────"あいつ"はいつも笑うからアタシはつい視線を向けてしまう。
中学から今の高二まで一緒のせいで仲のいいクラスメイトと話している時や後輩先輩など顔が広いのも知っているが一度も話した事がない。
自分から声をかける理由もなければ、出来れば一人でいる方が気楽だからだ。
クラスで三人ほど話す相手はいるが皆孤立してるような奴らばっかりだ。
アタシの見た目がウェービーロングに金髪となれば寄ってくる人物は限られてくる。
今日も授業をサボり屋上の隅で仰向けになり雲混じりの青空を眺めている。たまに春風が身に染みるのも悪くないと思いながら、スマホを弄りSNSやらゲームをしているのが当たり前になってきた時に屋上の扉が開き口うるさい先生が来たかと思い顔を向けると………。
"あいつ"がやってきた。
「へぇ~いつもここでサボタージュしてるんだ。 お昼と違って人がいなくて新鮮だね」
肩までかかっている小豆色の髪を靡かせアタシに手を振るが無視してスマホに目を戻す。
「…………」
「ねぇ授業出ないの? 折角の資格取得の為の勉強時間だよ」
「アタシの隣に座ったお前はどうなんだよ…ってくっつくな!」
頬を密着させようとしてきたが手で押しのける。
「結構ウブなの?」
「そういう問題じゃねえだろ! なんで話した事もないやつがいきなりベッタリくっついてくるんだよ!」
「私のことは知っているんだ~ふぅーん」
右の口角を上げ目を細めパーソナルスペースをとり仰向けになった。
「で、優等生さんは授業出なくていいのかよ」
自分のテストの順位を何度か確認している限りコイツの名前が常に一位なのは分かっての質問を投げると鼻で笑われる。
「今高校二年生だけどもう私は三年までの予習済ませてるから平気平気。 今は卒業してからの設計図を作成中なの」
「はっ、さすが頭がいい奴は違うな」
何故だか分からないがコイツとスラスラ話している事に違和感がない。まるで仲のいい友人のような感覚になってしまう。
それがコイツの長所で人をすんなり引き込めるのかもしれない。
「………ねぇ、おかしいと思わないの」
声をトーンが低くなりスマホをいじっていた指を止めてしまう。
「なにがだよ」
「その優等生さんがここでサボってる事」
「……別に、息抜きしに来たと思えば気になんねーよ」
「やっぱり馬鹿だね
初めて話している相手に下の名前で呼ばれた上腹をおさえながら大笑いされ苛立ちを覚える。
「てめえ…! ぶっころす!!」
拳をつくり腹部を殴ろうとしたが左手で掴まれアタシよりも強い力で抑え込まれ歯を噛み締めてしまう。
気づけば地面のコンクリートが背にピッタリつく程までに仰向けにされアタシの上にコイツが跨ってきた。
「沙紀ちゃんって呼んだんだから沙紀ちゃんも私を名前で呼んでよ」
また低いトーンな上真正面に顔を近づけてくる。
鼻と鼻がくっつく距離まで詰められ抵抗しようにも力で負けてしまっている。
「くっ…嫌だね。てめぇの"ちゃん"ってやつやめない限り一生呼ばねえ。 そもそも呼びたくねえ!」
「仔犬みたいぷるぷる震えてる沙紀ちゃんも可愛いね……ねぇキス…したことある?」
「はぁ!? いきなり何言ってんだおま…………!」
視界を覆ったのは瞳を閉じた長いまつ毛、そして唇には味わったことの無い初めての柔らかい感触。
「……………!! やめろてめぇっ!!」
力が抜けた隙に手で上体を払い除けフェンスまで背を向あけたまま離れ妙な感触が微かに残る唇を指で触れる。
(まさかアイツ…アタシにキキキキスを!!?)
顔の温度が上昇していると気づいた時にカメラのシャッター音が耳に入り、音の方を見るとスマホを構えたアイツがニヤニヤ笑っていた。
「赤面してる沙紀ちゃんの写真もゲット~。ふふっ。 今までは……」
「……目的はなんだ!?」
「? 沙紀ちゃんが好きだからキスしたんだよ」
「お前と話なんかした覚えねぇのに好きになるなんか有り得るかよ!」
「有り得るんだよ。 私ずっーーーーと前から沙紀ちゃんを見ていたもの。 沙紀ちゃんの笑顔、悔しがる顔、痛がる顔、ぜーーーんぶ知ってるんだから」
不敵な笑顔に背筋に悪寒が走る。 コイツには勝てないと身体が訴えているが意識はまだ諦めていない。
「そ、それはどうかな! お前はアタシを全然知り尽くしていないと思うぜ!!」
「へえ? じゃあ付き合っちゃう? 沙紀ちゃんが私を前にして知らない顔出さないか勝負しよっ?」
「あぁやってやるよ!! その代わり名前は絶対呼ばねぇからな!!」
(ほんとちょろいなあ沙紀ちゃんは……ふふっポンコツでよかった)
沙紀ちゃんは知らないだろうけど私は中学で一緒のクラスになってから沙紀ちゃんに恋していたんだよ。 沙紀ちゃんは可愛い物には弱いって知ってるし辛いものは苦手で甘い物が大好き。
「ねぇ沙紀ちゃん、今日は少し意地悪が過ぎたね、ごめんね」
「? あぁ……そうか。 素直じゃねえか」
私は立ち上がりスカートについた埃を払い沙紀ちゃんに近寄り両手を背中に回し優しく抱きしめ香水香る耳元で囁く。
「明日はきっと優しくなれるから。 だから沙紀ちゃん覚悟しててね」
ーつづく?ー