IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道   作:エヴァンジル

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第六話 惨敗

 

 ――IS学園第三アリーナ

 月曜の朝、休日を挟み右肩の怪我も問題なく治った響は早朝からアリーナの使用許可をとり打鉄の射撃武器アサルトライフル『焔備』を握りしめ空中投影されている電子標的に狙いを付ける。

「………………」

 ハイパーセンサーの射撃補助機能で目標をロック、それと同時に『焔備』の引き金を引く。乾いた音と共に撃ち出された弾丸が的の外枠を掠める。

 的の損傷が合図になったのか空中に次々と同じ形をした的が映し出され響は絶え間なく引き金を引き続ける、撃ち出す弾丸は的に当たるもののその全てが的の中心に当たる事はなく的枠をギリギリで掠めるかそのまま外れるかだった。

「ふぅ……射撃ってやっぱり難しいんだな~」

 響は額から流れる汗を拭いながら射撃武器の扱いに苦戦し苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「素人のおれが射撃武器で闘うのは無謀かな、三年間は学べるって言っても……これじゃ」

 朝からひたすら射撃訓練をしたというのにまともに当たらない。シャルルの手ほどきがあったとは言え一夏はちゃんと的に当てていた。

(反動制御に大気の状態、弾丸の特性と弾道予測からの距離の取り方……こうしてみるとやる事がありすぎて何が何だかわからなくなっちゃうよ~)

 シャルルやセシリアの主な兵装は射撃武器で固められている、あの二人の動きを思い返してみれば簡単そうに銃を撃っているが実際に扱ってみると簡単にと言うわけにはいかない事がよくわかった。

 楯無の言うように射撃特性を持っていれば打鉄に射撃武器を組み込んでもらおうと考えていたがこれでははっきり言ってない方が良い。

 響は自分に射撃の才能が全くない事を頭を垂れた。

「いや、落ち込んでいても仕方ないしここは近接向きだってわかったと思えば問題なしだよね!」

 人気のないアリーナであるため無理矢理ポジティブ思考に切り替えながらピットへと戻りシャワーを浴びる響。最初は汗を流す事ができ気持ちよさそうに息をもらしたのだがそれがため息に思えるほど急に背中が丸くなった。

「もうそろそろ戻らないと……駄目だよね~」

 響は身体を洗いながら同じ部屋で過ごす人物の事を思い出す。

 そもそもこの朝の訓練もその人物と一緒にいる事が気まずくなり肩の調子が戻った日から使用許可をとりなれない生活サイクルに変えたのだ。

「……女の子と一緒の部屋に居るなんて、緊張して落ち着けないよ」

 女だと判明したシャルルと過ごす時間はそれはそれは気まずいモノであった。同じ男であれば何ともないような事でも一度異性だと意識してしまうとがらりと変わってしまう。

(男同士で一緒に居るって事になってるんだからこうして毎朝アリーナのシャワーを使う事もできないし、着替えるときも見ないようにしなきゃいけない。それに……)

 女の子とわかった瞬間から部屋の中が甘い香りで包まれた気がするのだ。

(同じシャンプーとか使ってるはずなのに……あれが女の子の匂いなのかな~……!!)

 特に変な事を考えたわけではないが何故かいけない事を考えてしまったような気分になり響はシャワーのお湯を冷水に変え頭を冷やした。

(心頭滅却、心頭滅却、心頭滅却火もまた涼し!! 変に意識するから駄目なんだ、何事も無かったように振る舞えばきっと大丈夫!!)

 響は心の中で声にならない声を叫び続け、何とか心を落ち着かせる事ができてから部屋へと戻った。

 しかし、その足取りは重く部屋の前についてもなかなか入れずにいた。

「……と、とにかく普段通りに。自分を小動物だと思えば良いんだ」

 右手の人差し指で左手の手の平に小動物という字を何度も書きそれを飲む真似をする響、いつもなら小動物扱いされた時点で膝から崩れ落ちるほどのショックを受けるが今は自分に暗示を掛けるために自ら『小動物小動物小動物小動物……自分は小動物』と連呼していた。

 その涙ぐましい努力が実を結んだのか響の緋色の瞳がどことなく光を失う。

(おれは小動物、踏まれて死んだとしても……本望!!)

