IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道   作:エヴァンジル

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第三話 転入生はセカンド幼なじみ

 夜。訓練施設から響と一夏それに箒といういつもの面々が出てきた。

「今日は一夏のクラス代表就任パーティーもあるし訓練は終わりにしようよ~、せっかく準備してくれてるのにこれ以上疲れて眠いですってわけにもいかないし」

「俺、は全然……つかれて……ないぞ」

「私……もだ」

「それだけ言えれば充分だね~」

 響は苦笑を溢しながら疲れ切った一夏達に眼を向ける。

「なあ、響……」

「なに~?」

「お前は何で疲れてないんだ?」

「何でって……二人が意地を張って加減しなかったからだよね、どっちが多く出来るかとか長く走れるかとか」

「「………………」」

 一夏と箒は疲れ切った表情を浮かべながらも響から視線をはずした。

「おれは休憩しながらだったし量も大したことないからそれほどでもないけど……」

 ちなみにトレーニングの内容はランニングマシンで十キロ、腕立て、腹筋、背筋にスクワットなどなど各百回……筋トレの途中で二人に付き合う事をやめ休憩に入ったのだが正しい判断だった。

「いざというとき疲れてましたじゃ……あんまりじゃないかな~?」

「そうはいっても……な」

「二人はもう少し加減を知るべきだよ~」

 なぜ二人がこんな事になってしまったかと言えば千冬がいらない事をクラスの全員に喋ってしまったからだ。

 IS適正がEランクでありながら専用機を持ち、その上千冬のお墨付きとまで言われてはしまっては普段からどのような訓練をしているのか……それに興味を持ってしまった一夏と箒が真っ先に自分に声をかけてきたのだ。

 何も厳しいトレーニングをしているわけではない、あくまでISを動かす上で必要な体力を付けるだけの量。元もとそれだけで良いのだがふとした事で口論をした二人が互いに自分の意見を譲らなかった結果、こうなったと言うだけの話なのだ。

「とりあえず、食堂で。ご飯食べたらそのままパーティーだよね~?」

「ああ」

「気乗りはしないがな」

「おう、俺もだ……箒」

 ほぼ同時にため息を吐く二人、ここまで息が合っているともう結婚でも何でもしてしまえと思ってしまう響だった。

「じゃあ、おれは織斑先生に訓練終わったって伝えてくるから~」

「ああ、また後でな」

 響は一夏達と別れ職員棟に向かう。

 その途中、IS学園正門の方から小柄な身体に不釣り合いなボストンバックをもった少女が一枚の紙を手に歩いてきていた。

「本校者一階総合事務受付……って、だからそれどこにあるのよ!」

 まだ暖かな四月の夜風になびく紙は、左右それぞれ高い位置で結んでいる。肩にかかるかかからないかくらいの髪は、金色の留め金がよく似合う艶やかな黒色だった。

(……ここの生徒じゃない?)

 響は地図が書かれている紙片をにらみつけ文句を言いながらも歩く少女の存在を疑問に思いながらも声をかける事にした。

「あの~、君はここの生徒じゃないよね?」

「へっ?」

 紙片に隠れていた顔を上げる少女。その表情は日本人に似ているがよく見ると違っていた、鋭角でありながらどこか艶やかさを感じさせる瞳は中国人のそれだった。

「荷物を持ってるところを見ると……転校生かなにか~?」

「あんた……男?」

「そりゃそうだよ、どこからどう見ても男に見えるでしょ~?」

 響は来ている制服を見せる、幼い見た目と小柄な体つきとは言え目の前の少女よりは身長もあるので年下扱いはされたくない。

「ってことは、あんたが一夏以外の男の操縦者ってわけね」

「君、一夏の知り合いなの~?」

「まあね、幼なじみってやつ」

「そっか……というか、おれの質問には答えてくれないんだね~」

「ああ、そうだったわね! あたしは凰鈴音、今日からここの生徒よ。あんたは?」

「おれは皇響、一夏と同じ例外の一人だよ~」

「よろしくね、とこでさ……」

 少し気まずそうに笑みを浮かべる鈴。響は声をかける前に鈴がもらしていた言葉を聞いていたので何を言いたいのかわかっていた。

「うん、総合事務受付だよね? 案内するよ~」

「ありがと、助かるわ」

「いやいや……よっと」

 響は鈴が持っていたボストンバックを手に持つ。

「なにしてんのよ」

「ここからならすぐに着くけど案内ついでにそこまで運ぶよ~」

「いいの?」

「トレーニングを休み休みでしたから物足りなかったんだ~」

「そこまで言うなら持っててもらうわよ」

「りょーかい!」

 響はボストンバックの重さをものともしないと言うように柔和な笑みを浮かべ鈴を受付まで案内するのだった。

 総合受付のある本校舎はアリーナのすぐ後ろにあるためさほど時間もかからず辿り着く事ができた。

「ええと、それじゃ手続きは以上です。IS学園にようこそ、凰鈴音さん」

 手続きも無事終わったようで響はボストンバックを鈴に手渡す。

「あとは係の人に聞けば大丈夫だから~」

「案内してくれてありがと、迷ったと思って本当に焦ってたから」

「仕方ないんじゃない? ここ似たような建物ばっかりだし、広いし」

「確かに」

「まあ、寮もこの近くだからもう大丈夫。じゃね~凰さん」

 響は千冬が待つ職員室へと向かう、少しばかり遅くなったが事情を話せば出席簿で叩かれる事はないだろうと考えつつも足早に走り去った。

「ふふ、なんか男っていうより男の子って感じね」

 昔、鈴は『男っていうだけで偉そうにしている子供』が大嫌いな子供だった。しかし今であった響からはその様子は見えなかった。

(なんか、アイツに似てたわね)

 思い出したのは幼なじみである一夏の事だった、今の響はまるで小さい頃の一夏に似ていた。人懐っこい笑みを浮かべ困っている人がいたら助ける……そんな一夏に重なって見えてしまった。

(あの外見でもあたしより年下って事はないんだろうけど……なんか『弟』って感じね)

 一夏と並んでいたら本当に兄弟に見える気がする、顔は似てなくて当然だがそこは年が離れた兄弟で辻妻があいそうだ。

「そう言えば、アイツ何組なのかしら?」

 まだ受付の前にいたため受付の係員が声をかけてくる。

「皇君は一組ね、もう一人の男の子も一組だけど……凰さんは二組だからお隣ね」

(そっか……響や一夏とは闘う事になるのね)

 響の首元にあったチョーカーを思い出す、制服の襟に隠れて見えにくかったが間違いなく専用機持ちであると確信していた。

(専用機持ちなら相手にとって不足はないわよね、楽しみだわ)

 鈴は係員の女性に礼をいって寮へと足を向ける。

「ま、先に一夏を見つけないとね」

 その顔には恋に恋する乙女の笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

「といいうわけで、織斑君クラス代表おめでとう!」

「おめでと~!」

 今は夕食後の自由時間、クラス全員が集まり一夏のクラス代表に就任したお祝いパーティーを開いていた。

 主賓である一夏は女子達に囲まれ何とも言えない表情を浮かべていた、喜んでいると言うより困っているという方向で……。

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるね」

「ほんとほんと」

「ラッキーだったよね、同じクラスになれて」

「ほんとほんと」

「………………」

 響は一夏を囲んで話をしている女子の顔ぶれに言葉を失っていた。

(……クラス以外の女子も混ざってる……?)

