IS〈インフィニット・ストラトス〉 剥奪人形の選ぶ道 作:エヴァンジル
――ピットA待機室。
「どうなってるんだよ、千冬ね――」
スッパアァァン!!
「織斑先生と呼べと言っているだろう」
「……はい、織斑先生」
恒例となりつつある一夏と千冬の触れ合いは如何なる場所でもどんな緊急事態でも見る事ができるいつもの光景ではあった、だが今はそんな微笑ましいような痛ましいような姉弟のやりとりを見ている場合ではない。
「お、織斑先生! どうして響がトーナメントに参加しているのか教えてくれませんか」
「そうだった、シャルルの言うとおりだ」
そのやりとりを見ていたシャルルは怖々とそれでいて急ぐように千冬に何故響が学年別トーナメントに出ているのか説明を求めた。トーナメントに参加している事もだったがそれよりも驚いたのは響がたった一人でフィールドに姿を見せた事だった。
「私が許可したからだ」
「ト、トーナメントの参加は体調が戻れば確かにできると思います。でも、何でペアを組まずにたった一人で響が出場してるんですか」
「ペアを組める者がいなかったのが最大の理由だ、私の方でも人数調整を行いたかったのだが……まあ、結果としては皇が一人で出る事になってしまったが本人の承諾も取ってある」
「相手はあのラウラだぞ! しかも箒までいるなんてどう考えても無茶だ」
一夏の指摘は最もだった。
ラウラ一人に歯が立たないというのにそこにクラスの中でもかなりの実力を持つ箒まで相手にしなければならない状況では響に勝ち目はない、その事がわかっているのかシャルルも不安そうにモニターに映る響を見つめている。
「お前達の考えはもっともだ……だが、皇は最初から勝敗を度外視して戦いに臨んでいる」
「どういう事ですか?」
千冬もモニターに眼を向ける、その横顔には教師のものではなく一人のIS乗りとしての風格が滲み出ていた。
「今回の騒動はあくまで皇とボーデヴィッヒの問題だ、原因が織斑にあったとしても戦う事を選んだのはあいつらだからな……勝ち負けの結果ではなく何のために戦いそして自分の信念を最後まで貫き通せるか、それが今回の戦いの本質と言っても良いだろう」
「何のために戦うって……まさか!」
「そうだ、護りたい仲間の為に最後まで戦い抜く……それが皇の信念であり『強さ』でもある。お前と同じでな」
「……響は勝てるのか?」
「実力と状況を見れば勝てる可能性はほとんどない……が、攻撃力を強さと勘違いしているボーデヴィッヒではどうなるかわからん」
「でも、ボーデヴィッヒさんに勝てたとしても篠ノ之さんが残ってるから……試合には勝てない。そう言う事ですか?」
「試合に負けて勝負に勝つ……となれば、皇の勝利だろうな」
「響……負けんなよ」
「頑張って、響」
一夏とシャルルはモニターに映る響の横顔を見つめ精一杯の応援を小さな声で呟く事しかできなかった。
「まさか一戦目で当たる事になるとは思っていなかったが……貴様、私を馬鹿にしているのか?」
「えっとね、おれにはそんなつもりはないんだけど……組み合わせの結果こうなったとしか~」
響は逆上しているラウラの高圧的な怒りの声に素直に頭を下げる、千冬の話ではペアは用意しておくとの事だったがやはり途中参加に近い状態では相手が見つからなかったのだろう。
そもそもこの学年別トーナメントはタッグ戦ではない、学年の生徒数が奇数であった事も大きな要因だと思うのだが……それを説明しても油に火を注ぐような気配がして口に出せない響。
「皇、身体は大丈夫なのか! どうして出てきたのだ!?」
「お、怒らないで篠ノ之さん。身体は大丈夫だよ~、それにもともと参加するつもりだったし……」
「治りきってない身体では尚更勝ち目がない事くらいわかるだろう!」
