私の迎えの車に一緒に乗り込んで隣に足を組み眉を八の字にしながら座っていた沙紀ちゃんがふとっ声を出し顔を向けてきた。
「なあ、お前の家金持ちなのか? こんなボンネットの長い車なんかに乗ってよ」
「もう十分位経ってるのに今更すぎない? やっぱりお馬鹿だね沙紀ちゃん」
「っせえ! 馬鹿って言う方がば「はいはい。 お決まりの台詞は付き合い始めてから十九回目だからね」
三日は経つがやっぱり遠くで見ていたよりもずっと愛おしいく感じてしまう。 そこが沙紀ちゃんの魅力なんだけど、更にそれを独り占め出来るなんて…最高ね。
「んぐ…」
人差し指で唇に触れ抑えると不貞腐れた顔を見せてくれた。 可愛いから写真を……。
「おっとそうはさせねぇよ」
スマホに手が伸びてきそうになったがすかさず、
「ばーか」
「んだと!?」
「はい、三十回目のカメラ目線の怒り顔ゲット~」
これだから沙紀ちゃんを弄るのはやめられない。 付き合う前からもこの顔は何度か見てきたけどこんな近くで見れるなんてやっぱり最高!
「うっひひひひひょー!!」
「(うわっまた変な笑い方し始めやがった……良くねえこと妄想してんだろうなこいつ)」
目尻を下げて涎を垂らす顔に沙紀ちゃんはどん引きしていた。 もちろんその顔も連射撮影した。
────────
「「お帰りなさいませ、お嬢様」」
屋敷に到着し広い庭を抜け玄関の扉が開くと二人のメイドが出迎えてくれた。 私からすれば見慣れた光景でありいつもの事だ。
下げた頭を上げた二人の顔を見つめる。
「朝と変わりなくシワひとつない清潔なメイド服を着こなしてよろしいわ。『ユキ』 『アキ』」
「いえそのような勿体なきお言葉を頂ける立場ではありませんので……」
「赤い目の人なんているんだな…充血したら見分けつかなそうだ」
ユキは白髪で腰までかかる髪、ハーフアップの女性が頭を上げ瞳の色が赤であることに沙紀ちゃんは馬鹿みたいなコメントとともに驚いたようだ。
「当然の事ですよ~ねっユキ姉さ………いてっ!?」
「こっちは普通だな…ちょっと足りないが」
アキはパーマのかかったボブカットで肩にかからない程度の長さの黒髪。 沙紀ちゃんの言う通り思ったらすぐに口に出してしまう癖がある。
ゴツンと鈍い音がユキの顔を覗いていたアキの後頭部に響き渡り涙目になりながら沙紀ちゃんの顔を見る。
「びどいですよねこのびど~!!」
「お、おい泣くなよ…ほらハンカチで顔隠せよ。 お前らアタシより歳上なんだろ、涙なんか見せるなよ」
差し出そうとした腕を取り押さえすかさず私が白いハンカチを胸ポケットから出しアキの目を空いた手で拭う。
「……沙紀ちゃんのハンカチは私だけが使うから簡単に出さないでね」
威圧を感じ取ったのか今まで顔くしゃくしゃにしていたアキの顔が引き締まり真顔になった。
「失礼ですがお嬢様、そちらの方がお話していた方ですか?」
こちらは相変わらず表情がピクリとも動かないまま静かな声で問いかけてくる。
「えぇ、私のガールフレンドの『沙紀』ちゃんよ!」
肩を寄せ私の元へ引き寄せる。
「いでで! 力強すぎだ筋肉ばか!!」
「こういうところも可愛げがあっていいでしょ?」
「確かに調教のやり甲斐を持てますね。 それとお嬢様」
「なに?」
「いや、ちょっとまて今変な単語を……ふごっ!」
自分の胸に沙紀ちゃんの顔を埋めながらユキへ視線を向けるといつもの症状が起きていた。
「お二人の美しく初々しいお姿を見ていたら涙ではなく、鼻血が出てまいりました。 お嬢様のハンカチの匂いを穴という穴から隅々まで取り入れたいのですがよろしいでしょうか」
早口で語った言葉をこの場で聞き取れなかった者は沙紀ちゃんだけな上ドン引きしたのも彼女だけだろう。
「はい。 未使用だから思う存分使うといいわ」
「ありがたき幸せ…では」
「お、おい…………」
沙紀ちゃんは私から離れ後ずさりし出入りする玄関の扉まで逃げる。
「~~~~~~~!!!」
声にならない声とはこの事だね~と言いながらアキは駆け足で逃げた沙紀ちゃんを取り押さえる。
「こ、ここは変態しかいねぇ………!!」
屋敷に悲痛の叫びが響き渡るが誰一人反応する気配はなくユキの姿をいつもの光景として眺めていた。
ーつづくー