 自分を含めクラスの人数は二十九名、なのにこの食堂内にいる人数はそれよりも多い。

 何故だと思いつつも響はテーブルに視線を戻す。

(まあ、いいか~。それよりごはんごはん♪)

 夕食は食べたもののパーティーを開くという事で食堂のおばちゃんが特別に料理も作ってくれるとの事だった。少し物足りない感じだったので一夏の就任パーティーはそっちのけで別の席に陣取り食事をしていた響だった。

 周りからも食事中だということがわかっているのか響の周りには誰もおらず食事の邪魔をする者はいなかった。

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューしに来ました!」

 その言葉に盛り上がる女子一同。

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はい、これ名刺」

 席が離れているため一夏に渡している名刺は見えない、しかし名前を聞く限り画数が多そうだ……と、ラーメンの麺をすする響。

「ではでは、ずばり織斑君! クラス代表になった感想をどうぞ!」

 ボイスレコーダーを一夏にむける薫子。

(本格的、さすが国立~。取材道具も一通り用意してるんだな~)

 そんな事を思いながらラーメンのスープを飲み干し違う種類のラーメンに箸を付ける。

「まあ、何というか、がんばります」

「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触ると火傷するぜ、とか」

(……一夏も大変だ、えらく前時代的なコメントを求められて~)

「自分、不器用ですから」

「うわ、前時代的!」

(先輩も充分、前時代的ですよ~)

 内心つっこみを入れつつ丼物に手を出す響、ちなみにみんな大好きカツ丼である。

「じゃあまあ、適当にねつ造しておくからいいとして……もう一人の子は? 小学――中学生くらいに見えるって評判の皇君」

 薫子の切り返しに眉間に皺を寄せる響。

「ああ、響なら隣ですよ」

「隣って……食器の山しかないけど?」

 薫子の目の前にあるのはテーブルの上いっぱいに皿やラーメンが入っているお椀がこれでもかというくらい乗っている光景が広がっていた。もう少しで天井に届くんじゃないかと思えるほどに積み上がっている。

「ですからこの向こうですよ」

「こらこら、先輩をからかうんじゃないの~」

「からかってませんて、おーい、響!」

 一夏は食器の向こうで食事を続ける響に声をかける。

「ふんぅん~?」

 口の中にご飯を詰め込んでいるため喋る事ができなかったが自分がちゃんといる事はわかっただろう。

「……これ、もしかして……?」

「もしかしなくても、全部響の胃袋の中に入ってますよ」

 一夏の言葉に唖然とする薫子、同じ学年には響が大食漢である事は知れ渡っているのだが学年が違うとさすがに広がりにくいようだ。

 入学初日にこれを見た一夏や箒も言葉を失っていた。

「先輩がインタビューしたいんだってよ、大丈夫か?」

「ふぁいじょうふー」

 まだ飲み込めていないがとりあえず返事を返す響。薫子は積み上げられた食器を見上げながらも響の座るテーブルに移動する。

「食事中にごめんね」

 やや引きつった笑みを浮かべる薫子。

「気にしないでください~」

 響は水を一口含み箸を置いた。

「おれに聞きたい事って何ですか~?」

「えーっと……いろいろあったんだけど、お腹……大丈夫?」

「大丈夫です、腹八分目くらいなんで~」

「………………」

「でも今日は一夏の就任パーティーなんでお腹いっぱい食べますけど~」

 またもや絶句する薫子に笑みを浮かべる響、その笑みに苦しさは感じられない。

「い、インタビューなんだけど……一夏君の代表就任については?」

「嬉しいですよ~、めんど――大変な仕事もちゃんとこなしてくれると思うし織斑先生の弟だからなのかISの操縦も実戦の度に成長してますし頼もしい限りです」

 若干、本音が漏れそうになったがすぐに別の言葉でまくし立てる。

「響君としては今後はどう学園生活を送っていきたいのかな?」

「そうですね~……とりあえず、麺類は完食したし丼物もあと少しで食べ終わるけど今日は学食を全メニュー制覇しようと思ってます」

「そ……そう」

「次は肉料理と定食系を攻めようかと、朝は時間がないし昼は人も多いんで今はしっかり食べたいと思います。……一夏みたいに大きくなりたいんで~」

 何とも切実な一言にその場にいた全員が苦笑した、それと同時に女子達には思うところがあった。

 

 ――あの小さな身体のどこにあの量のご飯がはいるのか、そして何故太らないのかと。

 

 

 その後、口元を押さえた薫子は響のインタビューを切り上げ一夏達のテーブルに戻る姿を見送りながら親子丼に手を出す響。途中、専用機持ちだけで写真を撮る事になったがその写真に写った響の手にはどんぶりからはみ出るほどの魚の切り身がのっていた海鮮丼が握られていたのだった。

 

 

 

 

 ……余談だがパーティーは十時頃まで続けられたが、パーティーが終わるまで響はずっと食べ続けていたらしい……

 

 

 

 

「大丈夫~? 一夏、篠ノ之さん」

 朝。自分の席に座り隣にいる一夏達に声をかける。

「……全身筋肉痛だ、動きたくない」

「私も、同意見だ」

 一夏は普段から身体を鍛えていなかった為、重度の筋肉痛なり箒は日々の鍛錬のお陰で一夏ほど悪化はしなかったが動きにぎこちなさが感じられた。

「それなら筋肉痛が治まるでトレーニングは休みだよ~」

「何でだよ?」

「今は壊れた筋肉が組織を治してる最中なんだ、痛みが治まる頃にはちゃんと受けた負荷に対応できる身体になる、それを無理して続けたら逆に身体をこわす事になるのだよ~」

「皇は痛まないのか?」

 筋肉痛に苦しむ二人に比べ響の様子は普段と変わらなかった。

「痛いけど二人と比べたら……ね?」

「「………………」」

 自分達の負けず嫌いな癖が招いた過酷すぎる準備運動を思い出したのか一夏と箒は言葉を失った、響もその光景を思い出しているのか苦笑を浮かべる。

「まあ、その話はおいておく事にして……一夏、転入生の噂は聞いているか?」

「転入生?」

 一夏は首を横に振る。

「皇はどうだ?」

「直接会ったよ~、なんか迷子になってたみたいだから」

「転入生に会ったのか!」

 箒の声にクラスの女子達が響達を囲むように一斉に集まる。

「ねえねえ~、どんな子だったの~? おしえて、ひっきー」

 そんな女子の中でおっとりとした少女が響のあだ名を呼びながら質問してくる。

 少女の名は布仏本音、そのおっとりとし声に響以上に眠そうでどこか癒しを感じさせる事からクラス全員から「のほほんさん」の愛称で親しまれている人物だった。

「そうは言ってものほほんさん。名前くらいしか聞いてないんだよ~」

「名前聞いたのー? どんなー」

「えっと……確かファ――」

 響が転校生の名前を教えようとしたとき教室の扉が開かれ元気の良さが感じられる声が響き渡る。

「凰鈴音よ、中国の代表候補生で二組の対抗代表」

「そうそう、あの子~」

 響は余計な手間が省けたとホッとした表情を浮かべ教室の入り口にいる鈴を指さす。

「あたしが来るまでは専用機持ちは一組と四組しかいなかったけど二組も専用機持ちが居るってこと覚えておいてよね」

 鈴は腕を組み片膝を立てて扉にもたれ掛かっていた。

「鈴……? お前、鈴か?」

 そんな中、一夏はおどろいたような表情を浮かべ鈴の名前を呼んでいた。

「そうよ、今日は宣戦布告に来たってわけ」

 ふっと小さく笑みをこぼす鈴。トレードマークといえるツインテールが左右に軽く揺れる。

「何かっこつけてるんだ? すげぇ似合わないぞ」

「んなっ……!? なんてこというのよ、アンタは!」

「一夏の言うとおりだよ、迷子さ~ん」

「ああ! アンタも一緒に――」

「言いたいことはわかるけど、気をつけて~」

「なにをよ!」

 バシンッ! 響の言葉を聞き返した鈴の頭に出席簿による強烈な一撃が見舞われた。

(――いつも思うけど、痛そ~)

 例の如く洗われたのは鬼教官こと鬼教師、織斑千冬だった。

「もうSHRの時間だぞ、教室に戻れ」

「ち、千冬さん……」

「織斑先生と呼べ、わかったらささっと戻れ。入り口を塞ぐな、邪魔だ」

「す、すみません……」

 すごすごとドアから離れる鈴。

「ま、また後で来るからね! 逃げないでよね、一夏、響」

(あれ、何でおれまで~?)

