IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道 作:エヴァンジル
「皇君の『打鉄』、ダメージレベルB+です。修復の方はトーナメントまでに間に合うとは思いますが……」
「そうですか~、なら大丈夫ですね~」
「皇君!!」
保健室のベッドの上で響は真耶にお説教を受けていた。
お説教とはいっても真耶に千冬程の迫力はなく注意を受けていると言った感じだった。
「織斑先生がもう少し制止にはいるのが遅かったら危ないところだったんですよ!」
「ですね~。でも、打鉄の修理が間に合うならべ――」
「問題はそこじゃありません! 皇君の方が重傷と言っても良いんですよ!!」
打鉄の修理はトーナメントまでに間に合うもののシールド防御を突き抜けて受けたダメージの方が深刻だった、骨が折れ内臓が破裂したわけではないが全身打撲で全治一ヶ月……早く治ると仮定してもトーナメントの開始までには間に合わない。
「ISの状態もそうですが皇君の身体の事も考えるとトーナメントへの参加は棄権した方が良いですね」
「そんな――」
「無理はいけません、本当はこうやって話しているのも辛いはずです。そうですよね?」
「………………」
図星を突かれたのか響は真耶の問いかけに答える事ができなかった。
「織斑先生には私から伝えておきますから……今はゆっくり休んでくださいね」
「……はい」
今の自分にできる事はそう答える事だけだった。
痛みのせいでベッドから起き上がるのも難しい身体でラウラと闘う事などできないことはわかっている、身体と『打鉄』が万全だったとしても勝ち目はほとんどない事も……。 一方的に痛めつけられる事は明白、それでも……。
響は歯を食いしばり保健室を出て行く真耶を見送る、そんな様子を見ていた一夏達は辛辣な表情を浮かべる響を励ます。
「響、あいつの事は俺に任せてくれ」
「一夏……」
「元はと言えば俺のせいみたいなもんだからな、今度の学年別トーナメントで敵を討ってやる」
一夏は張った胸を力強く叩く。
「あたしもやるわよ、もう我慢の限界だしね」
「そうですわね、彼女と対戦する事になれば手加減はいたしませんわ」
アリーナでのラウラの暴言を思い出してか鈴とセシリアの表情が一気に険しくなる。
「僕も当たる事があったら全力で闘うよ、だから響は身体の事を考えて。……悔しいかもしれないけど」
「……うん」
シャルルの言葉にまるで自分の心の内を見透かされたような感覚を覚えた響、彼女の前では余り隠し事ができないかもしれないと苦笑をもらす。
「シャルルの言う通り『今』は大人しくしておくよ~」
真耶との問答で知らないうちに力が入っていた事に気づき響は大きく息を吐き身体から力を抜いた。
自分の身体を心配してくれるシャルル達の気持ちは嬉しいもののそれでも闘う事を止められたのは少しだけ納得できなかった。
――自分が闘わなくてはいけない勝負を誰かが闘う事が
――自分が弱いせいで誰かが傷つく事が
――自分が逃げれば何も護れなくなる事が
「(……もっと、頑張らないとだね~)」
今の自分では自分の身を守る事すらままならない、それが実証されてしまった事実から眼を背けることなく向き合う響。その表情に怯えはなく、怖じ気づいた様子もなくただ事実として受け止めた。
「駄目だよ、今は身体を直さなきゃなんだから」
シャルルは困ったような表情を浮かべながら響の頭を優しく撫でる。
「……声に出てた?」
「うん、ばっちり」
シャルルの言葉に一夏達も苦笑しながら頷いて見せた。
「……大人しくしてます~」
「うん、響は素直だね」
「今のは素直とは違うんじゃないか……?」
ふと、何かに気づいたのか一夏が保健室の棚を見つめる。
「どうかしたの、一夏~?」
「いや、……なんか揺れてるような気がしてな」
「揺れる?」
「ほら」
一夏は棚に置いてある薬の瓶を指さす、彼の言うとおり棚に並べられている瓶がカタカタと音を鳴らし揺れている事がわかった。
「地震かしら?」
「それにしてはなんと言いますか……妙じゃありませんこと? 揺れが一定のリズムですわ」
「そうだね……それに」
シャルルは微かに揺れる瓶から保健室のドアへ眼を向ける。
「扉の外から音が聞こえるような気が……」
「そうだね~、一夏……ちょっと見てみてよ~」
「ああ、わかった――!?」
響に言われ一夏は保健室のドアを開け様子を見ようとしたが背筋に悪寒が走り本能的に扉から飛び退いた。
ドドドドドドドドドドド……ドガアアアアアン!!