「……ごもっともです~」
箒にも怒られ響は泣き出したくなったが全校生徒と世界各国の重要人物達の前で泣くわけにもいかず何とか涙を堪える。
「まあ良い、貴様を排除するには好都合だ」
「そうだね、おれも何とかしなきゃって思ってたよ」
ラウラだけでなく響も間延びしたの声が消え緋色の瞳に覇気が宿る、箒もそんな響の表情を見て後戻りできないとわかったのか苦虫をかみつぶしたような顔色を浮かべた。
「貴様は下がっていろ、皇響は私が仕留める」
「……元より手出しするつもりはない。尋常な一対一の戦いならば口出しするつもりもないが皇をこの前のような目に遭わせるつもりなら」
「大丈夫だよ」
響は自分の心配をしてくれた箒に満面の笑みを浮かべる。
「今度はちゃんと戦う理由があるから」
「皇」
「心配してくれてありがと、でも大丈夫だから」
「……わかった、武運を」
「うん」
昔の自分に似ている彼女に嫌悪を抱いているのか箒は本来ならチームであるラウラに言うべき言葉を響に贈った。
「ふっ、敵に心配されるとは情けないな」
「情けなくなんかないよ、篠ノ之さんは大事な友達で大切な仲間の一人だもん」
「その甘い戯れ言、今すぐ吐けなくしてやろう」
「望むところだよ!」
響とラウラは互いににらみ合いフィールドの指定位置に立つ、箒は二人の戦いに巻き込まれないよう出てきたピットの近くで見守る。
響達が指定の場所にたった為、アリーナの投影ディスプレイが出現し試合開始のカウントダウンが始まった。
――――――――5
「さあ、決着をつけてやるぞ。皇響」
「こっちだって遠慮しないからね」
――――――――4
「おれが勝ったらもうケンカ売ってこないでよ」
――――――――3
「勝つ気でいるとはな、笑わせてくれる」
――――――――2
「勝手に笑ってればいいよ、おれは勝てるから戦うわけじゃない。勝たなきゃいけないから戦うんだから」
「……そうか、ならば」
――――――――1
「逃げておけば良かったと後悔するほどに」
――――――――0、試合開始!!
「叩きのめす――!!」
「おれは逃げないよ!!」
響は開始直後、瞬時加速でラウラとの間合いをつめ『葵』を振りかぶる。
ラウラは響が瞬時加速を体得していた事に驚いていたがすかさず右手を響へと突き出した。
「くっ!」
「開始直後の瞬時加速による先制攻撃、まさかたった数日で使えるようになっていたとは驚いたが……それでもこの様とはがっかりだな」
「そう? 期待してくれてたなら喜んだ方が良いよね」
「減らず口を!」
響はAICによって動きを止められ身動きができない。
そんな響に容赦なくレールカノンの照準を合わせ引き金を握るラウラ、轟音と共に撃ち出された砲弾は吸い込まれるように響の身体に直撃した。
「ぐぅ……いったいな、もお!」
砲弾の威力と衝撃に吹き飛ばされながらも響はアリーナの上空へと飛び上がりハイパーセンサーに映し出された打鉄の破損状況を確認する。
今の攻撃で腹部を保護していた装甲が砕け散ったものの戦闘そのものは継続できる状態だった、とは言え瞬時加速による接近とシールド防御によるエネルギー消費が予想以上に大きい。
表情にこそ出さなかったものの響は頬に冷たい汗を流し追い詰められてしまった事を再確認した。
(何とか最初の瞬時加速の特攻でダメージを与えられれば良かったけどそううまくいかないや……でも、これで迂闊に攻めてこないだろうって思ってるはず)
センサーの片隅に映るコンマ数秒の時間表示を見つめながら響はラウラの姿をその眼に捉える。
(AIC発動までに掛かる時間はほんの一瞬だけどやっぱり右手を突き出してからじゃないと使えないみたいだ……なら、まだ勝てる可能性は残ってる!)