「さっさと戻れ」

「はい!」

 千冬の叱咤に肩を震わせ二組の教室へと猛ダッシュする鈴。あの時は感じなかったが鈴の後ろ姿と肩書きに面倒な事になりそうな予感がする響。

「しかし、凰さんが代表候補生だったとは……知ってた、一夏?」

「いや、俺も初めて知った……代表候補生どころかIS操縦者ってのも初耳だ」

 響の話に答えを返す一夏、しかしそれがまずかったらしく一夏に詰め寄る二人の女子が声を上げた。

「一夏、今のは誰だ!? 知り合いか? えらく親しそうだったな?」

「い、一夏さん。あの子とはどんな関係――」

 そのほか、他のクラスメイトからも質問の集中砲火になる一夏。響は苦笑いを浮かべながらその様子を見ていた。

 バシンバシンバシンバシンバシンバシンバシン!!

「席に着け、馬鹿者ども!」

 千冬の出席簿が火を噴いた。

(なんでこう一夏って女の子に縁があるんだろ? ……これが俗に言うフラグ建築士ってやつなのかな~?)

 響は簡単に予想できる自分へ降りかかる負担の増加にため息をもらすが今日も今日とて授業は進むのであった。

 

 

 

「お昼、お昼、お昼ごは~ん♪」

 まだ質問攻めにあっている一夏を一人残して響は上機嫌で食堂へと向かう。

「昨日で学食は制覇したし、好きなもの食べるか」

 鼻歌交じりに食堂の食券販売機の辺りまで来るとそこにはラーメンをお盆にのせた鈴が立っていた。

「早いね、凰さん」

「アンタもね……? あれ、一夏は?」

「ああ、一夏ならまだ来ないと思うよ? クラスの女子に引き止められてたから~」

「……アイツはー」

 鈴から妙なプレッシャーを感じ取る。

(……ああ、この子も一夏LOVEか~。ひっきりなしにフラグを立てて一夏には困ったもんだ~)

 今の一言は言わないほうが被害を被る事もなかった。

「それより……ラーメン伸びるよ~?」

「……そうよね、このまま待ってたら美味しくなくなるし」

「だったら一緒にどう? 相席で悪いけど一夏には先に場所を取っておくて言っておいたから」

「そうする」

「じゃあ、おれもご飯もらっていくから先に席とっておいて~」

「わかった、どこでも良いのよね?」

「頼むよ~」

 響は食券のメニューボタンを一通り眺めたからボタンを数回押す。手にした食券は鈴と同じラーメンだった。

 響は食券を食堂のおばちゃんに渡し自分用に多めに盛ってくれたラーメン×五を手に鈴の待つテーブル席に向かった。

「アンタ、それ全部食べるの?」

「食べるよ~、一日五リットルのラーメンを食べる事に決めてるから!」

「そ、そう」

 鈴は表情を引きつらせながらも食事を始めた。

「そういえば、あのあと無事に寮に行けた?」

「おかげさまで、『迷子』にならずに」

「……うん、それは良かった」

 教室でカッコイイ登場シーンを台無しにした事を根に持っている様な発言に響は麺を啜り誤魔化す。

「で、なんでわざわざ宣戦布告何かしてきたの~? あんな事しなくても闘えるのに」

「それはそうだけど……」

 語尾が小さくなる鈴を横目に響はどんぶりを持ち上げスープを飲み干す。

「まあ、一夏に会いたかったんだから仕方ないか~」

「! な、なな何を……」

「篠ノ之さんとオルコットさんみたいな反応だからね、見ればわかるよ~」

「……誰よ?」

「一夏の傍にいて身長が俺と同じくらいのポニーテールの女の子が篠ノ之さん、青いカチューシャをつけてた金髪で毛先がカスタードコロネみたいな女の子がオルコットさんだよ~」

「……なんで一人だけ説明に食べ物が入ってんのよ」

「今の内緒で~、怒られるし」

 内緒と言いつつもまったく気にしていないのか響は次のラーメンのスープも飲み干す。

「まあ、特徴はともかく……その二人は一夏が好きみたいなんだよね~」

「一夏のやつ……約束、忘れてるんじゃないでしょうね?」

「約束?」

「こっちの話よ」

「そ~」

 響はどんぶりの中に残っていた麺をスープごと飲み込み何度か租借してから手を合わせる。

「ごちそうさまでした~」

「へっ? もう食べたの!」

 鈴は響の前にあるどんぶりの中を見るが中には麺は欠片どころかスープの一滴も残っていなかった。

「いつの間に食べたのよ! あたしは今麺を食べ終わったところなのよ」

 鈴と話をしていたはずなのに響は鈴の五倍の量のラーメンを食べ終えていた。

「麺がのびると体積は増えるけど美味しくない、さっさと食べるに限る。そっちのほうが美味しいしね~」

「……変なやつ」

「よく言われる……こともない、かも?」

「いや、言われてるから」

「む~?」

 声のした方に顔を向ける響、そこにいたのは一夏と箒、それにセシリアだった。

「遅いじゃない! 何でもっと早く来ないのよ、アンタは」

「そんな事言われてもな、俺にも都合があるんだよ」

 一夏は何を言ってるのかと肩をすくませながら響の隣に腰掛ける。

「それにしても久しぶりだな、いつ帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつIS操縦者になったんだよ」

「質問ばっかりしないでよ。アンタこそなにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」

(おれを挟んで会話をしないでほしんだけどな~)

 特にうるさいわけではないがこのわかりやすすぎる状況、身動きが取れないのでは逃げる事もできない。

「一夏、そろそろどういう関係か教えてほしいのだが」

「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方とつつつ付き合っていらっしゃるの!?」

 疎外感を感じてか、箒とセシリアが多少棘のある声を上げながら身を乗り出す。

「べ、べべ、別に、私達は付き合ってるわけじゃ……」

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ? ただの幼なじみだぞ」

「「………………」」

 響は眉間を押さえ鈴は黙り込んだ。

「どうしたんだ、二人とも?」

「なんでもないわよっ!」

「おれの事は気にしないでくれていいよ~」

「そうか?」

 一夏の鈍さはどうしようもないのかと泣きたくなってくる響。鈴だけではなく箒やセシリアまで不憫に思えてくる。

「幼なじみ……?」

 響が一夏の唐変木ぶりに嘆いていると、箒が怪訝そうな声で聞き返していた。

「あー、えっとだな。箒が引っ越しっていったのは小四の終わり頃だろ? 鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのはちょうど一年ぶりだな」

「……となると、篠ノ之さんと凰さんは入れ替わりでってことか~」

「そうなるな、箒がファースト幼なじみで鈴がセカンド幼なじみってところだな」

「ファースト……」

 一夏の言葉に箒が嬉しそうに声を漏らす。

「ふーん……そうなんだ、これからよろしくね」

「ああ。こちらこそ」

 互いに挨拶を交わす二人の間に火花が飛び散っている様に見える響。これが恋する乙女の闘いなのだと遠い目で一夏の肩を叩く。

「頑張れ~、胃薬ならあるから」

「? 何の事かわからんが、ありがと」

 響の言葉の意味をわかってないの一夏は首をかしげる。

「それより、一夏。放課後時間開いてるわよね? 久しぶりにどっか行かない?」

「放課後か? それならだい――」

「あいにくだが放課後は私と一緒にIS訓練の予定だ、どこかに出かける時間は無い」

「そうですわ。クラス対抗戦に向けて特訓は必要不可欠、他クラスのあなたに構っているひまはありませんの」

(おお~! 一気に強気に出るな二人とも)