 響は自分は小動物という気合いを漲らせ勢いよくドアを開ける、時間的にはご飯を食べに行かなくてはいけない時間だ。つまり、作り話である着替えている場面に出くわす事はない、後は朝練が終わり一緒に朝食を取りに行こうと誘えば流れとしては何の問題もないのだ。

「おはよう、シャルル! 朝ご飯たべ――」

「あ、おはよう、響。朝の訓練終わったんだね、ちょっと待ってて。今髪を梳かしてて、すぐ終わるから」

「…………はい」

 響の計画通りシャルルの着替えシーンを見る事もなく朝の挨拶も無事に済ませた。

 しかし、響は食堂に誘う事ができずただただ小さな声で返事を返すしかできなかった。

(……綺麗だな~)

 暗示を掛けて光を失っていた響の瞳に光が戻る。

 その眼に映ったのは窓から入る日の光に照らされたシャルルの姿、柔らかな陽光がシャルルの金糸を思わせる髪を優しく照らし着ている学園の白い制服がまるで天使の装束のように見えた。

 そして髪を梳かすその仕草は流れるように滑らかなで時折首周りの髪が動く度にその隙間から覗くうなじが健全な色気をかもし出していた。

「………………」

 響はシャルルに見惚れてしまいジッと見つめる、響でなくともこの光景を見れば眼を釘付けにされるだろう。

「お待たせ……響、どうしたの?」

「へっ……ああ! いや、何でもないよ!?」

 シャルルを見てぼーっとしていた事に気づいた響は慌てて誤魔化す。

「そう? それじゃ、ご飯食べに行こ」

「そ、そうだね~。今日も元気にしゅっぱーつ!」

「うん、勉強頑張ろうね!」

 こうして響はシャルルと同室生活を数日過ごした、実際異性と一緒の部屋にいる事に緊張してばかりだったがシャルルが暗い表情をする事はなく本当に『女の子のシャルル』として笑える居場所に慣れているのなら悪くないと心の底では喜んでいるのだった。

 

 

 

 

「今日の授業はここまで、学年別トーナメント向けてIS訓練を行う者はちゃんと許可を取るように」

 千冬は授業を終え今度行われる学年別トーナメントについて簡単に説明していく。クラスの女子達はクラス代表などの試合には出れなかったものの今回は全員にISが貸し出され出場できる、その為なのか教室内に異様な緊張感が漂っていた。

 もっとも原因は学年別トーナメントで優勝したら一夏と付き合う事ができるという噂が女子生徒達の間で流れている為なのだが……当の本人である一夏はその事を知らない。響とまだ女子である事を知られていないシャルルにも秘密になっていた。

(……き、きつかった~)

 しかし、そんな噂に翻弄される女子生徒達の傍らで響はシャルルが女の子である事がばれないよう気を張り続け精神的疲労に倒れていた。

(一夏にも教えた方が良いかもしれないけど抜けてるところがあるからな~、手伝ってもらいたいけど……あぶないよね~)

 一夏にもシャルルが女の子である事は伝えていない、そのせいで色々とはらはらする場面が何度もあった。

 更衣室で一緒に着替えをしよう言ったり汗を流す為にシャワールームに寄って行こうと言ったり、男子では当たり前な連れションに誘ったり等々……響はその場その場で理由を付けて阻止する事に成功したもののこれが毎日では気が持たない。

(もしかして一夏はシャルルが女の子だって気づいてるのかな~……いや、それはないか。篠ノ之さん達とはちゃんと女の子の接し方してるし)

 響はシャルルとの同室に加え一夏のスキンシップから彼女を護らなければならないという二重の重圧に疲れ机に突っ伏した。

(これを三年間か~、機会を見つけて十蔵じいさまや織斑先生に相談した方が良いかも――)

