IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道   作:エヴァンジル

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第二十五話 皇響は与り知らぬ・その一

 雲一つ無い青空が広がるIS学園、臨海学校を終え夏休みに入った生徒達はおのおの自分達の思うように過ごしていた。

 入学したばかりの一学年生徒はしばらく帰っていなかった実家に帰省する生徒達が殆どで一学年の寮は静まりかえっていた、もちろん一人もいないというわけではない。

 中には家には帰らずISの使用許可が取りやすくなると言うことで学園に残り操縦技術を磨く生徒達も思いの外多く残っている。

 そんな中、世界でたった二人の男性IS操縦者の内の一人である皇響は後者。

 夏休みという操縦技術を磨くにはまたとないチャンスを物にすべく今日も朝から仲の良いクラスメイトと達と模擬戦に勤しんでいた。

 アリーナの中を駆けめぐる白銀と純白のIS、目まぐるしい速度で交差する度に飛び散る火花と激しくぶつかり合う金属音。

「はあああああっ!」

「うおおおおおっ!」

 響と一夏はそれぞれ愛刀と呼ぶべき『鳶葵』と『雪片二型』を振るい、互角の戦いを演じていた。

 一方が刃を振るえば一方がそれを受け、躱し反撃に転じる。隙が生じればすかさず苛烈な刃を振るい両者共にシールド・エネルギーを削っていく。

「くぅっ! こっのおぉぉ!!」

 絶え間なく打ち合う中で響はそんな膠着状態だった流れに痺れを切らし上段から大振りの一撃を放つ。天魔のパワーアシストを受けたその一撃はさほどまずい一手ではない。

 通常時の性能で言えば全ての項目において天魔よりも白式の方が勝っている。しかし、そこに大きな差はなくその一撃を一夏が受け止めれば動きを止め鍔迫り合い持ち込み動かない戦況を一旦仕切り直すことが出来ただろう。

 躱されたとしても間合いを取ることができ、次の策を考えることが出来る。

 だが、一夏はそんな響の考えを読んでいた。それは単純に彼が響よりも闘いという項目において場数を多く踏んでいるのだから当然だ。

 一夏は響の攻撃を雪片で受け止めず、左手に装備されている雪羅の手甲で振り下ろされる鳶葵を持つ響の両手を振り払い僅かに太刀筋を逸らす。

「ここで決めさせて貰うぜ、響!」

 斬撃の軌道を逸らすと同時に一夏は雪片の柄を握り白式とのシンクロ率を一気に上げる。

「零落白夜――」

「っ! 一騎当千――」

 一夏が単一能力の名を口にすると同時に響もすかさず天魔とのシンクロ率を引き上げ、そして体勢を崩されながらも響は右手を引き突きを繰り出そうとしている一夏の動きを捉える。

『発動!!』

 刀身を可変させ蒼いエネルギー刃を出現させ突きを繰り出す一夏、響もその身に白銀の光を纏い繰り出される一撃必殺の切っ先をギリギリのところで後退し鳶葵のトリガーギミックを握り込み横一文字に振り抜く。

「断空!!」

 零落白夜と同じ蒼の刃――剣戟射出機構『断空』を放ち、畳みかけるように残り残弾全てを一夏めがけて放ち続ける。

「雪羅、シールドモード!」

 自分めがけて放たれた四つの斬撃を防ぐべく一夏は左手を突き出し零落白夜の盾で断空を受け止めた。だが、断空を打ち消す度に白式のエネルギーが消耗し活動限界のアラームが鳴り響く。