響は『葵』を握りしめラウラめがけて急降下した。
「何だ、空に逃げ延びて何をするかと思えば馬鹿の一つ覚えか」
「……っ!」
響はラウラの罵声を聞きながし『葵』を右肩に乗せ瞬時加速でさらに速度を速める。同じ戦法をとった響に対しやはりラウラも同じように『シュヴァルツェア・レーゲン』の停止結界をもう一度使用するため右腕を掲げた。
(今だ!)
「何!?」
ラウラが右腕を上げ意識を集中した瞬間、響は三度瞬時加速に入りラウラへ一直線だった軌道をほぼ直角軌道に変化させつつ円を描くようにラウラの背後を取る。
急な軌道変更のせいで身体から骨が軋む音が聞こえた、『葵』を手放さないよう肩に抱えたものの全身に奔る激痛に思わず落としてしまいそうになる響。
(思ってたより痛い、けど!)
響は奥歯を噛みしめ痛みに耐えながらもラウラの見せた僅かな隙を逃すまいとがら空きになっている背中に渾身の力を込めてブレードを振り上げる。
「はああああぁぁぁぁ!」
「ぐあっ!」
流れるような瞬時加速の連続使用、それは専用スラスターがなければ操縦者の肉体に大きなダメージを与える。理論上では第二世代型のISでも可能だ、が……実際にそれを戦闘経験だけでなく自分流の操縦技能もまだ確立していない響がやってのけるとは思っていなかったラウラは響の放った一撃を躱す事ができずアリーナの壁際まで吹き飛ばされる。
「ハアハア……やっと……一撃、返したよ」
対して時間が過ぎたわけじゃないのに息が上がる。ハイパーセンサーに付いている試合経過時間を見てもほんの数分……たった数分でここまで疲れるなんて思いなかった。
(やっぱり万全の体調じゃないから? それとも実戦経験が少ないから?)
原因としては極度の緊張と無理な動きが響の体力を大幅に削っていた。
しかし、当の本人がその事に気づけるだけの冷静さはなく『打鉄』のエネルギーもアラームこそ鳴らないがすでにエネルギー切れを考えなければならないレッドゾーンに突入しようとしている。
たった一撃を当たるだけでここまで消費するとは思っていなかったがそれでも響の眼には揺るがない戦意が見て取れた。
「調子に、乗るなよ……この小動物がああああぁぁぁぁ!!」
「っ!」
ラウラは絶叫と共に響との距離を詰め両手に装備されているプラズマ・ブレードを展開し怒濤の反撃を見せる。
「は……っや!」
響も『葵』でその刃を防ぐもその攻撃の圧力に押され後方へ吹き飛ばされる。
(今の俺じゃこんな攻撃耐えられないよ!)
息を持つかせぬ一方的な攻撃を懸命に防ぐも響は剣を上方に弾き飛ばされる、柄をしっかりと握ってはいるものの両手が打ち上げられてしまいラウラの攻撃を防ぐ事ができない。
「もらった!」
ラウラは再びレールカノンで響を撃ち飛ばすも今度は装備されている全てのワイヤーを射出し全身を縛り上げる。
「ま、まずい!」
「言っておくが貴様の訓練機でどうにかなるような出力ではないぞ!」
勝利を確信したラウラは愉悦に口元を歪ませながら抵抗する事ができない響を振り子の要領でアリーナのフィールドや壁に叩き続けた。
「がっ! ……かは、――ぐぅ! ――うぁ――っ!」
その度に『打鉄』の装甲に亀裂が走り、砕け、シールドを僅かに越える直接的なダメージが響に蓄積されていく。
「あははははっ、手も足も出ないとはこう言う事をいうのだな! やはりお前は私と『シュヴァルツェア・レーゲン』の前では赤子同然だ!!」
「ぐ……、く……そ!」
アリーナ内にラウラの冷笑と響の苦痛に耐える声が淡々と響く。
その様子をモニター越しに見ていた一夏は今までに見せた事のない鋭い眼光で笑っているラウラを睨み付けていた。
「千冬姉! あんなのありかよ、反則じゃないのか!? これじゃ――」
「ああ、一方的な暴力と何ら変わらん。だが止めるつもりはないぞ」