 こんなにわかりやすい反応を見せているというのに気付いてもらえない二人にそっと目元を拭う。

「じゃあ、それが終わったら行くから待ってなさいよ?」

 鈴はラーメンのスープを飲み干し食器を返却口に戻しそのまま食堂を後にした。

「元気な子だ~」

「ああ、昔からアイツは断る時間をくれないんだよ」

「……頑張れ~、一夏」

「放課後、助けてくれるか?」

「自信な――」

 一夏のお願いに答えるしかないかと思っていた最中、食堂のスピーカーから無慈悲な声が流れる。

『一年一組皇響。放課後職員室に来い、以上だ』

「……放課後、助けてくれる~?」

「悪い、響。無理……」

 二人は身の上に起きた不幸にため息を溢す。

「「……頑張れ」」

 響と一夏には互いに「頑張れ」以外の言葉をかけたかったが何も思い浮かばずただ背中をさすりあう事しかできなかった。

 

 

 

 

 

「ふ~、今日も疲れたな~っと」

 響は学業を終え自室へと向かっていた。

「それにしても織斑先生も人使いが荒いんだから……」

 先程まで千冬の手伝いで職員室と生徒会を何度も行き来したため走り回ったお陰でトレーニングの必要も感じないほどの疲労感に襲われていた響。

 実際は自分でなくとも出来るような雑務ばかりだったのだが、これも『護衛』としての活動の一環なのだろう。生活パターンを一定にさせない事で内通者がいたとしてもうかつに動けないようにするための処置、おそらく一夏との部屋割りもそう言った意味があるのかもしれない。同居人がいれば生活習慣は一定の法則性を持ちやすいうえにこうして意味がないように思える呼び出しに事もたびたび続けば勘が良い人物なら何かに気づいてしまうかもしれない。

 しかし、その点をふまえても明日は職員室に籠もりきりになる可能性も出てきた。

「織斑先生や生徒会長さんには苦労かけてばっかりだな……俺も少しでも強くなれるようにがんばらないとなぁ――くわあぁぁぁ~」

 疲れた身体が睡眠を欲しているのか響の瞼が重くなる。部屋にたどり着く前に寝てしまう勢いを感じさせる響だったがそんな彼のぼやけてきた意識を覚醒させるような声がある人物の部屋から聞こえてきた。

 

 

『最っっっ低! 女の子との約束をちゃんと覚えていないなんて男の風上にもおけないヤツ! 犬に噛まれて死ね!!』

 

「……凰さん?」

 そして、もう一つ声のおかげで自分の部屋の前まで来ていた事に気づく。

 それと同時に鈴も一夏達の部屋から出てきた。ドアを思い切り閉めて出てきた彼女は、泣いていた。

 響が呆然と立ち尽くしていると、ドアの前で涙を拭いていた鈴と眼があった。

「待った! ストップ! 逃げないで!」

「……まだ何もしてないじゃない」

「顔見ればわかるよ~、絶対逃げる」

「………………」

 図星だったのか鈴は俯き涙をこぼした。

(はあ~……本当に一夏は~)

 面倒事が起こると言う予感は予感ではなくなりもはや当たり前のように一夏が起こすトラブルの事後処理に奔走する響だった。

 

 

 

 

 

「ち、ちょっと! 何するきよ変態! 泣いてる女の子部屋に無理やりつれこむなんて何考えてるのよ!?」

「もう少し言い方を考えてくれると嬉しいんですけど!」

 鈴の誤解を招くような発言に抗議する響。

 しかし、鈴の発言ももっともで端から見れば無理矢理連れ込んでるようにしか見えないのも事実である。

「とにかく入って。そんな顔で部屋に戻ってもルームメイトに心配かけるだけだよ~?」

「う……」

 鈴は渋々といった感じで響の部屋に入る。

 あるのはどの部屋にも初期装備されているものと、パソコン、テレビだけだった。余計なものはほとんど置かれていなかった。

 響は鈴を椅子に座らせお茶の準備をした、紅茶は切れているので黙って緑茶を用意して鈴に差し出す・

「ほい、これ飲んで少し落ち着くといい~」

「う、うん……ごめん……」

 鈴は響の手から湯飲みを受け取り一口だけお茶を口に含み飲み下す。響は鈴が落ち着いた頃を見計らい声をかける。

「それで一夏と何かあったの? この時間なら篠ノ之さんもいると思うんだけど……」

 壁越しに隣にいる一夏達を指さす響。

「見ればわかるんでしょ」

「……泣いてるってことはわかる」

 しかし、鈴が泣いている肝心の理由が響にはわからない。

「……笑わない?」

「笑うも何も、泣くってことは笑えない内容だと思うけどな~」

 それから鈴は、胸に抱えた不満と不安を響に話した。一夏との約束のこと、自分がどれくらい一夏に会うのを楽しみにしていたか、両親のこと、一夏との思い出を。

 響は途中で口を挟むことも、うなずくこともせず、ただ聞くことに専念した。

(これは……俺の手におえない感じの話だ~)

 響は鈴のたまりに溜まった乙女心を聞かされ頭を抱えた、鈴の話の内容が純粋な恋愛関連だったからだ。恋愛の経験がない響にとって鈴の悩みに対するアドバイスをだすのは困難だった。

 響はとりあえずわかっている事を口にしてみる。

「凰さんが怒るのは当然だと思うけど、一夏が鈍いのは知ってるよね~?」

「う、うん……わかってる……わかってるよ……でも……」

「男のおれでもアレは手に負えないと思ってるから……苦労すると思うな~」

 ここにいないセシリアと隣にいる箒の事も思い手を苦笑する響。

「だから、まあ、あれだね……頑張れ」

「……もう少し、まともなこと言えないわけ?」

「恋愛沙汰は助けられないよ~、女の子と付き合った事もないんだから……むしろ同じ立場に立たされたらおれが助けて欲しいくらいだもん」

 そういった事に縁の無い生活を送っていた響は肩をすくめる事しかできない。

 響は降参というように両手を挙げる、その様子がおかしかったのか鈴は小さく笑った。

「ふふっ! 本当にわけわかんないわね、あんたは。励まそうとしてできてないじゃない」 「面目ないです~」

「いいわよ、別に。あんたに怒ってるわけじゃないしそれに……話を聞いてくれたからだいぶ落ち着いた、ありがとね」

「どういたしまして、でも約束のことはこれからどうするの?」

「えっ……それは……その……」

 しばらく唸ったのち、鈴は歯切れ悪く結論を述べた。

「……これから考える……」

「なんて行き当たりばったりな……」

「行き当たりばったりじゃないわよ、あたしは考えるより先に行動なの!」

「それを行き当たりばったりっていうんじゃ……」

「う、うるさいわね! うじうじ悩むよりマシでしょ!?」

「……悩むよりマシ……か、確かにそうかも~」

 鈴の言葉は今の響の心を軽くしてくれる一言だった、自分の置かれている状況に悩みどう動けばいいのかわからない。

 ならばいっそのこと鈴の言うとおり考えるよりも今自分がどうしたいのかを行動で示すべきなのかもしれないと響は一つの答えを導き出したのだった。

「ど、どうしたのよ? 急に黙り込んで……」

「なんでもない、気にしないで~」

「そう? ならいいけど……」

 いつの間にか立場が逆転してしまったがなんとか鈴の高ぶった気分を落ち着かせる事には成功したようだ。

「とりあえず、おれに言えるのはクラス代表リーグマッチで勝った方が良いぞって事くらいだよ」

 負ければ一夏にどうして怒ったのかという理由を教えなければいけない。

 響としても鈴の話を聞いた後では負けたら気まずい事になるのは眼に見えていた。

「そ、そうよね! 勝たなきゃ謝らせる事もできないし」

「そうそう……って、おれ……一夏を応援する立場だったような~」

「なによ、さっきまでの味方ですって雰囲気はどこに行ったのよ?」

「それはそれ~、これはこれ~……って事で」

「もう! なんだかんだ言ってもアンタも一夏みたいなところあるわよね」

「………………」

 そんな自覚はない響ではあったが、一夏LOVEの鈴が言うのだからあながち間違っていないのだろうと落ち込む響。

「ともかく、一夏に伝えときなさいよ! 今度のクラス代表リーグマッチは必ずあたしが勝つんだからねって!!」

「確かに伝えとく」

「頼んだわよ、じゃね」

 鈴は湯飲みに入っていたお茶を一気に飲み干し部屋を出て行った。

「ああいうところを見習わなきゃな」

 響は急に静まりかえった部屋で小さな笑みを浮かべた。

 

