IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道   作:エヴァンジル

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第二十三話 銀と銀は兎に抗う

 太陽の放つほんのわずかな光で暗闇に光る星の光はその美しい輝きを弱めていく夜と朝の狭間、太陽が水平線から顔を出すわけでも星空が残り火のように揺らめく光で空を照らしているわけでもない空。

 瑠璃色が広がる空と深い藍色の海の狭間で鮮やかな白銀の光を放つ二つ軌跡。

 一つは蒼白の大翼を背負いその身すべてを銀の鎧で包んだ天使。

 もう一つは白銀の光と呼応するように輝きを放つ銀の甲冑を身に纏う少年……。

 その二人が空を駆け巡り交差するたびに火花が散り甲高い金属音が鳴り響く。

 二叉の太刀と強固な拳、純粋な物理攻撃力だけでありながら二人の戦いは一夏達が全力で戦ったいた時よりも疾く苛烈な激闘を繰り広げていた。

(――一夏達と戦っていたときよりも更に速い。ここに来るまでに天魔がくみ上げた対福音用の戦闘プログラムがなかったらやられていたな……)

 天魔の深層世界で一夏の白式やシャルロットのラファールから福音に関する情報を受け取っていなければ単独で相手をすることはできなかっただろう、現に『今』の自分は曲がりなりにも福音と闘うことができている。

(とはいえ、データ上の仮想戦闘とこうして実際に闘ってみるのとでは違う。俺の考えが正しいのなら――)

 幾度となく切り結ぶ中、響は一撃離脱の作戦から接近戦に持ち込む。

 いくら接近戦もこなせる性能を持つとはいえ福音は射撃型のIS、驚異的な戦闘能力を見せる『今』の響でも相手の土俵で闘えば敗北は必死……。

 響もそのことをわかっているのか福音との距離を詰める動きに迷いはない。

「はああああああああっ!」

 居合い抜きの要領で右手に握る鳶葵の刃を福音の首筋めがけ高速の一刀を放つ響、福音もその太刀筋を予測していたのか右腕一本でその攻撃を受け止めようと振り上げる……が、

『――――!?』

 福音が防ぐはずだった響の一撃は空を切る。

 それは響が福音との目測を誤り鳶葵による一撃を外したのではなく右手に握られていた太刀が消えていたからだ。

 福音がその不可解な現象に戸惑った瞬間、右手から消えたはずの鳶葵がいつの間にか左手に握られており先ほどよりも速い剣速でがら空きになっている福音の右脇腹に迫っていた。

『――――!!』

 福音は突然消えた鳶葵の現象に解析システムを起動させつつ右肘を軸にしつつ右手を振り下げ鳶葵を受け止める。

 その次の瞬間――

「おおおお!!」

『――――!?!?!?』

 右腕の外部装甲が鳶葵を受け止めた衝撃を感知した瞬間、そこに鳶葵の刀身はなかった。

 再び鳶葵が握られていたのは先に振り抜いた右手だった。

 響は右手に握った鳶葵の切っ先を何の迷いもなく福音の頭部へと穿つ、三度その姿を消し忽然と眼前へと現れた刀身を目視した福音は両手で響の刺突を止める。

『――――La』

 白羽取りの体制を取る中で福音は背中に背負う光の翼を広げ響へと光の雨を浴びせようと射撃体制に入る。だが、それよりもほんの僅かに早く響は鳶葵のトリガー・ギミックを握り込む。

「――『断空』」

 鳶葵の二叉の刀身から蒼い閃光があふれ出し福音の両手の中で一気にはじけ飛ぶ。

 引き金と共に放たれた断空の閃光は海面を蒼い光で照らし、轟音と煙をまき散らした。

『――La』

「逃がすか!!」

 広大な海の上に広がる噴煙の中から再び二つの銀が姿を現す。

 響は無傷、福音は至近距離での爆発にシールドを突破されたダメージが見えた。

 無傷、とは言わない。

 しかし、響が放った『断空』は福音の装甲に僅かな亀裂を与えただけだった。決定的な傷を負わせられなかった。それでも響きは動揺した様子を見せることなく近接攻撃で畳みかけようと福音との距離を縮める。