「何でだよ!!」
一夏は自分の耳を疑った。
千冬の言った今の言葉はラウラのしている行為を認める、そう言ったと同義だったからだ。
一夏は歯を食いしばりながらも待機室を出ようと出入り口に向かう。
「何をする気だ織斑、試合中だぞ」
「あれの何処が試合なんだよ! あれは試合なんかじゃない、止めさせる!!」
怒りを吐き捨てるように声を張り上げる一夏、千冬の制止も聞かず扉を開けようとしたときシャルルが落ち着いた声で呟く。
「駄目だよ、一夏……試合はまだ終わってない」
「シャルルまで何言ってるんだよ、このままじゃ響が……」
「その響を見てよ、響は……まだ諦めてない」
シャルルはモニターに映る響を指差す。
「身体を縛られて自由に動けないけど、それでも響は武器を手放してない。あれだけ攻撃を受けてるのに、勝てないかもしれないのに……それでも戦おうとしてる」
モニターを指差すシャルルの指は微かに震え落ち着いている様な表情を見せていながらその目元にはうっすらと涙が浮かんでいた……涙を流さないように必死に堪えていた。
「………………」
今すぐ試合を止めたい、その思いはシャルルも一緒だった。できる事なら今すぐにでも響の元へ駆けつけたい、そんな悲痛な思いがハッキリとわかる。
そんなシャルルの姿を見た一夏は何も言えなくなった。
「今ここで僕達が助けに入ったらそれは響が負けた事になっちゃう、だから……信じてあげなくちゃ。だって……響は大事な友達で大切な仲間なんだから」
「……取り乱して悪かったよシャルル、それにちふ……織斑先生もすみませんでした」
「気にしてなどいない。それより……最後まで見届けろ、皇の戦いを」
「「はい!」」
ダァン! ドゴォ! ドガアアァァァン!
もう何回目かもわからない。
十分にも満たない時間で一体どれだけ叩きつけられたのだろう。
痛みを感じる度に気を失いそうになるのに気絶しようとしたらたたき起こすようにまた痛みが意識を取り戻させる。
(このままじゃ……勝てない、何とか……しないと)
手も足も出ないとラウラに言われてしまったが全くもってその通りだった。
今の響では反撃どころかワイヤーの拘束を解く事もできない、観客席で見ている生徒や国家の重役達も一方的な試合内容に表情を歪め中には響に降参するよう促している者もいる。
その声を聞き取り普段の冷静さを幾分取り戻したのかどこかつまらなさそうに身動きの取れない響を見ていた。
「まったく、この程度の力しかないというのに手間を取らせてくたものだ……だがそれももう終わりだ」
ラウラは意識を失いかけている響を一瞥した後、今まで散々叩きつけていたアリーナの壁に視線を移す。
「貴様! いい加減しろ!!」
ラウラが何をしようとしているのかを誰よりも早く感じとった箒はラウラが響を振り上げる前に助け出そうと地を蹴る。
「言われなくてももうお終いだ、そら受け取れ!!」
「なっ!?」
ラウラはワイヤーを振り上げ傷ついた響をペアでもある箒めがけて振り下ろす、その行動に驚き箒は一瞬だけ硬直するがすぐに響を受け止めようと両手を広げる。
「皇!」
箒は迫ってくる響を抱き留めた、しかしその勢いに押し負け地面を滑るように転げ回る。
「うああああああああ!」
箒は悲鳴を上げながらも何とか体勢を立て直し響をフィールドに寝せる。
「だ、大丈夫か!」
「……っ……く、……ぁ」
「っ! ここまで、ここまでする必要がどこにあったのだ!!」
箒は離れた場所で自分達を見つめるラウラに怒鳴り声をあげる、彼女のすぐ傍で倒れる響は文字通り満身創痍の状態だった。
『打鉄』の武者を思わせる装甲はそのほとんどが砕けている、その下に着ているISスーツも所々破れシールドを突破したダメージのせいか身体には無数の切り傷や打撲痕があり出血している部位もある。