 

 その後も一夏と鈴の間に気まずい雰囲気が流れる度に響は仲裁に入り事なき事を得るのだがほとんど毎日似ように仲裁に入っているため気が休まる事がない、そのせいでまた寝不足気味になっていた。

「こんな事になるなんて……」

「そうだなぁ……俺も同感だよ、響」

 その眠気を払うように一夏と鈴の対決が決まったのだ。

 クラス対抗リーグマッチ。第一試合当日。

 第二アリーナのピットには一夏が白式を展開して待機していた。

 初日初戦の対戦カードは神様のいたずらか『一組代表・織斑一夏 VS 二組代表・凰鈴音 』となっている。

(運がいいのか、悪いのか……こればっかりは何とも言えないや~)

 先程逆側のピットに行ってみて、待機している鈴にそんなことを言ったら『いいに決まってるでしょ! さっさとあたしの因縁に終止符を打ってやるわ!見てなさいよ!』と言い放たれた。

(あの様子だと……手加減してくれるかどうか微妙)

 一夏が一方的にやられてばかりではないと予想はしているものの胃がキリキリと痛み出す響。

「鈴さんのISは『甲龍』シェンロン。近接特化型ですわ。わたくしのときとは勝手が違いましてよ」

「緊張するな。練習の通りすれば勝てる」

 セシリアと箒が一夏を激励する。

 この二人は今日まで熱心に教えていたから、それに報いるために一夏も気合いが入っていた。いい感じに緊張しているのがわかる。

 しかし……。

「一夏」

「ん? なんだ?」

「気をつけてな……凰さんは強いよ~」

「わかってる。あいつ、代表候補生だもんな」

「そ、それだけじゃないんだけど」

 一夏に対する思いがもしかしたら普段よりも力を底上げしているかもしれないのだがそれをわかっている様子は一夏からは感じられない。

「へ?」

「わからないならいいよ……きっと、それが幸せなときもあるから」

 しばらくして一夏は空高く飛び立ち、戦闘開始の合図を待つために規定位置で静止した。

 響達はしばらく出撃口から吹き込む柔らかい風に身をさらす。

 ちなみに全員制御室で見るようにお達しが下っている。千冬曰く、響は前代未聞の男性操縦者、セシリアは専用機持ちで国家代表候補生、箒はISの開発者の妹だから、という様々な理由でそういうことにしたらしい。 少しでも学べる環境の整ったところで観戦しろってことなのだろう。

 わからないところは隣にいる先生に聞いてすぐ解決といったところだ。

「皇、篠ノ之、オルコット。早く来い。試合が始まるぞ」

 後ろから聞こえる千冬の声に従い、箒達は制御室に移動した。

「織斑先生、一夏は大丈夫だと思いますか~?」

「このままなら十中八九負ける」

 響が勝敗の行方を千冬に訪ねる中で箒とセシリアは制御室のモニターに見入っていた。

 一夏は苦しい戦いを強いられており、反撃する暇も見当たらないほどだ。先程まで近距離戦闘をしていた二人だが、これ以上は危険と判断した一夏が間合いを取ることにより、とりあえず斬り合いの応酬は途切れた。

 箒はいつ一夏があの剣で斬られてしまうかとひやひやしたのだが、なんとかなったようだ。しかしそう思った瞬間、突然一夏が何かに攻撃されたように地面に叩きつけられた。

 地上でもうもうと上がる土煙を、上空の鈴はニヤリと不敵に笑って見つめていた。

「一夏……!」

「……衝撃砲、ですわね。第三世代兵器ですわ」

「あの銃身のない兵器のこと~?」

「ええ。大気を砲弾として撃ち出す武器ですから、弾道が全く見えませんの」

 土煙が晴れてくると、箒達の眼に一夏が顔をしかめて立ち上がるのが見えた。そこに追撃の衝撃砲を撃ち込んだのだろう、再び一夏は見えない砲弾を受けて吹き飛んだ。

 鈴は攻撃の手を緩めることなく、両肩の武装、おそらくそれが衝撃砲だ、それを敵の方に向けている。

 一夏もなんとか避け始めたものの、どこへ逃げても必ず狙い撃ちにされる。

「鈴さんの衝撃砲、射角がほぼ無制限のようですね……」

 箒達と一緒にモニターを見ている真耶も心配そうに一夏を見ていた。

「それってつまり、死角がないということですか?」

「そのとおりです、篠ノ之さん……このままだと織斑くんは」

 真耶がそこで言葉を止めたのは、恐らく精一杯の気使いだったんだろう。

 箒もセシリアも目をやるが、千冬は微動だにせずただ仁王立ちしていた。

 しかし、そんな箒達の不安を振り払うかのように響が口を開く。

「意外と大丈夫なんじゃないかな~?」

「何が大丈夫なんだ、皇?」

「いや、こうしてみてみると衝撃砲って凄い武器だと思うけど結局は銃と同じで構えて狙って撃つ……それは同じなんだ。ほら~」

 響はモニターに映し出される鈴を指さした。

「衝撃砲を撃つとき凰さんは必ず一夏を正面に捉えるように陣取ってる、衝撃砲自体は射角が無制限でもそれを扱う彼女は毎回同じ体勢で撃ってるんだ~」

「……確かに、そのとおりだ」

「ですが、それでも見えない事に変わりありませんわよ?」

「それも何とかなると思う、衝撃砲を撃つ瞬間に空間を圧縮するせいなのか銃口の砲門部分が可変する。それに威力があるのを使おうとすればほんの少しだけタイムラグがある……たぶん溜めが必要なんだろうね~」

「「………………」」

 箒とセシリアは響の冷静な分析能力に言葉を失った、衝撃砲の脅威ばかりに眼がいってしまいがちだが確かに響の言うとおりいくつかのデメリットが存在するのだ。そもそも、どんな兵器でもそのメリットと同時に弱点とのなるデメリットが発生する。

 響の様に『勝つ』為に分析するのであればわからないものでもなかった。

「だから一夏もなんとか避けられてる、本能的になんだろうけど今言った事に気づければあいつの『零落白夜』の一撃で……あれ?」

 的確な解説をするなかで響は周りにいる箒達がぽかーんと口を開けている事に気づく。真耶ですら眼を見開き驚いているような表情を向ける。

「……あの、変な事……言いました~?」

「いや、的確な判断だ。お前はまだ模擬戦闘をしていないがそれだけ分析にたけているならクラス代表として選出しても問題なかったな」

「そんな事ないです、こんなの『普通』ですよ~? わからないからどうすればいいか考える、わかったら行動に移せばいいしわからないならまた考えれば良いんです。どうしてもわからないなら織斑先生達みたいに知っている人に聞けば解決ですから~」