『――――攻撃目標危険度更に上昇、最大戦力で迎撃を開始する』

 響きが福音との距離を詰め切る後一歩というところで光の翼が一夏達に向けられたようにその羽を大きく羽ばたかせ時、光の散弾が容赦なく響へと降り注いだ。

「広域射撃か!」

 接近戦で押し切ろうとしていた響と福音との間にほとんど距離はない、『一騎当千』の高速機動でもよけることはできない。

 そう理解した響は足を止め鳶葵に断空のエネルギー刃を纏わせ自分に向けた放たれた無数の弾丸へ剣戟で対抗する、福音が放った弾丸の数は優に百近い……その中で確実に自分へのダメージとなるものだけど瞬時に見切って次々と切り落としていく。

 一太刀で数発の弾丸を切り裂き、右手と左手と矢継ぎ早に鳶葵を持ち替え嵐を思わせる剣閃をきらめかせる。斬り損じたものは一発も掠らせる事なく躱し、何度となくその繰り返す。避けたことで海へとたたき込まれた光弾によって海面から立ち上る大きな水柱に視界を阻害されながらも響は第二派を放とうとしている翼を広げる福音の動きを察し刀身へ纏わせていた断空を放つ。

『――――高エネルギー接近! 緊急回避!!』

 射撃体勢に入っていた瞬間を狙って放った断空の刃、それを福音は一夏達との攻防で見せた時以上の反応速度で回避して見せた。

 そんな福音の動きに響は眉を寄せ苦言を漏らす

「……これでも押し切れない、か。そうなると俺単独で福音を止めるのは無理だな」

 『一騎当千』による高速機動に、今もコア・ネットワークによってもたらされるデータを元に天魔が組み上げる対福音用戦術の中で有効とされたシャルロットの『高速切替(ラピツド・スイツチ)』を接近戦に組み込んでの近接戦闘。

 つまり今のの自分にできる最速で最良の……最大戦力を持ってしても福音を落とすには至らない。

(最も、エネルギーの差を考慮しても俺だけで止めるのは無理だ……やはり篠ノ之束の思惑通り一夏と篠ノ之に福音を落とさせるしかないか?)

 その真意は今でも理解できてはいない。だが、この戦いで束はかなりの確率で実の妹である箒に福音を迎撃、操縦者の救出という功績を彼女の手で成し遂げさせようとしていることに間違いはない。

 何故、実の妹をここまで危険に晒して――と、響が束との戦いでも行き詰まった答えに悩んだときふと彼の脳裏に不可解な考えが浮かび上がる。

(福音を止めた功績を与えたいだけなら……何故、福音を第二形態に移行した?)

 響きは動きを止め自分を見下ろす福音に研ぎ澄まされた刀のような鋭い視線を向け、警戒しながらもわき上がる疑問に意識を集中させる。

 仮に福音が攻撃を仕掛けてきたも今の自分であればすぐに反応できる事がわかっていた。

(ここに来るまでの間、天魔達が俺に見せてくれた光景の中には篠ノ之が動きを止め一夏が福音の銀の翼を切り落とし撃墜したはずだ)

 スラスターとしての役割もあった翼を切り落とされた福音は海中に沈んでいった……、なら何故そこで福音の強制制御を止めなかったのか?

 彼女の思惑とその時の戦況を考えれば止めていなければおかしい。

 福音を自分が手がけた二機のISとそれを操縦する親友の弟である一夏と実の妹である箒が止めたことで彼女が思い描いた暴走事件のシナリオは完璧に成功しているのに……

 

 何故、今も福音を戦わせている? 

 

 何故、目的を果たそうとしていない? 

 

 それとも何か別の目的のために?

 

 響は自分が思い描くいくつもの問題と答えを反芻するが完全に束の目的が何なのかをわからなくなっていた。

(おおよそのシナリオを変更していないのなら俺がここに駆けつける事を絶対に阻止していたはずだ。俺が織斑千冬に真実を語る可能性もある以上無視できない……俺が篠ノ之束と戦ったことで何かが変わってしまったとしてもそれは変わらな――――)

 束の思惑に思考を巡らせる中、小さなアラームと共にディスプレイに天魔からの響混乱を解決しうるメッセージが浮かび上がる。

 

『 コア・ネットワーク完全リンク可能コア 救助信号を感知該当機は次の通りである

 

 