特に酷いのは腹部周辺と頭部……響が起動している『打鉄』のハイパーセンサーには機体維持警告を超え操縦者生命危険域の表示が出ていた、それでも待機状態にならないのはひとえに響の意思の力だったのかもしれない。
「私をせめても意味はないぞ、怪我をしたくなかったのならここに来るべきではなかっただけの話だ。ましてそいつは私との力の差を知っていながら出てきたのだ、愚かなのはそこで転がっているそいつの方だ」
「……貴様、何処まで――」
「まったく……ボーデヴィッヒさんの、言うとおり……だね」
「皇!?」
響は苦悶の表情を浮かべながら地面に両手をつく、限界が来ている身体でブレードを握り直しゆっくりと起き上がる。
「ほう、まだ戦うつもりか?」
「あたり……前だよ。まだ……試合は、終わってない……もん」
手にしたブレードを正眼に構え直す響、ただ立っているだけだというのにその身体はふらふらと揺れ今にも倒れてしまいそうな気配をかもし出していた。
観客席からもそんな響の行動に困惑した声が上がる。
「響! それ以上は無理よ、後はあたし達に任せなさい!!」
「そうですわ、わたくし達が彼女の間違いを正します。これ以上は命に関わりますわ!」
「凰さん……オルコットさん……」
響は一番近くの観客席から声をかける二人の姿の姿を捕らえた、彼女達の近くに空席はない。離れていた席から見ていたはずだがボロボロになった自分を心配して近くに来てくれたのだろう。
「二人の言う通りだ、私もお前の無念をはらす為に戦ってやりたいが…同じチームの私ではそれもできない。後はセシリア達や一夏達に任せよう、ラウラはお前よりも強い……このまま戦っても勝ち目は……」
「うん、知ってる……」
「皇?」
響は視線を再びラウラに戻しながら心の中に押し込めた思いを吐露する。
「参加するって決めた時、織斑先生がせめて瞬時加速くらいは使えるようにしてやるって特訓してくれたんだ……その時も言われたよ」
学年別トーナメントまでの僅かな時間の中で同室のシャルルや一夏達に気づかれないよう抜け出すのはかなり難しかったが何とか瞬時加速を覚える事ができたのだ。
「特訓して瞬時加速を覚えてもそれでも難しいだろうって……でも、それでも決めたんだ。強くなろうって……逃げないって」
響の額から流れる血が鼻筋を伝い顎から地面に滴り落ちる、出血量こそは大したことはなかったが頭に何度も強い衝撃を受けたせいで視界が揺れる。
『皇、何度も言うがお前ではボーデヴィッヒには勝てん。瞬時加速はできても所詮は急ごしらえの戦法、少しでも勝率を上げる為とはいえ中途半端な力は逆に身を滅ぼすぞ』
『そんなはっきり言わなくても~……』
『だが、それだけの差がある事はお前が一番わかっているだろう?』
一年間だけとは言えドイツで軍のIS訓練の指揮をとりラウラを鍛えた千冬だからこそ響と彼女の差がどれだけ開いているのかがわかる、響に有利な要素は一つもない。生まれてからずっと戦闘技術を叩き込めれてきた軍属であるラウラと何処にでもいるような平凡な一般人だった響、そして量産化ができないとはいえ最新鋭の機体と学園の訓練機……響の勝機を見いだそうとすればするほど千冬の脳裏には敗北の二文字しか出てこなかった。
『諦めろ、とはいわんがそれでも無謀だと忠告はしておいてやる』
『あはは、そうなんですけど……でも今回だけは、ううん、これから先はきっと今のままじゃ駄目だと思うんですよ~』
『………………』
『今までは一夏達が頑張ってくれたから何とかできました。でも、ボーデヴィッヒさんはそうはいかないって戦ってわかりました……この前の無人機よりも強いって』
一夏と鈴が先だって戦いその後を引き継ぐように自分とセシリアが変わりに戦った。