「くそ、まずい。エネルギーが――ッ!?」

「隙ありだよ!!」

 今度は一夏が見せた決定的な隙。

 響は鳶葵を両手に携え超速で間合いを詰め一夏と白式の背後へと回り込み――

「これでおれの勝ちだよ!!」

「ぐあっ!」

 白式の残り僅かなシールド・エネルギーを削りきる一撃を叩き込む。

 その一撃に白式のエネルギーはそこを尽き、アリーナに二人の模擬戦終了を告げる。

「な、何とか……勝ったぁ~……」

 アラームが鳴り響は天魔を待機状態に戻し額から流れる汗を拭いつつ地面に座り込んむ。

「次は私のワタシの番だぞ。早く準備をしろ、皇」

「もう……勘弁して~、ボーデヴィッヒさんと……闘うの、次で六回目なんだけど~!」

 一夏との模擬戦で疲れ切っている響に声をかけたのは一学年最強のラウラだった。

 と、言うよりもアリーナのフィールド内にいたのは響と一夏……そしてラウラだけでなくいつもの面々である、箒にセシリア、鈴にシャルロット達が勢揃いしていた。

「それに一夏やシャル達だってそうだよ! さっきから何でずっと六人で交代しながらおれと闘ってるの? おれは三十五連戦なんだよ、あと一回で三十六戦目だよ!?」

「あと一回で六の倍数になる、丁度良いだろう」

「何が丁度良いのかなボーデヴィッヒさん!! 苛め? これ苛めだよね!? そうだよね!!」

 四つん這いになり項垂れながら地面をぽかぽかと叩く響。声は必死に異議を唱えすぎて涙声、そのせいか項垂れて見えない表情が簡単に想像できる。

 それはシャルロット達も同じようで互いに顔を見合わせ苦笑と戸惑いを見せた。

「ご、誤解だよ響」

「そう言われると、そうかもなんだけど……なあ?」

「ああ、皇には悪いとは思うのだが……」

「言いがかり、と反論したいのも事実ですわ」

「そうよね、これだけ闘ってもなんだか……手を抜かれてる気がするのよね」

「あの時のお前はこんな物ではなかったぞ?」

 シャルロット達はそれぞれが臨海学校での福音戦の事を思い出す。

 福音との闘いは響を除いた六人が全力を尽くし、暴走状態とはいえ福音と息も詰まる攻防を繰り広げた。その最中、シャルロットの窮地に響が駆けつけ彼等の闘いを引き継ぐかのように割っては入り、たった一人で福音と互角の戦いをして見せたのだ。

 今までに例を見ない訓練機から専用機へ変化した響の専用IS『打鉄・天魔』その性能は第三世代機に劣らぬ物だがあの場には篠ノ之束が作った第四世代機も揃っている状況。

 シャルロットだけは第二世代機のカスタム機ではあったがIS適正の高さと培われた技術で世代差を埋める、それだけの機体と操縦者達がいたというのに響はそんな彼等の想像を超えた戦闘能力をシャルロット達に焼き付けていた。

 そして現在、響とシャルロット達の総合成績は……

 

 一夏 一勝五敗

 箒  0勝六敗

 セシリア 0勝六敗

 鈴  0勝六敗

 シャルロット 0勝六敗

 ラウラ 0勝五敗

 

 一勝三十四敗……と、不憫に思える程に響が負け越している散々たる結果である。

「だから言ってるじゃない、あの時はおれもよく分からないうちに闘ってたからまぐれみたいな物だって~……」

 響は涙を拭いつつも苦い表情を浮かべながらゆっくりと立ち上がり、未だに自分の説明に納得してくれないシャルロット達にため息を吐いた。

「今じゃ殆どどう闘ったかさえ思い出せないんだよ~? そのくらい夢中で動いてたから福音がおれのでたらめな動きを読めなくて困っただけなんじゃないかな~」

「確かにそれの可能性は無くはないだろうが……」

 響の言い分も間違いではないだろう、何者かの襲撃によって命の危険がある状態まで追い込まれ目が覚めたと同時に戦場へ赴いたのだ。誰しもが常軌を逸脱した流れであることを理解できる。

 しかし、それでもラウラやシャルロット達は納得がいっていない視線を交わらせる。

 その原因はこれまでの対戦成績による物だった。

 総合的な勝率は無惨にも一勝だけ、むしろ全敗の方が気持ちが良いくらいだろう。だが、響以外の全員が注目しているのはそこではなかった。

「お願いだからもう今日は終わろう、さすがに朝からずっとは辛いよ~」

 ……そう、響はただの一度も休むことなく戦い続けた。それも一度も決定的なダメージを受けることなく。

「「「「「「………………」」」」」」

 負け越している時点でそれだけ攻撃を受けていることに代わりはない。これは模擬戦でありシールド・エネルギーが底をついた時点で勝敗が決まる。

 しかし、響は一試合ごとに対戦時間を延ばしシールド・エネルギーを大幅に削る攻撃を見極め最小限のダメージの積み重ねで負けているのだ。その分、一夏達は休む時間が増えるが響はシールド・エネルギーを充填する僅かな時間しか気を抜けていない。