「そうか……お前がそう言うならそうなのだろうな」

 千冬は戸惑っている響に小さく笑みを浮かべつつ、一夏の唯一の勝利への方程式を語る。それは響の解説を引き継ぐようにも見えた。

「……瞬時加速を教えた。使いこなせるかどうかはあいつ次第だが通用するのは恐らく一回。その一撃で相手のエネルギーを根こそぎ奪うしかない」

「難しいですわね。奇策の類いでも、鈴さんは簡単に隙をつける相手とは……」

「それができなければ、あいつはそれまでだ」

 千冬もセシリアも表情を崩さない。

 箒は二人の様子に息を呑みながらも一夏の勝利を願い手を握りしめる。

 すると試合に変化があった。一夏がただ逃げ惑うのではなく、鈴を中心とした等距離上で円を描くように高速移動を始めたのだ。かと思えば急接近し、互いの武器が届く前に離脱する。

 白式は燃費こそ悪いが性能はかなり良い方なので、トップスピードは目で追うのが辛くなるほどに速い。

 ISに乗ってハイパーセンサーの補助がついてもそうなのだろう、鈴が徐々に翻弄されてきた。

「高速で敵の攻撃タイミングをずらし、隙ができたら懐に瞬時加速での突撃ですね」

「あいつにしてはそこそこの判断だ。無駄に機会を待つよりよっぽど賢い」

 静かに会話を重ねる千冬と真耶に箒は同じものを感じた。

 セシリアも同じ事を思ったかもしれない。

 隠していても溢れ出す強者の波動。体全身がそれを受信して震えた。この人たちが味方で良かった、と戦ってもいないのに考えてしまう。箒と響ははただただ、底が全く見えない千冬に畏敬の念を覚えるのだった。

「あっ!」

 真耶先生が小さく声を出す。

 一夏がついに鈴の虚をついたのだ。距離はそれなりに離れてはいるものの、瞬時加速した白式が一瞬でそれを無かったものにする。

 甲龍も射撃体勢に移ろうとするが、間に合わない。

 雪片弐型の淡い光が鈴に迫る。

 そして――

 

 

 

 ズドォォォォォォォン!!

 

 

 

 凄まじい爆音と揺れがアリーナを襲う。響達はとっさに近くのテーブルに体を預けるが、あまりの揺れにそのテーブルすら倒れそうだ。

 画面には衝撃のショックで時折ノイズが走る。

「な、なんですの!?」

「くっ……! し、試合は!?」

「お、織斑先生!」

「……! なんだこれは……!」

「……あれIS、なの?」

 

 

 

 

 いきなりアリーナに現れた黒い物体。

 それが何なのかは分からないが、一夏と鈴は本能的に危険を察知していた。

 

 彼等の判断は正しい。

 なぜならこの物体はグラウンドを覆っている防御シールド、ISにも用いられている物理攻撃を軽減させる防御壁を破って来たのだから、相当な攻撃力を有している。

「な、なんだ? 何が起こって…」

『一夏、試合は中止よ! すぐにピットに戻って!』

 一夏一時混乱に陥っていたが、鈴からのプライベート・チャネルで意識を取り戻す。

その時、2人のISに緊急通告が送られた。

 

――ステージ中央に熱源。正体不明のISと断定。ロックされています。

 

 攻撃力が未知数の相手に標的とされた一夏は焦りを感じるが、飛ばされてきた鈴の言葉で正気に戻る。

『一夏、早く!』

「お前はどうするんだよ!?」

「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさいよ!」

「逃げるって…、女を置いてそんなこと出来るか!!」

「馬鹿! アンタの方が弱いんだからしょうがないでしょうが!」

 鈴のようにプライベート・チャネルを開けない為、オープン・チャネルのみの通信に切り替える。

 実際、足止めをするのは実力が上の者が行い、弱い、もしくは足の速い者が救援を呼ぶ。

だがそれだと男の尊厳に係わると一夏がこの提案を拒否。

「別にあたしも最後までやり合うつもりはないわよ。こんな異常事態、すぐに学園の先生達がやって来て事態を収拾――」

「あぶねぇっ!!」

 

 

キュインッ!!

 

 

 間一髪、一夏は狙われた鈴を抱えて敵のビームをかわす事に成功した。

 助かった事に一息つくが、センサーによって割り出された熱量の値を見て背筋に冷たいモノが流れる。

 一夏が顔を青くしているのに対し、鈴は一夏に抱きかかえられた事で顔を赤くしていた。

「ちょ、ちょっと馬鹿! 放しなさいよ!」

「お、おい、暴れるな! って馬鹿! 殴るなよ!!」

「うう、う、うるさ~~~い!!! て言うかさっきからドコ触って――」

「! 来るぞ!!」

 抱きかかえたままでは避けきれないと感じた一夏はすぐさま鈴を放し、2人ともなんとか敵のビームを掻い潜って回避行動をとる。

 攻撃が治まると敵はふわりと浮き上がりながら相対して来た。

「なんなんだよ、こいつ…」

 一夏が呟いた言葉仕方が無いとも言える、なぜならそのISは見るからに異様な形をしていたからだ。

 淡い灰色の装甲から肌の色は1ミリも見当たらない、つまり『全身装甲(フル・スキン)』のIS。防御力に特化した機種も確かに存在するが、ISはどれも四肢や背中、頭部に装着されるため全身に装着された例など無い。

 しかも見た目はゴツゴツして大量の重火器が装備されている。

 それはまるで『兵器』のようだった。

「お前、何者だよ」

「………」

 問いかけに一切の反応も見れない。

 一夏もこうなると予測して声を掛けたため落ち着いているが、そんな彼の許に通信が入った。

『織斑くん! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生達がISで制圧に行きます!』

 真耶から入って来た通信が彼等の耳に入る。

 内容は理解出来ていたが、体はそのように動く事はなかった。

「――いや、先生達が来るまで俺達で食い止めます。いいな、鈴」

「だ、誰に言ってんのよ。さっさとやるわよ!」

「おぉ!!」

 2人はマヤの言葉を無視して行動に移る。

 鈴が衝撃砲で援護に回り、一夏が接近して刀で切りかかる即席のチームが出来上った。

健闘を祈るために互いの武器を軽く当て、戦闘に臨む。

「もしもし!? 織斑くん聞いてます!? 凰さんも! 聞いてます~!?」

 アリーナに設置されているオペレーションルームに真耶の声が反響する。

 緊急事態だから千冬に何かできないかと響は詰め寄るも、今のところ見守る事しか出来ない。

 ちなみに同じくその場にいた箒とセシリアも付いて来ている。

「一夏達、本当に大丈夫かな~?」

「本人達がやると言ってるのだから、やらせてみてもいいだろう」

「織斑先生、流石に今はそんな事言える状況じゃないですよ」

「ほら、コーヒーだ。少しは糖分でも取って落ち着け」

「さっきいれてたの塩ですよ~?」

「…………」

 普段しないようなミスに押し黙る千冬。それに釣られて響も押し黙るが、千冬を見るとやっぱり彼女も何だかんだ言いながら心配なんだと安心する。

 響がそんな事を考えているとギロリと睨みを利かせる千冬。

「ほら、皇。コーヒーだ。飲め」

「え? でもそれって塩入り――」

「私がお前のために入れたんだ。ありがたいだろう?」

「…は、はい」

「熱いから一気に飲むといい」

(あ、ダメだ。飲まなきゃ死ぬね、これ)

 これ以上逆らうような事したら一夏共々どんなめに遭うかわからない、響はずずいっと差し出されたカップをオズオズと受け取る。

 

 

ズズ…

 

 

「あつっ!!」

「だ、大丈夫ですの!?」

「う、うん。ちょっとヒリヒリするだけだから~」

 とは言ったものの、響は舌を出し空気で冷やす。その様は愛らしさと痛々しさが同居しており千冬以外の人物がみれば良心に悩まされ全てを許してしまうような仕草だった。しかし、現状では全部飲まないと許してくれそうにない空気が千冬から溢れ出ていた。