自分にできたのは終始時間稼ぎくらい、最後の止めを刺したと言ってもダメージの大半は一夏達が与えたもの……四人がかりでやっとだったあの無人機よりもラウラは強い。
第三世代兵器の効果も驚異的だがそんな兵器を巧みに扱うラウラと渡り合えるのは少なくとも上級生の中に数人いるかいないかだろう。
『今回は一夏も狙われてると思うけど、基本的にはおれ狙いだし……なら他のみんなが傷つく前に何とかできればって……』
『保健室でも聞いたが、お前らしい理由だ』
『それだけじゃないですけどね~』
『何? 他にもあるのか?』
『……こんな言えば生意気だ~って思うかもしれませんけど、良いですか?』
『かまわん、言ってみろ』
響は少し照れたように、そして口に出そうとする言葉を曲げないと決意したようにその小さな唇を開くのだった。
『――――――』
『……そうか、それがお前の決めた事なら私は何も言わん。気の済むようにしろ』
千冬は響が恥ずかしさと一緒に話した言葉に小さく笑みを浮かべ眼を細めた。
『ありがとうございます、織斑先生~』
鮮明に思い出したたった数時間の出来事はこの追い詰められた状況に置かれていても響の戦う意志を奮い立たせる。
「……篠ノ之さん、心配してくれたのに……ごめんね。だけど、おれは思うんだ」
響は残り少ない力を振り絞りラウラに挑もうと腰を下ろす。
エネルギーの残りを考えれば瞬時加速はこれが最後、使ったと同時に機体維持ができなくなるかもしれない。
自分の身体も骨折はしていないモノのヒビくらいは入っているだろう、パワーアシストは機能しているはずだが『葵』が重く感じる。
戦況は最悪、どう考えても勝ち目はない。
それでも……
「相手が自分じゃ敵わないくらい強くても、自分が弱いって事が……逃げる理由にはならないって、戦えない理由にはならないんだって」
「皇、お前……」
「だから、俺は逃げない。この刀を握られなくなったって、足が動かなくなったってどんなに格好悪くたって、どんなに見苦しくたって……最後の最後まで戦い抜くんだ!!」
折れる事のない決意を示すと同時に響は心の中で『打鉄』に謝罪の言葉をかけた、その声が聞こえる事がなくても届く事がなくても……それでも謝っておきたかった。
(ごめんよ、打鉄。……おれが弱くて我が儘だから、痛い目に遭わてばっかりで。でも、もう少し、もう少しだけ……おれに戦える力を、最後まで逃げ出さない勇気を貸して頂戴ね――――!?)
響が最後の攻撃に移ろうとした時、『打鉄』のハイパーセンサーにシステムメッセージが浮かび上がる。
『――皇響の戦闘データ収集完了。これより第一形態の性能及び形態の最適化を開始する』
そのメッセージが映し出された直後響と『打鉄』が眩い白光に包まれる。
「な、なんだ!?」
「皇!!」
近くにいたラウラと箒は光の輝きに堪えきれず眼を瞑りまわりにいたセシリアや鈴、観客達も突如起こった現象に声を上げていた。
それは待機室で試合を見守っていたシャルル達も同じだった。
「な、何がどうなったの! 響は、響は無事なの!?」
「俺に聞くなよ! ち、織斑先生!!」
「わかっている! 山田先生、皇と『打鉄』の状況は!」
「そ、それが……」
真耶は千冬の問いかけに咄嗟に答える事ができなかったが震える指を何とか動かし光に包まれた響の映像と機体データをモニターに映し出す。
「な、何だと……」
モニターの向こうでは眩い光は落ち着きを見せていた、だがその光の中にある響の姿に千冬は絶句した。
「……嘘」
「響……何したんだ」
シャルルと一夏も何が起きたのか理解できずポカンと口を開けていた。
観客席で見ていたセシリアと鈴も同じように響を見つめる。
「何なのよ、あれ……」
「わ、わたくしに聞かれても……何が起きたのかわかりませんわ」
誰よりも近くにいたラウラと箒は自分達の機体に映し出される情報に眼を疑い唖然とするしかなかった。