 操縦者 ナターシャ・ファイルス 専用IS第三世代『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』 

                 操縦者保護による疑似第二形態の発動中

 

 

 ――受信メッセージ

 

 当機は何者かの干渉により強制操作を受託

 該当問題解決のため強制的に第二形態への移行を承認、それにより当機は暴走状態である。

 操縦者の生体反応も著しく微弱、当機の停止。又は撃墜をもって操縦者の救助を要請

 

 繰り返す、当機は――

                                                                               』

 

「……そうか、お前も戦っているんだな」

 自分の操縦者を救おうと福音も懸命に抵抗したのだ。

 ISという存在を生み出した、『銀の福音』という存在を生み出す技術を作り上げた天才、篠ノ之束に。

 彼女のシナリオを歪めることで、一夏と箒の二人に撃墜されるという最悪の結末を回避するために『自分自身』の意志で暴走を引き起こした。それが操縦者であるナターシャを救うことのできる唯一の方法だと信じて……。

 でなければ福音は第二形態に移行することなく敗北していたはずなのだから。

「俺を待っていてくれたのなら……」

 響は秘匿回線を用いて一夏やシャルロット達にメッセージを送った、本当なら直接話して自分の考えを伝えたかったがそれをしている余裕はないだろう。

 緋色の眼に写るのは再び戦闘態勢に入ろうとしている福音の姿が映っているからだ、先ほどと同じように高速戦闘になれば口答で伝えるのは難しい。

「できるできないじゃない――やるだけだ!」

 何より福音が自分の身を犠牲にしてまで束と戦うことを選んだ姿に、迷いは消えた。

(篠ノ之束。お前は俺が止める!!)

 響は鳶葵を両手で握り込み、福音へ……いや、自分の身勝手な都合のために一夏達を危険にさらし福音を操った束へ全力で挑むという不遜の決意をたぎらせる響だった。

 

 

 

 

 響が単身で福音と刃を交える姿を見つめるシャルロット達はただただ呆然としていてた。

 響がたった一人で福音と互角の戦いをして見せていると言うこともだが、意識不明の重体に陥っていたはずの響がここに来たという事の方が衝撃が強かったからだ。

「どうして……どうして響がここにいるの!? 身体は、身体は大丈夫なの!?」

「わからん。しかし、皇のあの動きを見る限り重傷の身体で駆けつけたというようにはみえんが……」

 シャルロットの当然すぎる疑問にラウラも自分でもわからんと言うように空を駆ける二つの閃光を見つめる、今も自分達がいるこの領域が戦場であることさえ忘れているかのように。

「ど、どうなってんだ? 響のやつ腕とか足とか折れてたよな?」

「ああ、確かにそのはずだが……」

「意識を取り戻したのは幸いですけれど……」

「もう……いったい何がどうなってんのよ!?

 一夏達も予想もしていなかった状況に慌て呻くのが精一杯のようだ。

 それも仕方のないことかもしれない、命の危険に瀕していたクラスメイトがまるで幾多の戦場を駆け抜けたような風貌を漂わせながらシャルロットの窮地を救いすかさず自分達と福音を引き離すように戦闘を開始したのだ。

 現に、花月荘でこの光景を見ている千冬達も全く同じ心境なのだから。

「わかんねぇ、わかんねえけど……あいつたった一人で福音と渡り合ってる」

「この目でもても信じられん、皇はあそこまで強くはなかったはずだ……」

「そうですわね……でも」

 一夏、箒、セシリアと響の異常なまでの戦闘能力に戸惑いの眼差しを向ける。

 彼らだけではない、鈴やシャルロット達も同じように響と福音の戦いに眼を奪われていた。

「あの動き、『一騎当千』の高速機動によるものだろうが……三度目の発動でもう完全に使いこなしているようだ」

「それだけじゃないよ、あんな速く動いてるのに近接ブレードを高速で……ううん! 僕の『高速切替(ラピツド・スイツチ)』より全然速い武器の切替で福音の反応を攪乱してる!!」