 なんとか塩入りコーヒーを飲みほし響は再度聞いた。

「織斑先生。やっぱり突入できませんか~?」

「あぁ。未だ遮断フィールドはレベル4を保ったまま…。しかも外への扉が全てロック状態。――おそらくあのISが原因だろう」

「避難も救助も出来ない…。閉じ込められた状況か」

 強固な守りも逆手に取られてしまっては厄介な壁にしかならない。

 たった数メートルの距離しか離れていないのに、助けに行けないもどかしさが響を苦しめる。

「先生、緊急事態として政府への助勢は――」

「もうやっている。現在でも3年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。シールド解除が出来ればすぐに部隊を突入させるがまだ時間がかかる」

「そう、ですか…」

 名案と思って出した提案が潰され意気消沈するセシリア。

 響はその姿に更に焦りを加速させるが答えは既に出ていた、口の中に溜まった唾を飲み込み響。

「織斑先生、おれ達にISの使用許可をください」

「……何だと」

「素人の自分でもこのままじゃ一夏達は持ちこたえられないのはわかります、それにこのシステムハッキングがあのISによるものなら一刻も早く倒すしかありません」

「そうしたいのは山々だが、お前はIS戦闘の経験がほどんどない。オルコットのISは一対多数向けの機体だ。それに連携訓練……」

「一夏達の闘いは見ました、それにオルコットさんとの闘いも……何度も何度も見て留意すべき欠点も全部覚えました。即席の連携なら何とかこなせます」

「お前の分析能力が高いのは認めるだがそれでも――」

 

 ピーピーピーピーピーピーピー!!

 

 千冬が響を説き伏せようとしたときオペレーションルームに甲高いアラーム音が鳴り響く。

 それは一夏の白式のエネルギー限界を知らせるアラームだった、しかも一夏だけでなく鈴の甲龍のエネルギーもあと僅かだった。

「くっ!」

「織斑先生!!」

 千冬は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたがすぐに響達に指示を出す。

「皇、オルコット! ISの使用許可を出す! それでも決して無茶だけはするな!!」

「「はい!!」」

 響とセシリアは互いに自身のISを展開し扉を破壊、アリーナへと向かうのだった。

 

 

 

 

「鈴! 俺の事は良いから闘うんだ!!」

「できるわけなでしょこの馬鹿!!」

 鈴は待機状態によりISを使えなくなった一夏の前に立ち黒いISの攻撃を防いでいた、白式のエネルギーが切れると同時に黒いISは必要に一夏へと狙いを定めたのだ。

 レーザービームによる攻撃ではなく物理的な攻撃ではあるもののそれでも鈴のシールドエネルギーを削っていくのには充分だった。

「この……なんで、一夏ばっかり狙うのよ!?」

 鈴は両刃青竜刀でなんとか相手の攻撃を凌ぐも甲龍のエネルギーがついに限界を迎える。

「まずっ!!」

 黒いISによるゼロ距離射撃、銃口に集まる光に鈴は咄嗟の判断で一夏を抱え後方に飛び退くも放たれたビーム砲は甲龍の装甲を融解させ残っていたエネルギーの全てを奪っていった。

「きゃあ!!」

「うわぁ!!」

 二人は地面を転がるように吹き飛ばされも何とか受け身を取り黒いISに向き合うように体勢を整える。

 だが、体勢を整えたところで既に闘う術は失っていた。

「さすがに……まずい」

「生身じゃ……勝てる可能性ゼロだわ」

『――――――』

 自分達に敗北と命の危機を感じる一夏達に構わず黒いISは無言で距離を詰める、まるで恐怖をより大きく強くするかのようにゆっくりと歩み寄る。

「……くそ」

「打つ手無し……ね」

 一夏達は歯を食いしばり黒いISを見上げる、打つ手はないと口にしながらも何か方法はないかと考えるなかISは二人との距離を縮めその冷たさしか感じない鈍い輝きを放つ黒い腕を伸ばす。

 

 ドォン! ドォォン!!

 

 一夏と鈴は眼を瞑り最後の時を待ったがその瞬間、アリーナに銃声が鳴り響いた。

「一夏、凰さん!! そこから動かないでくれ!!」

「「響!?」」

「オルコットさん!!」

「承知しましたわ!」

 アリーナのピットから放たれた弾丸は黒いISの頭部に着弾しほんの僅かだがその動きを鈍らせる事に成功した、その隙に響は黒いISを二人から引きはがすようににわか仕込みではあったが瞬時加速による突進を放つ。

「おおおおおおおおおお!!」

『――――――!!』

 黒いISも突然現れた響達に驚いていたのか響の攻撃を防ぐことなく暗いその巨体を無惨に吹き飛ばされる。

 その光景にセシリアは追撃も可能と判断したが先に一夏と鈴を助ける事を優先し二人を両脇に抱えピットへと飛び立つ。

「セシリア!」 

「お礼は後で、皇さんが時間を稼いでいてくれてる間にピットへ向かいますわ」

「響一人を置いてくきか!?」

「お二人を避難させたらわたくしもでます、まだ生徒達の避難がすんでませんもの」

「でも!」

 一夏と鈴はハイパーセンサーに映し出されている響の姿を眼に映す。

 訓練機である打鉄を纏う響の手には近接ブレード『葵』で牽制を続けていた。

 響の纏う打鉄は単独での運用には向いていないものの第二世代型では最高の防御能力を持ちシールドが破壊される前に修復する事ができ支援機としては非常に優秀な機体だった。日本の武者鎧に習った各装甲を束ねる特殊繊維の帯は機体にかかる様々な応力を吸収し走行の特性と相まって防御力の底上げをしている。肩部の物理シールドと強固なアーマースカートとを合わせて様々な局面で味方の強力な盾となる事ができる。

 しかし、稼働時間がほとんど無い響では牽制に適した射撃武器を使う事はできず『葵』による近接戦闘しか方法が残っていない。

 無人機もそれがわかっているのか距離を取ろうと後方へ何度も飛び退いていた。

「響のISは訓練機だ、あれじゃ無理だぞ」

「わかっていますわ、本来ならわたくしが相手をしたいところですが互いのIS性能を考えての決断だったのですわ」

 近接型の響と中距離射撃型のセシリア、連携訓練をしていない中ではどうしても機体性能を優先するしかない。ここでセシリアが黒いISと闘ったとしても響ではピットからの精密射撃は出来ない、そうなってくると苦渋の決断とはいえこうするしかなかった。

「確かに訓練機では厳しいですが打鉄の性能を使いこなせれば持ちこたえられるはずです」

 ISの飛行訓練で一度展開したが出力が一夏達のものより低いが高い防御能力を持っている。

「く……エネルギーさえきれてなきゃ」

「今言っても始まらないわよ、セシリア急いで!!」

「言われなくても!」

 セシリア達がピットに向かう中、響は無人機を攻め立て射撃をさせまいと懸命に剣撃をくり出す。

 しかし、無人機の特性なのか響の攻撃を受けても堅さに秀でたISにダメージを与えられている気がしない。

「硬い……おれの武器じゃダメージが与えられない。どうしたら……」

 響は後付武装に収納されている射撃武器に眼を向けるものの一夏と同じく初心者である自分では使った時点で隙を突かれるのはわかっていた。

 最後に表示された弾丸の特性はわからない、しかし相手が無人機であるのなら攻撃力に秀でた弾丸を使えればなんとか持ちこたえられるはず。 

 響は射撃武器を使うべきか悩んだがその僅かな隙を狙って無人機が再び弾丸の嵐を浴びせる。

「くぅっ!!」

 咄嗟に上空へ飛び上がる響だったが無人機も追撃するように加速する、巨体でありながらそのスピードは白式に匹敵しビームの出力もブルー・ティアーズよりも上……たかだか数時間程度の操縦しかしていない響ではこの弾幕を避け続けるだけでも命がけと言っても良かった。

 セシリアであれば攻撃の合間にできる僅かな隙に反撃することも可能だったはず、響は頬に冷たい汗が流れるのを感じつつ『葵』を握りしめる

(どうする、どうする……どうすればいい!)