 福音戦と比べれば確かに体捌きや武器の使い方、操縦練度は拙い物だろう。それでも闘う事に響の操縦技術は少しずつだが確実にその練度をあげていった。

 それを見ていた六人からしてみれば響があえて自分達の力に合わせて闘っているのではないかと錯覚してしまうのも無理はないのかもしれない。

「おれ、もう戻るからね~……後片付け頼んだよ~」

 そんな一夏達の心情を知るよしもない響は一夏達にアリーナの後始末を頼み、疲れ切った表情でピットへと向かっていった。

「……ちょっとやり過ぎたか」

「ああ、皇には済まないことをしてしまったな」

 一夏と箒は落ち込んで帰って行く響の後ろ姿に申し訳なさそうに表情を曇らせる。

「仕方ないじゃない、織斑先生に頼まれたんだから」

「そうですわ、どんな内容であれお願いされては断るわけにはいきませんもの」

「鈴とセシリアの言うとおりだ、教官の命令は絶対だからな」

 鈴とセシリア、そしてラウラは特に気にする様子もなくISを待機状態に戻す。シャルロットや一夏達もそれに続く。

「でも、織斑先生から聞いたとおり……響は凄いスピードで強くなってるよ。今だって僕達に負けはしたけど、った数ヶ月で僕達と良い勝負が出来るくらいだもん」

 シャルロットもリヴァイブを待機状態に戻し一息つきながらも、千冬から調べるよう頼まれた現時点における響の能力状態に脱帽の言葉を漏らす。

「福音と闘った時みたいに『高速切替』は出来ないみたいだけど、接近戦の能力と判断の速さは学年別トーナメントの頃に比べて確実に成長してるよ」

「そうだな、私と闘っていてもワイヤーブレードを的確に捌きAICの発動を警戒できるまでの余裕まであった。あれから一ヶ月程度でここまで力をつけるのは異常だ」

「ってことはやっぱり、響の奴は」

「ええ、織斑先生の言う通り『一騎当千』の持続効果……というより後遺症といった方が良いのかもしれませんわ」

「闘った感じそこまで酷いものじゃないみたいだけどね……でも、これってよくよく考えれば結構まずいわよ」

「……うん」

 鈴の発言にシャルロットは悲痛な表情を浮かべ、一夏達も黙り込んでしまう。

 響の著しい成長、本来それは喜ぶべき事である。

 しかし、その成長速度と単一能力の効果に問題があった。現在ISコアの総数は四百六十七個……優秀なパイロット育成するための機関であるIS学園には三十を超えるISが配備されている。それ故に優秀な人材とISコアはどの国も喉から手が出る程に必要としているのが現状だ。

 そんな状況でたった一つのコアが特定のコアと同期し最適な戦闘プログラムを作成、同時に操縦者に経験値といえる戦闘データを一定の時間または期間内に学習させ成長させる。そんな類い希ない効率化機能を持ってしまったISとその恩恵を受けたった数ヶ月で素人から代表候補生に匹敵するまでに成長した操縦者。

 各国の戦力バランスを著しく崩しかねない存在であり、同時に研究対象としても魅力的すぎる響は格好の標的である。

 もっとも一騎当千の特殊効果については千冬と学園長である十蔵が厳重に情報操作を施し、今まで通り常時瞬時加速による高速戦闘のままにしていた。

 それでも、福音戦に携わっていた者達はその事実を知ってしまっている。その為、職員にも裏工作を生業とする更識家の監視がつけられることになった。

 もちろんプライベートに関してはそれなりに配慮はしてあるが、生徒であり各国の代表候補生でもあるシャルロット達には千冬が直接口答で厳重に口止めするだけに留まった。彼女達ならば響の情報をおいそれと口にすることもましてや自国に漏らすことはない、と千冬から信頼を込めての色合いが強い。