『第一形態、機体性能・形態の最適化完了。これより自機は皇響の専用機として登録』
「……馬鹿な」
「訓練機が……専用機に形態移行するだと」
学園内全てで起動しているモニターに映る響が纏う『打鉄』はその姿をより洗練したモノへと変えていた。
打鉄のカラーリングは眩い輝きを放つ白銀へと変わり、形状そのものはさほど変わらないが装甲はより洗練され響の身に寄り添うように軽量化されていた。
――第二世代支援交戦型『打鉄・天魔』、それが響が手にした力の名だった。
打鉄自身がもつ高い防御能力と支援性をより攻撃に活用できるように変化した機体。第二世代最高の防御力で正面突破を可能とし利便性に優れた『鳶葵』による近接と射撃支援により攻守共に高い水準でまとめ上げられた響の専用機。
その変貌は一切事例のない現象だった、専用機が第二形態に移行するよりも起こりえない変化。
訓練機のコアが自らの意思で搭乗者の専用機へと自身を作り替えた事など一度たりともないのだ、そもそもそんなプログラムが存在したとしてそれが組み込まれているとしたら全ての訓練機が搭乗者の専用機へと姿を変えていたはずだった。
「これ……打鉄が……?」
この異常な現象の当事者である響も何が起こったのか戸惑っていたが自分が握っていた『葵』に眼を向けた時、『打鉄』が形態変更した事に初めて気づく。
手にする『葵』は刀の雰囲気を残しながら二叉の曲刀へ変化している、次々と映し出される情報、その中で近接射撃刀『鳶葵』という武器情報が提示された。
「近接射撃刀『鳶葵』……?」
センサーが響に伝える情報では性能の向上が見受けられ元の倍以上、それに加え近接武器であるはずの刀に射撃機能が追加された事だった。
「剣戟射出機構『断空』……総弾数、四発。 斬擊を象ったエネルギー状の刃を打ち出す……。シールド・エネルギーは消費しない……ん?」
ぞくぞくと映し出される情報の中で響の眼にとまったのは後付武装の項目だった。そこには元々あったはずの射撃武器が搭載されておらず白式と同じように固定武装であるこの『鳶葵』しかなかった。
(……おれに合わせてくれたんだね、戦いやすいように)
剣戟射出機構『断空』によるエネルギー刃。
それは柄についているトリガーギミックを引く事で射出が可能であり近接戦闘の最中、自分が好きなタイミングで打ち出す事ができる特性を持っていた。
総弾数は四発と少ない物のその出力は先の乱入事件で破壊したゴーレムのビーム兵器よりも高く、零落白夜にさえ匹敵する物だった。
同じようにエネルギーを無効化できるわけではないがその兵器としての威力、機能性は高く従来の点の射撃ではなく斬擊という線による射撃、これならば早々外す事もない。効率の良い運用が可能であり使い勝手の良い射撃性を備えた近接用の刀。
(ありがとう、打鉄……これならまだ闘える!)
響は満面の笑みを浮かべ新たな刃を握りしめる。
その瞬間一度は消えた光が響の意志に呼応するように再びその輝きを放つ。
センサーにはたった一文だけ。
『単一能力、『一騎当千』発動』――と。
「……はは、打鉄には助けてもらってばっかりだね」
自分の専用機となってくれただけで終わらず戦いたいという意志をくみ取って操縦者とISの精神が最高のシンクロ状態になった時発動する単一能力まで……。
響は手にする新たな刃を呆然としているラウラへと向ける。
「勝負はこれからだよ、ボーデヴィッヒさん!!」
響は自分の共に戦ってくれる白銀の盟友機を身に纏いながら血と土埃で汚れた顔で不敵に笑って見せるのだった。
久しぶりの投稿になります!
これから先少しずつこういう風に間が開いていくかもしれませんが気長に待っていただければ幸いですm(_ _)m
感想・評価お願いしマース!!