 響は理解ある協力者になってくれるであろう人物達にどう話を切り出したらいいか悩んだがその悩みが一瞬で吹き飛んでしまう様な言葉が耳に入ってきた。

「皇、専用機はどうする?」

「そうですね~、欲しいですけどね~、どうしましょ――専用機!?」

「何を驚いている? この前話しておいただろう。それで方向性は決まったのか」

「え、はい。近接タイプでお願いしようかと……」

「そうか、学園長にそう伝えておこう。だが専用機開発に着手できるのは学年別トーナメントの後だそうだ、おそらく今度の試合で基本的なデータを取る為だろう。それまでは我慢してくれ」

「わ、わかりました~」

「うむ、ではHRを終了する」

 千冬は響の言葉にどこか満足そうに頷き教室を出て行った。それと同時に一夏達が響の元に集まってきた、もちろん千冬の専用機発言が原因だった。

「響、よかったな! お前も専用機準備してもらえて」

「う、うん。そだね~」

「何故、黙っていた? 内緒にするような事でも無かっただろう」

「いや、呼び出されての話だったから内緒なのかなって~」

「何にしてもこれで皇さんも本格的IS操縦に打ち込めますわね」

「うん、それは助かるな~って思う」

 一夏、箒、セシリアに息を付く間もなく話しかけられ響はしどろもどになる。

「でも俺と同じ近接タイプか、専用機が来たら一緒に訓練しようぜ」

「その時は私も参加させてもらおう」

「近接タイプならなおさら射撃タイプの戦闘経験も必要になりますわね」

 一気に三人に話しかけられては聞き取るのも大変だった。

 自分の専用機が用意されるというのに自分以上に喜んでいる姿はどこかおかしかった。

「みんな響の事が大好きなんだよ」

「シャルル?」

 遅れてシャルルも響達の会話に加わる。

「だって、みんなから響の話を聞くとマスコットみたいに思われてる見たいだけど頼もしいって喜んでたよ」

「……頼もしいって言われたの初めてだよ、っていうか何かしたかな~?」

 響は学園での生活を思い出してみるが別段なにか目立つような事をした覚えはなかった。

「うん、確かのほほんさんが書類の束を運んでる時手伝ってくれて助かったっていってたよ。あとは鷹月さんと相川さんもアリーナの整備を代わりにやってくれたって言ってた」

「あ~、そんな事あったかも。でも、のほほんさんは書類の束が崩れそうで危なかったからだし鷹月さんたちはどうしても外せない用事があるとかで急いでたから代わりにやっただけだし……頼りになるとは違うんじゃないかな~?」

 響としては困っている人がいれば手を貸す、そう思っての行動でしかないのだ。

「でも、本当に助けて欲しい時に助けてくれたからだと思うよ。それに今話したい以外にもまだまだあるし」

「そうだぜ響、この前だって俺を助けてくれたしクラス代表対抗戦の時だって助けてくれただろ? 立派な人助けだぞ」

「人助けってそんな……。手伝いたいからやっただけで……褒められるような事じゃないんじゃ」

「それでも、響はみんなを助けてた事に代わりはないから。ここは素直に感謝を受け取ったほうがカッコイイよ?」

「そっか、なら遠慮無く~」

 響は苦笑混じりに笑顔を浮かべる。

 専用機の話からいつの間にか自分の人となりの話になってしまっていた事に気づいて赤らだったが正直専用機について聞かれても話せるような事は少ないので助かったと言えば助かった。

「でも、なんでシャルルはおれの事を聞いて回ってたの~?」

「えっ! あ、それは同じクラスだしルームメイトだからどんな人なのか知っておこうかなって。本当にそれだけだよ!?」

「わ、わかったからそんなに慌てなくても」

「ほんと二人は仲が良いな、今度は俺の事も聞いてみてくれよ。みんなが俺の事どう思ってるのかも気になるし」

「「一夏はキングオブ唐変木だよ」」

「唐変木だな」

「唐変木ですわね」

「何でみんなで声をそろえて言うんだよ!」

「だって……」

「……ねぇ」

 響とシャルルは互いに視線を合わせ箒とセシリアを見た、この二人と二組にいる鈴の恋心に気づいていない時点で一夏の評価はもう固まっている。

「俺が一体何したんだよ」

「この場合は、一夏が特定の人物の思いに気づいていないってことが問題なんじゃないかな?」

「シャルルの言うとおりだな~」

「同じ男だろ、少しは援護してくれよ」

 力なく肩を落とす一夏の姿に響達は笑い声を上げるのだった。

 