 故に、現時点でシャルロット達は響と闘うことで天魔の単一能力による効果持続がどれだけのモノなのかを響本人には内緒で確認していた。

「響自身は単一能力の効果を自覚してないみたいだし……使っている間は記憶に残らないって事なのかな?」

「違うんじゃないか? さっきだって俺達と闘って『一騎当千』を使っても何かを忘れたって感じはしなかったぞ」

「一夏の言う通りだな」

「教官の話では皇の記憶に影響を示したのは『一騎当千』のシンクロ率の上限を超えた時と言っていた。普段の発動ではその傾向はみうけられない……つまり単一能力を発動させるだけではそう簡単に特殊効果発動の域までは持って行けない、と考えるべきだ」

 全三十五戦の中でも響の実力が一気に跳ね上がることも他機ISともコアネットワークを介して戦闘データを収集する動きはなかった。

 その上、一夏を上回る実力を知らず知らず身につけ始めているとはいえ『零落白夜』のエネルギー無効攻撃によって攻めきれず六戦中にやっと一勝を勝ち取る事がやっと。その不安定さが今だけは好都合だった。

「とはいえ、何もしないわけにはいかないからこうしてあたし達が闘ってるわけだけど……なんか複雑よね」

「そうですわね、皇さんは闘うごとに力をつけていますわ。そうすることで一人でも自分の身を護れるようになるのは良いことですけど」

 発現してしまった『一騎当千』はもう無かったことにすることは出来ない。本来の能力が発動していなくてもその微かに持続している経験値の増大効果は無視できない。ならばいっそのこと有意義に活用するほかないだろう。

 少しでも多くの戦いを経験させることで、少しでも響自身の成長を促すことでいずれは『一騎当千』を使わなくても戦えるようにしなくてはならないのだから。それが自分達の……いや、千冬が出した響を護るための打開策なのだ。

「はあぁ……響の奴どんどん強くなってくな」

「仕方ないだろう、それが皇と天魔の力だというならな」

「わかってはいるんだけどな……やっぱり悔しいじゃないか」

「……まあ、普通はそうよね」

「近いうちに追い越される事を知っているのは嬉しいようで嬉しくないものですわ」

 自分達が積み重ねてきた努力とそれによって培われた力が決して響に劣っているわけではない。しかし、その努力に費やしてきた時間をより短くして成長できる響を見ていると自分達の強くなろうとする思いが彼よりも弱いのではないかと思えてしまい一夏達は小さくため息を吐いた。

「……愚痴ってても仕方ない。また模擬戦しようぜ、いくら成長速度が違うっていっても俺達だって闘う度に強くなれるのは同じなんだ。なら響の倍やってやろうぜ!!」

「そうだな、皇が強くなるなら私達も強くなれば良いだけのことだ」

「ええ、わたくしとブルー・ティアーズだって負けてられませんわ」

「あたしもそう簡単に負けてる気なんてないわよ」

「……みんなやる気になるのは良いけど、今度はちゃんと休みを取りながらやろうね」

 暗い雰囲気になりかけた場の空気に渇を入れるように自分を奮い立たせる一夏達、その姿をみてシャルロットは被害者とも言える響の疲れ切った表情を思い出す。

「響が一番闘うことになるだろうから、次はちゃんとペース配分とを考えようよ」

「ああ、わかってるって。よし! それじゃ特訓を再開な、響が抜けたから次は俺と――」

「いや、一旦休憩にしよう。そろそろアリーナの使用時間が終わる」

「もうそんな時間なのか?」

「ああ、皇が行っていたように長い間続けていたようだ」

 ラウラはやる気に満ちた一夏の進言を止め、ディスプレイに映る時間を見た。

 時刻はすでに十一時を越えている、此処で訓練を止め昼食を取って午後に再開。休憩を取るには丁度良い。

「各自休憩の後にまた此処に集合で良いだろう、使用時間延長の許可は私が教官から許しを得てこよう」

「悪いなラウラ。それじゃ、俺達も一回休憩にしようぜ」

「そうだな、あまり根を詰めてもよくない」

「では、私は一度部屋に戻って私用を済ませてきますわ」

「あたしも課題で少し調べたい事があるし」

 一夏達はそれぞれ休みを取るべくピットへと向かう。

「シャルロットはどうする? 何か予定があるのなら済ませたらどうだ」

「予定っていうか……響に可哀想なことしちゃったから、お詫びにご飯でも作ってあげようかなって」

 立て続けに自分達と戦い疲れ切った響の背中を思い出すシャルロット。

 朝から響の予定もろくに聞かず半ば強引に起こし自分達の特訓に付き合わせてしまった。いくら響が優しいと言っても、その優しさにつけ込んでしまったような……そんな罪悪感がある。