 今も戦う響自身は『高速切替(ラピツド・スイツチ)』を駆使して戦っている、と考えているが実際は違う。

 二人の戦いを離れてみているシャルロット達の眼に映る響きの武器切替の速度はもはや高速を超えている。

 響が所持している武装が鳶葵一つだけとはいえ、武装の展開には僅かなタイムラグが生まれる。それはシャルロットだけでなく千冬を含めた操縦者全員に言えることだ。

 どれだけ熟練したISのりでも武器の展開時にはコンマ数秒以下の時間は絶対に掛かる。だと言うのに響は少しでも武器の展開を遅らせてしまえば命取りになる接近戦でまるで呼吸するかのように自然に、鳶葵を右手と左手交互に展開していく。

 その動きと太刀筋は一刀の太刀でありながらまるで二刀流の剣士そのもの、そう思わせるほどに響の動きに無駄がないのだ。

 何故、響がそんな神がかった技術をこの高速戦闘のなかで実演できるのか……それはシャルロット達にはわからない。

 それが響と天魔の単一能力の真の力だという事実に。

 

 『一騎当千』はラウラとの戦いで打鉄が天魔へと形態変化した際に生み出された唯一無二の能力、その能力は高速機動における対峙者との実力差を埋めるもの……とほとんどのものが考えていただろう。

 だが、それは『一騎当千』の力の一端でしかない。

 真の能力それは、他ISとのコア・ネットワークを形成することでコアに蓄積された操縦者の操縦技術と経験値をそのまま響に譲渡するものだ。

 単一能力の名の通りたった一人で千の兵に匹敵する技量を持たせる事こそが『一騎当千』の真髄であり、シャルロットの得意技でもある『高速切替(ラピツド・スイツチ)』をより高い技術へと昇華すること可能なのだ。とはいえ、響がやって見せている『高速切替(ラピツド・スイツチ)』は誰もが取得可能な技術である。

 何故なら武器の展開と武器換装はISの操縦を学ぶ上で誰もが必ずやっていることだからだ。

 授業の中でISにのった女子生徒、教員達の武器の展開と換装の回数は膨大なものだ。たった一人の蓄積データを抽出するだけで数百、数千さらに数万と繰り返される何気ない行動の積み重ね、それを専用機だけでなく訓練機全てに蓄積されている今までIS学園で操縦技術を重ねてきた者達全ての展開ログデータとなればもうその回数は億に達する。

 つまり、響がやっている『高速切替』ならぬ『瞬間切替』は数え切れないだけの展開を繰り返し練習してきた結果、何気ない繰り返しの中で身につく反射行動にまで速められた『ただの』武器展開なのである。

 そして、今の響が福音と互角に戦えているのもただ単にこの世界の誰よりも多く訓練を積んだ操縦者という極論の体現を可能にしたからだ。

 考えようによってはもはやあの世界最強のIS乗りである千冬さえ超えたと思えるものの、福音と互角程度の力で止まっているのは単純に戦いと訓練の違いからである。

 天魔が抽出した戦術データはあくまで命をかけることのない安全な環境で養われた技術、この一一刻一刻と変わる戦場では変わることのない言わば危険を冒さずに確実にISを動かせるようになるための基礎的な技術なのだ。

 一の可能性が何通りにも変わる戦場に必要なのはひとえに実戦経験である、だが今回天魔が同調したISに実践経験なるデータは限りなく少ない。

 政府が管理するISや企業が所有するものであったのなら千冬と戦うことが可能になったかもしれない、なによりここに千冬の専用機があったのなら響は間違いなく世界最強にもなれたかもしれない。

 しかし、そこまでうまくいかないのが世の常である。

 現に、ここにあるISでは響にそこまでの成長は見受けられない。むしろ基礎技術の向上だけで最新鋭のそれも実践を前提とした軍用ISと互角に渡り合えているだけで賞賛すべきだろう。

「見ろ! 響達の動きが止まったぞ!?」

 響と天魔の単一能力にそんな力があるとは知らない一夏達はその事実に気づくことなく膠着状態に入った二人の様子に息を呑む。

「僕達も響の所へ……」

「いや、今は戦況が拮抗している。うかつに割り込むのは危険だ」

「だが、いつまでも皇一人で持ちこたえられるとはおもえない」

 戦いに加わろうとしたシャルロットを止めるラウラだったが、彼女の言葉を今度は箒が窘める。

「箒の言う通りだ、このまま黙って見てるわけにはいかないって」

「そうですわね。それに……」

「あいつの専用機『打鉄・天魔』のエネルギーもそろそろやばいわよ。切り札の『一騎当千』だけじゃなくて断空だってもう二発も使っちゃってるんだし……」

「確かに加勢すべきなのは間違いない。しかし……」

 一夏達の判断が正しいとわかっていたもラウラは戦いへの参加に難色を示していた。

 それは『今』の響が自分達とは比べるまでもなく強いからである、それはIS操縦に限ったことだけでない。一度は何者かの手によって死に近づいたにもかかわらずこの命がけの戦場に立つ強靱な精神力を含めて……全てにおいて響はラウラ達よりも上に立っていた。