 

 

 

「さって、近接戦闘に向いてる事もわかったし早速訓練でも~」

 響は打鉄を展開し『葵』を構えアリーナで訓練を始めようとしていた。

 本来ならフォローしなければならないシャルルの傍にいなければならないのだろうが今は一夏と一緒に授業で使った教材を戻す為資料室にいた。

 自分も付いていくと響も申し出たものの専用機の為の稼働データを少しでも取っておいた方が良いと言われ薦められるままにアリーナに来るしかなかった。

「稼働データって言われても何を取ればいいのかわかんないし……とりあえずブレードの素振りから空中飛行のデータをとれば良いかな~」

 近接戦闘向きだとわかった時、この二つは確実にモノにしなければならない。この二つの基本データを記録しておけばそれ程怒られる事もないだろう。

「何だ、あんたも来たんだ」

 響は他の生徒達の邪魔にならないようアリーナの壁際に避けようとした時後ろから文字通り鈴の鳴るような声が聞こえてきた。

「あ、凰さん」

「一夏から聞いたわよ、やっと専用機を作ってもらえるんだって」

「うん、近接用だよ。射撃も練習したんだけど……一夏より才能ないみたいだし」

 響は苦笑混じりに右手で引き金を弾く真似をしてみせた。

「そんなに気にする事ないわよ、千冬さんみたいに剣一本で世界一になる人だっているんだから」

「それって比べる相手間違えてない?」

 自分はISを操縦できる二人しかいない男の操縦者でも剣道も何も習った事のない一般人、反対に千冬は元から剣の達人である。そこにISが加われば更に差が大きくなるだけだ。

「例えよ例え、でも次のトーナメントまでに間に合わないのは残念ね」

「そうだね~、おれも専用機で戦ってみたかった」

「ま、今は専用機の為の稼働データをを取らないといけないんだろうし頑張んなさいよ!」「わかった~」

 響は自分を激励してくれた鈴にありがとうと声をかけようとしたが突然彼女の表情が強張った。

「?」

 鈴が自分の後ろを見て不機嫌そうにしている為、響も何の気なしに振り向いてみる。

「あっ」

 そこにいたのは同じ組の代表候補生であるセシリアだった。

「あ」

「…………」

 ISスーツに身を包んでいる為自分と同じく訓練する為にアリーナに来たようだが鈴と視線が重なった瞬間空気が変わる。

「……あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」

「奇遇ですわね。わたくしもまったく同じですわ」

「おれは……少し素振りを」

 強張った空気が柔らかくなるかと思い発言してみる、がそんな響を置いてバチバチと火花を散らす二人。繰り広げられる女の戦い。

(争いとはいついかなる時も醜いものである……なんていったら、殺されるかも~)

 響はガタガタと肩を震わせる。

「ちょうどいい機会だし、どっちが上かはっきりさせとくってのも悪くないわね」

「あら、珍しく意見が一致しましたわ。どちらの方がより強くより優雅であるか、この場ではっきりさせようではありませんか」

「ふ、ふふふふ」

「ふふふ、ふふ、ふふふふふ」

「「うふふふふふふふふふふふふふふ」」

(……さ、寒気が!)

 不気味な笑い声をあげながら対峙する二人。

 鈴が双天牙月を、セシリアがスターライトmkⅢを展開し、構える。

(……強さはともかく、優雅さについては最下位決定戦になるだろうな……!)

 ――と、そこへ。

 

 ヴオンッ!