「皇の食事を作るのは良い案だと思うが……その、総量はかなりの物だぞ? 一人だけでは」

「響はゆっくりしたかったかもしれないのにそれを無理矢理連れて来ちゃったしね、これくらいなんて事無いよ。それに……僕が作ってくれた物を美味しいって言ってくれたら、嬉しいし……」

 臨海学校では様々な出来事が起きたが、その中でもシャルロットにとって一番の収穫は響の自分へ対する無自覚の恋心だろう。響本人は全く気づいていないようだが、千冬と一夏との恋バナトークでそれは周知の事実となった。

 それを知ったシャルロットとしては、嬉しさや恥ずかしさが毎日のように胸の中で小躍りしおり少しでも響との距離を縮め友達以上恋人未満(今の響にしてみれば仲の良い女の子の友達)な関係を少しでも発展させたいと静かに燃えているのだ。

「そうか、ならば教官への報告が終わったらすぐにでも手伝おう。調理に関しては殆ど戦力には慣れないが雑用くらいなら私にもできるだろからな」

「ありがとうラウラ」

「なに、お前と私の中だ。これくらい礼を言われる事でもない。では、私は教官の所へ行ってくる」

「うん、響と天魔の報告お願いね」

「それじゃ、俺達も休憩にしよう。特訓は用事が済んで集まった奴らから始めるって事で良いか?」

「ああ」

「それでかまいませんわ」

「おっけー、んじゃ解散ね」

 一夏や箒達もラウラの後を追うようにピットへ戻る。シャルロットもその後に続くが、彼等の後ろで特訓以上のやる気に満ちているのか小さな手を握りしめ拳を作る。

(よーし! 響が好きなもの沢山作ってまずは仲直りしなくちゃ、やるぞー!!)

 

 

 

 

「――以上が、模擬戦で得られた皇と天魔の戦闘データと、私を含めた専用機持ちの意見です」

「そうか、やはり後遺症にも似た症状が出ているようだな」

 IS学園の職員室で、ラウラは千冬と共にアリーナでの状況を事細かに彼女へ報告していた。夏休みと言う事もあってか他の職員の姿は無く回りを気にすることなく話を続ける二人。

「今のところは皇に自覚症状が無い事が救いだが……あいつの事だ、近いうちに気づくかもしれん。お前達も出来る限りISの訓練を怠るな、お前達との実力差が縮まればその分気づくのが早まる」

「はい、教官!」

「教官ではない、先生と呼べと何時も言っているだろう」

 千冬は目頭を押さえ深いため息を吐く。

 夏休みに入っても響と天魔に関する情報統制に動き回っているのだろう、その表情を見ただけでも気苦労が絶えない事が分かる。

「それで、他に何か気づいた事はあるか? 何でも良い、少しでも違和感があるような事でもかまわん」

「……一つだけ、気がかりな事が」

「言ってみろ」

「はい、おそらくこの事に関しては教官もお気づきになっているかもしれません。皇と天魔の『一騎当千』に関してです」

 ラウラは一度、職員室の中を見回し自分達以外に誰もいない事を確認する。

「あれは……タッグトーナメントで私が暴走状態に陥ったVTシステムと近い、いえ、同じ性質の物なのではないかと」

「お前もそう思ったか。まあ、類似点がある。教師陣の中でもその事息づいている先生方もいるからな」

「やはり、そうでしたか」

 天魔の単一能力『一騎当千』、ドイツがラウラには内密に『シュヴァルツェア・レーゲン』に搭載していた『VTシステム』……。

 この二つにはいくつかの類似点があった。

 搭乗者の強い意志、つまり高いシンクロ率の元に発動する事。

 搭乗者に、特定の人物の技術を再現させるシステムプログラムである事。

 そして、発動時にはその際の記憶が曖昧又は覚えていない副作用がある事。

 暴走状態もその一例ではあるが、束との戦いを知るよしもないラウラはその事に気づいていない。

 それでも、これだけ近い性質を持っていれば同質のシステムプログラムである事を疑わざる追えない。

「まさか、ドイツ本国が皇のISに何か細工を施していたのでしょうか?」

「それはない、皇のISは学園が所有する訓練機の内の一体だ。軍が工作員をここに送り込むにはリスクが高すぎる。しかも、操縦者としての素質を確認されてからはIS委員会の監視が常についていた」