「な、なんだ~!」
地響きと共に扉が蹴破られたと思った瞬間、破られた入り口から多数の女子生徒達が保健室になだれ込んできた。
響は疑問の声を上げたがその声をかき消すように女子達が一斉に声を張り上げる。
「織斑君!」
「皇君!」
「デュノア君!」
「「「は、はい!?」」」
「「「「私と組んで!」」」」
「「「…………は?」」」
いきなりな言葉と状況をいまいち理解できていない響達に、女子一同(百人くらいはいそうだ)が学内の緊急告知文が書かれた申込書を突き出してきた。
その申込書を代表者として一夏が受け取る。
「な、なになに……?」
「『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは――』」
「ああ、そこまででいいから! と・に・か・くっ!」
ざざっ! と一斉に響達の眼前に手が伸びてくる。
「私と組もう、織斑君!」
「私が面倒見てあげる、皇君!」
「私と組んで、デュノア君!」
一人だけ申し込み方が違う事に一夏とシャルルは気づいたがそこはスルーする事にしたのか一切触れなかった。
それはさておき、学年別トーナメントの仕様変更があったかは分からないが、今こうして取り囲まれている理由はわかった。学園で三人しかいない男子とペアを組むべく、先手必勝とばかりに突撃してきたのだろう。
「え、えっと……」
しかし、シャルルは本当は女の子なのだ。誰かと組めば当然その人と訓練する時間が増えるだろうし、いつどこで正体がバレてしまうとも限らない。
(これはまずいかも~)
自分は真耶から参加を止められてしまった為、シャルルとペアを組む事はできない。真耶に黙って参加しようとしても肝心のシャルルから止められてしまうだろう。
(ここはどう切り抜けたらいいのかな~……)
もし女子と組めば同じ女の子である以上ふとした仕草で正体がばれてしまう可能性が非常に高い、かといって一夏と組めば今まで頑張って阻止してきた男なら当たり前のやり取りを彼の前でしなくてはならない。
(うぅ、こんな時に怪我してるなんて……頼ってくれて良いなんて言ったのに役に立ててないよぉ~)
響は心の中で見えない涙を流しながらも何とかこの状況を打破できないかと必死に考えていたがその答えが出る前に一夏が行動に移った。
「すまん、みんな! 今回はシャルルと組むからさ」
「え、い、一夏!?」
一夏の行動は至極当然だった、三人しかいない男子の中で一人が怪我をしてしまっては組める人物は一人しかいない。
「響もこの通り怪我してるし、人数も丁度良いしさ……今回は男同士で組もうと思うんだ。シャルルもそれでいいだろ?」
「え、えっと……」
シャルルは困惑した表情を浮かべ響に助けを求める。とはいえ、響もこんな状況になるとは思っていなかった為どう応えたらいいかわからなかったが一夏が言い出してしまった以上断れない、そもそも男としての立場であれば断る理由がないのだ。
「そうしなさいよ、シャルル。今回は譲ってあげる」
「そうですわね、一夏さんにも色々頑張っていただかなければなりませんし」
「そう言われても……僕は……その……」
「頼む、シャルル! 俺はどうしても勝ちたい相手がいるんだ! この通り!!」
一夏は両手を合わせて頭を下げた。
「「………………」」