 

「響っ!」

「皇さんっ!」

 響は咄嗟にブレードを振り抜き突如飛来した超音速の砲弾を斬り捨てる。

 弾道を辿ると――否、そんなことをするまでもなく、そこにいるのが誰であるかは分かっている。

 漆黒の装甲、ドイツ製第三世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』、登録操縦者――

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

 怒りの滲んだ、セシリアの声。そして響を庇うように、鈴が前に出る。

「……どういうつもり? いきなりぶっ放すなんて」

 連結した双天牙月を肩に預けながら、鈴は衝撃砲を準戦闘状態へ移行させる。その顔は、獰猛に歪んでいた。

「それも、あたしの友達に向かってなんて。……ぶちのめされても、文句ないわよね?」

「ちょっと鈴さん、それはわたくしの役目ですわよ? 彼女の相手はわたくしがします」

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。……ふん、貴様達に用など無い、下がっていろ!」

「「なんですって?」」

「皇響」

 いきり立つ二人を無視し、ラウラは響を睨みつけた。

「私と戦え」

「…………」

 敵意、憎悪、嫉妬……その眼差しには、様々な負の感情が込められている。

(……なんかすごい怒ってるな~)

 響はラウラに何かしてしまっただろうかと首を傾げるもあの日からなるべく事を起こさないように接してきた……ラウラの怒りを買うような事はしていないはずだが。

「この前の決着を着けてやろう。貴様の力、私に示してみせろ」

「……はあ」

 響はうんざりとした表情を隠そうともせず大きくため息を付く。

(何があったのかはしらないけど、ボーデヴィッヒさんはかなり機嫌が悪いみたいだ。いつも以上に殺気だってる)

「さあ、私と戦え、皇響!」

「やだよ」

「……何故だ」

「何故だって言われても……闘う理由がないよ、だからやだ」

 ましてや怒りに任せた今のラウラと戦ったえば確実に保健室確定重体未満の予感しかしない。

「貴様……」

「そんなに戦いたいなら、あたしが相手してあげるわよ?」

「皇さんの手を煩わせるまでもありませんわ」

「ちょっと二人とも」

 尚も闘志を滾らせるラウラの前に、鈴とセシリアが響を庇うように立ちふさがる。

「駄目だってば」

「……響」

「皇さん……」

「……ふん。専用機を与えられると聞きどれほどの実力を秘めているかと思えば、とんだ臆病者だな」

「………………」

「そんなざまだから、貴様は捨てられるのだ」

「!」

 響はラウラの言葉に眼を細める。

「……わざわざ調べたの? ご苦労様」

「まあ、調べてみたが……記録通りの弱者のようだ。ISに乗れても貴様は何も救えない、何も護れない……」

「護れるように努力はしてるんだけどね~、……とりあえずおれは闘うつもりはないんだ。諦めてよ」

 響はラウラの挑発に耐え何とかこの場を切り抜けようと彼女を宥めようとする。

「そうだな、ならば織斑一夏を排除するだけだ。貴様もそうだがやつも駄馬だという意味では同じだが貴様よりも目障りだからな!」

 ラウラの言葉に鈴とセシリア、二人から濃密な殺気が放たれる。しかしラウラはまるで気にした様子はない。嘲りの笑みを浮かべ、尚も言葉を続ける。

「貴様も織斑一夏も……しょせん、下らぬ種馬と言う事だ」

「……ああ、もういいわ、アンタ」

「そんな汚らわしい言葉を吐き出す口は、力ずくでも閉じさせてあげましょう」

 完全に戦闘態勢に入った二人の前に出てる響。

「駄目駄目! 駄目だってば! 一夏の事も馬鹿にされて怒るのはわかるけどここは我慢して」

 ここにセシリアと鈴が居てくれたお陰で響は冷静さを失っていなかった、怒りの感情は隠せないモノのここで闘ってしまえばそれこそセシリア達も巻き込む事になる。二人を落ち着けようと肩に手を置く。