 もう一つ理由を付け加えるとしたら、天魔の進化はVTシステムが発動する前に起きた。つまり、天魔自身が進化するための条件の中にVTシステムの影響を受けたものではない。何より、あの試合の後ドイツの研究所の一つが何者かの手によって壊滅させ羅れている。もちろん『VTシステム』に関わった研究所、それも人的被害を一切出さずに……それを出来るのは一人しか思い浮かばない。

「であれば、何故これほどまでに類似点があるのでしょうか」

 千冬は小さくため息を溢し、葛藤を胸の奥にしまい込みラウラの問いに答えた。

「わからん。そもそも単一能力は一夏と白式を除いて唯一無二に近い発現能力だ、考えられるとすればお前との実力差を埋めるために天魔が導き出した最適な力……とだけしかいえん。それに」

「調べようにも、皇の安全を考えると難しいと言う事ですね」

「そうだ、まったく手が掛かる生徒だよ」

 千冬はやれやれと頭をふり、ラウラも苦笑を溢す。

「で、皇はどうしている?」

「特訓終了後、部屋に戻っているはずです。何か用事でも?」

「ああ、あいつに会いに来ている方々がいてな。山田先生が案内役で側に居る。今頃は調理室で腕を振るっているはずだ」

「皇に会いに? 調理室で料理? それはいったいどのような用件なのですか?」

「何だ、これだけ言って分からないのか?」

「はい」

 顎に手を当て響に会いに来た人物達が誰なのか予想できないで居るラウラを見て千冬は面白そうに笑いを溢す。

「なら、答え合わせだ。この夏休み期間中、皇は臨海学校のこともあってその問題が解決するまではずっとIS学園にいてもらうことになっている。そんな皇に会いに来た。調理室で料理をしている、という事は皇が大食らいであることを知っている。……どうだ、もうそろそろ思いつくんじゃないか?」

 千冬はもったいぶるような素振りでラウラに教えた面々の特徴を繰り返す。

 それはラウラがその人物達が誰なのかに気付き、どんな表情をするのかを手ぐすねを引いて待っているようにも見えた。

「臨海学校での事件、夏休み、皇が大食漢である事をしり、調理室で料理を…………――っ!!」

 千冬の誘導にラウラは眼を見開き息を飲んだ。

「まさか、今この学園に来ているのですか!?」

「ああ、そのまさかだ。皇に関しては福音戦でのこともある……そう驚くようなことでもない」

 ようやく答えに気づいたラウラに、千冬は小さく笑みを溢す。

 

 

「血縁関係が無くてもやはり家族だ、屈託無く笑う姿は親子だと感じさせられたよ」

 

 

たった一度、響を引き取った夫妻の笑う顔を見た瞬間、千冬は二人に響と同じモノを感じた。包み込むような暖かさと柔らかさを感じさせる微笑み、それは間違いなく響の両親であることの証明だった。

 

 

 

 

 

 




 遅れに遅れて申し訳ないです(-_-)
 お仕事関係でいろいろあってほとんど手つかずでしたが、何とか一段落したのでまた投稿を再開したいとおもいます!!
 今回のお話から終わるのが何話までになるかわかりませんが(そんなに長くならないとは思います)、家の響君以外の人達のお話を投稿します。
 もちろんヒロインであるシャルロットさんにはしっかりと出ていたく流れですので、ご安心くださいw
 今回はキャラクターさんの視点がころころ変わるのでいくらかまとめて更新する予定ですので、またいつものように気長に待っていただければ幸いです。
・・・・・・そう言えばISの最新刊まだ買ってないな~、なんて小言を漏らしてみます。
ではではw、

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