 響は震える身体に鞭を打つように歯を食いしばり心と身体を支配しようとする絶対的な恐怖をギリギリの所で踏みとどまっていた。

 

 ――手に感じる刀の重み

 ――アリーナに充満する焼き焦げた匂い

 ――正真正銘の殺し合い

 

 ただ平穏の中で暮らしてきた少年が何の準備もなく命がけの闘いに身を投げ入れれば当然の結果だった。

 日常から非日常へ、平和から戦争へ……響でなくとも意同じ境遇で育ったものなら泣いて逃げてもおかしくない。そんな状況で響は泣き言を言うわけでもなく泣き叫ぶこともなくただ自分が取るべき行動を頭の中で模索し続けた。

 怯えに屈しないために、絶望に負けないために、死に捕まらないために必死で打開策を張り巡らせる。

(考えろ、思考を止めるな! アレを止めないとみんなが――)

 一方的な防衛の中で起死回生の方法を模索する響だったが無人機は何時の間にか響のすぐ傍まで接近していた。

 しかも接近しただけでなく無人機は響の右足を掴み動きを封じる。

「しまっ……!」

 無人機の手を振りほどくよりも先に強い遠心力を感じる響、それは無人機がなんの躊躇いもなく響をフィールドへと投げつけたからだった。

 響は予想以上の圧力に姿勢を立て直す事が出来ずそのまま轟音を上げ地上に激突する。

「がはっ!?」

 響の口から苦痛の声と共に空気がもれる、背中に受けた衝撃と痛みですぐ動く事が出来ないでいた。シールドによって直接肉体にダメージはないものの激痛が走っている事にかわりはない。

 響は痛みに表情を歪めながらも立ち上がろうとしたがそれよりも早くハイパーセンサーによる警告音が鳴り響く。すでに無人機は攻撃態勢を整え最大出力の砲撃を開始しようとしていた。

「まず……い」

 響は起き上がろうとするもそれよりも早く無人機の砲口に光が収束し死の閃光が響に降りかかろうとした。

『――――――!!』

 その時、無人機に蒼い閃光が放たれ無人機の攻撃は響をそれフィールドに爆炎をあげる。

「大丈夫ですか、皇さん!」

「オルコットさん……助かったよ~」

 響は深い安堵のため息を吐きかけたがすぐに気を引き締めセシリアと合流する。

「一夏達は?」

「ピットで待機していただいてますわ、それより今はアレを何とかしなくてはいけませんわ」

「オルコットさんの攻撃ならアレを破壊できる?」

『――――敵機、増援……殲滅』

 セシリアのビーム攻撃を受けてもなお無人機は悠々と立ち上がる、装甲ははがれているもののそれでも機動に支障は見られない。

「間合いが近ければ装甲も貫けるかもしれませんが少し難しいですわね、一夏さんの零落白夜なら一撃で落とせるとは思いますけど……」

 セシリアも自身のISによる遠距離攻撃では無人機を停止させる事は難しいと判断してピットに避難させた一夏の姿を求めるように視線を動かす。

「……おれ達が一夏が回復するまで持ちこたえられれば何とかなる、よね?」

「ええ、それならまだ可能性――――皇さん!」

「!?」

 セシリアの悲鳴に近い声と共に無人機が颯爽と間合いを詰めて射撃体勢に入っていた事に遅れて気づく。

「くっ!」

 無人機が向ける銃口から無慈悲な閃光が放たれ二人とも避ける事ができないタイミングである事を悟った響は咄嗟にセシリアを突き飛ばす。突き飛ばされたセシリアは驚愕の表情を浮かべ何か言おうとしたがそれより早く響が叫ぶ。

「狙い撃って!」

「――っ」

 セシリアは突き飛ばされた勢いを利用して体勢を立て直しスターライトmkⅢを構える。響はシールドを最大展開して降り注ぐ閃光に耐えた。

「があぁっ!!」

「そこですわ!!」

 響が悲痛な声を上げると同時にセシリアは無人機の胴体部分を的確に射貫く。

 セシリアの攻撃を受けた無人機は糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ち機能を停止させた。

「やった……?」

 響は無人機のビーム攻撃で装甲が削られてはいたがほぼ無傷の状態でセシリアの元に駆け寄る。

「攻撃にエネルギーを回している間に打ち込めました、皇さんのおかげですわね」

「ううん、オルコットさんがいなかったら危なかったよ。ありがとう」

「ふふ、お互い様という事ですわね」

 響とセシリアの会話はオープンチャネルでされていたため騒ぎが無事収束した事がアリーナにいる一夏やモニタールームにいる千冬達にも伝わり和やかな空気が流れた。

「あれ、どうしたらいいのかな?」

「先生方が回収するでしょうから私達はピットに戻りましょう」

「そうし――――」

 

――敵ISの再起動を確認! 警告! 熱源反応あり!

 

 

「そんなあの状態で動けるんですの!?」

 ギギギと左腕だけが動き、響の方へと向けられる。

「しつこいよ!!」

 これに気付いた響はすかさず飛び出し腕を切り上げ射撃を反らしたが溢れ出ていた潤滑油に『葵』と無人機の装甲部分がぶつかり合い発生した火花が引火し瞬く間に爆発。響はその爆炎に飲み込まれるのだった。

 

 

 

 

 

 ――保健室――

 

 響達は闘いを終え保健室で傷の手当てを受けていた。

 受けていたといっても、一夏達に目立った傷はない。響だけがベッドの上に横たわっていた。

「一夏達に怪我が無くて良かったよ~」

「何言ってるんだよ、お前が怪我してたら意味無いだろうが」

「そうよ!」

「そうだぞ、皇」

「でも、ですね~……あの場はああするしか」

 みんなの無事を喜んだ途端そのみんなから無茶をした事を責められる響、外傷そのものは軽いのだが手当を受けていたときよりずっと痛い気がした。

「と、とにかく……織斑先生は~?」

 響は分が悪いと判断し話を無理矢理そらす事にした。

「ああ。千冬姉なら事後処理するとかで出て行ったぞ?」

「そうか……なら、いいかな」

「どうかしたのか?」

「ううん、何でも~……ふあぁ……」

 響は大きな口を開けてあくびをもらす、保健医に痛み止めの注射を打ってもらったのだがそれが効いてきたらしい。

「ねみゅい……です」

「……その顔でそう言う事を言うから子供扱いされるのだぞ?」

「確かに、年下の弟って感じだよな」

「一夏と並べば絵になるんじゃない?」

「そうですわね」

「ん~……わかった……ZZZZZ」

 普段子供っぽい事を気にしているというのにこういう時に限ってそういう行動をとる響に一夏達は苦笑をもらし、寝息を立てる響を優しい眼でも見守るのだった。

 

 

 

学園の地下五十メートル。限られた人間しか入ることが許されない、隠された空間。未確認の無人ISはここで解析が行われていた。

 完全に機能を停止した無人機が台の上に乗せられ、遠隔操作のアームが止まることなく解析作業を行っている。

「解析、終了しました……やはり、登録されていないコアですね…」

「そうか」

 画面の解析結果を見ているのは真耶先生。その後ろで腕を組んで立っているのが千冬だ。

 千冬はいつもより更に厳しい表情、その眼はすでに最強のIS操縦者のそれだった。

「やはりな」

「心当たりでもあるんですか?」

 確信じみた発言に真耶は怪訝そうな顔をする。

「いや、ない。今はまだ……な」

 千冬は「まだ」と言う言葉で答えを濁す事しかできなかった。

 

 

 

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