「……っ! ちょっと、響!?」

「あそこまで言われて、黙っていろと!?」

「うん」

 力を込めて、強く言う。

 響の言葉に、二人が俯く。その肩は怒りに震えており、歯を噛み締める音が、大きく響いた。

「……ああ、もう……! あんたって子はっ……!!」

「皇さん、わたくしはっ……!!」

 響の様子に、納得行かないながらも二人は引き下がる。

 ――その目尻に浮かんだ涙が、不謹慎にも、嬉しく感じた響。

「ごめんよ、二人とも~」

「謝るなっ! ぶん殴るわよ!?」

「え、じゃあ……ありがとう?」

 響は二人の怒りを静めるため笑みを浮かべる。響が戦意を治めれば二人も手出しできないだろう。

「そんな言葉が欲しいわけではありませんわ……!!」

「……ごめんなさい」

 笑って見せたが逆効果だったらしく結局謝る事になった響は肩を落とす。

「ふん……とんだ茶番だな。そうやっていれば誤魔化せるとでも思っているのか? 卑怯者が」

 ラウラがそう言うと、『シュヴァルツェア・レーゲン』のレールカノンが響を狙った。

 

 ――警告。ロックオンを確認。

 

「なら、そのまま消えろ」

「……!」

 至近距離からの発砲。並のISならば一撃で墜とすほどの砲弾を、響は再びブレードで切り払う。

「ふん、剣だけは達者だな。ならば――」

 三度装填される砲弾。響は小剣を構え――ようとして、身体が動かないことに気付いた。

「これ一夏の時と同じ!」

「所詮は訓練機。教官ほどの実力があるならばともかく、この『シュヴァルツェア・レーゲン』の敵ではない」

 ――解析完了。第三世代型兵器、AICアクティブ・イナーシャル・キャンセラーと判明。対象の慣性を停止させ、動きを封じる特殊兵装――

「なるほど……ドイツ政府のお手製ってこと」

 見えない何かに身体を固定さている感覚に戸惑いながらも状況分析に入る響。

(ボーデヴィッヒさんは俺に向けて右手を突き出してる。……AICの発動には必要な動作って事か)

「貴様など、この停止結界の前には無力だ」

 ガコン、と、レールカノンの装填音が響く。

 ――その音に、セシリアが銃を構える音が重なっていることに、ラウラは気付いていないようだった。

「消えろ」

「…………」

 

 ゴウンッ!!

 

 重々しい炸裂音。セシリアのライフルが火を噴き、レールカノンの銃口をそらした音が響く。

「なにっ……!?」

「助かったよ、オルコットさん」

「そんな事より来ますわよ!!」

 AIC――ラウラ曰わく停止結界は、確かに強力な兵器だが、何事にも限界はある。IS単体を止める事ができてもそれ以外の現象が襲いかかってきたらそれを止める事はできないらしい。

 停止結界の束縛を引き千切り、ラウラに肉迫する響。

「さあ、来いっ!」

「二人とも、絶対に手出しは駄目だよ! おれが狙いみたいだしね!!」

 こうなってはもう闘うしかない、響はセシリアと鈴に手を出さないよう止めつつラウラへと立ち向かう。

 『シュヴァルツェア・レーゲン』の両腕に取り付けられた袖のようなパーツから、高熱のプラズマ刃が伸びる。

 接近戦用の武装。それを、ジャブのように鋭く突き出して来た。

「ふぅ!」

 『葵』でラウラの攻撃を捌きながら素早く横に回避する響。するとプラズマ刃の間合いから逃れた響に向け、鋭い刃が付いたワイヤーが射出された。

 その数、六。

「逃がさんっ!」

「くっ!!」

 複雑な機動を描いて自分を囲うワイヤーのいくつかを弾くが所詮は素人、苦もなくワイヤーに拘束される。

(やっぱり、勝てそうにないや……でも!)

 響はワイヤーを使って投げ飛ばされる前にラウラと距離を詰める、瞬時加速であれば一瞬で距離を詰めれただろうが響にはまだ使いこなせていない。

「どうした! その程度の動きでは私に近づく事すらできんぞ!!」

 ラウラは自分と響の実力差を完全に把握したのか口元を歪め瞬時加速で後退しながら響を宙へと振り回す。

「うわっ!」

「それ! 受け身くらい取ってみろ!!」

 ラウラはかんに障る笑い声を上げながら響をアリーナのフィールドへと叩きつけた。

 

 

――――――――――

 

 

 