響とシャルルは一夏の勝ちたい相手が誰なのか察しが付いていた。
一夏の勝ちたいという相手は間違いなくあのラウラ・ボーデヴィッヒに違いない、第三アリーナでの騒動で負けてしまった自分の敵を取るべくシャルルにペアを申し込んだのだろう。
一夏の中ではシャルルは男、ここで女子と組みラウラとの闘いで無用な被害を出したくないと彼なりに考えた末の提案なのだろう。
「……わかったよ、僕もどうしても闘いたい相手がいるしね」
「サンキュー、シャルル! 恩に着るぜ!!」
「そう言うわけだからあんた達も他のメンツと組みなさいよ」
どことなく残念そうにしている鈴の言葉に女子達は大きく肩を落とした……が、各々が様々な反応を見せていた。
「まあ、こういう事なら仕方ないかぁ……」
「他の女子と組まれるよりはいいし……」
「男同士っていうのも絵になrゲフンゲフン」
とりあえず納得してくれたようだ。……なんか一人眼が怖かったが。
「話も決まった事だし散った散った、ここは保健室なんだし騒いじゃったら織斑先生に怒られるし響の傷にも響くわよ」
「そうですわね、では私達もおいとましましょう。なんだかんだで話し込んでしまいましたし」
「そうだな、俺も食堂に行くかな。鈴達も一緒にどうだ?」
「もちろん行くわよ!」
「ご一緒しますわ!」
「「「「「「私達も行くー!」」」」」」
一夏の一声で女子生徒で一杯だった保健室から一気に人がいなくなった。残されたのは響とシャルルだけ。
「みんな元気だな~」
「うん、凄いパワーだね。僕も見習わなくちゃ」
恋に恋する乙女、それはどんな時でも想い人が近くにいれば普段ではあり得ない程の力を引き出す。鈴やセシリア、そしてその後を付いていった女子生徒達……学年別トーナメントは思っていた以上に強敵揃いである事を響だけでなくシャルルも理解したのだった。
「……なんだ、今のは」
そんな女子達と入れ替わるように保健室の中に入ってきたのは千冬だった。
保健室の壊れたドアを見て鋭い視線を響達に向ける。
「コレをやったのはさっきの奴等か?」
「は、はい!」
「そうです、僕達じゃありません!!」
「なら良い、このドアの件は後で処理する事にしよう。それより……デュノア」
「はい、織斑先生」
シャルルは千冬に名指しされ背筋を伸ばす、僅かに震えている様子を見るとやはり代表候補生といえど圧倒的な恐怖の前では一人の人間でしかない。
「皇に話がある、お前は先に帰れ。話が終われば私が部屋まで送る」
「わ、わかりました。それじゃね、響」
シャルルはベッドの近くに置いてあった鞄を手に取り響に耳打ちするように声をかける。
(ご飯は食堂からもらっておくから)
(ありがと~)
(気にしないで、あと……最後まで頑張って)
(……うん、がんばるよ~……)
短い時間でのやりとりだったが響は夕食の心配をしなくてすんだ安心感と今から訪れる千冬のお説教タイムに恐怖するという何とも矛盾した心境に何とも言えなくなった。
「失礼します」
「うむ」
響は千冬と二人きりという危険地帯に身を置いていた。
心臓が早いリズムを刻み額から汗がしたたり落ちる、さっきまで感じていた痛みは極度の緊張で麻痺してしまったのか上体を起こしても微塵も感じない……これが精神が肉体を凌駕したと言うやつのなだろうか?