 だからこそ、自分達が戦況に加わることで響が不利な状況に追い込まれるとしたらそれはようやく見え始めた勝機を逃すことになるのではないか……と。

「……ラウラ」

 傍観か加勢か、自分達の取るべき行動に迷うラウラを心配そうに見つめるシャルロット。一夏達もシャルロットと同じようにラウラの葛藤を理解していたがそれでも答えは決まっていた。

 

『   ――皇響専用機『打鉄・天魔』からのメッセージを一件受信しました――   』

 

 そんな六人を後押しするようにそれぞれのISに響から電子メールが届く。

「これ、響からだよ! 今お互いに動きを止めてる間に送ってきたんだ!」

「俺の所にも来たぜ!」

「私もだ」

「わたくしも」

「あたしもね」

「……このタイミングで私達全員にか」

「きっと何かを伝えたいんだよ!」

 シャルロットは躊躇うことなく響と天魔から送られてきたメッセージを開く。

 その中に書かれていたのは一方的な通達、それも福音を停止させ操縦者を救うための作戦だった。

 一夏達もシャルロットに続くように作戦内容に眼を通し……戸惑いと驚嘆の表情を浮かべる。

「響の奴正気か!? こんな無茶な作戦あるかよ!!」

「確かに私達の状況を考えればこれしかないとはいえ……」

「すくなくともわたくしは反対ですわ」

「無茶どころの話じゃないわよ、これ」

「……これでは皇の安全を考えていないと同じではなか、こんな作戦とても認め――」

「――やろう、今の僕達にはこれしか方法がないもん」

 一夏達が響の提案した作戦に反対の意思を見せる中、シャルロットだけが実行に移そうと意見した。そんな彼女の言動に真っ先に一夏が声を上げた。

「確かに今の響ならできるかもしれない、だからっていくら何でもこんなの無茶苦茶だ! シャルロットだってそれくらいわかるよな!?」

「うん、わかってる……。でも、あの響が僕達を信じてこの作戦を選んだんだよ! なのに、僕達が響を信じてあげなくてどうするのさ!!」

「「「「「!!」」」」」

「僕は響を信じる、だって響はいつだって僕達を助けてくれた。響からしてみれば何気ない事かもしれない、でもいつだって助けて欲しいときに助けてくれたじゃない」

 響を襲った襲撃者の正体も目的もはっきりとしていない、それでも彼がここに来たと言うことは今だけは第三者からの干渉もないと言うこと。今だけは響の安全が確保されていると言うこと、なら今自分達がするべき事は決まっている。

「なら、僕達が響を助けるなら……ううん! 助けられるとしたら、きっとそれは今なんだよ!!」

 どれだけ反対されても揺るがない覚悟を一夏達に示すシャルロット。

 その姿は今の響と同じ、誰かを護るり助けるために自分を……そして仲間を信じると決めた一人のIS操縦者としての姿だった。

 そこにはもはや性別など関係ない。

「……わかった、俺も覚悟を決める」

「私もだ、皇を助けるため避けて通れぬと言うのなら」

「わたくし達も皇さんを信じます」

「まあ、ラウラの猛攻にも耐えたんだから心配する必要もないかもだし」

「それを言うな……ともかく、これしか方法がないなら命をとしてやるだけだ!」

「みんな……」

 シャルロットの言葉に決意を固めた一夏達は互いに視線を交わし頷きあった。そんな仲間の姿にシャルロットは安堵しそして遙か遠方で福音と対峙する響に視線を向ける。

「今行くよ、今度こそ君を助けてみせるから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 三度し切り直した福音との戦い、響は海面すれすれを滑空しながら福音の無慈悲な……いや、暴走している自分を止めてくれると信じ全力を尽くし生み出した抗いの砲口から放たれる俊速の弾丸を躱し続けていた。