「一夏、今日も響と一緒に放課後は訓練だよね?」

「ああ、もちろんだ。……ええっと、今日開いてるのは――」

「第三アリーナだ」

「「うわぁっ!?」」

 廊下を並んで歩いている一夏とシャルルは揃って声を上げた。

「……そんなに驚くほどのことか。失礼だぞ」

 声の発信元は、いつの間にか横に並んでいた箒だった。声色通り不機嫌そうな顔で、二人を睨んでいる。

「お、おう、すまん」

「ご、ごめんなさい。居るって気づかなくて……」

「あ、いや、別に責めているわけではないのだが……」

 折り目正しくぺこりと頭を下げるシャルルに、さすがの箒も気勢を削がれてしまったようだ。咳払いを一つして、表情を少しだけ和らげた。

「こほん。ともかく、だ。第三アリーナへ行くぞ。今日は使用人数が少ないと聞いている、空間が空いていれば模擬戦も出来るだろう」

「やっぱり模擬戦は実戦に近い経験値が得られるからな、強くなるなら一番の訓練法だろうし」

 しかし、廊下が慌ただし事に気づく一夏。それも、アリーナに近付くにつれて騒がしさが増している事に疑問が強まる。

「なんなんだ? いったい」

「アリーナで何かあったのかな? 先に様子を見ていく? 観客席ならすぐに行けるけど」

「……そうだな、入っていきなり揉め事に巻き込まれでもしたらかなわないし」

「ふむ。この音、どうやら誰かが模擬戦をしているようだな。しかしそれだけにしては随分――」

 ヴオンッ!

「あれは……!」

 そう、アリーナで戦っていたのは響だった。そして、その相手は――

「どうした、もう終わりか――!」

「ラウラ!?」

 あの漆黒の装甲、長い銀髪、左目を覆う眼帯……見間違えようがない、俺と響を敵視している転校生、ラウラ・ボーディヴィッヒだ。

 いつもの氷のような鉄面皮に禍々しさすら感じる笑みが浮かんでいた。

「弱すぎるぞ、皇響っ!」

「当たり前だよ……こっちは、素人だもん……!」

 対する響は、苦悶の表情を浮かべラウラの攻撃を避け続けている。

「はあぁぁぁっ!」

 ラウラが操るIS、シュヴァルツェア・レーゲンから、ワイヤー状のブレードが射出される。

 複雑に動き回りながら迫るそれを、響は回避できず動きを止められ大型のレールカノンのシリンダーが回転し、砲弾が連射される。

「がはっ!」

 その全てが響に直撃しシールド・エネルギーを大幅に削っていく。

「響!!」

 響とラウラの模擬戦は最早一方的な暴力だった、防御能力に秀でている打鉄の装甲はほんの僅かしか残っておらずいつ絶対防御が発動してもおかしくない状態にまで破壊されていた。

「こ……のっ!」

 響は限界に近い打鉄の力を借り『葵』を振り下ろすがラウラが右手を響に向ける。

 それが何を意味するのかは分からないが、響の動きが完全に停止する。

「AICだよ、ドイツの第三世代兵器。見ての通り動きを止めちゃうんだ」

「それじゃ、攻撃できないじゃないか!?」

「それより、何故セシリア達は助けに入らないのだ」

 箒は眉を寄せながらフィールド内で黙って立っているセシリア達に疑問を抱く。

「おい、鈴! セシリア! 何やってんだよ」

「「一夏(さん」」)

