログラムを書き換えている福音を睨み付ける。

「タイミングはシャルロットに任せるぜ」

「わかった、それじゃカウント五から――」

 福音に最後の攻撃を始めようとしたその瞬間、その気概を挫くかのように福音がこの海域を離脱するかのように急上昇を始める。

「っ! 逃がさないよ!!」

 シャルロットは福音の突然の行動に驚き一夏達との連携を取るためのカウントを唱えることなく福音を追いかけた。

「おい!?」

「待つのだシャルロット!」

「シャルロットさん!?」

「ちょっとちょっと!!」

「戻れシャルロット!」

 タイミングを外し置き去りにされた一夏達は飛び出したシャルロットに止まるよう静止の言葉を掛ける。

 だが、それでもシャルロットはそんな五人の言葉を聞かずに更に福音との距離を詰めていく。

(ここで福音を逃がしたら響を護れない! 絶対、絶対ここで食い止めなきゃ!!)

 今、作戦本部にいる千冬と通信が出来たのならシャルロットも一夏達の声で止まったかもしれない。だが通信が出来ないということは離れている響の安否も確認できないということ。

 その事実が今までの戦闘でもギリギリ繋がっていた戦いへの集中力を切らしてしまった、今のシャルロットにあるのは福音を逃がせば響を襲った犯人達を逃がしてしまうという思考ばかりが胸の内で行き交っている。

「君をここで止めなきゃ、響が――っ!?」

『――――♪』

 響の安否ばかりに気を取られていたシャルロットの心を見透かしたかのように福音は上昇をやめ今度は彼女目掛けて急降下を始める。

「しまった! 奴の狙いはシャルロットだ」

「先に防御役を潰そうってこと!?」

「させませんわ!!」

 急速にシャルロットと距離を詰める福音に向けてラウラ達は福音の足を止めようと砲撃を放つ、三人の攻撃は的確に福音に狙いを付けてはいるものの当たることなくシャルロットへの接近を止められなかった。

『La――――』

 まるで自分の勝利を確信したかのような声音を奏でた福音はシャルロットとの距離を詰める最中、羽ばたかせていた翼をまるで人の手を思わせる形に変化させる。

「まさかあの翼は射撃だけでなく接近戦にも使うことが出来るのか!!」

 自らの窮地を察知した福音は今までの戦いの中で第二形態に移行し光の翼を生み出した。その翼の保つ機動力と絶大な射撃能力はここにいる全員が身をもって体験し舌を巻くほど強力無比なものである。

 だが、この瞬間にその翼が何で出来ているのかまでは警戒していなかった。

 それは呼び名の通り光……つまり、福音の膨大なエネルギーによって形作られた流動する翼。

 ISの装甲の様に物質で作られているのならまだしもエネルギーで形作られたものが羽の形でしか使えないわけがない。

「避けろシャルロット!!」

「駄目だ! あのタイミングでは避けらない!」

 シャルロットにすぐ後退するよう促すがそれが間に合わないとわかった箒は苦虫を噛みつぶしたかのような表情を浮かべる。

「こちらの攻撃が……当たりませんわ!」

「つべこべ言ってないで撃ち続けなさいよ!」

「くっ! このタイミングで弾切れか!」

 少しでも時間を稼ごうと福音をねらい打つセシリアと鈴、シャルロットが逃げられるよう援護をしている中で一番最初にラウラが弾切れに陥った。

 激しさが衰える段幕の中を福音は水を得た魚のように優雅に飛び回りシャルロットをその翼の射程に収める。

『LaLaLa――』

「ここまで来てこんなのって……」

 眼前で翼を広げ自分を光の手で包み込もうとする福音がシャルロットの眼に映る。

(あと少し、あと少しで響を護れたかもしれないのに……助けることが出来たかもしれないのに……)

 福音の姿が恐ろしいほどにゆっくりと見える。

 形を変えた翼が少しずつ両手を組むように狭められていく、優しくそれでいて静かに。

 でもその優しささえ感じる光景とは裏腹に自分に与えられるのは絶望だけ。

 この攻撃を受けてもきっと自分は助かる。一夏達も負けてしまうがそれでも最後の一線は越えなくてすむ。

 絶対防御が発動して意識は失うかもしれないが命はつなぎ止めることが出来る。

 それでも、諦めたくない。

(ここで僕が負けちゃったら響が何処か遠くに行っちゃう、僕の居場所になってくれた響が……また傷つけられちゃう。そんなの嫌だよ、嫌なのに……どうして!)

 自分を助けてくれた彼に恩返しも出来ずにそのチャンス奪われる。

 安らぎを感じさせてくれるあの笑顔を奪われる。

 いつも嬉しそうに、幸せそうに話し掛けてきてくれる大切で……大好きな人を奪われる。

(どうして……僕って肝心なときに何もしてあげられないのかな。僕じゃ響の助けになることも出来ないのかな)

 自分のみに迫る福音の無慈悲な慈悲によって与えられる痛みよりもその先に待っている敗北にシャルロットは涙を浮かべた。

(ごめん……ごめんね、響)

 リヴァイヴごと身体を包み込もうとする福音の翼の輝きに眼を閉じるシャルロット。

 そして、眼を閉じたことによって涙が頬を伝う。

「僕……君に何もしてあげられなかったよ」

 目尻からこぼれた涙が頬を伝い足下へ落ちる、それがこの戦いの終りを告げる鐘になろうとした――

 

 

 

 

 

「――シャルロット、お前が『俺』に謝る必要はない」

 

 

 

 

 

 ――時、シャルロットの耳にここにいるはずのない少年の声と共に何かがはじき飛ばされたような音が届く。

「……えっ?」

 自分の身体を襲ってくるはずの痛みの代わりに届いた声にシャルロットは戸惑いの声を漏らしながら眼を開いた。

 彼女の眼に映ったのは福音よりも眩い白銀の機体と暖かな光を纏った少年。

「すまない、来るのが少し遅れた」

 福音に背を向けながらも揺らぐことのない強い意志が込められた緋色の瞳。

「でも安心してくれ、ここから先は俺も闘う。シャルロットや一夏達だけに危険な橋は渡らせたりなんかさせない」

 白銀の光を纏いながらもその汚れ一つ無い純白の髪がなびく。

「……響、なの?」

「ああ」

 涙に潤んだシャルロットの前にいたのは彼女と彼女の仲間達が護ると決めた掛け替えのない仲間……皇響だった。

 

 




 台風が襲う中こんばんわ! 
 前回の更新よりもはやくUPできたとおもう白熱の福音戦第二ラウンドをお送りします(家のオリ主的には第一ラウンドですがw)
 原作沿いとはいえ戦闘を描けているかとても不安ですがようやく家の子がシャルロット達と合流→バトルな流れですがまだまだ原作の「君の名は」まで遠い感じがします(>_<) 
 次回はオリ主である響くん重視のバトル予定ですので楽しみに待って頂けたのなら幸いです、ではではノシ
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