「そう硬くなるな、ただ学年別トーナメントの参加確認をしに来ただけだ」
「えっ?」
身体から一気に緊張感が抜けていくのを感じた。
参加も何も真耶には参加しない方が良いと言われ千冬にもそう伝えておくと言われたばかりだったからだ。
「あの~、山田先生から出ない方が良いって言われたんですけど……」
「それは聞いた。しかし、本心ではどうなのだ? 私の感が正しければお前は止められたくらいで出場する事を諦めるとは思えん……特に今回はな」
「…………それは」
「ボーデヴィッヒと戦いたい、と言うのが本音だろう」
千冬は響とラウラの闘いを見ていた。
何故、戦う事になったのかはわからない。しかし、あそこで戦いたくなかったのならラウラが闘いを始める前にISを解除するかアリーナを出るかすれば良かった。それをしなかったのは響の中で少しでも早く強くなりたいという焦りと今の自分の力が一体何処まで通用するのかという明確な答えが欲しかったからだろう。
「今のお前では絶対に勝てん、あいつの実力は間違いなく学年最強だ」
「それでもおれは……逃げたくないです」
「相手との実力差をしり退く事も戦いだぞ?」
「それもわかってます、でも……」
響は緋色の瞳に険しい表情を浮かべる千冬の顔を移す。
「逃げるのは……いつだってできる。実力差を認めるしかないくらい差がある事もわかってる」
真っ直ぐに眼を逸らすことなく千冬の視線を受け止め口を開く響。
「それでもきっと今度はおれの戦いだと思うから……だから、戦いたいんです」
「お前の闘い、か」
「はい」
ラウラは自分だけでなく一夏に対しても褒められるような態度を取っていない。アリーナで自分に見せた怒りや憎しみ、負の感情をぶつけていた……そしてそれが自分に向けられた、一夏ではなく自分に。
彼女が一夏よりも先に自分を狙ってきたのは間違いなく数日前のいざこざが原因だろう。一夏との私闘の邪魔をした事で彼女の優先順位が変わったに違いない、事ある事に邪魔が入るのならその邪魔をする者から排除すればいいと。
「今のボーデヴィッヒさんの狙いはおれです、おれが負ければ絶対に一夏は戦っちゃうと思うんです。そうなれば一夏が傷つく事になるしそれに篠ノ之さん達も心配するだろうし……」
「それはそうだな、気が狂ったかとしか思えないがあいつらはうちの弟に熱を上げている。お前が言ったような事になるだろうな」
(……一夏には人一倍厳しいな~……、やっぱり心配してるんだろうな~)
いつの間にか学園の教師から一人の姉の姿に戻っている千冬にここにはいない家族の姿を重ねる。
心配性な父にやってみれば何とかなると行動派な母、そしてたいした取り柄もない自分を兄と慕ってくれるしっかり者の妹……こうしてみるとどんな状況と立場に置かれても家族が傍にいるのは良い事なのだと教えられる。
「どうした、皇?」
「あ、いえ、何でもないです~!」
知らず知らずのうちに千冬を見つめていた事に気づき慌てて両手を振る響。
「とにかく、話をまとめれば皇は参加の意思ありと言う事で良いか?」
「はい。でも、パートナーはどうすれば~」
今の自分の状態で一緒に出てくれと頼んでも止められるだろう。そうでなくても真耶には止められた、いくら千冬がこの学園に置けるIS指揮の全権を託されているとは言え常識的に考えれば反対意見多数で押し切られる可能性の方が高い。
「そこは気にしなくて良い、私の方で何とかしておく。参加の方も納得させておいてやる」
「あ、ありがとうございます~」
「なに、お前なら……と。勝手な期待を掛けているだけだ」
「……期待に応えられるように頑張ります」
「ああ、だが無茶はしすぎるなよ。変に心配するのは一夏だけで充分だ」
「あはは」
響は千冬の姉発言に苦笑をもらすのだった。
保健室で学年別トーナメントへの参加を再進言した後、響は緊張から解放されまた痛み出した身体に鞭をうちシャルルがいる自室へと戻った。
シャルルが用意してくれておいた食事を食べ終えた響はさっそく机の前に座りパソコンの画面を起動させる。
「響、話って何かな?」
「うん、ボーデヴィッヒさんのISの事なんだけどね~」
自分も参加する事がばれないようにしなければまたいらない心配を掛けてしまうかもしれない、シャルルは人の変化に敏感な所があるので参加辞退したような演技をすれば……と思い早速行動に移す事にした。
「AICだっけ? あれの対処方法がいくつか思いついたから今の内に伝えておこうかなと思って~」
「すごいね、何度も見たわけじゃないのに……」
「何度もくらったけどね~」
眼に見えるような拘束ではない、それに対処方法が思いついたと言ってもどれだけ通用するかもわからないのだ。今の自分に言える事があるとすれば実際に体験した事を仮定として打開策を思い浮かべる事くらいだ。