 オープンチャネルで二人に大声を上げる一夏、そんな彼の怒りを感じ取ったのか二人は唇を噛みしめる。

「代表候補生が相手じゃ、ましてや響は俺と対して変わらない素人だぞ! 何で黙ってみてるんだよ!!」

「仕方ないじゃない!! 響が、あいつが手を出すなっていうんじゃさ!!」

「響が!?」

「ええ、私達が代わりに彼女と闘おうとしたのですが……自分が狙われているからと」

「響の奴……」

 ラウラが名指しで響を指名した事は事実である。他人が巻き込まれるのを好まない響にとっては、二人を闘わせまいとする考えは当然の判断だろう。

 ――それを見て、ラウラがニヤリと笑った。

「これで――!」

「わああっ!?」

 響の両足にワイヤーを伸ばし、絡める。そしてそれを、振り子のように勢いを付け――

「うわああああっ!」

 アリーナの壁目掛けて、投げ飛ばした。

 さらにはレールカノンを向け、躊躇うことなく発射。響は転がるようにその弾丸を躱すがそれでも動きは鈍い。

「――おそいな」

「……ぐっ!」

 瞬時加速で間合いを詰めたラウラが右手をかざすと、響の動きが止まる。

 何が起きたのかは分から無かったが、ラウラが響に何かを仕掛けたのは確かだった。

 ――そして響の顔面に銃口を突きつけ撃ち抜こうとしているということだけだった。

「――おおおおっ!!」

 一夏の中で、ナニカが切れた。

 白式を展開、同時に零落白夜と瞬時加速を発動、アリーナを覆う遮断シールドを切り開き、中に飛び込む。

 未だかつてない速さで行われた一連の動き、それは危機に瀕した響を助けようとする意志が一夏の素質を一時的に引き出したともいえる。

 だが、それでも間に合わない。

 レールカノンの砲弾が装填され、響は動くことが出来ず、ラウラが口元を歪ませ――

「――そこまで!!」

 ――世界が凍り付いたように停止した。

 無論、そんなものは錯覚だ。止まったのは世界ではなく、一夏とラウラだった。

 では何故、二人はは止まったのか?

 簡単だ、それは声と共にアリーナを満たすような殺気が二人を襲ったからだ。その殺気を放った人物は織斑千冬……世界最強のIS乗りだった。

 千冬が響達の元へ歩み寄ると同時に響の拘束が解かれ溶け一夏とラウラの硬直も解けた。

「ガキの喧嘩と思って黙って見ていたが、遮断シールドまで破られては放ってはおけん。決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 呆れているというより、苛立っているような表情の千冬の言葉。余波にあてられただけの一夏と違い、直接向けられたラウラはまだ茫然としていたが、千冬の言葉で正気に戻った。

「はっ……教官が、そう仰るのなら」

 しかしそれもまだ完全ではないようだった。

 俯くラウラに構わず、千冬がアリーナ中に聞こえるように大声で言った。

「そう何度もこんなことをされてはたまらん。学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。分かったな? では、解散!!」

 パンッ! と千冬姉は強く手を叩き、去っていった。ラウラも、心ここに在らずといった様子で去っていく。

「……そうだ、響! 大丈夫か!?」

「……いち、か……? かっこ悪いとこ見せちゃった……。でも、打鉄のおかげで無事みたい……」

 ISを解除した響が、地面に座り込み近づいてきた一夏達に力のない笑みを見せる。

「どこがだよ、ボロボロじゃないか」

「動けるから……心配ないよ~」

「おまえなあ」

 強がりを言えるだけの余裕がある事に安心する一夏だったがすぐに響に問い詰める。

「いったいどうして……どういうことだよ? なにがあったんだ?」

「それは……」

 と、そこへ、近付いてくる二人の姿を見つけた。

「あいつ、いきなりケンカふっかけてきたのよ」

「鈴……」

 なにやらもの凄く怒ってる鈴とセシリアだ。

「いきなりって……いきなりか?」

「色々言ってましたわ。口にするのもおぞましいようなことを」

 気になった一夏だったが、訊かない方が良さそうな雰囲気に息を呑む。それくらい二人は殺気立っていた。

「皇! 無事か?」

「響、大丈夫!?」

「何とか~……」

 箒とシャルルも駆けつけ、よろめきながら立ち上がる響を支えるシャルル。

「どこが大丈夫なのさ、立ってるのも大変そうだよ」

「……全身打撲かな~」

「……とにかく、もうあがりましょう。皇さんを保健室へお連れしなくては」

「そうね。このまま訓練しても荒れそうだわ、あたし」

 そして据わった目で言う二人がかなり怖い。

(……本当になにがあったんだ?)

 一夏はそれ以上問いただす事ができずに響を保健室に送る事しかできなかった。

 

 




 毎回、誤字脱字が有る……今回もきっと気づかないだけであるんだろうな~と思いつつ投稿しまっす
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