 『断空』を鳶葵に纏わせ斬りしのぐこともできたが今は助けを求める福音と、この戦いを見て居るであろう束に一矢報いる為の策を悟らせまいとあえて劣勢な状況へと追い詰められた響。

 だが、それでも響の表情に畏れはない。

(……福音の動きがわかる、次に何をしようとしているのかも全部……俺が考える前にどんどん頭の中で理解していく。……不思議な感覚だな)

 一手でも誤れば命を落とす戦いの中で、まるであの千冬の様に相手を見据え戦うことができている。

 どこまでも冷静に、油断なく、まっすぐに戦うべき相手に臆することなくこの手に握る刃を振るうことができる。

 自分でも不思議でならない。

 ここに来る前、誰かと話をしていたことはうっすらとだが覚えている。だが何を話したのかまでは覚えていない、覚えているのは自分に向けて大切な何かを忘れないでという小さく震えた声だけ。

 次に聞こえてきたのはシャルロットが自分に謝る声だった。

 

 ――ごめん……ごめんね、響。僕……君に何もしてあげられなかったよ

 

 悲哀と無力さに追い詰められた彼女の声を聞いた時、自分がすべきことが明確に頭の中に浮かび上がり、心が叫んだ。

 ……仲間を、彼女を護れと。

(シャルロットを……一夏や篠ノ之達を、大切な仲間を……)

 響は息もつかせぬ攻撃を続ける福音を眼で捉える。

(……『今度こそ』と、そんな感情が溢れてくる)

 仲間を護るのは当然だ、この状況を考えれば当然だ。

 だが、考えてみると『今度こそ』というこの感情はいったいどこから来るのだろうか?

(いや、今は作戦を成功させることだけを考えろ!!)

 それが福音の願いを繋ぎ止め操縦者を救うことになるはずなのだから。

『――――La』

 海面にいくつもの水柱を起こす猛攻を続けてきた福音の攻撃の緩む。

 それは偽りの劣勢の中で唯一あの天才を出し抜くことのできる響にとって最初で最後のチャンスだった。

 激しい水飛沫に視界を阻害されながらも響はその隙を見逃すことなく天魔のスラスターを一気に最大出力まで引き上げる。

(見ているか篠ノ之束……これがお前の目的に対する俺の答えだ!)

 その瞬間、天魔を駆る響は第四世代の加速に勝るとも劣らぬ速度で立ち上る水柱の間をすり抜け福音へと瞬く間に接敵する。それは大空へと放たれた白銀の弾丸、文字通り目にもとまらぬ速力のまま鳶葵を振るう響。

 音も無く放たれる閃光の如き斬撃が福音目掛けて袈裟がけに走った。

『――!?』

 その斬撃は福音のシールドに遮られた、が福音は自分の反応速度を超えた一刀に防御できずその場で停滞してしまった。

「おおぉぉっ!」

 福音が反撃をしてこないとわかると響は『瞬間切替』を駆使して上下左右とめまぐるしく多角軌道の斬撃を繰り出す。

 それは福音の光弾を凌駕する剣閃の雨、鈍く輝く鳶葵の刀身がその軌跡を残し、かつ確実に福音のシールド機能を発動させエネルギーを削り取っていく。幾十、幾百と放たれる斬撃は雨どころか暴風である。

『――『光翼』最大出力による全方位防御姿勢開始、同時に自機前方広範囲射撃開始!!』

 この戦いで福音のエネルギーは底を尽く事はない。

 だが、響が『鳶葵』を振る度にシールドを突破してくる刃に……操縦者に危険が迫ると判断しシールド機能だけでなく光翼による防御形態を取ってしまったのだ。

(仕掛けるなら今しかない!)

 おそらくここが福音を止める為の最初で最後のチャンス……。この機を逃したら次はない。そんな直感が脳裏をよぎった瞬間、響は『鳶葵』のトリガーを握りしめ両手で上段に構える。

「これで、決める!!」

 響は福音が光の翼で全身を包み込んだ瞬間、断空の輝きを宿した蒼の剣を渾身の力を速度で叩き込んだ。

 断空と光翼がぶつかり合った衝撃は下方の海面まで届き、海面を大きく揺らす。

 互いの超高密度のエネルギーの衝突に今までにない火花が散り大気が震える、光翼の出力に押され『鳶葵』を握る響の手がガタガタと震えていた。

 

 ――頼む、一夏! シャルロット!!