「あれって動きを止める凄い機能なんだけど、戦ってみて思ったのは一対一じゃないと使えないと思うんだ~」
「一対一じゃないと使えない?」
「うん」
響はラウラがAICを使ったときの状況を思い出す。
「多分だけどあのシステムを使うときは凄い集中力が必要なんだと思う。それも目の前の相手しか眼に入らないって言うくらいに」
最初に使って見せた時、ラウラは一夏の動きに集中し背後から近づいていた自分に気づかなかった。しかもそのシステムを使って自分の攻撃を止めなかった。
多人数相手でも使う事ができたなら避ける必要はない、それに加え自分と戦ったときもすぐ傍にいたはずのセシリアの銃を構える動きに気づかなかった。その結果、レールカノンによる射撃をくらう前にセシリアの近距離狙撃によって難を逃れたのだ。
「だからこの弱点をふまえて思いついたのは二つ。一つは今回のタッグマッチ戦におけるパートナーとのコンビプレー」
一対一での戦闘を前提にしている機能なら複数の攻撃に対応する事はできない、ならそこに二対一という状況で攻撃を仕掛ければAICの使用をかなり制限できることになる。防御の面でも一人が身動きできない状態になったとしてももう一人が攻撃を仕掛ければ必然的に解除できる。
「それを繰り返せば充分対応できると思う、とはいってもこの方法はあくまで二対一でのことだから」
「そうだね、相手チームも二人いるし簡単にはできないよ」
「そうなると残る手段としてはAIC発動直前に瞬時加速して高速移動による攪乱……くらいしかないかな~って」
ラウラのあの右手を突き出しポーズが発動に必要な仕草なのかはわからない、しかしモチベーションを高めるといった意味では有効であるのだろう。そんな状況でも自分の集中力を高めるほうほうがあるのは地味なように思えてかなり重要な事だ。
「おれは瞬時加速を思うようにできないから厳しいけどシャルルはどうなの~?」
「僕はやった事はないけど何回か見た事あるよ、多分できると思う」
「そうなると、もしボーデヴィッヒさんと一対一の状況になってもシャルルと一夏は大丈夫そうだね~。一夏には『零落白夜』があるしシャルルには……えっと、武器を高速切り替えできるし近接から遠距離、遠距離から近接ってかえてけば良い感じかも~」
自分が思いついたのかこれくらいだがかなり効果が期待できると思っている、何しろ実際に戦って効果を体験しボロボロにされたのだ。信憑性は高い……色んな意味で。
「こんな事しかできないけど一夏と訓練するときにでも役立ててよ~」
響は参加しないていで話を進めたが心の中はその反対だった。
今回も何もできずに終わらせるつもりはない。
シャルルや一夏達に心配を掛ける事になるのもわかっている、それでも今度の事は自分がやらなければならないのだ。負ける事になっても勝てないとわかっていても逃げる事だけはしたくない。
「ありがとう、響。響ってやっぱり優しいね」
そう言ってはにかむシャルルから眼をそらす響。
「………………」
「? どうしたの?」
「い、いや、ただ、シャルルは笑うと可愛いいから思わず見とれたというか~……?」
「……え、えぇ!? か、可愛い? 僕が……? ほ、本当に? ウソついてない?」
「嘘じゃないよ……ていうか、なんでそんなに自信なさげなの~?」
「え? だ、だって……僕って男口調だし、自分のこと『僕』って言うし……」
「別にそれは大したことじゃないんじゃ~?」
「え、そうなの?」
「むしろ似合ってると思うよ。ほら、ボーイッシュとか僕っ娘とかいう女の人もいるって言うし……口調とかそんなに気にしなくて良いと思うけど」
「うん……そうだね、響がそう言うなら」
シャルルも大分前向きになってきた事に響は嬉しく思いながらパソコンの電源を落とす。
「は、話したい事も話したしおれはもう寝るよ~」
気まずくはなかったがなんともこそばゆい心境になり響は照れた顔を隠すようにベッドに横になる。
「それじゃ、僕も」
シャルルも響に続くように自分のベッドに横になる、時間的にも丁度良い頃合いだったようで消灯時間が近づいていた。
「シャルル、おやすみ~」
「おやすみ、響」
それだけ言い残すと響の安らかな寝息がシャルルの耳に届く。
「もう寝ちゃったの?」
まるで子供のように眠る響の姿に笑みが溢れるシャルル。
(ふふ……ベッドに入ってすぐに寝ちゃうなんて子供みたいだね、響は)
「……すー……すー…………うにゅ……」
(うにゅ、って……かわいいな~響は……でも、子供っぽく見えても頼りがいがあるよね)
女である事を打ち明けた時も、こうして怪我をしても自分にできる最大限のサポートをしてくれる響は何の躊躇もなく自分の事を助けてくれる。。
「響……ありがとう」
シャルルは音を立てないようベッドから起き上がり響の額に柔らかな唇で優しくキスをする。
(……思わずしちゃったけど、は、恥ずかしいな。ぼ、僕も寝よう!)