 

 今にも手の中から弾き飛ばされてしまいそうになる『鳶葵』を握り込み、光翼ごと福音の動きを止める。

「行くよ、響!!」

「ここから先は!」

「あたし達に!」

「任せろ!!」

『――!?』

 ステルスモードによる序盤の奇襲と同じ強襲を仕掛けるシャルロットとセシリアと鈴、そして箒……現段階でまだ弾幕を張ることが出来たのはこの四人だった。

 ……そう、響もろとも福音への全力射撃を。

「ぐぅっ!」

 降り注ぐ実弾とエネルギー弾、そして不可視の圧縮弾に断空と同じ斬擊を象った放出エネルギー刃……単純に総弾数なら福音の射撃能力を超える。絶え間なく降り注ぐ四人の攻撃に響は歯を食いしばり鍔迫り合い似た状態の中でトリガーを離す。そして間をおかず最後の一撃を込め『鳶葵』を振り切る。

「はああぁぁぁ!!」

『――La!?』

 弾幕によって浮き上がる煙を裂く蒼の刃、その刃の圧力に翼を開くことが出来ない福音は逃げることも出来ず押し出された先で右手を掲げ待ち受けていたラウラが『シュヴァルツェア・レーゲン』の停止結界によって拘束された。

「今だ一夏!」

「わかってる! 今度は逃がさねえぇぇぇ!!」

 瑠璃色の空に日が姿を現した瞬間、その光を背負い一夏は全てのエネルギーを込めた『零落白夜』を掲げ福音へ滑降し勝敗を決する一撃で停止結界ごと福音を切り裂いた。

『――――シールド・エネルギー残量急激に低下……中、千五百、千、五百七……百…………七十……五――――展開状態維持困難、待機モードへ移行します』

 その瞬間、福音のエネルギーは底を尽き光の翼が粒子となって消えていく。福音の全身装甲も消え操縦者であるナターシャが気を失っている状態で宙に浮いていた。

「……福音の停止を確認、操縦者ナターシャ・ファイルスの救出に成功。任務完了だな」

 気を失っている彼女を抱きしめる響の元に一夏達が集う。

 皆が皆疲労してはいたが無事誰一人掛けることなく勝ち残ることが出来た、その事を確認するように響は自分以外の全員に眼を向ける。

「みんな無事か?」

「おう、全員誰も墜ちてないぜ」

「危ういところだったがな」

「ええ、まったく」

 響の問い掛けに一夏、箒、セシリアと順に答えていく。その表情は色濃く疲労が浮かんでいたが戦いの緊張から解放されたからか安堵の笑みが浮かんでいた。

「ほんと暫くこういうのはいいわね」

「そうだな、軍でもこれ程の任務はなかなか無い……貴重な体験ではあるが私も遠慮したいというのが本音だ」

 鈴とラウラも一夏達と同じく疲れた笑みを浮かべる。スタミナなら七人の中でも特に高い二人がここまで疲労している姿を見れば今回の暴走事件がかなり厳しい物だったと言うことがわかる。

「……………」

 それでも柔らかな空気が流れる中でシャルロットだけが無言で響を見つめていた。

「シャルロット? どうした……何処か痛むのか? なら、早く花月荘にもど――」

「身体は? 身体は大丈夫なの……響」

 シャルロットは涙で濡れた瞳を響に向け掠れ声で彼の身体を気遣う、それもそうだろう……響は意識不明の重体に陥り死の際に立っていたはずなのだから。

 響は隣にいた一夏にナターシャを抱えてもらうよう変わりシャルロットへと近づく。

「心配を掛けたみたいだな……俺は大丈夫だ、現にこうしてここにいる。お前の目の前に」

「うん、うん……そうだけど……本当に、死んじゃうかと思った……あのまま……あのまま――」

 掠れた声は涙声に変わり嗚咽に言葉を詰まらせるシャルロットを静かに、そして優しく抱き寄せる響。

「……大丈夫、大丈夫だ。俺は死んでない、何処にも行かない。シャルロット……お前を一人にしたりしないさ」

 自分の腕の中で泣きじゃくるシャルロットの背中に腕を回し優しく撫でる、自分が生きていると言う証明である熱を、命の温もりを伝えるように。

 何よりシャルロットからも感じる確かな温もりを感じた響は戦いで張り詰めていた心が落ち着きを取り戻していくのがわかった。

 響の心に呼応するかのように『一騎当千』によって輝いていた天魔がその白銀の輝きを弱めていく。

「それに約束したじゃない、シャルロットが困った時は『おれ』が助けるからってさ~」

 光が完全に消えた時、響は普段通りの柔和な表情を浮かべ間延びした声でシャルロットへ話しかけていた。

 そこには先程まで研ぎ澄まされた眼光をたたえた偉容な戦士の姿ではなく何処か子供っぽさを抜け出せないいつもの響がいた。

「シャルは笑った方が可愛いんだから、ね?」

「……もう、響はこんな時でも相変わらずなんだから」

「相変わらずって……何が~?」

 目尻から溢れる涙を拭いながら頬を朱く染めるシャルの様子に首を傾げる響。

 無意識で、無自覚で本心を口に出してしまう響とそんな少年の言動に照れるシャルロット。学園で見ることの出来るいつもの二人を見て一夏達も心の底から戦いが終わったことを実感できたのかみな苦笑を浮かべ響とシャルロットを見守っていた。

「でも、どうして響はここに来れたんだ? 身体の事もそうだけど千冬姉が戦うのをゆるしてくれるとは思えないんだけどな」

「そうれは私も気になっていた……本当に身体は大丈夫なのか?」

「うん、身体は大丈夫だよ~。でも……どうしてここにいるのかよくわかんないんだよね~」

「それは……」

「どういう事なのよ?」

 一夏や箒だけでなくセシリアと鈴も首を傾げる。

「えーっと、よく覚えてないんだけど旅館で寝てたら誰かにシャルやみんなが危ないって教えてもらった、ような感じで……起きたら何か妙に頭がすっきりしててみんなを助けるにはどうすればいいか、どう戦えばいいかわかった、様な感じで……」

「要領を得ない説明だな」

「そこが響らしい気もするけどね」

 ラウラは呆れたようなため息を溢す、シャルロットが何とかフォローしてはいる物の緊張感とは無縁な緩みに緩んだ雰囲気が流れる。

「まあ、旅館に帰ろう~。きっと織斑先生も待って――」

『ああ、その通りだな』

 響の声を遮るようにオープン・チャネルで千冬の声が響き立ち全員の耳に入る。

「あ、織斑先生! よくわからないですけど作戦は無事に終わりましたよ~」

『こちらでも回線の回復と同時に福音の停止と操縦者の無事を確認できた、皆ご苦労……よくやったな』

「「「「「「「はい!!」」」」」」」

 千冬からの労いの言葉に響と一夏達は一瞬顔を見合わせたがすぐに褒められたと悟ると満面の笑みを浮かべた。

『作戦終了! ……と、言いたいところだが皇よ』

「はい、何ですか~?」

『お前には今作戦において無断外出と無断出撃、それに福音戦闘海域に向かった際に建造物等損壊罪にあたる行為についての事情宇聴取がある。察しの良いお前のことだ、……ここまで言えばわかるな』

「…………はい」

『よろしい、では皇以外の専用機持ちは福音操縦者を花月荘移送後休養を取れ……以上だ』

 それ以上、千冬からの言葉はなくただ無言がもたらす息を飲むような静寂さが海上に佇む響達の間に流れる。

「…………みんな助けてくれる?」

「「「「「「ごめん、無理」」」」」」

「ですよね~……」

 海面から太陽が顔を出し明るくなり始めた空の下、福音との命懸けの戦いは終わりを告げる。しかし、皇響の孤立無援の戦いは今始まったばかりだった……。

 

 

 




 お久しぶりです! これが今年最後に投稿になります。
 前回の投稿からまた間が開いてしまいましたが何とかギリギリ滑り込むことができました!! これで福音との戦いは一区切りですが次回で福音編をやっと終わることができます。
 その後の構想はまだ練れていない状況なのでまた間が開いてしまうことが否めません。こんなペースでしか投稿できませんがまた読んでいただけたら幸いです<(_ _)>
 ハーメルンに二次投稿してはや一年・・・・・・来年もよろしくお願いします!!
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