自分のした事の大胆さに気づき熱くなった頬を両手で押さえるシャルル、シャルルは自分のベッドに戻ろうとしたときふと立ち止まった。
(……その前に寝顔の写真撮って良いかな?)
シャルルはベッドの傍に置いてあった携帯電話を取り出し響を起こさないようたった一人で静かに撮影会を開始したのだった。
六月の最後の週。今日から一週間かけて、学年別トーナメントが行われる。
その慌ただしさは生徒達の予想を遥かに超えていて、今こうして第一回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場整理、来賓の誘導を行っていた。
「ここまで手が込んでるとは思ってなかったな……」
更衣室で着替えながら一夏はモニターに映る観客席の様子を見る。そこには各国政府関係者やら研究所員やら企業エージェントやらが大勢集まっていて、パンフレット片手にあれこれと話をしている。
「三年生にはスカウト、二年生には一年間の成果の確認、それに一年生は、将来有望な人材のチェック。優秀なIS操縦者はどこも喉から手が出るくらい欲しいだろうからね、学年別トーナメントは」
「いろいろ大変なんだな」
あんまり興味がないのか話半分で聞いていたので、一夏の返事もおざなりだった。
「……ボーデヴィッヒさんとの対戦が気になる?」
「……正直に言えばな」
怒り、憎しみ、敵意、妬み……その矛先が自分ではなく響に向いた。それは一夏にとって望まない戦いを仕掛けられる事よりも心が揺さぶられる、自分のせいで誰かが傷つく事の方が辛い……これは響と一夏の共通点と言っても良いだろう。
(今度は俺が相手になってやるぜ、ラウラ・ボーデヴィッヒ!!)
「彼女はおそらく、一年生の中では最強だと思う。必ず勝ち上がってくるよ」
「……確かに、それは間違いないだろうな」
「この前のあの猛攻、二人がかりでもくぐり抜けるのは至難の業だね」
確かにシャルルの分析は的確なモノだった。
代表候補生の中でも頭一つ分抜けた実力に、AICという第三世代兵器を搭載しているIS……手を抜いて戦っていたと言っても響も良く持ちこたえられたといっていい。
「……そろそろ、対戦表が決まるころかな」
突然のタッグ戦への変更により、今まで使っていた対戦表作成システムが正しく機能しなかったらしい。なので今朝から生徒たちが手作りによる抽選クジで対戦表を作っていた。
「一年の部、Aブロック一回戦二組目なんて運がないよな」
「え? どうして?」
「面倒事は早く終わらせてたいんだ、それに響の様子も気になるしな」
「そうだね」
ペアが決まってから今日まで二人で何度も特訓を重ねてきたことで、お互いの性格や考え方はかなり把握出来ている。その訓練でシャルルも、一夏の何気ない気配りがあるところも分かってくれているようだ。
(それで篠ノ之さん達の思いには気づかないんだろうね)
シャルルは苦笑をもらす。
「あ、対戦相手が決まったみたい」
モニターがトーナメント表に切り替わった。一夏とシャルルは、そこに表示された対戦相手を確認し――
「な、なんだよ……これ」
「……そ……そん、な……」
映し出された対戦表、その一回戦一組目の構図に一夏は戸惑いを隠せずシャルルも絶句した。
発表されたトーナメント表。
一年の部、Aブロック一回戦一組目。ラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之箒ペア対――
――皇響。
一夏やシャルルだけでなくこれを見た一学年生徒達全員が自分達の眼を疑ったのだった。
IS二期アニメがあと少しで終わってしまう。
そんな時期に投稿です・w・